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第78話 虚無の写本VS三丁目の悪夢
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「あんたの顔は、街の聖堂で見たよ。」
リアは吐き捨てた。
「昔、街を疫病から救ってくれた聖者の像だ。」
「たぶん、本人じゃ。」
オロアの周りに紫電を帯びた黒い球体がいくつも浮かび上がった。
「それはお目にかかれて光栄至極、聖者さま。」
リアの周りに展開された光の矢は、その数を上回る。
オロアの指がリアを指し示すのと、リアがオロアに向けて可愛らしいあごをくいと向けたのはほぼ同時。
黒い球体が走り、光の矢がそれを迎え撃つ。
光の矢が殺到し、黒い球体に飲み込まれる。
生まれる爆発。衝撃。
そのなかにリアは突っ込んだ。
衝撃波は格子状に編んだ光の矢が受け止める。
さらに両の手から光の矢が生まれ、オロアに向かって走る。
まさか、接近されるとは思わなかったのだろう。死霊魔道師の反応は一瞬遅れた。
とっさに飛ぼうとしたその体に、光の矢は命中した。
ぐああああああっ
光の矢が魔道師の額に突き刺さる。
大きくのけぞったところをさらに光の矢を全身に受け、オロアの体が霧散した。
「逃がすかぁっ!」
倒した、ではなく、追撃を行おうとしたリアの判断は正しく、また間違っていた。
倒しきれていない。は、正しい。
だがまったくダメージが通っていないことなどどうして彼女に理解できよう。
どこからか、この異界の空間を照らしていた光が唐突に消え、リアは視界を失った。
反射的に使ったのは、全方位への「光針」の発射である。
どこにいても必ず当たる。
そして当たればなんらかの行動を取らざるを得ない・・・はず。
「攻撃魔法を探知替わりに使うのは、わしも始めてみた。」
どこからともなく聞こえる声は、どこか呆れたような響きがある。
リアは唇を噛んだ。
・・・・手応えは・・・・
なかった。
さきほどの老魔道師の姿が、最初から幻影だったとしても、黒い球体を生み出し、攻撃をかけたのだ。
この空間のどこかに・・・いるはず。
それは前でも後ろでも右でも左でもなく。
リアは、短く詠唱を行った。
手の中に光の剣がうまれ・・・・それを力いっぱい、下、地面に突き立てる。
「おしいな。」
声は耳元で聞こえた。
「わしはどこにもいない。そしてどこにでもいる。」
足首に冷たい指が絡みつき、リアはそのまま逆さに釣り上げられた。
全体重が、右足首にかかり・・・そのまま地面に叩きつけられる。
まるで、幼児が人形を戯れて壊すかのように。
とっさに頭はかばったが、全身を強く打ち付けられ、目の前が暗くなる。
喉元を熱いものがこみあげ、リアはそれを吐いた。
血、だった。
胸の奥が壊れている。息ができない。
必死にまさぐった指が、雑嚢からポーションを取り出した。
自分の血で無理やり飲み込む。
おとぎ話に出ている万能の回復薬などは存在しない。
それでも公爵家令嬢がもたせたその薬で、リアは立ち上がる。
足が妙な形に折れ曲がっている。
もう片方の足でバランスを取りながら闇に目を凝らした。
見えない。
リアは固く目を閉じる。
次の瞬間、彼女の合わせた両手のひらから光球が、生まれ、炸裂した。
「き、きさ、まっ」
攻撃ではない。ただただまぶしいだけの光の玉。
攻撃魔法でなかったがゆえに、それはリアを「見ていた」オロアの目を焼いたのである。
叩きつけられたときに、リアのただでさえ露出の多めの服は引き裂かれ、全裸よりもかえって色気をそそる状態になっていたが、死にかけながらもそんな計算もしている。
これが。
「改めて、名乗ろうか。
かつて“三丁目の悪夢”と呼ばれたイリアだ。
相手が階層主だろうが、聖者のゾンビだろうが知るか!
徹底的にぶちのめしてやんよっ!」
「わしもあらためて、名乗ろう。
我が名は、リッチア=デ=オロア。“虚無の写本”にして第五階層の階層主。」
「わあ」
感情を失った声で、ウィルニアがつぶやいた。
「三丁目の悪夢 対 虚無の写本・・かあ。」
「ブックメイキングしたやつの責任問題だな。」
フィオリナは、剣を突きつけたまま、無慈悲に言い放った。
「しかし・・・なんというか、死霊となって千年たっても男っていうのは、その、ああいうのに目をひかれるのかな。」
「ああいう? ああ、あのリアだか、イリアという女性のもつ魅力についてか。」
ウィルニアは、じろじろと無遠慮にフィオリアを眺めた。
「きみも美しいが、たぶん、この場合は性的なパートナーとなることについての魅力の話だろう?
そりゃあ、むこうのほうが上じゃないか?」
フィオリナの剣先に殺意が膨れ上がる。
次の鏡の中では・・・勇者クロノとスライムのミュレスが死闘を始めていた。
リアは吐き捨てた。
「昔、街を疫病から救ってくれた聖者の像だ。」
「たぶん、本人じゃ。」
オロアの周りに紫電を帯びた黒い球体がいくつも浮かび上がった。
「それはお目にかかれて光栄至極、聖者さま。」
リアの周りに展開された光の矢は、その数を上回る。
オロアの指がリアを指し示すのと、リアがオロアに向けて可愛らしいあごをくいと向けたのはほぼ同時。
黒い球体が走り、光の矢がそれを迎え撃つ。
光の矢が殺到し、黒い球体に飲み込まれる。
生まれる爆発。衝撃。
そのなかにリアは突っ込んだ。
衝撃波は格子状に編んだ光の矢が受け止める。
さらに両の手から光の矢が生まれ、オロアに向かって走る。
まさか、接近されるとは思わなかったのだろう。死霊魔道師の反応は一瞬遅れた。
とっさに飛ぼうとしたその体に、光の矢は命中した。
ぐああああああっ
光の矢が魔道師の額に突き刺さる。
大きくのけぞったところをさらに光の矢を全身に受け、オロアの体が霧散した。
「逃がすかぁっ!」
倒した、ではなく、追撃を行おうとしたリアの判断は正しく、また間違っていた。
倒しきれていない。は、正しい。
だがまったくダメージが通っていないことなどどうして彼女に理解できよう。
どこからか、この異界の空間を照らしていた光が唐突に消え、リアは視界を失った。
反射的に使ったのは、全方位への「光針」の発射である。
どこにいても必ず当たる。
そして当たればなんらかの行動を取らざるを得ない・・・はず。
「攻撃魔法を探知替わりに使うのは、わしも始めてみた。」
どこからともなく聞こえる声は、どこか呆れたような響きがある。
リアは唇を噛んだ。
・・・・手応えは・・・・
なかった。
さきほどの老魔道師の姿が、最初から幻影だったとしても、黒い球体を生み出し、攻撃をかけたのだ。
この空間のどこかに・・・いるはず。
それは前でも後ろでも右でも左でもなく。
リアは、短く詠唱を行った。
手の中に光の剣がうまれ・・・・それを力いっぱい、下、地面に突き立てる。
「おしいな。」
声は耳元で聞こえた。
「わしはどこにもいない。そしてどこにでもいる。」
足首に冷たい指が絡みつき、リアはそのまま逆さに釣り上げられた。
全体重が、右足首にかかり・・・そのまま地面に叩きつけられる。
まるで、幼児が人形を戯れて壊すかのように。
とっさに頭はかばったが、全身を強く打ち付けられ、目の前が暗くなる。
喉元を熱いものがこみあげ、リアはそれを吐いた。
血、だった。
胸の奥が壊れている。息ができない。
必死にまさぐった指が、雑嚢からポーションを取り出した。
自分の血で無理やり飲み込む。
おとぎ話に出ている万能の回復薬などは存在しない。
それでも公爵家令嬢がもたせたその薬で、リアは立ち上がる。
足が妙な形に折れ曲がっている。
もう片方の足でバランスを取りながら闇に目を凝らした。
見えない。
リアは固く目を閉じる。
次の瞬間、彼女の合わせた両手のひらから光球が、生まれ、炸裂した。
「き、きさ、まっ」
攻撃ではない。ただただまぶしいだけの光の玉。
攻撃魔法でなかったがゆえに、それはリアを「見ていた」オロアの目を焼いたのである。
叩きつけられたときに、リアのただでさえ露出の多めの服は引き裂かれ、全裸よりもかえって色気をそそる状態になっていたが、死にかけながらもそんな計算もしている。
これが。
「改めて、名乗ろうか。
かつて“三丁目の悪夢”と呼ばれたイリアだ。
相手が階層主だろうが、聖者のゾンビだろうが知るか!
徹底的にぶちのめしてやんよっ!」
「わしもあらためて、名乗ろう。
我が名は、リッチア=デ=オロア。“虚無の写本”にして第五階層の階層主。」
「わあ」
感情を失った声で、ウィルニアがつぶやいた。
「三丁目の悪夢 対 虚無の写本・・かあ。」
「ブックメイキングしたやつの責任問題だな。」
フィオリナは、剣を突きつけたまま、無慈悲に言い放った。
「しかし・・・なんというか、死霊となって千年たっても男っていうのは、その、ああいうのに目をひかれるのかな。」
「ああいう? ああ、あのリアだか、イリアという女性のもつ魅力についてか。」
ウィルニアは、じろじろと無遠慮にフィオリアを眺めた。
「きみも美しいが、たぶん、この場合は性的なパートナーとなることについての魅力の話だろう?
そりゃあ、むこうのほうが上じゃないか?」
フィオリナの剣先に殺意が膨れ上がる。
次の鏡の中では・・・勇者クロノとスライムのミュレスが死闘を始めていた。
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