婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
78 / 248

第77話 公爵家令嬢と賢者

しおりを挟む
魔王宮。第六層。
階層主の間。
しばし、フィオリナは階層主を睨んでいたが、

「クローディア公爵家の長女でフィオリナという。おまえにバラバラに転移させられたパーティ『愚者の盾』のリーダーだ。」

イリア以外の全員からブーイングが来ること間違い無しのセリフを吐いて、フィオリナは部屋にあがった。
帯剣はしたままだが、ちょっとためらってからブーツは脱いだ。

この部屋がそういうつくりなのを見て取ったからだ。

「ぼくはウィルニア。賢者ウィルニア、といえばおとぎ話くらいには登場するかな?
魔王討伐後にそれぞれ、身を立て名を挙げた、勇者や剣聖、聖女たちと違ってぼくは、そのままここに引きこもってしまったからね。」

「階層主たちから、そこらへんの事情は聞いている。」
フィオリナは、部屋を見回した。

大きな鏡が五枚。そのほかの家具は、ソファに小さなテーブル。
壁のクロスは明るい若草色で、床の絨毯は黄と青を基調にさまざまな幾何学模様が織り込まれたいままで見たこともない意匠だった。

フィオリナの趣味ではないが、悪くない部屋だった。

少なくともそれを理由に、こいつをぶち殺す気にはなれない程度には。

「大の人嫌いで、会った相手をまず八十八にバラバラにしてからでないと話もさせてもらえないそうだな?」

「それはもうやめた。」
賢者はおどけたように肩をすくめた。
「この前、ここに来た坊やにとんでもない方法で術を破られてね。」

「ハル・・・・ルトは無事なんだな?」

「ああ、そこらへんはもうわかっているのか。」

ある意味フィオリナには一番ショックな内容をさらっと流して、大賢者は続けた。

「こちらもグランダの王位継承をめぐるゴタゴタはきいた。」

「もうひとりの王子エルマートを後継者に推す王妃が闇森のザザの転生体であること、もか?」

「ほう」
ウィルニアはうれしそうに微笑んだ。
「これは新しい情報だ。
可能性のひとつとしては考慮していたが、確認できたのはうれしい。

ほかには目新しい情報はもっているかな?公爵家ご令嬢。」

「王妃に今回の一件を示唆したものがいる。
境界山脈の山の名を持つ伯爵殿だ。

ゴルニウム伯を名乗っていたそうだ。」

「・・・・魔族か。」
ウィルニアは考え込んだ。
「目的はなんだ?」

「とりあえず、あれを止めさせてから話さないか?」
フィオリナは、鏡を指差した。

鏡の中では、彼女の仲間たちが、恐るべき階層主たちと戦いを始めていた。

「これは殺し合いではない。
試しだよ。わかっているだろう?
人間が人間以外のものと意思疎通を図るには不可避な儀式だ。」

しらっと賢者は言い放った。

「彼らにしてみれば、人間はもともとが嘘つきなんだそうだ。
“称号”や自分自身で手に入れたわけでもない希少金属や宝石で体を飾り立て、『偉い』ふりをする。

自らが語る価値のあるものだと、証明しない限り、彼らは人間と話そうとすらしない。

その証明には、『戦って力を示す』のがもっとも面倒が少なくて、手っ取り早い道だ。」

フィオリナは立ち上がった。
そのままの動作で剣を抜き、相手に突きつける。

「・・・きみの試しは終わっている。
リンドくんからそう聞いている。

・・・ならば、これは“戦い”か? 賢者ウィルニアとの戦いを欲するのか?」

「この“試し”は不愉快だ。」
フィオリナはきっぱりと言った。

「ほう? 人間が魔物に蹂躙されるのは見たくないと?」

「私にとっては、昔からの知己と新しい知己同士が戦うのだ。愉快なはずがないだろう?」

「なるほど」
はじめてそのことに気がついたようにウィルニアは、頷いた。
「昔なじみが、傷つけられ殺されるさまは確かに見たいものではなかろうな。」

「どうだか。」
にいやあ。

と、フィオリナは彼女を知るものがこぞっていやがる笑みを浮かべた。

「案外、あたらしいお友達がボロボロにされるのが見たくない、のかも?」
しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...