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第77話 公爵家令嬢と賢者
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魔王宮。第六層。
階層主の間。
しばし、フィオリナは階層主を睨んでいたが、
「クローディア公爵家の長女でフィオリナという。おまえにバラバラに転移させられたパーティ『愚者の盾』のリーダーだ。」
イリア以外の全員からブーイングが来ること間違い無しのセリフを吐いて、フィオリナは部屋にあがった。
帯剣はしたままだが、ちょっとためらってからブーツは脱いだ。
この部屋がそういうつくりなのを見て取ったからだ。
「ぼくはウィルニア。賢者ウィルニア、といえばおとぎ話くらいには登場するかな?
魔王討伐後にそれぞれ、身を立て名を挙げた、勇者や剣聖、聖女たちと違ってぼくは、そのままここに引きこもってしまったからね。」
「階層主たちから、そこらへんの事情は聞いている。」
フィオリナは、部屋を見回した。
大きな鏡が五枚。そのほかの家具は、ソファに小さなテーブル。
壁のクロスは明るい若草色で、床の絨毯は黄と青を基調にさまざまな幾何学模様が織り込まれたいままで見たこともない意匠だった。
フィオリナの趣味ではないが、悪くない部屋だった。
少なくともそれを理由に、こいつをぶち殺す気にはなれない程度には。
「大の人嫌いで、会った相手をまず八十八にバラバラにしてからでないと話もさせてもらえないそうだな?」
「それはもうやめた。」
賢者はおどけたように肩をすくめた。
「この前、ここに来た坊やにとんでもない方法で術を破られてね。」
「ハル・・・・ルトは無事なんだな?」
「ああ、そこらへんはもうわかっているのか。」
ある意味フィオリナには一番ショックな内容をさらっと流して、大賢者は続けた。
「こちらもグランダの王位継承をめぐるゴタゴタはきいた。」
「もうひとりの王子エルマートを後継者に推す王妃が闇森のザザの転生体であること、もか?」
「ほう」
ウィルニアはうれしそうに微笑んだ。
「これは新しい情報だ。
可能性のひとつとしては考慮していたが、確認できたのはうれしい。
ほかには目新しい情報はもっているかな?公爵家ご令嬢。」
「王妃に今回の一件を示唆したものがいる。
境界山脈の山の名を持つ伯爵殿だ。
ゴルニウム伯を名乗っていたそうだ。」
「・・・・魔族か。」
ウィルニアは考え込んだ。
「目的はなんだ?」
「とりあえず、あれを止めさせてから話さないか?」
フィオリナは、鏡を指差した。
鏡の中では、彼女の仲間たちが、恐るべき階層主たちと戦いを始めていた。
「これは殺し合いではない。
試しだよ。わかっているだろう?
人間が人間以外のものと意思疎通を図るには不可避な儀式だ。」
しらっと賢者は言い放った。
「彼らにしてみれば、人間はもともとが嘘つきなんだそうだ。
“称号”や自分自身で手に入れたわけでもない希少金属や宝石で体を飾り立て、『偉い』ふりをする。
自らが語る価値のあるものだと、証明しない限り、彼らは人間と話そうとすらしない。
その証明には、『戦って力を示す』のがもっとも面倒が少なくて、手っ取り早い道だ。」
フィオリナは立ち上がった。
そのままの動作で剣を抜き、相手に突きつける。
「・・・きみの試しは終わっている。
リンドくんからそう聞いている。
・・・ならば、これは“戦い”か? 賢者ウィルニアとの戦いを欲するのか?」
「この“試し”は不愉快だ。」
フィオリナはきっぱりと言った。
「ほう? 人間が魔物に蹂躙されるのは見たくないと?」
「私にとっては、昔からの知己と新しい知己同士が戦うのだ。愉快なはずがないだろう?」
「なるほど」
はじめてそのことに気がついたようにウィルニアは、頷いた。
「昔なじみが、傷つけられ殺されるさまは確かに見たいものではなかろうな。」
「どうだか。」
にいやあ。
と、フィオリナは彼女を知るものがこぞっていやがる笑みを浮かべた。
「案外、あたらしいお友達がボロボロにされるのが見たくない、のかも?」
階層主の間。
しばし、フィオリナは階層主を睨んでいたが、
「クローディア公爵家の長女でフィオリナという。おまえにバラバラに転移させられたパーティ『愚者の盾』のリーダーだ。」
イリア以外の全員からブーイングが来ること間違い無しのセリフを吐いて、フィオリナは部屋にあがった。
帯剣はしたままだが、ちょっとためらってからブーツは脱いだ。
この部屋がそういうつくりなのを見て取ったからだ。
「ぼくはウィルニア。賢者ウィルニア、といえばおとぎ話くらいには登場するかな?
魔王討伐後にそれぞれ、身を立て名を挙げた、勇者や剣聖、聖女たちと違ってぼくは、そのままここに引きこもってしまったからね。」
「階層主たちから、そこらへんの事情は聞いている。」
フィオリナは、部屋を見回した。
大きな鏡が五枚。そのほかの家具は、ソファに小さなテーブル。
壁のクロスは明るい若草色で、床の絨毯は黄と青を基調にさまざまな幾何学模様が織り込まれたいままで見たこともない意匠だった。
フィオリナの趣味ではないが、悪くない部屋だった。
少なくともそれを理由に、こいつをぶち殺す気にはなれない程度には。
「大の人嫌いで、会った相手をまず八十八にバラバラにしてからでないと話もさせてもらえないそうだな?」
「それはもうやめた。」
賢者はおどけたように肩をすくめた。
「この前、ここに来た坊やにとんでもない方法で術を破られてね。」
「ハル・・・・ルトは無事なんだな?」
「ああ、そこらへんはもうわかっているのか。」
ある意味フィオリナには一番ショックな内容をさらっと流して、大賢者は続けた。
「こちらもグランダの王位継承をめぐるゴタゴタはきいた。」
「もうひとりの王子エルマートを後継者に推す王妃が闇森のザザの転生体であること、もか?」
「ほう」
ウィルニアはうれしそうに微笑んだ。
「これは新しい情報だ。
可能性のひとつとしては考慮していたが、確認できたのはうれしい。
ほかには目新しい情報はもっているかな?公爵家ご令嬢。」
「王妃に今回の一件を示唆したものがいる。
境界山脈の山の名を持つ伯爵殿だ。
ゴルニウム伯を名乗っていたそうだ。」
「・・・・魔族か。」
ウィルニアは考え込んだ。
「目的はなんだ?」
「とりあえず、あれを止めさせてから話さないか?」
フィオリナは、鏡を指差した。
鏡の中では、彼女の仲間たちが、恐るべき階層主たちと戦いを始めていた。
「これは殺し合いではない。
試しだよ。わかっているだろう?
人間が人間以外のものと意思疎通を図るには不可避な儀式だ。」
しらっと賢者は言い放った。
「彼らにしてみれば、人間はもともとが嘘つきなんだそうだ。
“称号”や自分自身で手に入れたわけでもない希少金属や宝石で体を飾り立て、『偉い』ふりをする。
自らが語る価値のあるものだと、証明しない限り、彼らは人間と話そうとすらしない。
その証明には、『戦って力を示す』のがもっとも面倒が少なくて、手っ取り早い道だ。」
フィオリナは立ち上がった。
そのままの動作で剣を抜き、相手に突きつける。
「・・・きみの試しは終わっている。
リンドくんからそう聞いている。
・・・ならば、これは“戦い”か? 賢者ウィルニアとの戦いを欲するのか?」
「この“試し”は不愉快だ。」
フィオリナはきっぱりと言った。
「ほう? 人間が魔物に蹂躙されるのは見たくないと?」
「私にとっては、昔からの知己と新しい知己同士が戦うのだ。愉快なはずがないだろう?」
「なるほど」
はじめてそのことに気がついたようにウィルニアは、頷いた。
「昔なじみが、傷つけられ殺されるさまは確かに見たいものではなかろうな。」
「どうだか。」
にいやあ。
と、フィオリナは彼女を知るものがこぞっていやがる笑みを浮かべた。
「案外、あたらしいお友達がボロボロにされるのが見たくない、のかも?」
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