上 下
74 / 248

第73話 冒険者たち ミア=イアとドルバーザの場合

しおりを挟む
「着いてくるのは勝手だが、面倒はみれん。そうだな、テム。」

「そう言いつつも面倒をみてしまうドルバーザさまではあるのだが、期待はするなよ、女。」

「ミア=イアと言う。名前だけでも覚えてほしい。」

バルゴール伯爵から直々に、変異種の蜘蛛のハンティングを命じられた、緋のドルバーザは実はあまり愉快ではなかった。
提示された金額は悪くはなく、しかも蜘蛛を狩ればその分の報酬は別途支払われる。

しかも指名での依頼、しかも高位貴族からの指名は、冒険者にとっては名誉であり、ギルド内での評価も高くなる。

いい事ずくめであるはずなのだが、ドルバーザは蜘蛛が嫌いだった。

正直見るのも嫌だった。

“嫌いなものを討伐してお金になるのだから、我慢するべきです”

と、彼の唯一の相棒である魔道人形は、言う。
彼が嫌がることも平気で言う。
もともと、自我は有しない魔道人形のはずだが、ときどき人間のようにも見える。

「ドルバーザ様。予定したパトロールコースからずれています。」

いつも冷静な魔道人形が淡々と言った。
だが、彼女(?)との長い付き合いのドルバーザは、そこにわずかないらだちを感じた。

「この階層は飽きた。
例の蜘蛛はあれきり現れないし、同じルートを回って、偶然に遭遇した蜘蛛を切断して、素材を持ち帰る。

どこが、冒険でどこが冒険者だ?」

「かと言って、コースを少し変更してみるのも、露天の料理人が屋台の位置を少しずらしてみるのと同じことか、と。」
テムの瞳の奥がチカチカとまたたく。
「ここは、報酬のためと割り切って、伯爵殿との契約を果たすべきでは?」

「この先に二層への入口がある。」

「・・・・・」

「一層のパトロールは予定通り終了した。
少し時間があったので、二層の入口を覗いてみた。」

「・・・・屋台が、動いたっ!」

「そうすると、溶岩の中から、特異主の蜘蛛が現れる。
攻撃してくると思うので、反撃したら倒してしまうこともあるだろう。

これは契約違反にはならない。そう思うだろう、テム?」

「契約云々は問題ないかと存じますが、まったくもってビタ銭一枚にもならない行動であり、おすすめはいたしません。

もうひとつの問題としては、炎熱蜘蛛には、必ず二つ以上のパーティで当たるように、との厳命が。

これはクローディア公爵の名で発せられたものですが、グランダ国ならびにグランドマスターも承認された正式なものと考えられます。」

「幸いなことにここには、二つのパーティがいる。

緋のドルバーザと、もうひとつ」

「ひとつのパーティが囮になって、蜘蛛をマグマの海から引き出す、ということですね。
たしかにここには“緋のドルバーザ”以外の冒険者もおります。

えっと、くんだっけ?」

「え、え、え? わたしは疑似餌かっ!!」

「心配せずとも使い捨てにはしない。」

「そ、それはありがた・・・くもないっ!」

ドルバーザは、緩やかに降る階段に足を踏み入れた。
しばらく降りると、巨大な空洞が広がり、それ自体が火炎の色に煮えたぎる溶岩湖と、その真ん中に位置するちいさな島が見えた。

テムが人間には発音できない声を発した。

おそらくは熱耐性をあげるための呪文だったのだろう。

ミア=イアは肌を焦がす熱気が和らぐのを感じた。

彼らが立っている地面は黒々とした岩だったが、そこ此処の亀裂の奥にも、赤黒い炎が見えていた。

「さあ、ルアー…」

「ミア=イア!」

「ミア=イア=ルアーくん。あそこのマグマ池の淵までご移動しようか。」

はめられたっ・・・・
ミア=イアは、剣を握りしめたまま、歩みを進めた。

愛用の魔剣は、先の戦いで失われている。
求めた剣は、切れ味とバランスで選んだ。
しばらくは戦えないパーティメンバーをかかえる以上、潤沢な資金はない。
強化の魔法はかかっていない。普通の剣だ。

人嫌いで名高い“緋のドルバーザ”への同行を願い出たのは、単独で魔王宮に潜る勇気がすでに彼女の中になかったことにほかならない。
意外にも、ドルバーザは彼の魔道人形とアイコンタクトしたあと、同行を許可してくれた。

それが・・・・こんなことになろうとは。

もう、マグマ溜まりから、数歩の距離しかない。そこにいられるのは、魔道人形の耐性魔法のおかげだろう。
震える手で剣の柄に手を握る。

マグマが跳ね上がる。

悲鳴を押し殺して、ミア=イアは飛び下がった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...