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第73話 冒険者たち ミア=イアとドルバーザの場合
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「着いてくるのは勝手だが、面倒はみれん。そうだな、テム。」
「そう言いつつも面倒をみてしまうドルバーザさまではあるのだが、期待はするなよ、女。」
「ミア=イアと言う。名前だけでも覚えてほしい。」
バルゴール伯爵から直々に、変異種の蜘蛛のハンティングを命じられた、緋のドルバーザは実はあまり愉快ではなかった。
提示された金額は悪くはなく、しかも蜘蛛を狩ればその分の報酬は別途支払われる。
しかも指名での依頼、しかも高位貴族からの指名は、冒険者にとっては名誉であり、ギルド内での評価も高くなる。
いい事ずくめであるはずなのだが、ドルバーザは蜘蛛が嫌いだった。
正直見るのも嫌だった。
“嫌いなものを討伐してお金になるのだから、我慢するべきです”
と、彼の唯一の相棒である魔道人形は、言う。
彼が嫌がることも平気で言う。
もともと、自我は有しない魔道人形のはずだが、ときどき人間のようにも見える。
「ドルバーザ様。予定したパトロールコースからずれています。」
いつも冷静な魔道人形が淡々と言った。
だが、彼女(?)との長い付き合いのドルバーザは、そこにわずかないらだちを感じた。
「この階層は飽きた。
例の蜘蛛はあれきり現れないし、同じルートを回って、偶然に遭遇した蜘蛛を切断して、素材を持ち帰る。
どこが、冒険でどこが冒険者だ?」
「かと言って、コースを少し変更してみるのも、露天の料理人が屋台の位置を少しずらしてみるのと同じことか、と。」
テムの瞳の奥がチカチカとまたたく。
「ここは、報酬のためと割り切って、伯爵殿との契約を果たすべきでは?」
「この先に二層への入口がある。」
「・・・・・」
「一層のパトロールは予定通り終了した。
少し時間があったので、二層の入口を覗いてみた。」
「・・・・屋台が、動いたっ!」
「そうすると、溶岩の中から、特異主の蜘蛛が現れる。
攻撃してくると思うので、反撃したら倒してしまうこともあるだろう。
これは契約違反にはならない。そう思うだろう、テム?」
「契約云々は問題ないかと存じますが、まったくもってビタ銭一枚にもならない行動であり、おすすめはいたしません。
もうひとつの問題としては、炎熱蜘蛛には、必ず二つ以上のパーティで当たるように、との厳命が。
これはクローディア公爵の名で発せられたものですが、グランダ国ならびにグランドマスターも承認された正式なものと考えられます。」
「幸いなことにここには、二つのパーティがいる。
緋のドルバーザと、もうひとつ」
「ひとつのパーティが囮になって、蜘蛛をマグマの海から引き出す、ということですね。
たしかにここには“緋のドルバーザ”以外の冒険者もおります。
えっと、ルアーくんだっけ?」
「え、え、え? わたしは疑似餌かっ!!」
「心配せずとも使い捨てにはしない。」
「そ、それはありがた・・・くもないっ!」
ドルバーザは、緩やかに降る階段に足を踏み入れた。
しばらく降りると、巨大な空洞が広がり、それ自体が火炎の色に煮えたぎる溶岩湖と、その真ん中に位置するちいさな島が見えた。
テムが人間には発音できない声を発した。
おそらくは熱耐性をあげるための呪文だったのだろう。
ミア=イアは肌を焦がす熱気が和らぐのを感じた。
彼らが立っている地面は黒々とした岩だったが、そこ此処の亀裂の奥にも、赤黒い炎が見えていた。
「さあ、ルアー…」
「ミア=イア!」
「ミア=イア=ルアーくん。あそこのマグマ池の淵までご移動しようか。」
はめられたっ・・・・
ミア=イアは、剣を握りしめたまま、歩みを進めた。
愛用の魔剣は、先の戦いで失われている。
求めた剣は、切れ味とバランスで選んだ。
しばらくは戦えないパーティメンバーをかかえる以上、潤沢な資金はない。
強化の魔法はかかっていない。普通の剣だ。
人嫌いで名高い“緋のドルバーザ”への同行を願い出たのは、単独で魔王宮に潜る勇気がすでに彼女の中になかったことにほかならない。
意外にも、ドルバーザは彼の魔道人形とアイコンタクトしたあと、同行を許可してくれた。
それが・・・・こんなことになろうとは。
もう、マグマ溜まりから、数歩の距離しかない。そこにいられるのは、魔道人形の耐性魔法のおかげだろう。
震える手で剣の柄に手を握る。
マグマが跳ね上がる。
悲鳴を押し殺して、ミア=イアは飛び下がった。
「そう言いつつも面倒をみてしまうドルバーザさまではあるのだが、期待はするなよ、女。」
「ミア=イアと言う。名前だけでも覚えてほしい。」
バルゴール伯爵から直々に、変異種の蜘蛛のハンティングを命じられた、緋のドルバーザは実はあまり愉快ではなかった。
提示された金額は悪くはなく、しかも蜘蛛を狩ればその分の報酬は別途支払われる。
しかも指名での依頼、しかも高位貴族からの指名は、冒険者にとっては名誉であり、ギルド内での評価も高くなる。
いい事ずくめであるはずなのだが、ドルバーザは蜘蛛が嫌いだった。
正直見るのも嫌だった。
“嫌いなものを討伐してお金になるのだから、我慢するべきです”
と、彼の唯一の相棒である魔道人形は、言う。
彼が嫌がることも平気で言う。
もともと、自我は有しない魔道人形のはずだが、ときどき人間のようにも見える。
「ドルバーザ様。予定したパトロールコースからずれています。」
いつも冷静な魔道人形が淡々と言った。
だが、彼女(?)との長い付き合いのドルバーザは、そこにわずかないらだちを感じた。
「この階層は飽きた。
例の蜘蛛はあれきり現れないし、同じルートを回って、偶然に遭遇した蜘蛛を切断して、素材を持ち帰る。
どこが、冒険でどこが冒険者だ?」
「かと言って、コースを少し変更してみるのも、露天の料理人が屋台の位置を少しずらしてみるのと同じことか、と。」
テムの瞳の奥がチカチカとまたたく。
「ここは、報酬のためと割り切って、伯爵殿との契約を果たすべきでは?」
「この先に二層への入口がある。」
「・・・・・」
「一層のパトロールは予定通り終了した。
少し時間があったので、二層の入口を覗いてみた。」
「・・・・屋台が、動いたっ!」
「そうすると、溶岩の中から、特異主の蜘蛛が現れる。
攻撃してくると思うので、反撃したら倒してしまうこともあるだろう。
これは契約違反にはならない。そう思うだろう、テム?」
「契約云々は問題ないかと存じますが、まったくもってビタ銭一枚にもならない行動であり、おすすめはいたしません。
もうひとつの問題としては、炎熱蜘蛛には、必ず二つ以上のパーティで当たるように、との厳命が。
これはクローディア公爵の名で発せられたものですが、グランダ国ならびにグランドマスターも承認された正式なものと考えられます。」
「幸いなことにここには、二つのパーティがいる。
緋のドルバーザと、もうひとつ」
「ひとつのパーティが囮になって、蜘蛛をマグマの海から引き出す、ということですね。
たしかにここには“緋のドルバーザ”以外の冒険者もおります。
えっと、ルアーくんだっけ?」
「え、え、え? わたしは疑似餌かっ!!」
「心配せずとも使い捨てにはしない。」
「そ、それはありがた・・・くもないっ!」
ドルバーザは、緩やかに降る階段に足を踏み入れた。
しばらく降りると、巨大な空洞が広がり、それ自体が火炎の色に煮えたぎる溶岩湖と、その真ん中に位置するちいさな島が見えた。
テムが人間には発音できない声を発した。
おそらくは熱耐性をあげるための呪文だったのだろう。
ミア=イアは肌を焦がす熱気が和らぐのを感じた。
彼らが立っている地面は黒々とした岩だったが、そこ此処の亀裂の奥にも、赤黒い炎が見えていた。
「さあ、ルアー…」
「ミア=イア!」
「ミア=イア=ルアーくん。あそこのマグマ池の淵までご移動しようか。」
はめられたっ・・・・
ミア=イアは、剣を握りしめたまま、歩みを進めた。
愛用の魔剣は、先の戦いで失われている。
求めた剣は、切れ味とバランスで選んだ。
しばらくは戦えないパーティメンバーをかかえる以上、潤沢な資金はない。
強化の魔法はかかっていない。普通の剣だ。
人嫌いで名高い“緋のドルバーザ”への同行を願い出たのは、単独で魔王宮に潜る勇気がすでに彼女の中になかったことにほかならない。
意外にも、ドルバーザは彼の魔道人形とアイコンタクトしたあと、同行を許可してくれた。
それが・・・・こんなことになろうとは。
もう、マグマ溜まりから、数歩の距離しかない。そこにいられるのは、魔道人形の耐性魔法のおかげだろう。
震える手で剣の柄に手を握る。
マグマが跳ね上がる。
悲鳴を押し殺して、ミア=イアは飛び下がった。
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