婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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第71話 勇者と魔王(とは呼ばれたくない男)と賢者(と称する道化)

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勇者クロノは夢を見る。

それは千年の昔の物語。

記憶は部分的に欠落し、自分の記憶なのに、影絵の芝居を見ているような気がするときもある。
初代の勇者の名はその血をひくグランダにも聖光教会に伝わっていない。

当時のクロノはクロノという名ではなかった。と思う。

だが、ここではクロノという呼び名を使おう。

ヒトに似た容姿を持ちながら、体力・魔力ともにヒトを凌駕するものたち。

彼らの侵攻は、数百年におよび、すでに西方の国々は滅び、人類の文明発祥の地とされる中原も半ばは、彼ら魔族の支配下にある。

数で勝る人類は同盟を結び、部分的には魔族の侵攻を食い止め、幾度かの和平条約を結んだ。
だが、それはいつも長続きはしない。

小さなほころびを突くように、魔族は条約を破り、あるいは難癖をつけ、そのたびに人類はいくつかの領土を割譲するかたちでその領域を縮小させてきた。

神々。その加護を受けた英雄たち。
また、神が現し世に顕在した姿である神人やその子孫たち。
あまたの能力をもつ神獣とよばれる超常の怪物たち。

それらの援助をうけてさえ、人類は敗北の一途をたどっている。

魔王。

あるいはそう呼ばれるに至ったあまりにも強大な魔力の持ち主は、領地の奥に居を構え、戦場に出ることはないものの、その姿は威風堂々、美丈夫、という言葉が似合うものらしい。

クロノ自身は、よく言って「愛嬌のある二枚目」程度の容姿であると自負していた。

ぎりぎりで二枚目。

あとは剣の腕とか、魔力とか、人柄とか、そうそう忘れてはならない勇者の称号。
もろもろを足してなんとか「モテる」水準に達している。

つまりは見た目では完全に負けている。

そして、実際に戦いにおいても。

握る「聖剣」が光を帯びる。
あいつが生み出した黒い球体を両断する。だが、球体は後ろからも横からも頭上からもせまっている。

後方からのものはなんとか弾き返した。
頭上からの球体を前方に回転して躱す。

だが、真横からの球体が胴をかすめた。
神々の祝福も防御魔法もない。

いや痛みすらなかった。
球体がかすめた脇腹にはもはや感触はなく、そこを中心に全身に凍えが広がっていく。

視界の暗転。

死。

そして勇者は目を開ける。

何度目かの蘇生魔法、数え切れないほどの回復魔法、支援魔法にいたってはどこからが自分の力で、どこからが強化によるものなのかわからないほど。

そんなもろもろを足して、なんとか自分は魔王の前に立っている。

まだ立っている。

剣聖の繰り出した奥義は、ものの見事に魔王の兜を打ち砕いていた。
かわりに、彼はいま、長柄に貫かれたまま、壁に縫い付けられているのであるが。

聖女も魔法使いも僧侶も。
今の蘇生で魔力を使い果たしたのか、意識を失っている。

つまり、この場にいるもので話ができるのは、魔王とクロノのみ。

「話をしたい・・・・」

「こんな暗殺同然の攻撃をしかけてきてか?」
魔王の声は怒りに満ちている。
発する威圧だけで、訓練をつんでいないものなら十分死ねそうだ。
「片方で和平交渉を持ちかけておきながら、別働隊で我が生命を狙っておいて、それを果たせぬとわかると命乞いか?」

「はいはい」
クロノは長剣をからりと投げ捨てた。
「まあ、ほかに方法がなかったんだ。
それは、あんたも分かるでしょうに。

魔族は、人間よりも圧倒的なまでに強い。

なんど、不可侵条約を結ぼうと、何年か後には、ふたたび活性した魔族がちょっかいをかけてきて、人類はその版図を狭められる。

これが、人間みたいに複数の国があって、いろいろ思惑が交錯したり、代替わりがあって、前の施政者の意思が反故にされるとかならまだわかる。

だが、こっちは違うよな。

王はあんたひとり、なのにどんな条約ももったのが最長で十年だ。

なあ・・・・あんた本当はたいした権力もってないんじゃねえのか?」

魔王の召喚した闇の色をした剣は七本。
その切っ先が、自信をなくしたかのように揺らいだ。

「魔族、なんてな・・・・人間よりも強く優れた種族みたいに自称してるがな、はっきり言っちまえば、あれは病気だよ、ビョウキ。

魔素に過敏に体と心が反応するビョウキだ。
それで、強く、賢くなるだけならまあ、たしかに人間よりも優れてるっと言ってもいいんだろうが・・・・それで、やたらに好戦的になっちまうのはどうなのか?」

「・・・・・」

「好戦的ってのもけっこうオブラートに包んでるんだぜ。

濃い魔素にさらされた魔族は、はっきり言えば血に飢えた獣と一緒だ。

命を奪うことに。それにできるだけ残虐に奪い続けないと、正気がたもてねえ。
その状態がそもそもまともじゃねえって気もするがな。」

「・・・・それは・・・・」
闇色の剣が消えた。
それが、教会の術者が『棺の剣』と呼ぶ魔法ならば、発動させることはもちろん、中断して消滅させることのほうがさらにさらに困難なものだったはずだが、美丈夫は気にもとめない。

そのまま玉座に、どかりと腰を下ろした。
どこか疲れたようにも見えた。

「それは、お主個人の考えか? ええと・・・」

「勇者クロノ。」

「おまえが勇者? ならばわたしはさしずめ、魔王といったところか。」

人類の国ではすでにそう呼ばれている、とクロノが答えると美丈夫の表情はさらに悪くなった。

「で?
魔族を好戦化させる魔素の過大な供給源がわたしである以上、いかなる協約、和平も無駄。
わたしを殺すしかないと、そう判断するのか?」

「さて? そこまで考えている者は数少ない。
各国の王や将軍殿は、敵の総大将をぶっ潰せば、侵攻が止まるだろう、くらいの考えしかないな。

こんな珍説を唱えているのは、俺の知る限りじゃあ、ただひとり。」

頭上の空間がにじむように色を変えた。
形成されたのは、氷の門。
それが内側から開かれる。

「紹介するわ。俺の師匠みたいなもん。賢者と自称している。
名前はウィルニアだ。

気軽にウィルって呼んでやってくれ。」

自称“賢者”? ウィルって呼べって? 
ぶつぶつ文句を言いながら、氷の門から降り立った優男は、顔立ちこそ整っていたが、どこからどう見ても普通の人間だった。
歳は、やっと成人したかどうか、というところ。

学者がよく身につけるトーガを纏っていたが、教師なのか、学生なのか、微妙なところであった。

「我が城のなかで転移を行うとは並々ならぬ術者だな。」
美丈夫は、右手を上げた。
手の中に白い光がやどり・・・・剣聖、聖女、魔法使い、僧侶の体を包む。

「停滞魔法か。」
ウィルニアが、叫んで僧侶のもとに駆け寄った。
「すごいな・・・・脈拍、呼吸の回数も落ちている。
本当に時間が停滞しているのか。

この状態で白魔道士に預ければ、命は取り留める。
おまけに」

「話があってきたのではないのか?」

美丈夫があきれたように言った。

「師匠のくせでな。
魔法のこととなると我を忘れる。」

「いや、そんなことはない!」
振り返ったウィルニアはきっぱりと言ったが、いやおまえ実際にいま忘れてたじゃね?

魔王と呼ばれる人物と勇者と呼ばれる人物が、共感したのはこれが記念すべき、第一回である。

「さて、魔王、さん?くん?どの?」
「そもそも魔王よばわりされるのが気に入らん。
陛下をつけろとは言わんが、バズス=リウという名がある。」

「なるほど、ではそうさせてもらう。
バズス=リウ、ぼくはいろいろ考えた。

そりゃもう、いやになるくらい考えた。

夜も眠れないほど考え抜いた。その分、授業をさぼって居眠りをしすぎてあやうくクビになるところだった。
食欲もなくってステーキの脂身は全部残した。

このまま戦争が続けば、もってあと半世紀。
その後は、人間は国家としては存在しなくなり、魔族の支配下で下等民としてみじめな生を送る。

魔族とはいっても人類の亜種に過ぎないのだから、それはたとえば歴史上、あるが民族ある時代に覇をとなえるのとさして違わない。

だが、問題は魔族のもつ魔素過敏症だ。

戦う相手がいなくなれば、魔族はこんどは魔族同士で争いをはじめる。
魔族には基本的に『非』戦闘員などという考え方はないから、これは互いに互いを殺し合う、徹底的な殲滅戦となる。

かくしてこの世界から文明というものがなくなるまで、ぼくは、ざっと計算して150年とふんだ。

ならば、魔素過敏症を治療してしまうのはどうか?
これも不可能ではない。
そもそもぼくの頭脳の前では、不可能などというものはまず存在しないのだからね。

だが、仮にそれが可能になったとしても、当の魔族の皆様がそれを望まないだろう。

戦いこそ是とする魔族の中で、魔素過敏症はメリットのほうがはるかに大きいから。
で、治療を望まない患者を捕まえて、治療を施して回ることの困難さにさすがのぼくもこの方法はないな、と思ったわけだ。」

「なんなんだ、こいつは?」

バスス=リウはクロノに囁いた。

「まともな人間だと思っちゃだめだ。もし理解したいと願うならこう思え。
『こいつは賢者ウィルニアという“生き物”だ』と。」

「そうなると魔族=人類国家の戦争を終わらせて、文明の温存を図るには、魔素の供給源である魔王、あ、いやバズス=ロウを亡き者にするしかない。

もちろん、現存している魔族は、しばらくは人類に対して体力、魔力ともに優位を保つだろう。
だが、いままでのように彼らを凶暴にし、戦いに駆り立てる魔素の過剰供給はなくなるのだから、際限のない戦闘の継続はなくなるはずだ。

代替わりする長い年月の間には、その差はほとんどなくなり、人類社会に同化していくだろう。

わかりにくいかね?
これは魔族を破滅から救う方法でもあるんだよ。

そうこうする間に君が寿命を迎えて、君の子孫たちが同じような困った体質を遺伝させなければそれを待ってもいいが・・・・

残念ながら、強い魔力を宿した者の宿命で、君の寿命はめちゃくちゃに長いだろ?

とても自然死など待っていられないのさ。」

「結局は、わたしを殺しにきたわけか。
いままでの長広舌はいったんなんだったのだ?」

怒りよりも呆れたように、バズス=リウは言った。

「いやいや、自慢じゃないがぼくは戦闘向きの性格ではなくてね。」

「バスス=リウ、注意しろよ。確かに性格的には武人とは程遠いが、使う魔法はけっこうえげつないぞ。」

「・・・というか、我が不肖の弟子はなんでそういうよけいなこと言うかな。」
ウィルニアはぼやいた。
当人たちがどう思うが、クロノとウィルニアはお似合いのコンビだった。

「ぼくも稀有なる魔力をもった存在である君を殺したくはない。
だまし討ちにきた相手にわざわざ手加減をしてくれるような君に、“死”以外の解決方法を提案しに来たのさ。

どのみち近い将来に魔族が自滅するのは、きみにもわかっていたことだろう?」

「その可能性はある。
それは認めるが、回避するための道もまた模索中だ。

魔素による凶暴化を逃れたわたしの腹心ともいうべき仲間もいる。

暗殺者の手引で突然現れた道化者の助言にやすやすと従うと思うな。」

暗殺者と言われたクロノは、まあ、相手からみれば確かにそうか、と納得したが、道化者のほうは納得できないようにまたうつむいてぶつぶつと呪いをつぶやいていたが、意を決したように

「魔素を封じこめる、という策がある。
もちろん、きみ自身もおそろしく不自由な思いをさせることになるが。」

「それも実は試している。」
バズス=リウは自嘲的な笑みを浮かべた。
「だが、あらゆる物質、あらゆる魔道障壁をも浸透して、魔素は漏れ出してしまう。

単純にこうやって、自軍奥深くの城にこもって、家臣たちとの距離を保っていれば確かに一定の効果はあるがそれでも影響はでてしまう。

それこそ、十年持たずに休戦条約、不可侵条約が反故にされてしまうほどには、な。」

「なるほどなるほど」
ウィルニアは我が意を得たりと言わんばかりに手を叩いて笑った。
「きみも同じような悩みをかかえ、同じような道を模索していたのだな。

ならば、この解決方法がいかに有効かわかってもらえると思う。

“迷宮”を作れ。」

迷宮。
それは、幾多の神話に登場する。

複雑な迷路、しかけられた罠、跋扈する怪物たち。

それらを退け、迷宮最深部に辿り着き。

話の大筋は似たり寄ったりだ。
最深部に巣食うボスモンスターを倒した主人公は、そこで不老不死の妙薬を手に入れたり、さらわれた姫を取り返したり、まあ、いちばん多いのはボスモンスターを倒すこと自体が目標である場合だ。

「迷宮の奥に潜む魔王の役を演じるか。」

バズス=リウの自嘲の笑みはさらに濃いものとなった。
「確かに存在すること自体で、世に害悪を撒き散らしている私にはふさわしい役回りかしれない。
暗殺からの防止策にもなるしな。

だが、それは意味がないと言っただろう。
どんなに深く穴を掘り、岩で固めて、複雑な迷路を構築したところで、魔素の流出は止められない…

おい、これはなんだ!?」

ウィルニアが空中に投じた文字列は、幾重にも重なり、ゆっくりと彼の周りを回っている。
後の世ではこれを魔法陣(正確には積層魔法陣)と呼んだが、当時はまだ『これ』を表す言葉はない。

「世界を…創造し、維持する…だと?

確かに世界が異なれば、魔素の影響からこの世界を遮断することはできるが。

こんなことが」

「神話、伝説のある『迷宮』の最奥に魔神やら邪神、古龍のたぐいがいるのはなぜだと思う?
それだけの魔力がないものには迷宮を作り上げて、維持することができないからだ。

迷宮はそれ自体が外とは隔絶された別の世界であり、独自の法則をもって存在し続ける。

濃すぎる魔素は、飽和して独自の生物を生み出すだろう。

それは“魔物”と呼ばれる存在なのかもしれない。

確かに、迷宮の奥深くにその身を置くことは、不自由でもあるし、ひどく退屈にも思えるかもしれない。
だが、そこは別に湿った洞窟の奥でも、廃墟になった宮殿の一室でもない。

それ自体がひとつの世界だ!

そう考えればきみの無聊も幾分かは慰められるだろう。」

バズス=ルウの金茶の瞳が、ウィルニアの展開した術式をなんどかなぞった。
否定したいが、その理由が、ない。

せめて術式に文句をつけようとしたのだが、些細な修正点をいくつか発見できただけだった。

ため息をついて、バズス=ルウは、言った。

「確かに可能だな。だが、第37式の145項は、不要だ。1299式81項と91項は修正がいるぞ…」

「なんだと!」
賢者を称する優男は、叫んだ。
身の回りに展開する術式を両の手ですいくとり、まじまじと眺める。
「いや、これは構築されたあとの世界に再度修復を加える際に不可欠な術式だ。
だが、いや」
「それよりも世界自体に自己修復機能を持たせたほうがいい。
108式45項に追加を要求する。」
「いや、それだと後で変更を加えることが難しくなる。
すべてに迷宮主の意思が反映できるように自動化はなくすべきだ!」
「それでは“世界”ではない!
独立した世界は自ら存続を続けることを是とするように構築されるべきだ。
そもそも、迷宮の維持はわたしの一人作業《ワンオペ》となるんだぞ。
風が吹くにも雨が降るにもいちいち呪文を唱えさせる気か!?」

“魔王”と“賢者”の口論は果てしなく続いた。

勇者クロノにも賢者ウィルニアにも魔王バスス=ルウにも意外だったのだが、これはけっこう建設的な口論だった。

結果。

ウィルニアはバズス=ルウが指摘した問題点の修正にほとんど同意し、今の彼の居城を地下深くに下ろすことで、迷宮の基礎を建てること、作業を補助できる『階層主』を各階に置くこと、さらにウィルニア自身がそのひとりに加わることが、あっけないほど順調に決まった。

「で? クロノはどうする?」

二人が声を合わせてそう尋ねたので、クロノは天を仰いだ。

「いきなり、王が消滅したら魔族軍は総崩れになるぞ。」

「それは考えてある。」
バズス=ルウは、悪い顔で笑った。
「カノウル大公、ジウン侯爵軍を人類連合に寝返らせる。
侵入しすぎた我軍は、退路をたたれて総崩れ、とみせかけて、カノウルとジウンの領地を通じて帰国させる。

とりあえず、そうだな。」

彼らの頭上に大陸の地図が展開した。
細かい線画で構成されたそれには、無数に光る星々で彩られている。

「朱が我が軍、緑が、人類連合の都市を現す。
人類との共存を望むものは、カノウル、ジウン領に残るとして、それ以外の民は」

突然、地図にいままで存在しなかった山脈が出現した。
大陸を南北に分けるようなその山脈は、地図の上でも猛々しくそびえ立ち、およそ翼持つもの以外は超えることすら冒険になるだろう。

「その居住圏を人類と分ける。
もともと我が民は、数が少ない。過剰な魔素がもたらす好戦性がなければ、生存と繁栄は、北の地でも十分すぎるはずだ。

で、クロノ。

おまえはここに国を建てろ。」

「いままでの話とどうつながるんだ? それが。」

「いや、魔王を倒した勇者が王としてひとつの国を持つのは、誰も反対はしないだろう?
おまえが国を建てるとなれば、戦乱であれた人類圏からも多数の移民があるだろう。」

「どうやって、集まった民を食わせるんだよっ!
なんの産業もない、しかもここは農作物も育ちにくい北方だぞ?」

かっ!

魔王と賢者は同時に心のなかで思った。

「まず、国を起こす基礎部分は、わたしがこの地に残す財宝で賄うといい。
そのままなら、人類連合諸国が巻き上げて、おまえには雀の涙ほどの報奨がでるだけだろうが、おまえが国を起こしてしまえば、すべてお前のものになる。」

魔王、とヒトから呼ばれる傑物は、いままでで一番魔王らしいことを言った。

「財宝の巻き上げができなかった諸国からは反発もあろうが、そこは、カノウルとジウンがうまくやるだろう。
だいたい、あいつらが、魔族の追討だの、魔王の遺産など考え始めるのは、何十年か先になる。」

「あとは、バズス=リウとぼくがつくる迷宮を産業にするといい。」
ウィルニアも空中に地図を投影する。

こちらは、彼らが構築しようとする「迷宮」の立体図のようだった。

「ここの迷宮内の魔素は、まれに見る高さになるぞ。なにせ、そのための迷宮だからな。
発生する生物たちから捕れる素材、魔素で変質した金属、貴金属、貴石、宝の山だ。」

「わかったわかった。」
実際のところ、クロノはわかってはいない。
ただ、この両者が本気だということ、自分がそれに応えなければいけないことだけがわかっている。
「それで、山脈をつくるのか?」

「そう、これはタイミングが難しい。
迷宮をつくった時点でわたしは、外界との接触がほぼ絶たれた状態になってしまう。

この道化賢者も同様だ。

しかけとエネルギーは前もって注いでおくとして、最適なタイミングで術式を作動させられるものが必要だ。
そしてこれだけの巨大な術だと、起動させるためにも、膨大な魔力が必要になる。

我が民、我が腹心たちの中でも数は限られる。」

作ることはそうでもなくて、作るタイミングの方が難しいのか。
クロノはぼやいた。

「なんのためにここに国を作る?」

「つまりは、今の人類文明圏と我が民の生活圏との境界になってほしいのだ。」

バズス=ルウは言う。

「この国がヒトの文明の最北端。
これより北には、文明はなくただ、魔族の住まう極寒の不毛の大地が広がるのみ。
そう思わせてほしい。

ついでに山脈のふもとは、軍隊規模の移動が難しい大森林地帯をつくっておく。」

ウィルニアがあとを続けた。
「それに、なんというか、きみだけを残して別の世界に転移してしまう我々からの餞だと思ってほしい。

王様とか、金銀財宝とか、美女揃いの後宮とか好きだろ? きみ。」

「そりゃあ、好きだがな。
もっと好きなこともある。」

「それはそれは。」
二人の怪物は笑った。
「例えば、なにかな?」

「例えば、信頼できるツレと笑って過ごす時間とか。」

それもそうか。

ウィルニアは下を向いたし、バズス=ルウは天を仰いだ。

転生のしかけを施しておくよ。

と、ウィルニアは言った。

いつどのような形で、作動するかわからない不確定な魔法だが、なにせ我々は(信頼できる友、の中にバズス=ルウもいつの間には含まれていた)かなりの長寿に恵まれるだろうからね。
いつの時代かには巡り会えるさ。


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