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第68話 愚者たちは語らう
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アウデリアは、あまり機嫌がよろしくなかった。
勇者やクローディア公爵と別行動で、旧「帝都」に到着したのであるが、入場まで延々と待たされたのである。
王都との往復便ばかりではない。
明らかに王都を経由していない隊商と思しき荷馬車の一団や、西域や中原からの冒険者たち、中にどうみても物見遊山に訪れたとしか思えない者たちもいて、唯一の「門」はごった返していた。
そうなればなったで、軽食や飲み物を売りさばくもの、串揚げや粥の屋台も出て、門前はもうひとつの街が出来たような賑わい方だった。
もちろん入場したらしたで、迷宮入口まで続く大路は、かつてのように両側に宿屋や売店が軒を連ねていた。
バルゴールは、もちろん一等地を独占していたが、彼は彼で個人の金儲け以外にも、街の繁栄や税収といったことにも頭の回る人物だったから、他の業者にも法外とは言えぬ借地料で店を出すことを許していた。
「やれやれ、この騒動がどう収まろうが、一番利益をあげたのは、あの伯爵殿になることは間違いなさそうね。」
仏頂面のまま、アウデリアは彼女の“収納”から、大皿に山盛りになった串焼きを取り出した。
宿屋の一室に集まったのは、パーティ『愚者の盾』の面々。
すなわち。
クローディア公爵家令嬢フィオリナ。
腰に履いたのは、彼女の愛剣『無名』。
鎧は身に着けず、髪を後ろで括り、騎士見習いの少年が身につけるような短い上着を羽織っていた。
魔道院総支配ボルテック卿。
マントのフードは被らず、炯々と眼光でアウデリアを見つめる。
胸元の護符は『理外のバサラ』、髪をまとめた銅の輪は『断罪のリウス』。右手のブレスレットは『覇炎ル=ドウル』。左の指輪は人差し指が「氷壁のザザラ」、中指が『幻夢キザリオン』・・・以下は略すが、見るものが見れば国をも滅ぼせる“武装”だとわかる。
鋼糸の使い手“隠者”ヨウィス。
フードを深くおろし、我関せずと、綾取りに精を出しているが、それが索敵と攻撃を同時に可能にする「糸操り」の技なのは、部屋の全員が理解していた。
そして、“勇者”クロノ。
初代勇者の「本当の」生まれ変わり、と称する少年は、簡易な革製の鎧を身に着け、笑みを浮かべてゆったりと腰を下ろしている。いまだ成長過程にある彼は実力では、アウデリアにも、ひょっとするとフィオリナにも劣るかもしれないが、そんなことは気にしていない。
相手は、魔王の配下であり、彼は勇者だったから。
「で、そっちはいったいどうなったんだ?」
アウデリアが、串焼きの先端を突きつけたのは、六人目。
確か、王立学院で優秀な成績を納めていた元男爵家令嬢で、名前をイリアとかいった・・・・
「光の矢だけでは、深層の魔物には出力不足だと思ったので」
フィオリナが肩を竦める。
「光の剣までは、なんとか使えるようにしよう、と、まあ無理を承知で訓練したんだが・・・・」
「それで、あのお嬢さんがこうなった、と?」
「っるせえよ、ばぁやろう。」
焼串を両手にもった女が、口から肉片を飛び散らせながら喚いた。
顔立ちは、彼らにはおなじみのイリアであったが、もともと形のよい豊かな胸の膨らみを誇張するからのような露出の多い衣装を身に着けているのを見るのは初めてだった。
下から睨めつけるような目つきも。
「あれがどうやったらこうなる?」
「こっちがもともとなんだよ、ばかやろぅ。」
悪態は、そのあとも続いたが、スラングだらけで、フィオリナにもヨウィスにもよくわからない。
「光の剣は習得できたのか?」
「それが」
フィオリナはため息をついた。
「・・・まあ、発動はさせられるものの戦いの中では使えないレベルだ。そのかわり・・・・」
ヒュッ
投げつけられた焼串を撃ち落としたのは、ヨウィスの糸だった。
「姫さん」
必ずしも攻撃の意思はなかったのだろう。残念そうな様子はなく(もちろん悪びれる様子はまったくなく)イリアはフィオリナを睨んだ。
「身内でも、奥の手は内緒に願いますぜ。」
「・・・・と、まあ、こんな感じに仕上がった。
以前に、父上にけしかけられて、ハルトにちょっかいを出したときに、暗部に調べさせたことがある。
男爵家の養女になるまえは、光の矢と悪知恵、美貌を武器に下町ではかなりの顔だったそうだ。
近衛にも目をつけたれていたが、何度も煮え湯を飲ませた挙げ句、最後は当時の副長といい関係になって難をのがれたようだ。
ついた仇名が・・・・」
「三丁目の悪夢」
イリアは、鼻をならした。
「言っとくがその仇名が気に入ってるわけじゃない。もし、そう呼びたいんなら、あんたらでもそれなりの覚悟はしてもらうからな。」
アウデリアは、ニンマリと笑った。
「うん、これはこれで悪くないな。」
「ぼくも賛成。」
緊張と言う言葉をどこかに忘れてきたような笑顔でクロノが言った。
「それに、イイ女じゃない? きみ、付き合ってる男はいるの?」
「エルマートの愛妾候補だ。」
再び投じられた焼き串を、こんどは自らの二つ指で挟み止めながら、フィオリナは言った。
「元々、恋仲でもある。
もっとも今は、旅芸人上がりの駆け出し冒険者の坊やに心をひかれているようだが。」
「その“坊や”というのが、第二層までフィリオナに同行し、単独で、さらに深層に向かったと言う冒険者のことですか?」
クロノは不思議そうに、フィリオナとイリアを等分に見つめた。
「どこが『駆け出し』なんです?
単純に考えて、どこかの『英雄』級の冒険者が偽名でも使って潜り込んだのでは。
裏はとっているのですか?」
「残念ながら。
冒険者登録したギルドはわかっている。そこでイリアと知り合ったことも。それ以前の足取りはいまのところ、掴めていない。」
「ふうん」
クロノは考え込んだ。
「ぼくとアウデリアは、西域や中原の冒険者にはけっこう顔が広いです。
特徴を言ってもらえれば、ひょっとすると心当たりがあるかもしれない。
なにしろ、それだけの能力をもつ人物なら、たとえ冒険者以外でもけっこう絞られてくるわけで。」
「歳は14、だと言っていた。背はわたしより少し低い。全体に華奢な感じで、髪は茶色、瞳は焦茶。
魔道の知識は豊富なようだが、一度も使わずじまいだった。
攻撃のタイミングをずらす、歩法を使う。
顔立ちは、そうだな、ハルトの絵姿は見たことがあるか?
あんな感じだ。」
クロノは甘いと思って飲んだ果実酒が煎じ薬だったときのような顔をした。
「・・・・じゃあ、それはハルト王子なのでは?」
「いや、別人だ。」
フィオリナとイリアが口を揃えた。
アウデリアとクロノは顔を見合わせた。
「わたしもハルトとルト、両方に会っている。似てるけど別のひと・・・」
ヨウィスが言った。
「認識阻害魔法じゃよ。」
それまで押し黙っていたボルテックがぼそりとつぶやいた。
「認識阻害魔法とは・・・いや、魔道院を束ねる妖怪じじいに認識阻害魔法の説明をするのもなんなんだが・・・
認識阻害魔法っていうのは、なんとなく顔立ち、風体が記憶に残りにくくなったり、気配を薄くして気づかれにくくする魔法だぞ。
わたしにも、いや父上にも気づかれずに、ハルトが別人であるかのように見せる認識阻害魔法なんてないぞ。
わたしは、ハルトの幼馴染で婚約者だ。二人で学び、戦い、冒険もした。
一緒の学校で学んで、ずっとずっと一緒にいたそのわたしが・・・・」
「ハルトを口説いてみたことがある・・・こいつは、姫さんの親父殿の差し金だったんだが・・・ルトとは、一緒のベッドで一夜を過ごした中だ。
(フィオリナの目の光が明らかに殺意を帯びる)
はっきりいうが、似てはいるが別人だぞ、ハルトとルトは。」
「・・・・と、まあ、こんな具合に、ハルトとルトを同時に知るものは、術に陥り、二人を同一人物だとは認識できなくなる。
どれだけ共通的があっても『似ている別人』としてしか見えなくなるのだ。」
ボルテックは、クロノとアウデリアに淡々と説明した。
「クローディア公爵をはじめとする高位貴族や、グランダ王やエルマートも、じゃ。
わしは、ルト、という冒険者には会っておらんので、影響から免れた。
まったく・・・・とんでもない魔法を構築してくれる。」
「なるほど」
アウデリアの顔が楽しそうに綻んだ。
「なるほど、ハルトならそうやりそうだ。」
「ははう・・・あんたまで、その馬鹿げた説に乗っかるのか?」
フィオリナが食って掛かった。
「ああ、やることなすこと、顔貌、仕草、能力までハルトそっくりなその少年をなぜ、ハルトではないと認識したのか。
そうか、ハルトに対するような恋情をその坊やには抱かなかったから、か?」
「え、い、いや、その」
「姫さんもルトが好きだったよ、なあ。」
なにかに気づいたようにイリアが言った。
「小姓にしたいとか、いや、迷宮の中で押し倒してたっけ?
あれは、わたしらが駆けつけなかったら、いくとこまでいってたよ、なあ?」
「う・・・・そういえば・・・」
ヨウィスがつぶやく。
「確かに、これだけ姫×ハルト推しのわたしが、姫×ルトもけっこうよい、と思ったのは・・・」
このつぶやきは全員から無視された。
「これは見事だ!
まさに画期的な認識阻害魔法だ。
そっくりな相手に同様の恋心を抱きながら、それでもその二人を同一人物だと認識できない。
そしてそれを不自然だとも思わせない。」
アウデリアが身を乗り出す。
「そして、ハルトはわざわざフィオリナを地上に帰して、単独で深層に向かったのだな。
そして、一層から五層までの階層主とは『話が付いている』のだったな?
ならば、目指したのは第六層。
あの偏屈賢者が引きこもってる場所だ!
これはいい!
ゾクゾクしてくる展開だ。
一刻も早く、わたしたちもそこに向かおう。」
「それは少し待ってもらえないだろうか。」
全員が一斉に声の主を振り返った。
ヨウィスの糸にも引っかからずに、この部屋に現れたのは「転移」以外考えられない・・が、転移魔法の権威であるボルテックもその予兆をまったく察知できなかった。
こいつは・・・
「彷徨えるフェンリルあらため・・・・」
ザックは、(フィオリナとイリアにとっては)相変わらず、垢抜けない、しかし抜け目ない熟練冒険者の出で立ちで、にやっと笑った。・
「フェンリルの咆哮のリーダー、ザックだ。
そして元邪神ヴァルゴールの使徒。
勇者クロノ殿と魔道院支配ボルテック卿には、はじめてお目にかかる。」
勇者やクローディア公爵と別行動で、旧「帝都」に到着したのであるが、入場まで延々と待たされたのである。
王都との往復便ばかりではない。
明らかに王都を経由していない隊商と思しき荷馬車の一団や、西域や中原からの冒険者たち、中にどうみても物見遊山に訪れたとしか思えない者たちもいて、唯一の「門」はごった返していた。
そうなればなったで、軽食や飲み物を売りさばくもの、串揚げや粥の屋台も出て、門前はもうひとつの街が出来たような賑わい方だった。
もちろん入場したらしたで、迷宮入口まで続く大路は、かつてのように両側に宿屋や売店が軒を連ねていた。
バルゴールは、もちろん一等地を独占していたが、彼は彼で個人の金儲け以外にも、街の繁栄や税収といったことにも頭の回る人物だったから、他の業者にも法外とは言えぬ借地料で店を出すことを許していた。
「やれやれ、この騒動がどう収まろうが、一番利益をあげたのは、あの伯爵殿になることは間違いなさそうね。」
仏頂面のまま、アウデリアは彼女の“収納”から、大皿に山盛りになった串焼きを取り出した。
宿屋の一室に集まったのは、パーティ『愚者の盾』の面々。
すなわち。
クローディア公爵家令嬢フィオリナ。
腰に履いたのは、彼女の愛剣『無名』。
鎧は身に着けず、髪を後ろで括り、騎士見習いの少年が身につけるような短い上着を羽織っていた。
魔道院総支配ボルテック卿。
マントのフードは被らず、炯々と眼光でアウデリアを見つめる。
胸元の護符は『理外のバサラ』、髪をまとめた銅の輪は『断罪のリウス』。右手のブレスレットは『覇炎ル=ドウル』。左の指輪は人差し指が「氷壁のザザラ」、中指が『幻夢キザリオン』・・・以下は略すが、見るものが見れば国をも滅ぼせる“武装”だとわかる。
鋼糸の使い手“隠者”ヨウィス。
フードを深くおろし、我関せずと、綾取りに精を出しているが、それが索敵と攻撃を同時に可能にする「糸操り」の技なのは、部屋の全員が理解していた。
そして、“勇者”クロノ。
初代勇者の「本当の」生まれ変わり、と称する少年は、簡易な革製の鎧を身に着け、笑みを浮かべてゆったりと腰を下ろしている。いまだ成長過程にある彼は実力では、アウデリアにも、ひょっとするとフィオリナにも劣るかもしれないが、そんなことは気にしていない。
相手は、魔王の配下であり、彼は勇者だったから。
「で、そっちはいったいどうなったんだ?」
アウデリアが、串焼きの先端を突きつけたのは、六人目。
確か、王立学院で優秀な成績を納めていた元男爵家令嬢で、名前をイリアとかいった・・・・
「光の矢だけでは、深層の魔物には出力不足だと思ったので」
フィオリナが肩を竦める。
「光の剣までは、なんとか使えるようにしよう、と、まあ無理を承知で訓練したんだが・・・・」
「それで、あのお嬢さんがこうなった、と?」
「っるせえよ、ばぁやろう。」
焼串を両手にもった女が、口から肉片を飛び散らせながら喚いた。
顔立ちは、彼らにはおなじみのイリアであったが、もともと形のよい豊かな胸の膨らみを誇張するからのような露出の多い衣装を身に着けているのを見るのは初めてだった。
下から睨めつけるような目つきも。
「あれがどうやったらこうなる?」
「こっちがもともとなんだよ、ばかやろぅ。」
悪態は、そのあとも続いたが、スラングだらけで、フィオリナにもヨウィスにもよくわからない。
「光の剣は習得できたのか?」
「それが」
フィオリナはため息をついた。
「・・・まあ、発動はさせられるものの戦いの中では使えないレベルだ。そのかわり・・・・」
ヒュッ
投げつけられた焼串を撃ち落としたのは、ヨウィスの糸だった。
「姫さん」
必ずしも攻撃の意思はなかったのだろう。残念そうな様子はなく(もちろん悪びれる様子はまったくなく)イリアはフィオリナを睨んだ。
「身内でも、奥の手は内緒に願いますぜ。」
「・・・・と、まあ、こんな感じに仕上がった。
以前に、父上にけしかけられて、ハルトにちょっかいを出したときに、暗部に調べさせたことがある。
男爵家の養女になるまえは、光の矢と悪知恵、美貌を武器に下町ではかなりの顔だったそうだ。
近衛にも目をつけたれていたが、何度も煮え湯を飲ませた挙げ句、最後は当時の副長といい関係になって難をのがれたようだ。
ついた仇名が・・・・」
「三丁目の悪夢」
イリアは、鼻をならした。
「言っとくがその仇名が気に入ってるわけじゃない。もし、そう呼びたいんなら、あんたらでもそれなりの覚悟はしてもらうからな。」
アウデリアは、ニンマリと笑った。
「うん、これはこれで悪くないな。」
「ぼくも賛成。」
緊張と言う言葉をどこかに忘れてきたような笑顔でクロノが言った。
「それに、イイ女じゃない? きみ、付き合ってる男はいるの?」
「エルマートの愛妾候補だ。」
再び投じられた焼き串を、こんどは自らの二つ指で挟み止めながら、フィオリナは言った。
「元々、恋仲でもある。
もっとも今は、旅芸人上がりの駆け出し冒険者の坊やに心をひかれているようだが。」
「その“坊や”というのが、第二層までフィリオナに同行し、単独で、さらに深層に向かったと言う冒険者のことですか?」
クロノは不思議そうに、フィリオナとイリアを等分に見つめた。
「どこが『駆け出し』なんです?
単純に考えて、どこかの『英雄』級の冒険者が偽名でも使って潜り込んだのでは。
裏はとっているのですか?」
「残念ながら。
冒険者登録したギルドはわかっている。そこでイリアと知り合ったことも。それ以前の足取りはいまのところ、掴めていない。」
「ふうん」
クロノは考え込んだ。
「ぼくとアウデリアは、西域や中原の冒険者にはけっこう顔が広いです。
特徴を言ってもらえれば、ひょっとすると心当たりがあるかもしれない。
なにしろ、それだけの能力をもつ人物なら、たとえ冒険者以外でもけっこう絞られてくるわけで。」
「歳は14、だと言っていた。背はわたしより少し低い。全体に華奢な感じで、髪は茶色、瞳は焦茶。
魔道の知識は豊富なようだが、一度も使わずじまいだった。
攻撃のタイミングをずらす、歩法を使う。
顔立ちは、そうだな、ハルトの絵姿は見たことがあるか?
あんな感じだ。」
クロノは甘いと思って飲んだ果実酒が煎じ薬だったときのような顔をした。
「・・・・じゃあ、それはハルト王子なのでは?」
「いや、別人だ。」
フィオリナとイリアが口を揃えた。
アウデリアとクロノは顔を見合わせた。
「わたしもハルトとルト、両方に会っている。似てるけど別のひと・・・」
ヨウィスが言った。
「認識阻害魔法じゃよ。」
それまで押し黙っていたボルテックがぼそりとつぶやいた。
「認識阻害魔法とは・・・いや、魔道院を束ねる妖怪じじいに認識阻害魔法の説明をするのもなんなんだが・・・
認識阻害魔法っていうのは、なんとなく顔立ち、風体が記憶に残りにくくなったり、気配を薄くして気づかれにくくする魔法だぞ。
わたしにも、いや父上にも気づかれずに、ハルトが別人であるかのように見せる認識阻害魔法なんてないぞ。
わたしは、ハルトの幼馴染で婚約者だ。二人で学び、戦い、冒険もした。
一緒の学校で学んで、ずっとずっと一緒にいたそのわたしが・・・・」
「ハルトを口説いてみたことがある・・・こいつは、姫さんの親父殿の差し金だったんだが・・・ルトとは、一緒のベッドで一夜を過ごした中だ。
(フィオリナの目の光が明らかに殺意を帯びる)
はっきりいうが、似てはいるが別人だぞ、ハルトとルトは。」
「・・・・と、まあ、こんな具合に、ハルトとルトを同時に知るものは、術に陥り、二人を同一人物だとは認識できなくなる。
どれだけ共通的があっても『似ている別人』としてしか見えなくなるのだ。」
ボルテックは、クロノとアウデリアに淡々と説明した。
「クローディア公爵をはじめとする高位貴族や、グランダ王やエルマートも、じゃ。
わしは、ルト、という冒険者には会っておらんので、影響から免れた。
まったく・・・・とんでもない魔法を構築してくれる。」
「なるほど」
アウデリアの顔が楽しそうに綻んだ。
「なるほど、ハルトならそうやりそうだ。」
「ははう・・・あんたまで、その馬鹿げた説に乗っかるのか?」
フィオリナが食って掛かった。
「ああ、やることなすこと、顔貌、仕草、能力までハルトそっくりなその少年をなぜ、ハルトではないと認識したのか。
そうか、ハルトに対するような恋情をその坊やには抱かなかったから、か?」
「え、い、いや、その」
「姫さんもルトが好きだったよ、なあ。」
なにかに気づいたようにイリアが言った。
「小姓にしたいとか、いや、迷宮の中で押し倒してたっけ?
あれは、わたしらが駆けつけなかったら、いくとこまでいってたよ、なあ?」
「う・・・・そういえば・・・」
ヨウィスがつぶやく。
「確かに、これだけ姫×ハルト推しのわたしが、姫×ルトもけっこうよい、と思ったのは・・・」
このつぶやきは全員から無視された。
「これは見事だ!
まさに画期的な認識阻害魔法だ。
そっくりな相手に同様の恋心を抱きながら、それでもその二人を同一人物だと認識できない。
そしてそれを不自然だとも思わせない。」
アウデリアが身を乗り出す。
「そして、ハルトはわざわざフィオリナを地上に帰して、単独で深層に向かったのだな。
そして、一層から五層までの階層主とは『話が付いている』のだったな?
ならば、目指したのは第六層。
あの偏屈賢者が引きこもってる場所だ!
これはいい!
ゾクゾクしてくる展開だ。
一刻も早く、わたしたちもそこに向かおう。」
「それは少し待ってもらえないだろうか。」
全員が一斉に声の主を振り返った。
ヨウィスの糸にも引っかからずに、この部屋に現れたのは「転移」以外考えられない・・が、転移魔法の権威であるボルテックもその予兆をまったく察知できなかった。
こいつは・・・
「彷徨えるフェンリルあらため・・・・」
ザックは、(フィオリナとイリアにとっては)相変わらず、垢抜けない、しかし抜け目ない熟練冒険者の出で立ちで、にやっと笑った。・
「フェンリルの咆哮のリーダー、ザックだ。
そして元邪神ヴァルゴールの使徒。
勇者クロノ殿と魔道院支配ボルテック卿には、はじめてお目にかかる。」
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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