婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
63 / 248

第62話 迷宮攻略には事前の打ち合わせが大切です

しおりを挟む
「はいっ!!はいはいはい!」

ギルドの隅で、勢いよく手をあげる少女。

その手のなかにフィオリナには見覚えのあるカードが握られている。

「はい、そこのイリア、いまはきみの出る幕ではないのだけれども。」
「はい! このカードは通りすがりの騎士様にいただきましたっ!
困ったときには、クローディア家を訪ねれば、力になってくれると言われましたっ!」

「・・・・そうは言った・・・・」

「力を貸してください。わたしを魔王宮に連れて行ってくださいっ!」

「・・・・なにやら事情がありそうだな。」
アウデリアは楽しそうだが、単純にこのよくできた自分の娘の困る顔が楽しいのだ。
フィオリナはこれまでのやり取りでもわかるように、けっしてアウデリアに打ち解けてはいなかったが、それは幼少期、母親を求める時期にほとんど顧みられることがなかったことを差し引いても、アウデリアの性格に問題があることは間違いなかった。

「彼女はもともとは、ロープリール街区の平民の娘で、魔術属性を見込まれて、男爵家の養子になり、王立学園に通っていた。
ハルトとわたしの婚約破棄騒動に巻き込まれて、男爵家から勘当され、学院も退学になっている。

得意な属性は光。
“光の矢”を無詠唱で連続して放つことができる。

・・・・将来は優秀な魔導師になれるでしょう・・・」

「ふむ。」アウデリアは大きく頷いた。「ならば、我が『愚者の盾』の見習いメンバーとしてともに魔王宮に挑む、というのではどうだ? 勇敢なお嬢さん。」

「せ、せひ!」

イリアは両手を握り合わせて叫んだ。

「お願いします!」
「やめておかないかな。危険すぎる。」
「なあにを心配している我が娘よ。」

アウデリアは、肉食獣の笑みを浮かべた。

「そもそも、わたしは闘うために行くのではないぞ。
第六層のわからずやにちょっと説教したあとで、最下層の主にクロノを挨拶に連れて行くだけだ。」

クロノとフィオリア以外の全員が冗談だと思った。

“どうにも”
クロノだけが、少し下をむいて表情を隠す。
“ほんとにアウデリアさんは神の化身なのか?
そもそも、ぼくは別に彼を封じてもいないし、会ってもいまさら殺し合いもしないのだけれど。”

「問題は、一層から五層の階層主どもだな。
単純に説得に応じてくれるとも思えんし、こちらは力づくでまかり通る必要がある。」

とんでもないことを言い出すものだ、と一堂が唖然とするなかで、フィオリナがさらにぶち込んだ。

「一層から五層の階層主とはもう話がついている。
倒さなくても通してくれるはずだ。」

あちこちでテーブルの倒れる音、飲み物のはいったグラスを落とす音が相次いだ。

「な、な、な、な、なっ」

「何が、どうなって!? 話ができてるって?」

「おちつけっ!」

「落ち着いていられるか!
話ができるってことは各階の階層主は知性のある魔物ってことだぞっ!
少なくとも災害級、ことによれば天災級かもしれん。

我々だけで手に負えるのかっ?

ミトラの本山から勇者の応援を求めるべき…あれ?もう勇者がいる?

あれ?」

「しっかりしろ!話がついてるってことは戦わなくてもいいんだぞ。」

「戦わなくてもいい迷宮って迷宮なのか、いやそれはつまり冒険ですらないので、ワレワレボウケンシャってナニ・・・」

「倒さなくてもいいだけだ。」
フィオリナは冷静に言った。
「たぶんだが、わたしたちは『試される』。

階層主たちにとって強さとは、存在意義そのものだ。
彼らのお眼鏡に叶うだけの力がなければ、存在そのものを否定される。

それが殺意のない本当の試験に過ぎなくても、イリアにとっては充分すぎるほど危険だ。」

「に、に、二階層の階層主は姫が倒したのではっ!」

「二層の階層主はリンド伯爵だったな。」

アウデリアは顎をかいた。

「死なずのリンドだ。倒したくらいでは殺せんよ。」

「首は姫が切り落とし、体は俺が焼いた。」
ゾルが呆然とつぶやいた。
「それで殺せぬ吸血鬼、だと。いったいどうやれば殺せるんだ。」
ぶるぶると首を振る。
「あ、いや、殺さなくてイイのか。」

「第一階層のギムリウスを覚えてるな。」

フィオリナは、イリアに言う。

「あいつは、あのときまるっきり攻撃なんてしていない。
ただ飛び跳ねていただけだ。

それでもわたしたちはあれだけ苦戦したし、ザックの特異体質のおかげで、あいつを追い詰めはしたが本体は逃してしまった。

第二階層は、殺しても死なない吸血鬼だし、第三層は、知性のある龍だ。
第四層は、どこをどう攻撃すればダメージが通るのかもわからないスライムだし、第五層は、死霊化したかつての聖者。

こいつらの『試し』がいったいどんなものになるか。」

「なるほど、腕がなるね。」

と、クロノが言って、フィオリナを憮然とさせた。

「相手を倒さなくても、こちらに力があることを証明すればいいんですよね。
それなら問題ない。

サクッとやってきますよ。」

「もう一度言う。イリアにはムリだ。」

「で、でも」イリアはくちびるを尖らせた。「それならヨウィスだって吸血鬼にボコボコにされてたし。」

周りの空気が凍ったが、当のヨウィスは、軽く頷いた。

「確かに。そう。には厳しいかな。」

「だったら!」
イリアは力を込めて叫んだ・・・・が、まわりがどこか憐れむような視線で見ているのに気がつき、自信を失ったように下を向いた。
「わ、わたしも・・・もし、わずかでも可能性があれば・・」

アウデリアのイリアを見る目は優しかった。
複雑なところなのだが、同じような優しげな視線を向けられても、フィオリナは反発しただろう。
ひょっとするとそれは弱者に対する哀れみも混じっていたかもしれぬものだから。

「そう言えばまだきいていなかったな。

おまえはなにが目的で魔王宮に挑む?」

「・・・・わ、わたしは・・・・」
イリアが言いよどんだが、意を決したように
「今までのわたしから、変わりたい。人の意のままに流されてきた無力で無気力なわたしから、違うものになりたい。」

「凄まじいほど、無意味な決意よな。」
優しげな笑みを浮かべながらアウデリアは、平然と酷いことを言った。
「ひとは変わることなどできん。
生まれたお主とそのあとで、体験するすべてがお主を形作る。
迷宮に一回や二回に潜って、戦ったくらいでひとは変われない。」

「・・・・・」

「まあ、それを身を以て体験するだけでもお主の人生にとって無意味ではなかろうよ。
フィオリナ、この娘を連れて行く。

技量が不安ならば、おまえが死なないだけのものを叩き込め。」
しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...