婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

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第61話 愚者の盾

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リリク通りに存在する冒険者ギルド。
『不死鳥の冠』

周りは貴族を相手にする高級店がたちならび、冒険者ギルドは完全に場違いである。
そのためもあって、看板も門構えもこじんまりとしている。

普通は、依頼人とそれを受ける者とが出入りするため、常に人の出入りが絶えないものだが、ここは、登録の冒険者数も少数精鋭、依頼は独自のルートで、取ってくることが多いので、常に閑散としている。

ギルドマスターは、まだ16歳の少女で名をフィオリナ=クローディアといった。

珍しく多めに集まった冒険者たちを、その鋭すぎる眼光でぐるりと見回して
「パーティ『愚者の盾』の登録は完了した。
勇者たるクロノ」

美形の少年が手を振って笑顔を振りまいた。

「・・・西域で銀級のソロ冒険者アウデリア、この2人がメンバーを募集している。
本日集まった」
フィオリナは内心でため息をついた。募集の広告などしていない。掲示すらしていない。
にも関わらず、ギルドは満席だ。
「お集まりの皆さんは、参加を希望されている、との認識で間違いないのか?
知っての通り、このパーティは、『魔王宮』攻略のために編成された極めて危険度の高いものだ。

しかも、発起人である西域の銀級冒険者アウデリアは、悪名高い乱暴者。初代勇者の記憶を引き継いだとふれこみの勇者クロノも、その実力は未知数。」

けっこうな勢いでディスられて、クロノはちょっとしょげる。

「それでもよい、と言うものから、パーティメンバーを選抜させてもらう。

気が変わったものは…そうか、いないか。」
若干がっかりしたような顔ではあったが、フィオリナは続けた。

「まず一人目だが、わたし。ギルドマスターが自ら参加する。」

「ち、ちょっと、こっちで選ばせてくれるのでは」
言いかけたクロノをひと睨みで黙らせて、フィオリナは続ける。
「これは決定事項だ。

次に、落選者だが、父上、クローディア公爵、あなたはパーティから外れてもらう。」

なんだかんだと理屈をつけて、外されるのは半ば覚悟していたが、あまりの直球に、クローディアは慌てた。

「ち、ちょっと待ってくれ。わたしは今回の王位継承争いの見届け人だぞ。
迷宮にはいる義務がある。」

「別に迷宮に入るのは止めません。
副長やゾア、コッペリオを連れて浅い階層であれこれしながら、王宮とクリュークの動きを見張ってください。」

道連れのようにダメ出しをされた、ゾアやアイベル、コッペリオが顔を見合わせた。

「次に」

フードを深く被った小柄な影が前に出た。
フィオリナが、鼻に皺を寄せて、首を横に振った。

「だめだ、ヨウィス。怪我が治ってないだろう。」

ヨウィスは、ふんっと鼻をならした。

「その言葉はそっくり姫にお返しするよ。
折れた足と手首はどうしたの?

“再生”をかけると“慣れ”に時間がかかるからって、治癒促進だけですませてるよね。」

実際、フィオリナは手首に厚く布を巻いて固定している。
足も添え木のうえから、幾重にも包帯を巻きつけていた。

「反論は?

ないね。
それなら『愚者の盾』は、アウデリア殿と、勇者、姫、四人目までは決まり。」

あまりに勝手に話が進むので、集まった冒険者たちからブーイングが漏れた。

ヨウィスは人気がある。
愛想はまったくないが、小柄で可愛らしいし、料理もうまい。
あと、些細なことだが、無限に近い“収納”をもち、探索でも防御でも攻撃でもなんでもこなすオールラウンダーである。

実際に第二層の階層主との戦いで、負傷した彼女が再び、深層に挑むのを心配する者も多い。
不満の声の半分くらいはそれだった。

ヨウィスはフードをあげた。

いつも無表情か、仏頂面のその顔に笑みが浮かんでいる。

そのまま、ぐるりと冒険者たちを見回すと喧騒は見る間に静かになった。

「お、おまえの鋼糸じゃあ、再生能力の高い吸血鬼やスライム、くそでかいドラゴンには不向きじゃないのか。
ここは、わたしにやらせてくれ。おまえを傷つけた落とし前をきっちりつけてやる。」

そう言ったのは、かねてから、ヨウィスを好いていると評判のザレだった。
パーティ『業火』のリーダーで、先祖代々冒険者という変わった家系の出身だった。

彼女自身は、回復や支援系の魔法を極めるために、魔道院に通いながらアスラ光教に入信し、大司教の肩書きをもつという変わった家系の中でもさらに変わり者だった。

ザレがヨウィスを好きなのは本当らしく、この言葉も本心からでたものなのに違いない。

それはヨウィスもわかったはずだった。
なぜって、そう言ったザレが、八つ切りにならずにまだ立っていのだから。

が、行くと言っている。」

ヨウィスはそれで、ぜんぶの説明がすんだ、と言わんばかりに、つかつかと歩んで、アウデリアとクロノの隣に腰を下ろした。

フィオリナも、アウデリアも、一同も。
それで納得したのである。

「ここまでのメンバーはどうです?」

やや、素っ気なくさえ思える口調で、フィオリナが尋ねた。

「一応、こちらの意向も聞いてはくれるのか?」
アウデリアが苦笑しながら言った。
「わたしは斧使い、クロノとおまえは剣士。探索と補給はヨウィス。
回復は各自の治癒術式に任せるとしても、やや、直接打撃系に偏ってるな。

魔法が得意なものを一人二人、入れるか。」

その言葉に、魔法使いたちが色めき立つ。

だが。

「なるほど、ご指名いただいのならしかたあるまいのお。」

「誰だ、おぬしはっ! このギルドのものではないなっ!」

古株の魔法士が、喚いたが、老人が睨むと顔色を変えてへたり込んだ。

魔道院の妖怪じじいは、その様子をにんまりと笑いながら眺めた。

「ゴーレム使いのゴッドバイルか。

いい術師だとわしは思うよ。
なんなら、ここで腕比といくか?

…そうか。
なら、下がっておれ。

確かに、わしはここに所属はしておらんが、アウデリア殿は別に『不死鳥の冠』のギルド所属の冒険者を求めているわけではあるまい?」

クローディアは呻く。
「なんの冗談です?
あなたは“魔道騎士団”という独自のパーティで迷宮に挑むのでは?」

「そんなことは、わしは言っておらんよ。」
しゃあしゃあと、じじいは言った。
「ついでに言うなら、あれはわしの作った魔道人形じゃ。
“収納”してある。つまりは、パーティの中にもうひとつパーティを持ってるようなもんだ!

なかなかお買い得だとは思わんか?」

「フィオリナ、ボルテック殿の目的が知りたい。

確かに、パーティの魔法使いとして参加してもらうのに不足のない人材のようだが、目的のわからないやつに背中はあずけられん。」

アウデリアとフィオリナの視線が交錯する。

「五十年前の意趣返し、以外で?」

「そう。
あとは、冒険者としての栄誉とか、未知なるものへの探究心というのもなし、で頼む。」

はあ、とフィオリナがため息をついた。

「彼の魔道人形は、モデルになった相手をかなり正確にコピーできる。
だが、そのためには実際に対象が戦うところを見て、解析しなければならないらしい。」

アウデリアとクロノを交互に見やる。

「斧神の化身アウデリアと勇者クロノをコピーするチャンスをこの妖怪じじいが見逃すわけがないだろう。」

アウデリアはパチパチと手を叩いた。
「わかりやすい解答だ!
十分、納得できる!

よしっ! ボルテック殿で五人目だ。

では以上の五名を持って『愚者の盾』とする。
装備確認後、三日後の日の入りの時刻に魔王宮入口に集合。

目標は、当面、六層の階層主とする。」

集まった冒険者達に絶望が深く刻まれた。

魔王宮に、勇者パーティの一員として挑む名誉は、あっさりと失われたかに見えた・・・・
そのとき。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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