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第59話 魔道騎士団
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ボルテックは何度目かの呪いの言葉を吐いた。
およそ、魔術師たるものなんの効力も生まない言葉など口にするものではない。
と、普段、偉そうに講義している彼にしてこのざまである。
クリュークと、今日、この場で対決することはある程度、想定していた。
なにしろ、明白にクローディアを迷宮内にて謀殺しようとしたのである。
クリュークはそれに失敗し、返す刀で仕掛けたコッペリオの幻覚魔法で同士討ちとなり、しかし死なずに迷宮より脱出した。
その二人が
“いやあ、『迷宮の』『幻覚魔法』にやられました。ご無事で何よりです”
と言ってにこやかに対談するなど、だれが想像しただろう。
そこに、あのアウデリアが勇者なんぞをするひき連れて凱旋するなど、想定していたら、その者の正気を疑うような事態である。
さらに。
「魔導騎士団」の剣士が上空から放たれた火球を切り捨て、爆風の中から光の剣を放つ。
夜空を自在に舞う小柄な人影は、それをやすやすとかわした。
がおおぉぉ
吠えたその声が触媒になっているのか。
吐き出した炎はドラゴンのブレスを思わせた。
魔導騎士団の魔法士が描いた円に、その炎が吸い込まれ、また空に向かって吹き上がる。
周りは王宮に近い市街地だ。
さまざまな行政施設が多く、この時間は無人の建物も多いだろう。
しかしそれも周りに損害を出さないためには
かわす
でも
跳ね返す
でもない。
ボルテックは嘆く。
正しいのだろうし、まさにヤツならそうするであろうが、これは戦いだぞ。
そして頭上の影。
さっき、クリュークが名前をあげたメンバーたち。
「竜殺」
「神獣使い」
「聖者」
戦闘を主眼とするならば、おそらくその者たちだろうと、ボルテックも考えていた。
だが、彼らはまだ到着していない。
ならば、勝機は充分、なはずだった。
だが、虎に似た文様を施されたあのリヨンとかいう少女が、このような闘い方をするとは。
おそらくは絵師ニコルによって、文様を書き換えられたのだ。
剣士が、塀を足場にジャンプした。
空を舞うリヨンに届くわけがない・・・・しかし、巻き起こした風が剣士の身体をさらに空中へと巻き上げる。
リヨンは冷静にさらに高度をあげる。
ほぼ一方的に攻撃できる距離を失う愚は犯さない。
戦士は、なにもない空を蹴って、さらにジャンプ。
その距離を一気に詰め、剣を一閃。
かろうじてかわしたリヨンの脇腹を蹴りがとらえる。
華奢な身体をくの字に折ったそのあごを剣士のひざが撃ち抜く。
バランスを失い落下しかけるリヨンの頭上から剣士は、踵落としを見舞った。
叩きつけられるように落ちたリヨンは、それでも身体を反転させて足から着地する。
魔法士がかけよった。
リヨンがふるう光の鞭を、踊るようなステップでかわし、腰の剣でリヨンめがけてきりかかる。
「魔法を出し惜しみ、かい。しかたないとは言え、そこまで似なくてもいいじゃろ。」
ボルテックはぼやいた。
「これって? この歩法・・・・」
リヨンはとんぼをきって距離をとると、再び光の鞭を振るう。
剣士の放った光の剣を薙ぎ払う。
「この剣筋・・・・光の剣に風魔法・・・・」
「なるほど、剣士は姫さん。魔法使いはルトか!!」
楽しげにリヨンは笑った。
「面白い技を使うね、妖怪じじい。姫さんとルトをモデルにパペットを作ったってわけ?
そりゃ、強い。
強いわあ。」
いかにも。
ボルテックは心のなかで頷いた。
いくつかの例外を除いて、直接戦うところを見たものに限られるが、その相手の能力を正確にコピーした、魔道人形。
魔道騎士団の正体はそれだった。
ボルテックが今まで見た中で最強の剣士。
クローディア公爵家令嬢フィオリナ。
ボルテックの知る最強の魔法使い。
グランダ国王子ハルト。
そしてボルテックが知る最強の拳士。
ずい、一歩前に出たのは、とマントの上からでも筋肉の盛り上がりがわかる屈強の影。
出たのは一歩。一歩のはず。
だが、そこはもうリヨンの光の鞭ではなく、彼の間合い。
「フォッ」
軽く息を吐いた。その瞬間に叩き込まれた拳は五連撃。
すべてが、人間であれば絶命をさせるに充分な重さと速度を持って放たれた。
リヨンの身体が駒のように宙を待って、地面に叩きつけられる。
死ななかったのは今のリヨンの身体が人間のそれとはだいぶかけ離れていたからだった。
例えば・・・・呼吸の必要のない今のリヨンにとって、喉を貫き、気道を潰した一撃は、痛みはあっても致命傷にはならない。
さらに魔導騎士団は二人、いやそれが人形だというのなら、二体が動かずに残っている。
リヨンが身体を起こす。
剣士の薙ぎ払いをそのまま上体を反らせて交わす。
躱しながら光の鞭を振るう。
剣士、魔法使い、拳士の三体はそれぞれの方法で。
剣士は、剣で受け止め。
魔法使いは、歩法で躱し。
拳士は、一歩飛び下がって。
躱した。
「ふふん、ふふふん、たっのしいね。」
リヨンにダメージのないはずは、ない。
光の鞭が、その身体を護るように周りを旋回する。
「よっくできてるよ、お人形さん。でもね、じいさん。やっぱ、本物に比べるとちょっと落ちる、みたい。」
「ほう?」
ボルテックは笑った。
「わしはむしろ、こいつら相手にここまで、戦ったお主とニコルの紋章に感心しておる。」
「でしょ? でもこの身体はこんなもんじゃあ、ないんだなあ・・・」
リヨンの身体に施された金と銀のラインが輝きはじめ・・・・
「さあ・・・このあたりいったいふっとぶからね。逃げるなら今のうち・・・」
剣士のモデルがフィオリナなら。
逃げる?なにそれおいしいの?
身体を半回転させながらの斬撃を、リヨンは右手をあげて受けた。
カンっ
と乾いた音は剣の折れた音。
どん
と肩口から体当たりされた剣士がふっとぶ。
「さあて」
魔法士と拳士が前にでる。
魔法士はよろめいたようにも見える歩法で、彼女の側面にまわりこみ、拳士は一直線に。
ババババッ
その連撃は、リヨンにも見切れない。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
よろめいた拳士をリヨンが蹴り上げる。
防御すべき、彼の(あるいは、それ、の)両手は無惨に砕けていた。
リヨンの蹴りはそのまま軌道を変化させ、側面から剣を振りかぶった魔法士の、剣をその両手ごと打ち砕く。
倒れた三体の魔法人形は、しかし、淡い光りに包まれながら、身を起こす。
剣士の折れた右腕が。
剣士の砕けた拳が。
魔法士の手首が。
元通りに戻っていく。。
「自動回復…この場合は修復かな。」
「防御用の障壁を纏ったまま、その硬さを攻撃に利用して戦う、か。」
ボルテックは、舌打ちした。
「しかし、その状態では、さきほどの鞭も火炎も吐けまい。
で、こちらはこういうものもある。」
剣士はもうひとふりの剣を抜いた。
刃が青白い光を放つ。
魔法士の周りに幾重もの魔方陣が展開した。
拳士は、手甲をはめた拳を打ち鳴らす。
後方に控えていた残りの魔導騎士団の二体も歩み出た。
一人は、槍を構え、もう一人は身を低くし、短刀を両手に構える。
「槍使いは、100年ほど前に西域で活躍した“ミトラ槍術”のバハルト、そうすると短刀を構えているのは同じパーティにいたシノビのアーシャエル。
さて、拳術使のモデルは誰だろう。
流派も我流のようだし、これだけがわからない。」
魔道人形の型につかったボルテックの知り得た最強の冒険者たちの名を次々と当てられ、ボルテックの顔はいよいよ渋くなる。
「詮索もよいが、己の身の心配をしたほうがよいのではないか?」
「わたしは『詮索』のためにいるようなもんなんだ。」
リヨンは笑う。
「さあ、このくらいにして、大人しく王宮に戻ってもらえないかな?
クリュークの命令は、あなたを捕らえろ、であって、殺せ、ではないんだ。」
「断る・・・と言ったら?」
「手にあまるようなら殺してもかまわないって、さ。」
「やってみろ!小娘がっ!」
魔道騎士たちがそれぞれの獲物を構える。
リヨンは、防御のために全身に纏った力場を両手に集める。
「はい、そこまで」
どおん!
世界が真っ白に染まった。
構えた両者のちょうど真ん中。
石畳は、大きくえぐれ、街路はそこだけ大きく陥没していた。
もうもうと土煙地が上がる。
全身に青い火花を纏った美影神は、困ったように頭をかこうとして・・・・指が折れているのに気がついて、顔をしかめた。
「公爵家のじゃじゃ馬!」
「姫さん!」
「妖怪じいさまと、ペイント女。
双方ともここは引いてもらいたい。」
フィオリナは、冷たい目で魔道騎士団を一瞥した。
怯えている。
魔道人形が怯えている。
「この剣士は、ひょっとしてわ、た、し?
で、この魔法使いがハルト?」
「わしの知る限りの最高の剣士と魔法使いだ。」
ボルテックは、何が悪い、と言わんばかりに口を尖らせた。
「そういえば魔法使いは、あなた自身じゃないんだね。」
リヨンも面白そうに笑う。
「わしは今現在のわし自身をコピーできん。あくまでコピーするものを、解析する必要があるのだ。」
「まあ、ハルトを最高の魔導師だと認めてくれたことは評価するわ。
で?
ここは引いてくれるの?」
「引くもなにも、わしは逃げてる最中だぞ。そっちが捕捉を諦めてくれるなら、喜んで戦いはやめる。」
「だ、そうだけど? ペイント女。」
「・・・・この街区を瓦礫の山に変えずに戦うのはこれが、限界だと思う。」
リヨンは、フィオリナを軽く睨んだ。
「じいさんはもちろん、わたしでさえ、それには配慮しつつやりあっていた。
なにげに、姫さんの与えた被害が、いちばん大きい。」
フィオリナは足元のすり鉢型にへこんだ街路、衝撃波でひび割れた塀、微塵にくだけた窓ガラスなどを一通り、見回すと、にっこりと笑った。
「誤差だな。」
「請求は、クローディア公爵家にまわしてよいか?」
遠くから人の怒鳴り声、足音が聞こえる。
王宮周辺の警備は、もともと近衛の任務であったはずだが、先日の迷宮攻略の失態をうけて再編成中である。
それにしてものんびりした対応だ。
と、勝手な三人は同じことを同時に思った。
まっさきに。
ボルテックと魔道騎士団が転移で姿を消す。
リヨンは翼を広げ、宙に舞い上がった。
「わたしの勇者様によろしく!姫さん。」
ひとり残されたフィオリナは、腕組みをして警邏隊が到着するのを待った。
帰宅途中に魔法を使っての戦闘を感知したので、駆けつけたが、逃げられた、と堂々と(まんざら嘘でもない)申し開きをするつもりである。
もちろん、街路の陥没と、周辺建物の被害も、その逃げた謎の賊に押し付ける気まんまんであったが。
およそ、魔術師たるものなんの効力も生まない言葉など口にするものではない。
と、普段、偉そうに講義している彼にしてこのざまである。
クリュークと、今日、この場で対決することはある程度、想定していた。
なにしろ、明白にクローディアを迷宮内にて謀殺しようとしたのである。
クリュークはそれに失敗し、返す刀で仕掛けたコッペリオの幻覚魔法で同士討ちとなり、しかし死なずに迷宮より脱出した。
その二人が
“いやあ、『迷宮の』『幻覚魔法』にやられました。ご無事で何よりです”
と言ってにこやかに対談するなど、だれが想像しただろう。
そこに、あのアウデリアが勇者なんぞをするひき連れて凱旋するなど、想定していたら、その者の正気を疑うような事態である。
さらに。
「魔導騎士団」の剣士が上空から放たれた火球を切り捨て、爆風の中から光の剣を放つ。
夜空を自在に舞う小柄な人影は、それをやすやすとかわした。
がおおぉぉ
吠えたその声が触媒になっているのか。
吐き出した炎はドラゴンのブレスを思わせた。
魔導騎士団の魔法士が描いた円に、その炎が吸い込まれ、また空に向かって吹き上がる。
周りは王宮に近い市街地だ。
さまざまな行政施設が多く、この時間は無人の建物も多いだろう。
しかしそれも周りに損害を出さないためには
かわす
でも
跳ね返す
でもない。
ボルテックは嘆く。
正しいのだろうし、まさにヤツならそうするであろうが、これは戦いだぞ。
そして頭上の影。
さっき、クリュークが名前をあげたメンバーたち。
「竜殺」
「神獣使い」
「聖者」
戦闘を主眼とするならば、おそらくその者たちだろうと、ボルテックも考えていた。
だが、彼らはまだ到着していない。
ならば、勝機は充分、なはずだった。
だが、虎に似た文様を施されたあのリヨンとかいう少女が、このような闘い方をするとは。
おそらくは絵師ニコルによって、文様を書き換えられたのだ。
剣士が、塀を足場にジャンプした。
空を舞うリヨンに届くわけがない・・・・しかし、巻き起こした風が剣士の身体をさらに空中へと巻き上げる。
リヨンは冷静にさらに高度をあげる。
ほぼ一方的に攻撃できる距離を失う愚は犯さない。
戦士は、なにもない空を蹴って、さらにジャンプ。
その距離を一気に詰め、剣を一閃。
かろうじてかわしたリヨンの脇腹を蹴りがとらえる。
華奢な身体をくの字に折ったそのあごを剣士のひざが撃ち抜く。
バランスを失い落下しかけるリヨンの頭上から剣士は、踵落としを見舞った。
叩きつけられるように落ちたリヨンは、それでも身体を反転させて足から着地する。
魔法士がかけよった。
リヨンがふるう光の鞭を、踊るようなステップでかわし、腰の剣でリヨンめがけてきりかかる。
「魔法を出し惜しみ、かい。しかたないとは言え、そこまで似なくてもいいじゃろ。」
ボルテックはぼやいた。
「これって? この歩法・・・・」
リヨンはとんぼをきって距離をとると、再び光の鞭を振るう。
剣士の放った光の剣を薙ぎ払う。
「この剣筋・・・・光の剣に風魔法・・・・」
「なるほど、剣士は姫さん。魔法使いはルトか!!」
楽しげにリヨンは笑った。
「面白い技を使うね、妖怪じじい。姫さんとルトをモデルにパペットを作ったってわけ?
そりゃ、強い。
強いわあ。」
いかにも。
ボルテックは心のなかで頷いた。
いくつかの例外を除いて、直接戦うところを見たものに限られるが、その相手の能力を正確にコピーした、魔道人形。
魔道騎士団の正体はそれだった。
ボルテックが今まで見た中で最強の剣士。
クローディア公爵家令嬢フィオリナ。
ボルテックの知る最強の魔法使い。
グランダ国王子ハルト。
そしてボルテックが知る最強の拳士。
ずい、一歩前に出たのは、とマントの上からでも筋肉の盛り上がりがわかる屈強の影。
出たのは一歩。一歩のはず。
だが、そこはもうリヨンの光の鞭ではなく、彼の間合い。
「フォッ」
軽く息を吐いた。その瞬間に叩き込まれた拳は五連撃。
すべてが、人間であれば絶命をさせるに充分な重さと速度を持って放たれた。
リヨンの身体が駒のように宙を待って、地面に叩きつけられる。
死ななかったのは今のリヨンの身体が人間のそれとはだいぶかけ離れていたからだった。
例えば・・・・呼吸の必要のない今のリヨンにとって、喉を貫き、気道を潰した一撃は、痛みはあっても致命傷にはならない。
さらに魔導騎士団は二人、いやそれが人形だというのなら、二体が動かずに残っている。
リヨンが身体を起こす。
剣士の薙ぎ払いをそのまま上体を反らせて交わす。
躱しながら光の鞭を振るう。
剣士、魔法使い、拳士の三体はそれぞれの方法で。
剣士は、剣で受け止め。
魔法使いは、歩法で躱し。
拳士は、一歩飛び下がって。
躱した。
「ふふん、ふふふん、たっのしいね。」
リヨンにダメージのないはずは、ない。
光の鞭が、その身体を護るように周りを旋回する。
「よっくできてるよ、お人形さん。でもね、じいさん。やっぱ、本物に比べるとちょっと落ちる、みたい。」
「ほう?」
ボルテックは笑った。
「わしはむしろ、こいつら相手にここまで、戦ったお主とニコルの紋章に感心しておる。」
「でしょ? でもこの身体はこんなもんじゃあ、ないんだなあ・・・」
リヨンの身体に施された金と銀のラインが輝きはじめ・・・・
「さあ・・・このあたりいったいふっとぶからね。逃げるなら今のうち・・・」
剣士のモデルがフィオリナなら。
逃げる?なにそれおいしいの?
身体を半回転させながらの斬撃を、リヨンは右手をあげて受けた。
カンっ
と乾いた音は剣の折れた音。
どん
と肩口から体当たりされた剣士がふっとぶ。
「さあて」
魔法士と拳士が前にでる。
魔法士はよろめいたようにも見える歩法で、彼女の側面にまわりこみ、拳士は一直線に。
ババババッ
その連撃は、リヨンにも見切れない。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
よろめいた拳士をリヨンが蹴り上げる。
防御すべき、彼の(あるいは、それ、の)両手は無惨に砕けていた。
リヨンの蹴りはそのまま軌道を変化させ、側面から剣を振りかぶった魔法士の、剣をその両手ごと打ち砕く。
倒れた三体の魔法人形は、しかし、淡い光りに包まれながら、身を起こす。
剣士の折れた右腕が。
剣士の砕けた拳が。
魔法士の手首が。
元通りに戻っていく。。
「自動回復…この場合は修復かな。」
「防御用の障壁を纏ったまま、その硬さを攻撃に利用して戦う、か。」
ボルテックは、舌打ちした。
「しかし、その状態では、さきほどの鞭も火炎も吐けまい。
で、こちらはこういうものもある。」
剣士はもうひとふりの剣を抜いた。
刃が青白い光を放つ。
魔法士の周りに幾重もの魔方陣が展開した。
拳士は、手甲をはめた拳を打ち鳴らす。
後方に控えていた残りの魔導騎士団の二体も歩み出た。
一人は、槍を構え、もう一人は身を低くし、短刀を両手に構える。
「槍使いは、100年ほど前に西域で活躍した“ミトラ槍術”のバハルト、そうすると短刀を構えているのは同じパーティにいたシノビのアーシャエル。
さて、拳術使のモデルは誰だろう。
流派も我流のようだし、これだけがわからない。」
魔道人形の型につかったボルテックの知り得た最強の冒険者たちの名を次々と当てられ、ボルテックの顔はいよいよ渋くなる。
「詮索もよいが、己の身の心配をしたほうがよいのではないか?」
「わたしは『詮索』のためにいるようなもんなんだ。」
リヨンは笑う。
「さあ、このくらいにして、大人しく王宮に戻ってもらえないかな?
クリュークの命令は、あなたを捕らえろ、であって、殺せ、ではないんだ。」
「断る・・・と言ったら?」
「手にあまるようなら殺してもかまわないって、さ。」
「やってみろ!小娘がっ!」
魔道騎士たちがそれぞれの獲物を構える。
リヨンは、防御のために全身に纏った力場を両手に集める。
「はい、そこまで」
どおん!
世界が真っ白に染まった。
構えた両者のちょうど真ん中。
石畳は、大きくえぐれ、街路はそこだけ大きく陥没していた。
もうもうと土煙地が上がる。
全身に青い火花を纏った美影神は、困ったように頭をかこうとして・・・・指が折れているのに気がついて、顔をしかめた。
「公爵家のじゃじゃ馬!」
「姫さん!」
「妖怪じいさまと、ペイント女。
双方ともここは引いてもらいたい。」
フィオリナは、冷たい目で魔道騎士団を一瞥した。
怯えている。
魔道人形が怯えている。
「この剣士は、ひょっとしてわ、た、し?
で、この魔法使いがハルト?」
「わしの知る限りの最高の剣士と魔法使いだ。」
ボルテックは、何が悪い、と言わんばかりに口を尖らせた。
「そういえば魔法使いは、あなた自身じゃないんだね。」
リヨンも面白そうに笑う。
「わしは今現在のわし自身をコピーできん。あくまでコピーするものを、解析する必要があるのだ。」
「まあ、ハルトを最高の魔導師だと認めてくれたことは評価するわ。
で?
ここは引いてくれるの?」
「引くもなにも、わしは逃げてる最中だぞ。そっちが捕捉を諦めてくれるなら、喜んで戦いはやめる。」
「だ、そうだけど? ペイント女。」
「・・・・この街区を瓦礫の山に変えずに戦うのはこれが、限界だと思う。」
リヨンは、フィオリナを軽く睨んだ。
「じいさんはもちろん、わたしでさえ、それには配慮しつつやりあっていた。
なにげに、姫さんの与えた被害が、いちばん大きい。」
フィオリナは足元のすり鉢型にへこんだ街路、衝撃波でひび割れた塀、微塵にくだけた窓ガラスなどを一通り、見回すと、にっこりと笑った。
「誤差だな。」
「請求は、クローディア公爵家にまわしてよいか?」
遠くから人の怒鳴り声、足音が聞こえる。
王宮周辺の警備は、もともと近衛の任務であったはずだが、先日の迷宮攻略の失態をうけて再編成中である。
それにしてものんびりした対応だ。
と、勝手な三人は同じことを同時に思った。
まっさきに。
ボルテックと魔道騎士団が転移で姿を消す。
リヨンは翼を広げ、宙に舞い上がった。
「わたしの勇者様によろしく!姫さん。」
ひとり残されたフィオリナは、腕組みをして警邏隊が到着するのを待った。
帰宅途中に魔法を使っての戦闘を感知したので、駆けつけたが、逃げられた、と堂々と(まんざら嘘でもない)申し開きをするつもりである。
もちろん、街路の陥没と、周辺建物の被害も、その逃げた謎の賊に押し付ける気まんまんであったが。
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