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第56話 駆け出し冒険者と邪神の使徒
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聞け!
我が使徒たる古き狼よ!
伝達の神ヤンの名をもっての念話は、距離はもちろん、迷宮の壁をもっても隔てられることはない。
もとろん、ヤンはもともと愛の告白を司っていた神であり、ただの伝令代わりに使われるのははなはだ不満であったが。
王子を殺せ。
手段は問わぬ。
事故や魔物にやられたように見せかける必要もない。
ただちに殺せ。
“いやいや、いったいどうしたんだか?”
命令に従うしかない身にとっては、呆れたようにそう言ってやるのが精一杯の抵抗である。
勇者が、王都に到着した。斧神の化身も一緒だ。
明日にでも回復しだい、迷宮にもぐるだろう。
もしあいつらと、王子が接触したら・・・・
終わりだ。
“なあに、が?”
にやにやと笑ってなんのことかわからないふりをする。
バカものがっ!
わからんか。
王子と、勇者、斧神が同じチームになればそれはそのまま、最強のパーティとなるのだ!
半年を待つことなく、誰もが認める最強のパーティが誕生する。
その時点で、王子は後継者としての条件を満たすことになるのだっ!!
“それがなぜまずいのです?”
語るだけ語らせよう。
思いつくままに疑問を呈する。
“どちらの王子が王座につこうが、傀儡となってもらうにはかわりないはずでは?”
あいつが、傀儡などになるものかっ
悲鳴に近い念話は実に心地よく響く。
まったく聞いたこともない認識阻害の魔法をいちから作り出すヤツだぞ。
わたしの「契約」をもっても制御できぬかもしれぬ。
やつが・・・・人間社会の決めたルールの中にいるうちにやつを殺すのだ。
“最善を尽くしますよ”
念話でのニヤニヤ笑いをしながら、彼は言った。
“まあ、そんなすごいヤツを殺すことこそ、至難の業には違いないんですが”
これは図星だったらしい。
しばらくの沈黙のあと、絞り出すような声が聞こえた。
第六層の階層主にあいつをぶつけろ。
“へ?”
返事が間の抜けたものになったのは、今まさに王子がやろうとしているのが、それであり、別に彼がとくにやることなど、存在しなかったからである。
が、あるじはそう受け取らなかったらしく苛立たしそうに続けた。
第六層の階層主。その正体はかつての勇者パーティの賢者ウィルニア。
魔王に与し、千年のときを経て、あまりにも強大なものとなったその魔力。
王子がどのような力を持っていようとも対抗するすべはない。
そして。
億か、兆か、京にひとつのめぐり合わせで賢者を倒せても、そうなれば、勇者たちは王子を敵とみなすだろう。
おまえは、ただ、王子を第六階層の階層主の間まで導いてやるだけでよい。
これなら、不死身以外の取り柄のないおまえにも可能だろう。
可能などころか、止めるほうがはるかに難しかった。
“最善を・・・尽くしますよ”
ややなげやりにつぶやいた。
その声は、先を歩く少年にも聞こえたらしく、振り返り、誰かと話してる?と聞かれた。
「おとなのはなしってヤツだ。」
ザックはウィンクしてみせた。
「ザックさん。」
「なんだ?」
「ウィンクがこんなにも似合わない方を始めて見ました。」
第六層の壁は、水晶に似た半透明のタイルに覆われておる。
魔物は少なく、また倒しても採れる素材はほとんど価値のないものばかりだ。
しかし、ルトと軽口を叩き合いながらの道中は、楽しかった。
もう少し、この時間が続くようザックは願った。
我が使徒たる古き狼よ!
伝達の神ヤンの名をもっての念話は、距離はもちろん、迷宮の壁をもっても隔てられることはない。
もとろん、ヤンはもともと愛の告白を司っていた神であり、ただの伝令代わりに使われるのははなはだ不満であったが。
王子を殺せ。
手段は問わぬ。
事故や魔物にやられたように見せかける必要もない。
ただちに殺せ。
“いやいや、いったいどうしたんだか?”
命令に従うしかない身にとっては、呆れたようにそう言ってやるのが精一杯の抵抗である。
勇者が、王都に到着した。斧神の化身も一緒だ。
明日にでも回復しだい、迷宮にもぐるだろう。
もしあいつらと、王子が接触したら・・・・
終わりだ。
“なあに、が?”
にやにやと笑ってなんのことかわからないふりをする。
バカものがっ!
わからんか。
王子と、勇者、斧神が同じチームになればそれはそのまま、最強のパーティとなるのだ!
半年を待つことなく、誰もが認める最強のパーティが誕生する。
その時点で、王子は後継者としての条件を満たすことになるのだっ!!
“それがなぜまずいのです?”
語るだけ語らせよう。
思いつくままに疑問を呈する。
“どちらの王子が王座につこうが、傀儡となってもらうにはかわりないはずでは?”
あいつが、傀儡などになるものかっ
悲鳴に近い念話は実に心地よく響く。
まったく聞いたこともない認識阻害の魔法をいちから作り出すヤツだぞ。
わたしの「契約」をもっても制御できぬかもしれぬ。
やつが・・・・人間社会の決めたルールの中にいるうちにやつを殺すのだ。
“最善を尽くしますよ”
念話でのニヤニヤ笑いをしながら、彼は言った。
“まあ、そんなすごいヤツを殺すことこそ、至難の業には違いないんですが”
これは図星だったらしい。
しばらくの沈黙のあと、絞り出すような声が聞こえた。
第六層の階層主にあいつをぶつけろ。
“へ?”
返事が間の抜けたものになったのは、今まさに王子がやろうとしているのが、それであり、別に彼がとくにやることなど、存在しなかったからである。
が、あるじはそう受け取らなかったらしく苛立たしそうに続けた。
第六層の階層主。その正体はかつての勇者パーティの賢者ウィルニア。
魔王に与し、千年のときを経て、あまりにも強大なものとなったその魔力。
王子がどのような力を持っていようとも対抗するすべはない。
そして。
億か、兆か、京にひとつのめぐり合わせで賢者を倒せても、そうなれば、勇者たちは王子を敵とみなすだろう。
おまえは、ただ、王子を第六階層の階層主の間まで導いてやるだけでよい。
これなら、不死身以外の取り柄のないおまえにも可能だろう。
可能などころか、止めるほうがはるかに難しかった。
“最善を・・・尽くしますよ”
ややなげやりにつぶやいた。
その声は、先を歩く少年にも聞こえたらしく、振り返り、誰かと話してる?と聞かれた。
「おとなのはなしってヤツだ。」
ザックはウィンクしてみせた。
「ザックさん。」
「なんだ?」
「ウィンクがこんなにも似合わない方を始めて見ました。」
第六層の壁は、水晶に似た半透明のタイルに覆われておる。
魔物は少なく、また倒しても採れる素材はほとんど価値のないものばかりだ。
しかし、ルトと軽口を叩き合いながらの道中は、楽しかった。
もう少し、この時間が続くようザックは願った。
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ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
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