52 / 248
第51話 戦いの代償
しおりを挟む
すべてが黄金色に輝いていた。
自分がいま、いるところは、丘の上らしい。
むこうの山に。
いま、日が沈もうとしている。
その光が、すべてを金色に染め上げている。
山並みも。
森も。
水面も。
そこに、彼女はいた。ひとりでいた。
風は強いが寒くはない。
この世界に彼女を害するものはいないのだ。
だって。
だって。
限りなく広がる、限りなく美しいこの世界は、彼女自身のものだったから。
これは儀式。
冷静な第三者の意識がそうささやきかける。
これは、『鏡神』ラルロのみせるおのれの力を具象化する鏡の儀式。
そう。
たとえば、炎の魔法に才のあるものなら、それは燃え盛る焚き火や、暖炉、水に才能があるのものなら、滾々と静水の湧き出す泉、小川、風に才のあるものには、風車などのイメージを見せる。
ならば、世界を金色に染め上げるこの少女の才はいかなるものか。
金の色に輝くその世界の美しさ。その果も見えぬ広がり。
“でも、独りはいやっ”
声にならない声で少女は叫んだ。
“独りぼっちはいやなの!”
風が、金色の雲の流れが声をさらっていく。
“いや・・・いやなの”
立ちすくんだ少女の肩に手が置かれた。
振り返るとそこには懐かしい笑顔。
それは、彼女をふって出奔した王子にも、彼女の愛をふりきって迷宮深部をめざした少年にも似ている。
「ひとりじゃない。ずっと一緒にいる。」
「あ・・・」
ハルト、と呼ぶか、ルト、と呼ぶべきなのか。
フィオリナにはわからない。
でも。
その存在がうれしくて、フィオリナは少年の手を握りしめた。
「それに、ほらみんなだって」
少年が見上げた方向には。
なんか、ポーズを決めるインバネスの吸血鬼とか。
その横でスケッチブックをひろげてる同じ顔の吸血鬼とか。
城塞ほどの大きなの蜘蛛とか。
同じ大きな巨大な竜とか。
家ほどの塊で、中に雷光の走るスライムとか。
黒衣の骸骨の魔導師とか。
が、なんだか、笑顔とか、ブレスとか、紫っぽいガスの噴出とか、で彼女を歓迎してくれていた。
・・・・・それは、それでちょっとヤだなあ・・・・
と、フィオリナは思った。
フィオリナは目を開ける。
そこは、馬車の中。
「気がついたか。」
父が心配そうな顔で覗き込む。
「腕と、脚は言われた通り、添え木を当ててある。
治癒師はほんとうに必要ないのか?」
「再生された組織は馴染むまでに若干の時間が必要です。」
フィオリナは頷いた。
「その若干の時間が惜しい。それにこの程度の怪我なら、専門の治癒師もわたしの自己発動による治癒術式も大差ありません。」
「違うっていや、違う。」
ゾアが前の席から顔をのぞかせた。
「治癒術ってのは苦痛の軽減もいっしょにやってくれるんだ。自分でやるんじゃそれは望めない。」
「些末な問題。」
フィオリナは切って捨てた。
「そのために睡眠を取らせてもらった。
完調とはいかないが、これで戦える。」
「あそこで、クリュークが馬脚を表すとは思いませんでした。
コッペリオが仕掛けてくれなければ、我々は・・・・」
アイベルは、フィオリナの隣の席だった。
目が覚めるまで肩をかしていてくれたことに気づき、フィオリナは彼にだけわかるように、ほんの少し微笑む、という美人にしか許されぬ礼をした。
「クリュークはまるで手の内を見せぬが」
クローディアは重々しく言った。
「リヨンの方は、たしかに到達級を越えている。我が国には、それ以上の冒険者を表す用語はないが、西方流に言うならたしかに、銀級の上、黄金級や英雄級と呼ばれるランクなのだろう。」
「ずいぶんと姿がかわっていて、驚きましたが。」
再会の喜び、と感謝を伝えたいのだが、そうすると、真祖とのラブシーンに触れられそうで、とりあえず、淡々と必要なことを述べるフィオリナである。
「戦うところはご覧になりましたか?」
「全容はわからん。だが、手から光の鞭のようなものを射出して、蜘蛛の大群を薙ぎ払った。
あとは、空間を切り取る・・・いや」
クローディアはなんと表現したらよいか顎髭を撫ぜながら言葉を探す。
「むしる・・・えぐる、がよいか。
目の前の空間をえぐりとって、マグマの湖の中の小島に、我々を転移させた。
いままで、見たことのない術式だ。あれを直接攻撃に使われたら、防御はまず無理だ、な。」
「しかし、使っていないと。
回数が限られるのか、タメが必要なのか。」
フィオリナは考え込んだ。
「私はどのくらい眠っていた?」
「半刻ほどです。もうすぐ西門に到着いたします。
このまま、王宮に向かいますか? それともいったんお屋敷へ。」
「父上はどうお考えです?」
「相手しだいだ。
クリュークはどうでると思う?」
「十中八九、関係の修復に出てきます。
そもそも、クリュークとリヨンがこちらを攻撃したのは、邪神がどうのと、やつを糾弾し始めたのが原因ですからね。」
「…やりすぎましたでしょうか?」
珍しく意気消沈したコッペリオの声が、足元のバッグから聞こえた。
「本音を吐かせたのはよかった。
あそこから交渉ができればベストたったのだが、まさか、いきなり攻撃してくるとはな。
あの状況で、眩惑をしかけて、それがはまって尚且つ、死なぬ相手だ。
どうすれば、殺しきれるか、想像がつかない。」
フィオリナは、いつもの考え事をするときの癖で拳を額に押し当てようとして、指が折れているのに気づき、渋面をつくった。
「まずは、魔道院へ伝令を。
妖怪には妖怪。化け物には化け物。
妖怪じじいに出張ってもらう。」
自分がいま、いるところは、丘の上らしい。
むこうの山に。
いま、日が沈もうとしている。
その光が、すべてを金色に染め上げている。
山並みも。
森も。
水面も。
そこに、彼女はいた。ひとりでいた。
風は強いが寒くはない。
この世界に彼女を害するものはいないのだ。
だって。
だって。
限りなく広がる、限りなく美しいこの世界は、彼女自身のものだったから。
これは儀式。
冷静な第三者の意識がそうささやきかける。
これは、『鏡神』ラルロのみせるおのれの力を具象化する鏡の儀式。
そう。
たとえば、炎の魔法に才のあるものなら、それは燃え盛る焚き火や、暖炉、水に才能があるのものなら、滾々と静水の湧き出す泉、小川、風に才のあるものには、風車などのイメージを見せる。
ならば、世界を金色に染め上げるこの少女の才はいかなるものか。
金の色に輝くその世界の美しさ。その果も見えぬ広がり。
“でも、独りはいやっ”
声にならない声で少女は叫んだ。
“独りぼっちはいやなの!”
風が、金色の雲の流れが声をさらっていく。
“いや・・・いやなの”
立ちすくんだ少女の肩に手が置かれた。
振り返るとそこには懐かしい笑顔。
それは、彼女をふって出奔した王子にも、彼女の愛をふりきって迷宮深部をめざした少年にも似ている。
「ひとりじゃない。ずっと一緒にいる。」
「あ・・・」
ハルト、と呼ぶか、ルト、と呼ぶべきなのか。
フィオリナにはわからない。
でも。
その存在がうれしくて、フィオリナは少年の手を握りしめた。
「それに、ほらみんなだって」
少年が見上げた方向には。
なんか、ポーズを決めるインバネスの吸血鬼とか。
その横でスケッチブックをひろげてる同じ顔の吸血鬼とか。
城塞ほどの大きなの蜘蛛とか。
同じ大きな巨大な竜とか。
家ほどの塊で、中に雷光の走るスライムとか。
黒衣の骸骨の魔導師とか。
が、なんだか、笑顔とか、ブレスとか、紫っぽいガスの噴出とか、で彼女を歓迎してくれていた。
・・・・・それは、それでちょっとヤだなあ・・・・
と、フィオリナは思った。
フィオリナは目を開ける。
そこは、馬車の中。
「気がついたか。」
父が心配そうな顔で覗き込む。
「腕と、脚は言われた通り、添え木を当ててある。
治癒師はほんとうに必要ないのか?」
「再生された組織は馴染むまでに若干の時間が必要です。」
フィオリナは頷いた。
「その若干の時間が惜しい。それにこの程度の怪我なら、専門の治癒師もわたしの自己発動による治癒術式も大差ありません。」
「違うっていや、違う。」
ゾアが前の席から顔をのぞかせた。
「治癒術ってのは苦痛の軽減もいっしょにやってくれるんだ。自分でやるんじゃそれは望めない。」
「些末な問題。」
フィオリナは切って捨てた。
「そのために睡眠を取らせてもらった。
完調とはいかないが、これで戦える。」
「あそこで、クリュークが馬脚を表すとは思いませんでした。
コッペリオが仕掛けてくれなければ、我々は・・・・」
アイベルは、フィオリナの隣の席だった。
目が覚めるまで肩をかしていてくれたことに気づき、フィオリナは彼にだけわかるように、ほんの少し微笑む、という美人にしか許されぬ礼をした。
「クリュークはまるで手の内を見せぬが」
クローディアは重々しく言った。
「リヨンの方は、たしかに到達級を越えている。我が国には、それ以上の冒険者を表す用語はないが、西方流に言うならたしかに、銀級の上、黄金級や英雄級と呼ばれるランクなのだろう。」
「ずいぶんと姿がかわっていて、驚きましたが。」
再会の喜び、と感謝を伝えたいのだが、そうすると、真祖とのラブシーンに触れられそうで、とりあえず、淡々と必要なことを述べるフィオリナである。
「戦うところはご覧になりましたか?」
「全容はわからん。だが、手から光の鞭のようなものを射出して、蜘蛛の大群を薙ぎ払った。
あとは、空間を切り取る・・・いや」
クローディアはなんと表現したらよいか顎髭を撫ぜながら言葉を探す。
「むしる・・・えぐる、がよいか。
目の前の空間をえぐりとって、マグマの湖の中の小島に、我々を転移させた。
いままで、見たことのない術式だ。あれを直接攻撃に使われたら、防御はまず無理だ、な。」
「しかし、使っていないと。
回数が限られるのか、タメが必要なのか。」
フィオリナは考え込んだ。
「私はどのくらい眠っていた?」
「半刻ほどです。もうすぐ西門に到着いたします。
このまま、王宮に向かいますか? それともいったんお屋敷へ。」
「父上はどうお考えです?」
「相手しだいだ。
クリュークはどうでると思う?」
「十中八九、関係の修復に出てきます。
そもそも、クリュークとリヨンがこちらを攻撃したのは、邪神がどうのと、やつを糾弾し始めたのが原因ですからね。」
「…やりすぎましたでしょうか?」
珍しく意気消沈したコッペリオの声が、足元のバッグから聞こえた。
「本音を吐かせたのはよかった。
あそこから交渉ができればベストたったのだが、まさか、いきなり攻撃してくるとはな。
あの状況で、眩惑をしかけて、それがはまって尚且つ、死なぬ相手だ。
どうすれば、殺しきれるか、想像がつかない。」
フィオリナは、いつもの考え事をするときの癖で拳を額に押し当てようとして、指が折れているのに気づき、渋面をつくった。
「まずは、魔道院へ伝令を。
妖怪には妖怪。化け物には化け物。
妖怪じじいに出張ってもらう。」
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる