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第46話 別れ
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フィオリナは、迷ったあげくに、胸部を守るプレートもはずした。
篭手は、指の自在な動きを多少なりとも邪魔するので、その前にはずしている。
兜は、初日にはずして、ヨウィスに「収納」してもらっていたので、今は持ち主より一足先に地上にご帰還だろう。
目の前の姿見に自分の姿を写しながら、ゆっくりと肩を回す。
指を一本一本折りたたむ。
髪を後ろで束ね、息を吸い込んで、吐く。
これで、完璧だ。
ベストの自分を出せるだろう。
「どう思う? ルト。」
「正解だと思います。
ただの鉄製の鎧では、真祖レベルの吸血鬼の攻撃力では守りになりません。
動きやすさを優先するのはよい判断です・・・・・の話ではなくて、ですか?」
「その話だけど、ついでに容姿もちょっと褒めといてくれ。」
「・・・・その剣、名前をつけてやってますか?」
「・・・いや。これだけの名剣、どこかに真名があるはずだ。
それを探してやるのも持ち主の仕事のような気がしている。」
「いいことだと思います。」
容姿ではないところを褒められたが、フィオリナは機嫌よく微笑んだ。
「冒険者初日から、とんでもない事態に巻き込まれたが、それももうすぐ終わる。」
フィオリナが手を差し伸べる。
「一緒に地上へ帰ろう。」
ルトは差し出された手をとらずにじっとフィオリナを見つめた。
「どうした?」
「ぼくはこのまま最深部を目指そうかと思います。」
フィオリナはあまり驚かない自分に驚いた。
地上に戻ったら、父に彼を紹介して、とりあえずの居場所を彼女の近くに作ってやる。
並行して、彼のウラを暗部に調べさせるのは言うまでもないが、どんな結果がでようともルトを自分のものにする決意はできていた。
そうしたら、一緒に買物をしたり、食事をしたり、剣の稽古に突き合わせたり。
もちろん、次に魔王宮に潜るときも連れて行く。
ずっと一緒にいる。
だが、そんなことが現実的でないのはなんとなくはわかっていた。
目の前にいる。
確かに居る少年は、なんとなく泡沫の存在のように思えて、フィオリナは思わず、ルトを抱きしめた。
「それが・・・目的なのか?」
「・・・そうです。魔王宮の最深部が目的地です。」
「それを、わたしとともに目指してくれることは無理なのか?」
「フィオリナは、ほかにやることがあるでしょう?」
「ハルトのことを気にしているのか?」
「・・・それはたぶん、ほっといて大丈夫です。
おそらく、彼は一番、犠牲者が少なく解決が出来る方法を模索してるだけだと思います。
それより、一連の流れの大本を突き止めてください。
クリュークたちを巻き込んだのは何者か。
そいつの本当の目的は何なのか。
階層主たちとの約束通りに。」
「不思議なものだな・・・」
フィオリナは呟いた。
「あれらは人ではない。それなのにあれだけ親しく感じられるのは。」
「むこうもそう思ってます。きっと。」
「その相手を倒さねばならないとは。
なんと因果なものか。これも剣士の宿命なのか。」
「・・・・顔、笑ってます。」
篭手は、指の自在な動きを多少なりとも邪魔するので、その前にはずしている。
兜は、初日にはずして、ヨウィスに「収納」してもらっていたので、今は持ち主より一足先に地上にご帰還だろう。
目の前の姿見に自分の姿を写しながら、ゆっくりと肩を回す。
指を一本一本折りたたむ。
髪を後ろで束ね、息を吸い込んで、吐く。
これで、完璧だ。
ベストの自分を出せるだろう。
「どう思う? ルト。」
「正解だと思います。
ただの鉄製の鎧では、真祖レベルの吸血鬼の攻撃力では守りになりません。
動きやすさを優先するのはよい判断です・・・・・の話ではなくて、ですか?」
「その話だけど、ついでに容姿もちょっと褒めといてくれ。」
「・・・・その剣、名前をつけてやってますか?」
「・・・いや。これだけの名剣、どこかに真名があるはずだ。
それを探してやるのも持ち主の仕事のような気がしている。」
「いいことだと思います。」
容姿ではないところを褒められたが、フィオリナは機嫌よく微笑んだ。
「冒険者初日から、とんでもない事態に巻き込まれたが、それももうすぐ終わる。」
フィオリナが手を差し伸べる。
「一緒に地上へ帰ろう。」
ルトは差し出された手をとらずにじっとフィオリナを見つめた。
「どうした?」
「ぼくはこのまま最深部を目指そうかと思います。」
フィオリナはあまり驚かない自分に驚いた。
地上に戻ったら、父に彼を紹介して、とりあえずの居場所を彼女の近くに作ってやる。
並行して、彼のウラを暗部に調べさせるのは言うまでもないが、どんな結果がでようともルトを自分のものにする決意はできていた。
そうしたら、一緒に買物をしたり、食事をしたり、剣の稽古に突き合わせたり。
もちろん、次に魔王宮に潜るときも連れて行く。
ずっと一緒にいる。
だが、そんなことが現実的でないのはなんとなくはわかっていた。
目の前にいる。
確かに居る少年は、なんとなく泡沫の存在のように思えて、フィオリナは思わず、ルトを抱きしめた。
「それが・・・目的なのか?」
「・・・そうです。魔王宮の最深部が目的地です。」
「それを、わたしとともに目指してくれることは無理なのか?」
「フィオリナは、ほかにやることがあるでしょう?」
「ハルトのことを気にしているのか?」
「・・・それはたぶん、ほっといて大丈夫です。
おそらく、彼は一番、犠牲者が少なく解決が出来る方法を模索してるだけだと思います。
それより、一連の流れの大本を突き止めてください。
クリュークたちを巻き込んだのは何者か。
そいつの本当の目的は何なのか。
階層主たちとの約束通りに。」
「不思議なものだな・・・」
フィオリナは呟いた。
「あれらは人ではない。それなのにあれだけ親しく感じられるのは。」
「むこうもそう思ってます。きっと。」
「その相手を倒さねばならないとは。
なんと因果なものか。これも剣士の宿命なのか。」
「・・・・顔、笑ってます。」
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