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第44話 邪神の使徒

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「どう思います?」

ルトが唐突に尋ねた相手は、ここまで誰からも話しかけられず、料理と酒だけはだされるもののほとんど無視されていたザックだった。 

彼の周りだけは薄ぼんやりと見える障壁が張り巡らされ、足には鉄球付きも足枷がはめられ、フィオリナやルトをとは違う立場だということは一目でわかる。

帰ってきたものすごい量の悪態は、西域独特の言い回しが多くて、ルトやフィオリナにはほとんどわからなかった。
鶏を恋愛対象にし、そういう行為におよぶことは、はたして悪態になるのだろうか。

まあ、おそらく鶏にとってはひどく迷惑な話ではあるのだろうが。

「その男は、ヴァルゴールの手下ではあるが、」
真祖吸血鬼は、つまらなそうに口をはさんだ。
「使徒ではない。
ヴァルゴールの呪いにより、しかたなくその配下にくわわっているようだ。」

「しかし、盟約と隷属を司るといわれるかの邪神。」
オロアが顎に手をあてて考え込むように言う。
「意思にそぐわぬ形で、従属を強要されたのがほんとうだとしても、その危険度は信徒とまったくかわるまい。」

「それはそうなのですが。」
ルトはデザートに取り掛かっている・・・・果物をまぜこんだアイスクリームだ。
「どうも行動はいろいろと制約はうけてるようなのですが、自分自身の意思は、かわらずに持ち続けているようなのです。」

「ありえん!」
オロアは断言した。
「そこいらの呪い師の契約魔法や呪いとはわけが違うのだ。
人間と神では存在のランクが違う。
逆らっているつもりでもその意思は、すでに神のものであり、血の一滴、髪の一房までも従属する神に捧げることを至情の喜びとするように強制づけられてしまう。

まして、相手がその手のことに詳しいヴァルゴールでは・・・・」

「まあ。結論を急がずに。」
愛想よく微笑んでルトは言う。

「意思のない哀れな下僕の意見をきいてみましょう。」

「馴染むな!階層主と!!」
と、もっともなことをザックは叫んだ。

「まあまあ、ザックさん。
この前の話の続きです。

燭乱天使クリュークのが、グランダ国そのもので、数ある諸国の中から、グランダ国を選んだ理由は、魔王宮がここにあるから。

そして、魔王宮は数ある迷宮の中でも特殊なであって?

どう特殊なのでしょうか?」

「それをこの連中の前で語れ、と。」

「別に言う必要はないです。
意思を持つ階層主がこれだけ勢揃いしている迷宮が、普通のワケはないのです。

で、質問の内容は、クリュークは魔王宮でなにがしたいのか



それを考えたのは誰か?

です。」

「俺は、本当に使いっぱしりで、クリュークからはなにも聞かされていない。
だから、これは俺の推論にすぎないが、いいか?」

「もちろん!です。」

「・・・・まず、クリュークの目的だが、魔王宮が魔王宮である理由。
魔王その人に会うことにある。
その力を取り込むことが、目標のはずだが、

どうやって、だと?

具体的にはわからん。
倒す?
仲間にするのか?
なんらかの方法をもって、力を吸収するのか?

だがな、クリュークの異名は数多いが、その1つに“神降ろし”というものがある。

実際に見たものは少ないが、やつは神様の力を、少なくとも部分的にはその身に宿して使うことができる。

例えば、そうだな、ヴァルゴールを使って、俺を隷属させたように、だ。」

階層主たちの間を強固に圧縮された念話が飛び交った。
ここまで、情報の多い念話だと、それを向けられていないルトには、さすがに読み取りようがない。

「な、る、ほ、ど。
同じように魔王の力をその身に取り入れることが、できるかもしれない。
それこそが、クリュークの目的だと。

そのために、グランダを手に入れることが必要だった、と?」

ルトは首を傾げた。

「魔王の力、とグランダを手に入れる、の関係性がいまひとつ、ですかね。
魔王の力を本当に手に入れることができたのなら、辺境の北国なんかどうでもよいかと思いますが。」

「グランダを手に入れるほうは、魔王宮に入り込むための方便だな。」

「すると、グランダを手に入れたがっているものは別にいる、と?」

「おそらく。
エルマートを王太子にすえ、この国を自由にしたがっている者はほかにいる。」

「それは誰ですか?」

「・・・俺の推論だが、いいか?」

「もちろん」

「少し待ってもらおう。」
オロアが、静かに、だが断固として譲らぬ口調で口をはさんだ。
「そのクリュークなるものが、御方様の力を我が物にしようと企んでいると?」

神獣が、真祖ヴァンパイヤが、竜が、スライムが。

一斉に人間のふりをすることをやめ、その意思をザックに集中させる。
“わあ、人間ならそれだけで、死ねるかも”

ルトは思った。

ザックは平然と頷いた。
「そこまでは、合ってる自信がある。」

「ならば、これは戦、だな。」

「そうなる、な。」

「やるか。」

「異議なし!というかほかにどうしょうもないでしょ。」

「まあまあ。」
緊張感の欠片もないわけはない。が、少なくとも態度にはその片鱗すら見せない少年は、笑みを絶やさずに皆に手を振ってみせた。

フィオリナも笑っていたがこちらは恐ろしい笑いだった。
こちらも緊張はまったくなく・・・からだは弛緩し、視線はわずかにさがって焦点を失っている。
これが、彼女の本気。

本気で戦うときのスタイルだった。

だからルトの「まあまあ」の対象には、階層主ばかりではなく、フィオリナも含まれる。

「止めるのは無駄だぞ、少年。」
オロアの柔和な表情は変わらない。
だが、わずかにその姿が薄くなり、背景が透けて見える。まるで幽霊のように。

「わざわざ口に出してくれたってことは、一応止めてみろ、ということなのかと思って。」

「よくわかるなあ、ルト・・・・だっけ? 別に我らは、人類を皆殺しにしようとか、グランダ国を滅ぼそうとか、王都を瓦礫に変えようとか全く思ってないのだよ?」

リアモンドもまるでルトをなだめるかのような口調で言う。だが、その首筋から肩にかけて、銀白色の鱗模様が明滅している。

「我らの敵は、そのクリューク。およびその意思の元に我々に戦いを挑む者。それ以外の者を害そうとは思わない。」

ミュレスは、食事の手を止めていない。
フィオリナやルトから見ても見事なマナー通りに、切り分けた鶏肉を口に運んでいる。だが、うっかり骨を吐き出すのを忘れてそのまま消化してしまった。

「無論、おまえたちの無事は保証する。このまま、ここに居てもよいし、地上に戻ってこのことを王に報告してもいい。
戦場で合わない限りは、今後も友人として振る舞おう。」

ロウは、にっこり微笑んで見せたが、唇に僅かだが犬歯が覗いていた。

「いや、お願いはクリュークとの戦いを迷宮内で。ただそれだけをお願いします。」

「普通ならもちろんそうだ。わたしたちはなにしろ、迷宮の階層主、だしな。」
ギウリムスの頬に、額に、新たな目が開いている。
「だが、これはすでにゲームではなくなった。
盟約を廃した者が、我らの主を害するための行動にでる以上・・・こちらからも攻め入らせてもらう。」

「とくにギウリムスは勘弁してください。」
「なんでわたしだけとくにっ!?」
「でかいから。」

身も蓋もない答えに神獣は絶句した。

「あなた方の力と、クリュークの力が衝突すれば、余波だけで王都は壊滅、です。
ギウリムスなんかは歩いただけで、街が崩壊します。
それは、避けたい。」

またもや、階層主たちの間に念話が飛び交った。

「ち、ちょっとまった!
念話が早すぎる! ついてけない。」
吸血鬼が泣きついた。

「客人の前でカッコわる・・・・」
竜が冷たい目でそれを睨む。

「しかたなかろう。もともと、二人で一人の階層主だ。
一人きりでは、われわれの思考速度に追いつくのは難しいこともあろうさ。」

オロアは、慰めるように言って、会話を言葉によるものに切り替える。

「お主の考えも分かるが、なんども言う通り、約定を破ったのは人間側だからな。」

「人間と一括りにされても困る。」
フィオリナは、剣の柄から手を離した。
わずかな刺激で抜刀してしまいそうな自分を戒めるためでもある。
「魔王宮への侵攻を企てたのは、西方域のパーティ“蝕乱天使”。彼らを招いたのは、まだ判明してはいないが、継承が絡んでいるのならグランダ王の側近の誰かだろう。

そこだけをピンポイントで摘出すればすむ。

手術を行えばすむところを全身をずたずたに切り裂く必要はあるまい?」

「とは、言っても、ですね。」
ルトは、笑みを振りまきながら楽しそうですらあった。
「燭乱天使は、構成のメンバーが数十人におよぶ、クランです。
クリュークを討ち漏らせば、力を蓄えて報復にくることもありえます。

また、クリュークと通じている王室の関係者がだれか、も定かではない。

階層主のみなさんが配下の魔物を引き連れて、戦いをしかければ、肝心の首魁を追い詰めらないまま、ただただ戦いが拡大してしまう恐れがあるのです。

最終的には西方域や中原の各国、そこいらがかかえる『英雄』クラスの冒険者たち、あるいは、当代の『勇者』などともぶつかることになるかもしれない、と。」

「我らがそれを恐れると思うか?」

代表してその言葉を発したのは、オロアだったが、階層主たちの僧位を代表しての発言には違いない。

「勝つには勝つでしょうが、人類の文明圏は、全域が焦土と化し、人口の9割は消滅するでしょう。
そもそもそうしないために、千年前、皆さんの言う“御方様”はここを築いたのではないですか?」

階層主たちが憮然と押し黙る中、ルトは付け加えた。

「で、そこまでしてもクリュークはしっかり逃げ延びるような気がするんですよね。」

「クリュークというのはそこまでの冒険者だというのか?」

「都合が悪くなれば容赦なく契約者も見捨てる。」
ザックが口を挟んだ。
「いや、見捨てるどころか、行きがけの駄賃に契約者の首を掻くくらい平気でやってのける。

やつなら言うだろうさ。

“西方諸国ことごとく滅び、すべての街が瓦礫となり、人という人が死に絶えても、やつの目的さえ達成できればそれが勝利”

だとな。」

「・・・人間の言う勇者とか英雄はなんでそいつを討伐しないのかな?」

ギウリムスは、怒りと嫌悪感を顕にして、呟いた。
もともと、蜘蛛に近い魔物で、いま、ここに居るのは、ヒトガタを真似た複製品のはずだが、表情も仕草も実に、人間くさい。

「討伐して討伐しきれるものではないからです。
ザックさんの話が確かで、ほんとうに“神降ろし”なんて力が使えるなら、クリュークの力は、西方域で言うところの『英雄』クラスでしょう。

そんなメンバーが何人もいるのが燭乱天使ならば。」

「・・・・こちらから打って出ても、敵を増やすばかりでクリュークの首はとれず。
ならば、せめて地の利を得るために、迷宮で待ち構えたほうが有利、と?」

オロアは、コツコツと指でテーブルを叩いた。
眉間に深い皺が寄っている。
考え事をするときの彼のくせなのだろう。

「わたしはこの坊やにうかうかと乗せられているような気がするが。」
ミュレスは、頬杖をついて、顔をしかめる。
これも考え事をするときの癖かもしれないが、無意識に手にしたナイフとフォークをそのまま、口にいれて咀嚼をはじめていた。

「仮にだが、我々がその条件を飲めば、お主たち、ならびにクローディア公爵家は我々のためになにをしてくれる?」

リアモンドがにんまりと笑った。

「確かにグランダの王都を踏み潰しても、クリュークとやらは逃げおおせる『かも』しれない。
だが、首尾よく、討ち取れる可能性もあるな。

逆にここで待ち構えるのは、迷宮そのものの地の利はあるが、我々も迷宮のルールには縛られる。
例えば、階層主が総掛かりで、やつのパーティに挑むことはできない。

そして、我々が個別に攻略されてしまえば、最終的に“至高なる御方様”の眼前にヤツを立たせることになるかもしれぬ。

いずれにしても可能性の問題だ。

我々が、迷宮の外にでないと約定を行うならば、その代償が欲しい。

クローディアの白狼騎士団とフィリオナは、クリュークを討ち取り、やつをこの国に招き入れた王家の勢力を放逐すると誓うか?」

「話のわかる階層主だな。」
フィオリナは、困っている。

彼女の愛するハルトや、小姓候補のルトが思っているほど、彼女は戦闘狂でもないし、穏便にすませられる道があればそちらを喜んで選ぶ方だ。

だが、ここまで階層主たちが話がわかり、譲歩をしてくれるのは予想外だ。

単なるジャイアントスパイダーが階層主だと思っていたのが、神獣に化けたときすらここまでは困らなかった。

彼女が本気で困っているのは・・・・階層主たちが、ここまで理性的に話をしてくれていて、ルトの出したバカバカしいまでに一方的な申し出を条件付きとはいえ、飲んでくれそうなのに、それを断らなければならない、という点だ。

「ひとつ、仮定の提案ですが。」
ルトは、手をあげた。

「もともと、この件はグランダの王位継承にまつわるゴタゴタが原因です。
それがすみやかに解決されれば、そもそも、クリュークたちが、魔王宮に関わるための大義名分がなくなります。

それでもクリュークが魔王宮を攻略しようというのなら、今度は人間側からそれを止めるよう働きかけることができます。」

「具体的には?」

「王位継承争いに、ハルトを勝たせます。
ハルトを勝たせた上で、王位継承をエルマートに譲るよう王に進言いたします。」

「すんなり、ハルトに敗北させたうえで、エルマートが王になるのは?」

「その時点で、魔王宮の攻略が終わっていなければ、引き続き、グランダ王=エルマート王太子ラインで、迷宮攻略は続行されるでしょう。
また、ハルトが死罪、または罪を着せられ市井に放逐されたのち暗殺される危険があまりにも高い。
クローディア公爵家もフィオリナもそれを望んでいないのです。

それこそ、命がけの綱渡りをしてもそれを阻止する意向です。」


「・・・先にきいた話では・・・」
オロアは茶をもってくるよう給仕に申し付けながら、顔を顰める。
「王位の継承は、迷宮の攻略ではなく、あくまで最強のパーティを作ることにある、と当代のグランダ王がはっきり言っていると。

ならば、ハルトとやらが勝つためには、パーティとして最強のものを作り上げればよい・・ということになる。

しかし、しかし、な。

最強、などと言う言葉は、ある一定のレベル以上は印象でどうにでもなるもの。

それこそ、どこぞの迷宮の攻略を競わせるくらいのことをせねば、なにをもって最強とするのか。」

「それはそうだ。」
フィオリナもオロアの当然の疑問に頷いた。
「もともと、当代のグランダ王がエルマートを王太子にと、望んでいる。
そこそこ強い、まあまあ強い、程度では簡単に覆る。
比べるまでもなく圧倒的に強い。
戦わせてみるなど、とんでもない、くらい圧倒的に勝っていなければ。」

「お、おまえらっ!」
呆れたザックが障壁の中で、頭を抱えた。
「なんで、人間とそんなに馴れ合える? 
知性をもった階層主なんぞ、単純に魔物のランクにすれば災害級だろう?」

「つまり、わたしとルトは、噴火中の火山と一緒に会食しているわけか。」
「さっきも言いましたが、この手の連中は対等な強者と認めない限りは、まともに話なんかできないのが当たり前です。
フィオリナは少なくとも大型のハリケーン並みの強さがあると認められたということですね…」
「…うれしくは、ない。」

「…未確定が多すぎる。」
オロアが、拳でテーブルを軽く叩いた。

テーブルは瞬時に燃え上がり、炎の中で円卓に姿を変えた。
食べ物や飲み物も消滅したが、ちゃっかりとオロアが注文した茶だけが、残っていた。

「折衷案だ。
地上への侵攻はいま、すぐには行わない。

フィオリナとルトは、いったん地上に戻り、クリュークのもつ戦力とやつの後ろ盾になっているグランダの関係者を洗い出してもらおう。

我々の対応はそれから決める。

ただし、時間は無制限にあるわけではないぞ。」

「悪くないだろう。」
フィオリナは剣を親指で押し上げて、再びカチリと鞘に収めた。

「“剣の誓い”か。これは千年前から変わらぬ。」
竜は楽しそうに言った。
「で、そこのザックはどうする? このまま解放するわけにもいかないだろうが、殺すのも厄介そうだ。」

「呪いとやらを解いてやったら?
そうすれば、少なくとも敵ではなくなるわけですし。」

「少年! こともなげに言うな。
相手は『神』だぞ。」

「どんな呪い、なのかがわかればそうでもありませんよ。」

「へえ。」ザックの笑いは歪んでいる。
「で、どんな呪いなのかい?」

「それがわからないんです。なんかヒントはないですか?」

邪神の使徒たる銀級冒険者と、駆け出し冒険者の少年の視線がぶつかり合う。

「・・・少なくとも、その呪いのせいで、ザックさんは不死身になっている。
代償に相手を不死身にするなんて呪いが考えられますか?
不死身と引き換えにザックさんは何を失ったのか・・・」

「それについては、私も考えていた。」
ギウリムスは浮かない顔で言った。
「そいつの不死身は再生ではない。ある種の巻き戻し・・・固定された状態への強制回帰・・・

だが、ルト、話はまたにしよう。それまではこの男は我々が預かる。

第二層への入口が突破された。」

階層主たちが一斉に立ち上がる。

「マグマと変異体はどうなったんですか?」
「どうなったと思う?」
「・・・・まだ会話を楽しむ余裕があります?」

ルトも立ち上がる。

「ロウさん、吸血鬼たちを下げてください。相手はたぶんクリュークとリヨンです。
『英雄』級の冒険者を相手では、並の吸血鬼では犠牲が増えるばかりです。」

「わかっている。
わたしが行く。」

「面白い。ここでクリュークを討ち取ってしまえば、あとの展開も楽になるな。」
フィオリナもゆらり、と立ち上がった。

「相手がその二人だけなら、な。
どうも冒険者パーティは六名、第二階層に侵入している。

さきの第一階層の崩落で罠もほとんど壊れたままだし、このまま、迎撃するのは、つぶしあいになる。
それに『今』フィオリナが、こちら側にたって参戦するのは、いろいろと情報を得るためにも得策ではない。」

「それについては、実は、悲観的です。」
ルトは他人事のように言った。
「吸血鬼に囚われたという情報が、上に流れている以上、フィオリナもぼくもすでに吸血されて下僕になっていると思われる可能性大、です。」
「どのくらい大、かな。」
「サイコロをふって、一から六の目に全部貼るくらい大です。」
「そうするとどうなる?」
「“浄化”をされます。
吸血鬼の因子を根こそぎ洗い出すのが、目的ですがそのためには生死も厭いません。
フィオリナは身分があるので、死なないように注意深く行われると思いますが、人格はほぼ失われますね。
そのあとは、離宮に幽閉です。」

「そこらを解決しないと帰すこともできないか。」

「まあ、そこらへんはゴリ押しするつもりだ。」

公爵家令嬢は、平然と胸をはった。
オロアがルトに目配せをする。
ルトは首を横に振った。

「帰還後にすみやかにフィオリナが、自由に行動できるようにするための条件は?」

「さっきミュレスさんが言ってた方法が、一番わかりやすいです。」

「階層主の“首”か。
ふむ・・・・どうだ? ロウ。」

ロウは、疲れたように指でこめかみを押さえた。

「・・・そもそもその人間にわたしの首が穫れるのか?」

「正確にはニンゲンではなくて、クローディア公爵家令嬢フィオリナ、です。」

「・・・随分な言われようなような気がする・・・」
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