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第35話 おとなのじかん
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しばらく。
迷宮の一室には、沈黙が流れた。
わずかな音が三人の寝息だけになったのを確認して、ルトが
「眠れないならザックさんと、今のうちに、ちょっと大人のハナシをしておきますか?」
「しときたいね。“彷徨えるフェンリル”と“燭乱天使”の関係とか。」
フィオリナも笑った。
ザックは、露骨に顔を顰めた。
「だいたい、姫さんの思っているとおりだよ。
ただ、同じヴァルゴールの配下とは言っても、俺達みたいにヴァルゴールに従属させられているものと、クリュークのように契約により、ヴァルゴールの力を利用しているものとは立場が違うんだ。」
「おや、仕えている神様を呼び捨てなの?」
「従属させられている、と言っただろ。
命令には従うし、主の不利益になることはできねえが、ぐちを零そうが、陰口を叩こうがそれは自由ってもんだ。」
「それはまた随分と寛大な“従属”ですね。」
「なにと比較して寛大なのか、俺は知らん。」
ザックはちょっといらいらしたようだった。
「ルトよ。おまえは信じないかもしれないが、昔は俺はこれでもモテモテだったんだぜ。
クリュークの策にはまって、ヴァルゴートなんぞに従属させられるまでは、な。
いまじゃあ、この『ふざけた体質』を利用して体当たりしてぶん殴るのがすっかり芸風になっちまった。
いまの俺の姿をみたら、昔の仲間はさぞや嘆くだろうぜ。
いや、そもそも気づいてもくれないか。」
「今回の一件であなた方の任務はなんですか?」
「ハルト王子が募集しているパーティに手を貸す体で潜り込み、迷宮内にて適当なタイミングでハルト王子を謀殺すること。」
「なるほど、じゃあ、現状は、ある意味、大失敗ってわけですね。」
「まったく、ある意味、失敗だな。」
「クリュークの目的は?」
フィオリナが目を細めて言う。
鋭すぎる眼光を抑えたいときにする仕草だ。
「俺たちは下っ端もいいところでね。何も聞かされていないが、推測でいいかい?」
「構わない。話してみろ。」
「クリュークたちは、ひとつの冒険者のクランとしては、でかく、強くなりすぎている。」
ザックはすらすらと言った。
「確かに高位貴族に匹敵する扱いはうけているが、あくまで匹敵する、であって、貴族ではない。
名誉はある、金もある。
ただ、領地がない。」
「領地経営をしたいのか?」
フィオリナが呆れたように言った。
「あれはあれで、苦労が耐えないものだがな!」
「クリュークは自分の好きにできる『国』がほしいのさ。
その国をどうしたいとか、あるいはクリュークがよい王さまになるかどうか、いやよい王さまになろうとするかどうかもわからん。
だが、とにかく“燭乱天使”はなにかの組織の支配下に置かれるにはふさわしくない存在になっちまったんだ。」
「なるほど、目標はこの『国』ですか。するといまの“王”もそのご子息も」
エルマートが寝言でリアの名前をささやいている。
いらっとする気持ちを抑えてルトは言った。
「傀儡にしますか? それとも追放? 処刑?
そもそも、エルマートとハルトの後継者争いなどどうでもよい?」
「おいおい。俺は下っ端もいいところで、推測でしゃべってるだけだと言っただろう?
そこまではお手上げだ。
・・・だが、これも俺の推測だが・・・・いいかい?」
「なんだか、ペースをとられたような気がしますね・・・」
ルトは顔を顰めた。
「どうぞ、お好きに。」
「クリュークは、『まだ決めてない』。
どう事態が転がるか、この国に今後、活用するに足る人材がいるか、その者たちが簒奪に対してどう動くか。
なにがどうなろうが、誰がどう動こうが、そのすべてに対処できるように、クリュークは策を練り、準備を整えている。
姫さんがいくらすごい魔力をもっていようが、その・・・ハルトとやらが、秘めた力があろうが、すべては、クリュークの掌のうえで踊っているだけ・・・・」
「では、なぜ、この国を選んだのか。」
フィオリナは、額に拳を当てて、ザックを睨んだ。
「すでに、半ば“燭乱天使”の支配下にあるといってもいい西域の国々からは選ばず、この北方の小国を選んだのか。」
ザックは、こつん、と床を蹴った。
「ここさ。」
「魔王宮?」
「然り。」
やや芝居がかった口調でザックは言った。
「およそ、西方諸国、南方領域、はるかなる東方まで含めれば、神話、伝説に彩られし、未踏破の迷宮は数あれど、この魔王宮は、あまりにも特別なのさ。」
「なるほど。」
ルトが笑っている。
口元を隠しながら。
「なるほど。特別な迷宮だと。
で、どう特別だと考えているのです?」
「この迷宮は」
「ちょっと待て!」
フィオリナが二人を静止した。
目を閉じて、顎を少し持ち上げる。
においを嗅ぐような仕草にも見えた。
「なにか…が来る。様子を見てくる。ルトとザックは待機。
わたし一人でいい。」
迷宮の一室には、沈黙が流れた。
わずかな音が三人の寝息だけになったのを確認して、ルトが
「眠れないならザックさんと、今のうちに、ちょっと大人のハナシをしておきますか?」
「しときたいね。“彷徨えるフェンリル”と“燭乱天使”の関係とか。」
フィオリナも笑った。
ザックは、露骨に顔を顰めた。
「だいたい、姫さんの思っているとおりだよ。
ただ、同じヴァルゴールの配下とは言っても、俺達みたいにヴァルゴールに従属させられているものと、クリュークのように契約により、ヴァルゴールの力を利用しているものとは立場が違うんだ。」
「おや、仕えている神様を呼び捨てなの?」
「従属させられている、と言っただろ。
命令には従うし、主の不利益になることはできねえが、ぐちを零そうが、陰口を叩こうがそれは自由ってもんだ。」
「それはまた随分と寛大な“従属”ですね。」
「なにと比較して寛大なのか、俺は知らん。」
ザックはちょっといらいらしたようだった。
「ルトよ。おまえは信じないかもしれないが、昔は俺はこれでもモテモテだったんだぜ。
クリュークの策にはまって、ヴァルゴートなんぞに従属させられるまでは、な。
いまじゃあ、この『ふざけた体質』を利用して体当たりしてぶん殴るのがすっかり芸風になっちまった。
いまの俺の姿をみたら、昔の仲間はさぞや嘆くだろうぜ。
いや、そもそも気づいてもくれないか。」
「今回の一件であなた方の任務はなんですか?」
「ハルト王子が募集しているパーティに手を貸す体で潜り込み、迷宮内にて適当なタイミングでハルト王子を謀殺すること。」
「なるほど、じゃあ、現状は、ある意味、大失敗ってわけですね。」
「まったく、ある意味、失敗だな。」
「クリュークの目的は?」
フィオリナが目を細めて言う。
鋭すぎる眼光を抑えたいときにする仕草だ。
「俺たちは下っ端もいいところでね。何も聞かされていないが、推測でいいかい?」
「構わない。話してみろ。」
「クリュークたちは、ひとつの冒険者のクランとしては、でかく、強くなりすぎている。」
ザックはすらすらと言った。
「確かに高位貴族に匹敵する扱いはうけているが、あくまで匹敵する、であって、貴族ではない。
名誉はある、金もある。
ただ、領地がない。」
「領地経営をしたいのか?」
フィオリナが呆れたように言った。
「あれはあれで、苦労が耐えないものだがな!」
「クリュークは自分の好きにできる『国』がほしいのさ。
その国をどうしたいとか、あるいはクリュークがよい王さまになるかどうか、いやよい王さまになろうとするかどうかもわからん。
だが、とにかく“燭乱天使”はなにかの組織の支配下に置かれるにはふさわしくない存在になっちまったんだ。」
「なるほど、目標はこの『国』ですか。するといまの“王”もそのご子息も」
エルマートが寝言でリアの名前をささやいている。
いらっとする気持ちを抑えてルトは言った。
「傀儡にしますか? それとも追放? 処刑?
そもそも、エルマートとハルトの後継者争いなどどうでもよい?」
「おいおい。俺は下っ端もいいところで、推測でしゃべってるだけだと言っただろう?
そこまではお手上げだ。
・・・だが、これも俺の推測だが・・・・いいかい?」
「なんだか、ペースをとられたような気がしますね・・・」
ルトは顔を顰めた。
「どうぞ、お好きに。」
「クリュークは、『まだ決めてない』。
どう事態が転がるか、この国に今後、活用するに足る人材がいるか、その者たちが簒奪に対してどう動くか。
なにがどうなろうが、誰がどう動こうが、そのすべてに対処できるように、クリュークは策を練り、準備を整えている。
姫さんがいくらすごい魔力をもっていようが、その・・・ハルトとやらが、秘めた力があろうが、すべては、クリュークの掌のうえで踊っているだけ・・・・」
「では、なぜ、この国を選んだのか。」
フィオリナは、額に拳を当てて、ザックを睨んだ。
「すでに、半ば“燭乱天使”の支配下にあるといってもいい西域の国々からは選ばず、この北方の小国を選んだのか。」
ザックは、こつん、と床を蹴った。
「ここさ。」
「魔王宮?」
「然り。」
やや芝居がかった口調でザックは言った。
「およそ、西方諸国、南方領域、はるかなる東方まで含めれば、神話、伝説に彩られし、未踏破の迷宮は数あれど、この魔王宮は、あまりにも特別なのさ。」
「なるほど。」
ルトが笑っている。
口元を隠しながら。
「なるほど。特別な迷宮だと。
で、どう特別だと考えているのです?」
「この迷宮は」
「ちょっと待て!」
フィオリナが二人を静止した。
目を閉じて、顎を少し持ち上げる。
においを嗅ぐような仕草にも見えた。
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わたし一人でいい。」
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