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第24話 どろどろの恋愛関係を迷宮に持ち込まないでくれ!
しおりを挟む足元の石畳はよく整備され、穴やでこぼこはない。
空気はやや冷たく、重い湿気はこもっていたものの、イヤな匂いや、もちろん有害物もない。
ところどころに設置されたランプは、充分ではないにしろ、歩くのに支障はない程度の光は投げかけてくれる。。
周りの警戒も罠の発見も、ヨウィスの糸がやってくれるので、フィオリナには地上を散歩しているのとかわらない。
リヨンはときどき、鼻を鳴らして匂いを嗅いでみたり、壁に爪を立ててみたりしている。
無駄な行動ではなく、恐らく迷路が複雑化したときのための目印を作っていたのだ。
ルトは、ときどき立ち止まっては壁の材質などを確かめては小走りにあとを追いかけるというのを繰り返していた。
リアとエルマートの疲労のため、例の最後尾をやや遅れながら歩く以外は、全員が「順調そのもの」と感じていた。
リトとエルマートにしても荷物を持たされているわけではなく、ただただ歩いているだけなのだが、それでもまともな神経の者には、迷宮を歩く・・・ということはそれだけで緊張を強いられるものであった。
「あのさ。」
と、エルマートに話かけられて、リアは少し緊張したが、彼の疲れ果てた顔をみて、これは口説くためではないな、と判断したのか
「なに?」
と言葉を返した。
「あれからどうなった?」
「あれから? 学校を辞めさせられてから? ほとんど無一文で家からも放り出されたよっ。」
「いや、そうじゃなくって、ぼくと別れてから・・・・」
そこまで話を戻すんかいっ、とリアは眉間にしわをよせたが、そういうやつだったと思い直して、返事を返した。
「別れるもなにも別に付き合ってたわけじゃないけど?」
そ、そうなの?
と言って、エルマートはしょげかえった。兄王子よりも背が高く、いわゆる男前の彼がそうするのは、見ていても情けないものだった。
「ああいうことは、付き合ってる男女がするものだって、思ってたから。」
「あぁああああぁああああ? なあにぃ?なんのハナシかなあ? ぜんぜんわかんない。」
「イリアは、今はあのルトっていう冒険者と付き合ってるの。」
そういう意味では付き合っていなかった。
思えば、出会ってから何日たっただろう。
同じ日に、冒険者登録をしたばかりの坊やのはずなのに、ずいぶんと長く一緒にいたような気がする。
男女のことは男女のこと、だ。
リアはとりあえず、彼の傍らに居場所が欲しかった。そのためには今は冒険者としての力を積むしかない。
直接、目の前にぶら下がってる課題は「ここから無事生還すること」であるが、どうも公爵家のお姫さまは、もう少し探索を続けたいご様子だった。
“階層主をぶっ倒す”
とか言ってたのは聞き違いだと信じたい。
「あんな感じのやつが好きなんだね・・・・そう言えばハルトにい、によく似ている。」
「・・・・え?」
確かに気が付かなかったが言われてみれば、よく雰囲気は似ていた。歳はルトのほうが少し下だったが、顔立ちも話し方も。
「きみがハルトにいに、近づいたときもぼくは何も出来なかった。
女性の気持ちなんて、いや、ひとの気持ちなんて、王子に産まれたぼくにはわからない。
ただ、やっぱり、その…結婚の相手は王太子のほうがいいのか、と。そう思って。」
「わたしんとこに、王さまのシノビみたいな人がある夜、訪れてね。」
そこらへんは思い出したくもなければ語りたくもなかった。
わたしは、街のならず者でもない。王立学院の生徒でもない。冒険者だ。ああルト。ルト。
“エルマート殿下はこれから婚約者を選ばねばならない立場です。舞踏会をはじめ学院の公式の行事への同行はお辞めください。
この先、あなたが寵姫として、殿下にお側にいることを望むなら、すべてはひっそりと。
影の中で。”
「そんな酷いことを言ったのか! 王室の影だな! 言ったものを探し出して処罰してやる!」
「どうかなぁ。彼女はわたしを脅したり、非難したり、軽蔑したりはしなかった。
逆に感謝されたよ。『ありがとう』って言われたよ。
王子を大人にしてくれてありがとうって。それで」
涙は勝手にあふれた。
「お金を渡された。分かってて渡したのかはわからないけど、高級な娼婦を買えるくらいの金額だった。好きなひとと、したそういう行為がお金になっちゃったらもう」
顔を手で覆ってしゃがみ込む。
「もう、別れるしかないじゃない。」
「このあたりの壁は、ルアルアカビが繁茂してます。この胞子を吸い込むと、感情的に不安定になることが、多くて気をつけて・・・・ってもう遅かったですね。」
いつの間にか寄ってきたルトがリアの肩をぽんぽんと叩いた。
「イリアとリアとどっちで呼ぼうか?」
「・・・・・リアがいい。リアでいさせて。」
「ヨウィス! リアが疲れてるようです。休憩にしましょう。」
歩いた時間は二刻ほどだっただろうか。
ヨウィスとフィオリナは、二言三言言葉をかわしたが
「ヨウィスが糸で探ったところでは、このさきに泉があるようだ。魔物もいないようだし、そこまで行って今日はもう休むことにする。
もう少し頑張れるか?」
リアは泣きながら頷いた。
エルマートが肩を支えたが、リアは拒もうとはしなかった。もたれかかるようにして、そのままゆっくりと歩みを続ける。
「・・・・なんだ? ルアルアカビって。」
フィオリナが、ルトのそばに寄ってささやいた。
「さっき話した通りですよ。迷宮内の壁に繁茂して、近くを通る人間に悪夢を見させる。特に害はそれだけで、ふつうは一晩眠れば回復します。」
「はじめて聞くな。どこで学んだ?」
「本に書いてありましたよ。」
「なんて本?」
「ルト君のその場限りの博物学大全」
プッとフィオリナは吹き出した。
怒り出すやつも多いのだが、やっぱりこの姫さんとは相性がいいんだな、とルトは思った。
「それはそうとフラれたのか? ルト。」
うれしそうにすんな!
と言う目でフィオリナを睨みながら、朗らかにルトは答えた。
「もともと、付き合ってませんよ。」
「よりにもよって、絶倫・軽薄・不実が合言葉、王宮の種馬ことエルマート君に彼女をとられるとは、あーーかわいそう。かわいそうで見てられないなあ。」
「お、王宮の種馬!」
ルトはエルマートとリアを振り返った。
エルマートはリアの髪を撫でながら、なおも泣きじゃくるリアになにやらさかんに話しかけている。
ちょっとイヤな気がしたので、恋愛感情まではいかなくてもそれなりにリアのことは気に入っていたのだろう。
「そんな仇名で呼ばれてたんですか? あの・・・・殿下。」
「パーティにいる間はエルマートでいい。だいたいそういうもんだ。」
フィオリナは、ため息をついた。
「エルマートが荒れだしたのは、そうか。イリアとそういうことがあったころからだな。
で、父上の策略でイリアが、ハルトにちょっかいをかけたのを見て、はあ」
こめかみを抑えて、もう一度ためいきをついた。
「ハルトとわたしの婚約がダメになったのを見て、今度はハルトの婚約者を自分が奪おう、と考えたのか? いやそこまでは考えすぎか。単にわたしが美しすぎるのが、いけなかったのか。」
「あの公爵のお姫さま?」
「フィオリナって呼べ! パーティではそういうもんだ。」
「あ、はい、フィオリナ・・・さま。」
「さま、はいらない! フィオリナ!」
「そこ!」
叱責と一緒に斬糸が飛んできて、フィオリナとルトは慌てて、距離をとった。
先頭を歩くヨウィスが、振り返って睨んでいる。
「うちのパーティは恋愛禁止! 特にフィオリナはハルト以外とは絶対くっついたらダメ!」
と言ってから首をかしげた。
「あれ? でもこの二人も悪く・・・ない? 王子と公爵令嬢・・・その小姓とのもつれた情欲の糸が・・・」
口元に光ったのはまさか、よだれか。
ぐいっと口をぬぐって
「着いた。」
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