婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
22 / 248

第22話 爆誕!ヨウィスちゃんと愉快な仲間たち

しおりを挟む
がう

とリヨンが吠えた。

虎っぽい隈取はしているものの、別に口が耳まで裂けているわけでも歯が肉食獣のそれに変じているわけでもないので、なんとなく雰囲気で獣っぽさを出しているだけで、まあ、見方によってはかわいらしい、とさえ言える。

力尽きたジャイアントスパイダーは、ほぼバラバラの惨殺死体となって、転がっていた。
その胴体の上で、リヨンは吠えてみたのだが、勝利の雄叫びというほどの迫力もなく、戦いの間は呆然自失だったエルマートが、無遠慮にその胸をじろじろ見るので、ルトは、ジャケットをかけてやった。

「さて、ここはどこだ?」

いまひとつ緊張感のない声でフィオリナが言う。

少なくとも「魔王宮」のどこかには違いなく、兜を脱ぐにはタイミングが早すぎるのだが、フィオリナは気にしない。

「第一層のどこかだと、思う。」
ヨウィスは、相変わらず、下を向いてあやとりに集中していたが、エルマートとリア以外のメンバーはそれが周りを探索し、危険な魔物を察知する(場合によっては迎撃する)ための行動とわかっていた。

「迷宮では階層をまたがっての転移は転移陣がないとできないはず。」

「こいつは結局、かいそう・・・ぬし?じゃなかったってこと?」
リアは不安そうではあったものの、ルトとフィオリナが飄々としているので、少なくともパニックにはなっていない。

「階層主が倒されれば、第二層への入口が開く。どこにもそれが感知できない以上、階層主は別にいる。」

「え、え、え・・・じゃもっとすごい魔物がいるわけ? そんな・・・」

リアは胸を抱きしめるようにしてあたりを見回した。

照明は薄暗く、石造りの床と壁は闇に溶け込んで果てしなく続いているように見えた。

「大丈夫、『ヨウィスと愉快な仲間たち』のリーダーは功を焦ってパーティを危険にさらすようなマネはぜったいしない。」

ヨウィスは胸に手をあてて、うんうんと頷いた。

「なに? 『ヨウィスと愉快な』って。」
「この臨時パーティの名称だ。いやならいくつか候補があるから選んでいい。
『ヨウィスと哀れな下僕たち』
『ヨウィスファンクラブ』
『ヨウィスちゃんと5人のしもべ』」

「ヨウィスがリーダーなのは決定なわけ?」

「それはそうだ。そっちの少年少女は冒険者の初心者だそうだし。『栄光の盾』の二人はバカ。そして、ギルドマスターはパーティリーダーを兼任できないことになっている。
消去法でわたししかいない。」

「・・・・・」

「ついでに『収納袋』を持っているのもわたしだし。水とか食料はたぶん1年分くらいあるけど、だせるのはわたしだけだし。」

「ヨウィスがリーダーで賛成」

上がった手はエルマートを除く全員。

「こ、ここは、どこなんだ。」

リヨンがジャケットを羽織って肌を隠したところで、あらためて正気に戻ったのかエルマートが叫んだ。

「み、みんなは。父上は? クリュークはどこだ?」

「王様たちは、みんな避難したよ。」
リヨンがバカにしたように鼻をならした。
「あんたが、居残って戦いを見物してたんでしょ? この中ボス蜘蛛とわたしたちが戦ってる最中にあんたが突っ込んできて、おかげで転移にまきこまれたってワケ。」

エルマートは恐る恐るフィオリナを見た。

「だいたいあってる。」

にっこり笑ったつもりだったが、またエルマートの顔色が悪くなった。そんなに怖いのか、わたし。

「たぶん、さっきの転移はお互いの場所を入れ替える『交換転移』だ。』

ルトは壁を触りながら言った。リアよりも夜目の効くルトには、ところどころに棺が置かれているのがわかる。

「場所は、たぶん『風の使者』が魔法型のジャイアントスパイダーと遭遇した場所。霊安室だと思う。」

「『風の使者』たちもいない。」
フィオリナが言った。
「すると、わたしたちと金属蜘蛛。『風の使者』と魔法蜘蛛をそっくり入れ替えるような転移だったわけか。パーティの人数も同じだし、理屈は合うかもね。」

「ぶ、無事に出られるのだろうな、ここから。」

エルマートがうじうじと喚いたが、フィオリナに睨まれた黙り込んだ。

「なんなら、このまま第六層を目指してもいいかも、ね?」

なんで自分がニッコリするたびにエルマートが総毛立つのか。少なくとも群を抜いた美人であることを自覚しているフィオリナにはさすがに不満だった。

「ほら、王子さまに、そのパーティ『栄光の盾』のペイント女、見届人の『白狼』のヨウィスもいるんだから、条件に不足はないんじゃない?」

“それに、もうひとりの王子さまとそのどちらかの王妃候補もいるわけか。これ以上完璧な布陣はないんじゃないか?”

誰の思考かはいちいち書かないが、そういうことであった。

「では、リーダーも決まったことだし、休憩にしよう。」

ヨウィスは、さっさと座り込むと、パンとミルク、それに果物を干したものを出した。

エルマートはなるべくフィオリナと離れて、リアにそばに座ろうとしたが、リアはそれをさけて、ルトの隣にこようとするし、それをフィオリナが邪魔をしようとするし、その様子をリヨンがものすごく面白がるので、ヨウィスは明らかにイライラしはじめ

「最初にこのパーティのルールを決める。パーティ内では恋愛禁止!」

なにやら、いちばんショックを受けたのはエルマートだった。アホか。

「でも、若い男女が一緒にいるんだから・・・」
「あと、恋愛感情のない交尾も禁止!」

相変わらず身も蓋もない言い方するなあ。

とルトとフィオリナは思った。

「あ、あのその両方の合意があっても?」

「両方の合意がなければ、改めて定める必要もなく禁止だ!」

それはそうだ!とルトとフィオリナは頷いた。

「そもそもこの中で成人に達してるものは? エルマート王子、あなたは?」

「14です・・・・」
「たぶん聞かれてないけどリヨン、18才です。西方領域だと18が成人のとこが多いよ!」
「リアです。一応16です。」
「えっと、ルト。14・・・かな。」
「フィオリナ16だ。そういうヨウィス、あんたっていくつだっけ?」

「魔道院の12回生・・・・」
「えぇ、知らなかった・・・じゃ、24か5?」
「飛び級してるから、まだ22だよ、姫!」

外見だけならこの呉越同舟のパーティでも最も幼なげに見える少女は、言い返した。

「そう言えば、ヨウィスのやりたいことってなに?」

「・・・・」

ルトが手をあげた。
「蜘蛛をぶちのめしたやつから、願望の優先権をって、ぼくが言ってやつ?」

「ま、実際、こいつの」フィオリナは、じぶんの腰掛けになっている蜘蛛の頭部をつんつんした「糸はけっこうやっかいだったから、ヨウィスが来てくれたのはとっても助かったのは事実なんだけど。」

「あ、ぼくのはそのイリアと」

「エルマートクンには聞いてないよ?」

エルマートは遠くを見ながらパンを齧った。
もともと、さっきまで戦闘を片目に見ながら飲み食いしていた彼は、それほど腹もすいてはいなかったのだろう。あまり美味しそうに食べてはいなかった。

「わ、わたしは、一人前の冒険者になりたいです。で、できればその・・・ルトと・・・」

「イリア、それは、ちょっとまって、あとで話をしよう?」

フィオリナは苦笑いを浮かべた。顔立ちは違うがそんなところは父の公爵によく似ていた。

「わたしのやりたいこと? 姫にひとつお願いがある。」

意を決したように、ヨウィスは顔をあげた。

「わたしに? なんだろ? まあ、蜘蛛退治には助けられたし、いまもこうやって、ヨウィスのおかげでご飯にありついてるわけだから・・・できることなら適えるけど。」

「姫にしか出来ないこと」
ヨウィスは、真剣な顔でまっすぐにフィオリナを見つめた。ヨウィスを知るものなら、これがめったに無い行動だとわかっていた。
フィオリナも真顔に戻り、やや口調を改めて言った。

「クローディア公爵家長子にして、『不死鳥の冠』ギルドマスター、フィオリナ=クローディアがその名誉にかけて誓う。
望みを申せ。“隠者”ヨウィスよ。」

「ハルトとヨリを戻してほしい。」

何を言い出すんだ、こいつ。

全員の思いは共通していたので、ルトがミルクをむせこんでもあまり目立たなかった。

「あの・・・な。わたしは婚約を破棄されたんだぞ。それも一方的にだ。
それを頼むならハルトだろ?」

「ハルトは、魔道院のじっさまのとこを出てったあと、行方不明。
それにあの婚約破棄は、王位の継承がごたごたするのがわかってそれに、親父殿と姫を巻き込みたくなかったからしたものだってことは、もうわかってる。」

「そ、そうなのか!!」

「エルマートは黙れ」

「は、はいフィオリナ先輩・・・・」

「幸い・・・というか、ハルトはパーティの編成もできない。魔王宮攻略に参加もできない。バカなほうは、王の依怙贔屓があるから、一流冒険者でパーティを組ましてもらってる。迷宮をどこまで攻略できるか、以前にもう勝敗はついた。

王太子はバカで決まり。ハルトは、王に疎まれてるから、たぶん爵位どころか捨扶持ももらえずに路頭をさまようことになる。

だから、あとはフィオリナがハルトを見つけて、ご飯と泊まるとこを用意してやれば絶対寄ってくる。」

“捨て犬とか野良猫の餌付けとかそっちの話だよね”
とリアがルトに囁いた。

「まあ・・・それで、陛下がよいと言ってくれれば、まあ、うん。わたしはアリな話かな・・・」

ルトをチラ見しながら、フィオリナは言う。

「陛下はともかく、ここに次期陛下がいる。」

エルマートの顔色は、奇女ふたりの視線にさらされて、青を通り越して白くなった。

「幸いにいっしょにパーティを組み、命を救われたパーティリーダーの頼みを断ることなどありえないと思うが、もし、一人だけ行方不明になるヒトがいるとすると・・・」

「はぃいいいいい、わかりましたあ。ぼくが王太子になった暁には、ハルトにいは、あらためて、クローディア公爵家に嫁がせますぅ。約束です。ぜったいです。」

「え? いいの? エルマートはわたしと結婚したかった?んだよねえ。」
クローディアはほんとに怖い笑みを浮かべてエルマートにささやいた。

「す、すいませんでしたあ。ぼくには先輩はやっぱり無理でした。ぼくは・・その、イリアと。」

「わ、わたしは、冒険者になります。そして、ルトと。」

「なるなる」
リヨンは、しっぽがあればぴょこぴょこ動かしたいような顔で言った。
「で、さあ。坊やはどうするの?」

「どうするって・・・ぼくは魔王宮に来たくて冒険者になったんです。
ここで、やりたいことがあってそれはまだ果たせていません。」

「ふうん」
フィオリナが目をふせる。
「“魔王宮でやりたいこと”については聞かないでおいてあげる。
なんだか、裏がありそうだしね。こんど、ふたりのときに、ね。」

「姫! なんでその坊やを口説きかかる!」
ヨウィスがむっとしたように言った。
「パーティでは恋愛は禁止!」

「あのですね・・・なんでヨウィスさんは、そのフィオリナとハルトをくっつけようとするんですか?」

「あの二人はよい。」

ヨウィスはうっとりと天井を見上げた。かわいらしい顔立ちではあったが、なんとなく気味の悪いものを感じて、ルトはぞっとした。

「特別な輝きを持って産まれた、しかし孤独だった魂が惹かれ合い・・・ひとつになる。絡み合い、縺れ合い、それでもともに手を取り合って未来に進んでいく。」
ううっと、ヨウィスは嗚咽をもらした。

「と、尊い・・・・」

「あ、あれか、カップル推しかっ」

「まじめに聞くだけ、時間の無駄だったわ。
ヨウィス、休憩は終わり。どっちに進むの? できればここの階層主はぶちのめしてから帰るから!」

迷宮の階層主が八つ当たりの対象にされるのか。
と、全員が思ったが、賢明にも誰も口にはださなかった。

しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...