婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
16 / 248

第16話 真実の愛とやらの正体

しおりを挟む
さて。

「彷徨えるフェンリル」は、爆発とともに、屍人の群れが這い出たときには、その他冒険者に交じってかなり後方にいた。
なにしろ、数日前に冒険者登録したばかりの子ども(ひとりは16歳で一応成人年齢ではあるが)を連れているのだ。
戦闘には慎重にならざるを得ない。

こんなときに「いいところを見せよう」と張り切って、思わぬ損傷を受けたりするパーティもまま、あるのだが「彷徨えるフェンリル」は、そんなものとは無縁のようだった。

リナは最初の爆発音には耐えたが、瘴気の噴出と屍人の大量発生、それが一瞬で壊滅する様子にはさすがに、その場にへたり込んで、しばらく立ち上がれなかった。

単に刺激が強すぎる光景にショックを受けたばかりではなく、屍人を屠った技に衝撃をようだった。

「い、一流の冒険者ってあんなにすごいんですか。わたしにはとっても、む、っ無理です・・・」

「糸使い・・・しかもかなりの腕前ね。どこのパーティにいるのかしら。どこから糸を繰ってるのか、見えなかった。
ザック?」

「ちょいと離れ過ぎだな・・・が、方向はわかる。
たぶん、クローディア公爵のパーティだ。見届け役かなんだか知らねえが、こりゃ、自分で迷宮を制覇しちまう勢いだぜ。」

「しかし、すさまじいもんじゃのう。」
トッドが髭をしごきながらつぶやいた。
「こりゃ、残骸を片付けるだけで、半刻はかかるじゃろ。
それまでは、迷宮探索もおあずけじゃ。
どうじゃ、冷たい白酒に串焼きで昼飯は・・・・」

「あれを見たあとで飯を食う気になるのはたいしたもんだ。」
陰気な召喚術師が、皮肉な笑みを浮かべた。
「だが、なんだかこの・・・出陣式みたいなのは一時中止になりそうだ。ここからいったん立ち去るのがいいのは間違いないな。」

「え、それはどういう・・・・」

「あれを片付ける仕事を押し付けられると困るからだね、リア。」

ルトは、リアに手を貸してやりながら言った。

「お金になるかどうか、わからないし。命の危険はないけど、ものすごい臭いだし、服が使い物にならないくらいに汚れる。あの黒っぽい液体に触れると悪くすると熱病になることもある。」

「けっこう、世慣れてるくせに女の子に奥手なのは、不思議よね。」
ほんわかとした回復術の使い手カウラは、ふうっとリアに息を吹きかけた。

リアの体が清水をあびたようにしゃんとする。

「あ、ありがとうございます。これって回復魔法??」

「そんな大したものじゃないから。じゃ、荷物をよろしく、少し休みましょ。」


先日、フィオリナと思わぬ邂逅をはたしたあと、リアは、何かをできる状態ではなく、ルトは結局、リアを宿に連れ帰って、彼女の身の上話を一通り、聞くことになったのだ。

彼女は、王都でもわりと下町っぽい、それこそあまり治安のよくないところで育ち、地元の「ガキども」(と彼女は言った)のまとめ役をしていたらしい。

彼女の奇妙な能力(それを魔法とは知らずに使っていたらしいが)を聞きつけたとある男爵家が、けっこうな金品を代償に親から彼女を買い取った。

才能に加えて美人だったので
(とリアは言った)
とある学院にふつうより2年遅れで中途入学し、慣れない学業に苦戦しながらも、魔法ではバツグンの才を表し、また、下町育ちを珍しがる友人も増えてそれなりに楽しく学生生活を送っていたのだが。

あるとき、義父である男爵から、王子さまを誘惑して一夜をともにするように、という命令を受けた。

その王子さまの婚約者というのが、先日、道でばったり出会ってしまったクローディア家のお姫さまだった。

なぜ、婚約者がいる王子を誘惑、しかも具体的な行為(実際にリアは使ったのはもっと直接的な表現だった)までしないといけないのか。

それについては「きぞくしゃかいつーのはそういうものかあ」でリアは納得したらしい。

納得するな!と言いたいし、別に貴族社会はそんなものでもない、とルトは思った。

リアはその命令に失敗した。
王子は「まるでルトみたいに」愛想よく話しの相手はしてくれるのだが「ルトと違って」ぜんぜんこちらに関心をよせてくれなかったのだ。

まあ、それはそれで、終わったのだが。

しばらくたったの後、そのバカ王子が、なんとクローディア公爵家のお姫さまに、パーティーの席上で婚約破棄宣言をやらかしたのだ。
リアは、そのパーティーには参加していなかったのだが、きいた話によると。最初、周りはなにかの冗談だと思ったらしい。
だが、王子は本気で、「真実の愛」を見つけたので、別れると宣言し、あまりの無体を止めに入ったご学友二人をぶちのめして会場を去ったそうだ。

その真実の愛の相手として名前があがったのが、リアだった・・・・

これを知った男爵は真っ青になった。

リアが王子とはなにもなく、お茶会以来一度もあっていないと言っても耳をかさず、彼女にほとんど路銀程度の金を与えて、家から追い出したのだ・・・・

「ひどい話だと思わない? と、言うか何がなんだかわからないでしょ。
王子を誘惑させといて、それが姫さまにバレたから、追い出すなんて。
もっとわからないのが、その王子よ、なんでお茶したときにちょっと色目を使われた女がシンジツノアイなのよ。
だったら、せめてこっちが家も学校も追い出されてさ、路頭に迷ってるときに助けてくれてもいいんじゃない?」

「シンジツノアイって、あれだね。」
ルトは空中で指をくるくると回した。
「あらためて、聞くとすごいバカっぽい言い回しだね。」

「でしょ? まあ、噂にきいたけど、その王子さま婚約破棄の責任をとらされて、跡継ぎをクビになって、王宮も追い出されたらしいんだ。
だからま、」
リアは肩をすくめてみせた。
「わたしを助けようって気が、仮にあったとしてもそれどころじゃないのかも、ね。」

話だけ話してすっきりしたのか、そのあとは、ルトは防具の微調整を付き合わされた。

リアが話したように、専用の下着を着込んでから身につけるタイプの胸当て、肩当てだったので、リアが服を脱いだところにローゼたちが、買い物から帰ってきて

「え~~~と、これから?それとも済んできがえてるとこ?」

「どっちでもありません!」

「え~~~と、どっちかというと、これから?」

ということで、ルトは、タイプの違う美女三人に囲まれて、防具の調整をやらされたのだ。
わりと、リアの裸身がわりと平気だったのはフィオリナと話ができたおかげだろうか、とルトは思った。
しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...