婚約破棄で終わらない! 策謀家王子と腕力家公爵令嬢 チートな二人のそれからはじまる物語り

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
10 / 248

第10話 駆け出し冒険者は、深夜に苦悩する

しおりを挟む
さて、困った。

数時間後、「またも」ギルドを叩き出されたルトは、なんだか、調子っぱずれに学院校歌を歌うリアの体を支えながら、夜道に立ち尽くしていた。
『彷徨えるフェンリル』の二人も、ほどよく酔っ払いながら
「じゃあ、明日ね!」
と手をふって去っていったのだが・・・・

「リア、リアってば、飲み過ぎ…」

「くおぉぅらあ、クソ王子ぃ!」

リアは充分、美人の範疇に含まれていたが、酔っ払いの扱いがそれで楽になるものでもない。

「クソおうじ?」

「あぁ、違った違った、ごめん、ごめんよぉ、ルト。
あのさぁ、わたし、あんたにちょっと似た感じのやつに振られたんだおぉ、このまえさあ。」

ぐいぐい体を押しつけてこられるのは、美人の酔っ払いのほうがたちが悪いかもしれない。

「男爵閣下がさあ、あ、これが義父なんだけど、王子さまを誘惑して、一晩寝てみろって言われてさぁ、なんか会う機会を作ってくれたんだけど、ぜんぜん、ひっかからなくってさあ…」

リアの指が、自分のシャツのボタンをプチプチと外していく。
豊かな双丘が半ばまであらわになった。


ちなみに、ほかに人通りはないとはいえ。

路上である。

「そいつ、婚約者がいてさあ、えっらいとこのお姫さまなんだけど、ほっそくて、背が高くて、目つきがすっげえ怖いやつ。
わたしの方が、ぜったい胸、あるし、優しくしてやれるのにさあ。」

そのまま、ルトにもたれかかるようにしてぐしぐしと泣き出した。

「そのバカ王子が、ダンパで婚約破棄騒動をしでかしたんだよ、そこでわたしの名前が出ちゃって、あわてた義父が、勘当だ、出て行けっ…ねえ、酷くない?酷くね?」

路上である。

ああ、星が綺麗だ。

「ねえねえ、ルトは✕✕?」

わあ、ながれぼしだあ。

「まだ、わたし、泊まるとこ決めてないんだ。ね、ちょっと寒くなってきたよね? あったかくなろ? ね?」

触手攻撃が来ないかなあ。

「そだ。はじめる前にちょっとお湯で体、拭かせてね。お湯つくるくらいの生活魔法はぜんぜん使えたりするから。
ルトもさ、拭いてあげる。いろんなとこ、もう、わたしにまかせてくださいって!

かっがやっける、みどりのだいっちに、あっさがくるぅ、おお、わっかものよ、たっちあがれぇ…」

力を失ったリアの体がビクンッと痙攣した。

えろろろろろろろおおぉぉぉ

わあ、ゲロだあ。

意識を失った少女に軽めのヒールをかける。

意識はないほうが、もうありがたいので二日酔い防止程度のほんとに軽いヤツだ。
呼吸が安らかな寝息に変わるのを確認してから、懐中紙で顔を拭ってやって、なんとかリアを担ぐ。
宿は、それほど上等ではないが、個室だ。
朝、追加の料金を払えばいいだろう。

床で寝るかな。

いや、それでも一緒に部屋で寝たら、まずいのか。
少なくとも目付きの怖いお姫さまはいい顔はしないだろう。

うん。
いささか自暴自棄になったルトはこう考えた。

なるようになって、後でまとめて怒られよう。

魔王宮の入口が開くまで、あと三日。

しおりを挟む
ご覧いただきありがとうございます。なんとか完結しました。彼らの物語はまだ続きます。後日談https://www.alphapolis.co.jp/novel/807186218/844632510
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...