31 / 38
30、大迷宮へようこそ
しおりを挟む
死。
死。
死。
深淵竜の思念が、叩きつけられる。
ロゼル一族のものたちが。
ドロシーが。
体を硬直させて倒れる。
「おまえたちをここで葬る。
そのあとで、ゆっくり本物の鱗を探し出すとしよう。」
闇に沈み込んだゾールの声だけが陰々と響いた。
「犯人の口から自白が取れないのは仕方ない。
死体で我慢しよう。
ここは、我、深淵竜ゾールの世界。たとえお主らが何者であろうとも、どんな力を持っていようとも、ここでは我が支配者だ。
己の無力を嘆いて、嘆いて、嘆いて、死ぬがよい。」
「ニフフ、あなたの出番だ。」
ルトは、ドロシーを抱き上げながらニフフに声をかけた。
『紅玉の瞳』とエミリアは、この思念の嵐の中で、なんとか耐えている。
「閉ざされた世界を破るのは、あなたの御家芸でしょう。
次元竜ニフフさん。」
「できん。」
ニフフはうめくような声で言った。
「閉鎖空間を破れば外の世界に、余波が及ぶ。
ランゴバルド博物館、いやこの街区全てが消滅するエネルギーだ。」
「そうは言ってもさっきからそのためにエネルギーを貯めていたじゃないですか。」
「ルト殿・・・私はな・・・もうこの街に数十年、人間として生きてきた。
愛した女性もいた・・・もちろん、人間だ。この博物館もその職員たちもここを訪れるランゴバルドの住人たちも死なせくはない。」
ニフフは、真っ直ぐにルトを見つめた。
いやに澄んだいい目をしていた。
「あなたなら、この状況をなんとかする方法を持っているのでは?」
「何を根拠にそれを言うのかはわからないけど。」
ルトは言った。
「もしぼくを信じるならば、最大出力でこの世界をぶち破ってくれて結構です。
ランゴバルドには、そよかぜひとつ起きません。」
「信じてよいのだな。」
「ああ・・・なんというか。」
ルトはなんとも言えない顔をしている。
「この度のことに関しては大丈夫です。この先どうなるかまで考えたら、別の感想もあると思いますが。」
ならば。
老人の体が白光を放った。
輝きの中・・・・竜の姿が立ち上がり、咆哮する。
世界がビリビリと震えた。
「ニフフっ! 貴様は・・・・」
「老人の姿をとっているのは、歳を取らぬことをいちいち周りに説明するのが面倒になっただけだ。」
ニフフは、ゾールの言葉を鼻で笑った。
「ぬしは世界を作る。わしは世界を壊す。
まさに炎と水の関係じゃな。わしに関わったことを後悔するがいい。」
その力を使えば、ランゴバルドが崩壊するのだぞっ!
ゾールの叫びは遠くに聞こえ。
床が、壁が。
天井が。
バラバラに崩壊していく。
まるで、舞台のセットが片付けられていくように現実感のない薄っぺらに絵に変わり、それがくるくると巻かれてどこ何片付けられていく。
世界は暗転し。
一向は、瓦礫の山と化したランゴバルド美術館の前に立っていた。
びょうびょうと風の吹く音だけがした。
博物館だけではない。
もともと、行政関係の役所が多い、この地区が丸ごと廃墟になっている。
原型をとどめている建物の方が少ない・・・時刻が時刻だけに、人的な被害は少なかっただろうが・・・・
「こ、これでは・・・」
ニフフは狼狽えたようにルトを見た。
のほほん、とルトは頷いた。
「お見事です。」
「しかし・・・・ランゴバルドに被害は及ばないと・・・
これでは、わしの危惧した通り、この街区は全滅だ。
『暁の戦士』や警備員たちもいたはずなのに・・・・」
「騙されたのだよっ!ニフフ。」
暗い空から、ゾールの声が響いた。
「その、ルトとか言う人間の小僧に、な。
上から見ればよくわかる。
建物が跡形苦もなく粉砕したのは、この街区だけだが、建物の倒壊は隣りにも及んでいる。
あそこはたしか歓楽街だ。
夜中でも人通りは、耐えない街。
ああ、被害は何千人になるのか。あるいは何万人に。」
「ルト殿!」
に悲鳴をあげてルトに掴みかかったニフフは、老人の姿はとっているが、正体は古竜めある。
ルトの体を楽々と持ち上げて、噛みつかんばかりに、食ってかかった。
「ゾール!」
ルトの、声は楽しそうだった。
街をひとつ、瓦礫に変え、何千もの死者やそれに倍する負傷者をだしたなお、その声が出せるのか。
怒りのあまり、目眩すら感じて、ニフフはルトを締めあげた。
「空からよく見えるのなら、じっくりと見てみるんだね。
はたして、壊れた建物に人はいたのかな?」
風の吹く音が。
突如黙りこくってしまったゾールが、地上に降り立った。
減速もせずに、地面に降りたので凄まじい音と、その足元を中心に放射状の、ひび割れが走った。
「ランゴバルドの民をどこへやった!」
ゾールが喚いた。
「ここは、そもそもかの西域に名高い冒険者の国、ランゴバルドではない。」
ルトは実に楽しそうだった。
頭上の空が裂けた。
城塞ほどもある蜘蛛が、降ってくる。
隣の街区を瓦礫にかえて着地した蜘蛛は、ゅっくりと、体の向きを変える。
その動きで建物は、倒壊し、落下した建物の破片がさらに破壊を巻き起こした。
頭部に生えたヒトガタは、最初待ったく人目に止まらなかった。
ぶんぶんと勢いよく手を振って、自己アピールをしたから、やっと気がついたのだ。
「ギムリウス、待ってたよ!」
ルトが叫ぶと、神獣は、両手を振りながら叫び返したのだった。
「迷宮ランゴバルド」にようこそ!
死。
死。
深淵竜の思念が、叩きつけられる。
ロゼル一族のものたちが。
ドロシーが。
体を硬直させて倒れる。
「おまえたちをここで葬る。
そのあとで、ゆっくり本物の鱗を探し出すとしよう。」
闇に沈み込んだゾールの声だけが陰々と響いた。
「犯人の口から自白が取れないのは仕方ない。
死体で我慢しよう。
ここは、我、深淵竜ゾールの世界。たとえお主らが何者であろうとも、どんな力を持っていようとも、ここでは我が支配者だ。
己の無力を嘆いて、嘆いて、嘆いて、死ぬがよい。」
「ニフフ、あなたの出番だ。」
ルトは、ドロシーを抱き上げながらニフフに声をかけた。
『紅玉の瞳』とエミリアは、この思念の嵐の中で、なんとか耐えている。
「閉ざされた世界を破るのは、あなたの御家芸でしょう。
次元竜ニフフさん。」
「できん。」
ニフフはうめくような声で言った。
「閉鎖空間を破れば外の世界に、余波が及ぶ。
ランゴバルド博物館、いやこの街区全てが消滅するエネルギーだ。」
「そうは言ってもさっきからそのためにエネルギーを貯めていたじゃないですか。」
「ルト殿・・・私はな・・・もうこの街に数十年、人間として生きてきた。
愛した女性もいた・・・もちろん、人間だ。この博物館もその職員たちもここを訪れるランゴバルドの住人たちも死なせくはない。」
ニフフは、真っ直ぐにルトを見つめた。
いやに澄んだいい目をしていた。
「あなたなら、この状況をなんとかする方法を持っているのでは?」
「何を根拠にそれを言うのかはわからないけど。」
ルトは言った。
「もしぼくを信じるならば、最大出力でこの世界をぶち破ってくれて結構です。
ランゴバルドには、そよかぜひとつ起きません。」
「信じてよいのだな。」
「ああ・・・なんというか。」
ルトはなんとも言えない顔をしている。
「この度のことに関しては大丈夫です。この先どうなるかまで考えたら、別の感想もあると思いますが。」
ならば。
老人の体が白光を放った。
輝きの中・・・・竜の姿が立ち上がり、咆哮する。
世界がビリビリと震えた。
「ニフフっ! 貴様は・・・・」
「老人の姿をとっているのは、歳を取らぬことをいちいち周りに説明するのが面倒になっただけだ。」
ニフフは、ゾールの言葉を鼻で笑った。
「ぬしは世界を作る。わしは世界を壊す。
まさに炎と水の関係じゃな。わしに関わったことを後悔するがいい。」
その力を使えば、ランゴバルドが崩壊するのだぞっ!
ゾールの叫びは遠くに聞こえ。
床が、壁が。
天井が。
バラバラに崩壊していく。
まるで、舞台のセットが片付けられていくように現実感のない薄っぺらに絵に変わり、それがくるくると巻かれてどこ何片付けられていく。
世界は暗転し。
一向は、瓦礫の山と化したランゴバルド美術館の前に立っていた。
びょうびょうと風の吹く音だけがした。
博物館だけではない。
もともと、行政関係の役所が多い、この地区が丸ごと廃墟になっている。
原型をとどめている建物の方が少ない・・・時刻が時刻だけに、人的な被害は少なかっただろうが・・・・
「こ、これでは・・・」
ニフフは狼狽えたようにルトを見た。
のほほん、とルトは頷いた。
「お見事です。」
「しかし・・・・ランゴバルドに被害は及ばないと・・・
これでは、わしの危惧した通り、この街区は全滅だ。
『暁の戦士』や警備員たちもいたはずなのに・・・・」
「騙されたのだよっ!ニフフ。」
暗い空から、ゾールの声が響いた。
「その、ルトとか言う人間の小僧に、な。
上から見ればよくわかる。
建物が跡形苦もなく粉砕したのは、この街区だけだが、建物の倒壊は隣りにも及んでいる。
あそこはたしか歓楽街だ。
夜中でも人通りは、耐えない街。
ああ、被害は何千人になるのか。あるいは何万人に。」
「ルト殿!」
に悲鳴をあげてルトに掴みかかったニフフは、老人の姿はとっているが、正体は古竜めある。
ルトの体を楽々と持ち上げて、噛みつかんばかりに、食ってかかった。
「ゾール!」
ルトの、声は楽しそうだった。
街をひとつ、瓦礫に変え、何千もの死者やそれに倍する負傷者をだしたなお、その声が出せるのか。
怒りのあまり、目眩すら感じて、ニフフはルトを締めあげた。
「空からよく見えるのなら、じっくりと見てみるんだね。
はたして、壊れた建物に人はいたのかな?」
風の吹く音が。
突如黙りこくってしまったゾールが、地上に降り立った。
減速もせずに、地面に降りたので凄まじい音と、その足元を中心に放射状の、ひび割れが走った。
「ランゴバルドの民をどこへやった!」
ゾールが喚いた。
「ここは、そもそもかの西域に名高い冒険者の国、ランゴバルドではない。」
ルトは実に楽しそうだった。
頭上の空が裂けた。
城塞ほどもある蜘蛛が、降ってくる。
隣の街区を瓦礫にかえて着地した蜘蛛は、ゅっくりと、体の向きを変える。
その動きで建物は、倒壊し、落下した建物の破片がさらに破壊を巻き起こした。
頭部に生えたヒトガタは、最初待ったく人目に止まらなかった。
ぶんぶんと勢いよく手を振って、自己アピールをしたから、やっと気がついたのだ。
「ギムリウス、待ってたよ!」
ルトが叫ぶと、神獣は、両手を振りながら叫び返したのだった。
「迷宮ランゴバルド」にようこそ!
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる