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25、古竜VSもう一人の黒蜥蜴
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『暁の戦士』たちは階段をいくつも降り、また上がり、長い長い廊下を歩いて、また、階段を上がって、降った。
いくら何でも、ランゴバルト博物館がこんなに広いわけはない。
空間に操作が加えられている。
あるいは、別の空間と重ね合わせることで拡張を行っているのか。
ぼくは、目をこらした。術式自体は、それほど、複雑なものではない。ただ、あまりに膨大な魔力が必要なため、人間には構築できないだけだ。
ならば、ここを。
こうして。
こう。
通路は揺らいで消滅し、目の前には、重い鉄の扉が現れた。
場所は、地下なのだろうか。空気が僅かに澱んでいる。
扉は音もなく開いた。
部屋の主は驚いたように振り返る。
ぼくは、黒蜥蜴のマスクを脱ぎ捨てて、真っ直ぐに部屋の主に向かって歩いた。
何か叫ぼうと開きかけた口に、短剣を差し込む。
3歩下がって。
はい、電撃。
鋼糸を伝わって流れた電流は、口内から、ニフフの体を焼いた。
煙を上げてのたうち回るが、なあに、死にはしないだろう。なにせ腐っても古竜だ。
そういえば、このところリアモンド以外に腐ってない古竜にあったことがない。今年は竜運でも悪いんだろうか。
手枷は簡単に外れた。
ギムリウスのスーツは、おへその下まで引き裂かれていた。
あぶない。まさかとは思っていたが、本当に危機一髪もいいところだった。
ニフフが、そんな趣味があるとはわからなかった。
「ルト・・・ニフフは竜よ。竜人じゃなくって本物の竜な、の。」
皮膚がこそげ落とされて、赤黒い肉や骨まで見えている手首に、ぼくは治癒魔法をかける。
肋も何本か折れているようだった。
たぶん、抱きしめる方が先なんだろうけど、ぼくは、それをする資格はないように感じていたし、ドロシーも苦痛を訴えるよりも涙を流すよりも代わりに大事な情報をぼくに伝える方を優先した。
「だから、安心していたんだが。
竜がわざわざ卑小な人間をさらって痛めつけるとか・・・考えられない。」
「ニフフは、『神竜の鱗』を自分のものにするつもりだったの。でも、もう鱗はニセモノとすり替えられていて。
わたしが何か知ってるんじゃないかって問い詰められたんだけど、なにもわからないって、言ったら。」
よしっ!
取り敢えず脇腹にキックだな。
グエっと叫んでニフフが、のたうつ。
「起きろ、蜥蜴。」
竜の鱗なぞ、なにするものか。
魔法にも物理的な打撃にも強いのだが、両方いっぺんには防ぎきれない。
「る、ルト、きさま!」
「もう少しマシな方だと思ってたんですがね。」
人化した古竜だ。回復力だってすごいはずだ。
立ち上がるニフフには、もうダメージのあとはない。
「人間がっ!」
ぼくは、嬉しかった。
とりあえず、ぶち殺す気はなかったから、うっかり、殺してしまわないか気を使わずに、痛ぶれるのはとってもよい。
かあっ
と、開いた口の中にエネルギーが収束する。
ああ、おそい。おそい。おそい。
どのくらいおそいかというと、ぼくが、ニフフの顔に、ギムリウスの糸でつくった黒蜥蜴マスクを被せてやる時間が十分間に合ったくらい。
ぼふっ
音は鈍かった。
ブレスはぼぼ、マスクの中でその威力を発揮したのだ。
おおっ!
神獣ギムリウスの糸で織られたマスクがずたずたになっている。
わざわざ、ぼくの顔に合わせてつくった逸品だったのだが、さすがは竜のプレス。
あとは。彼のもつ、竜鱗とブレス。どっちが強いかの勝負だろう。
髪は全て燃え尽きた。
とっさに、目をつぶるくらいの判断はできたのだろう。
眼球は無事だった。
顔は、皮がめくれ人相がわからなくなっている。
それでも闘志を失わないのは。
たいしたものだ。
抵抗の意思がないものを痛ぶるのは、実はぼくは苦手なんだ。
「わし、は、」
よろよろとニフフは歩いた。耳と口のからケムリふいている。
「リアモンドさ、まの鱗を。」
へえ。
竜化するつもりか?
ここで?
させない。
組み付きながら、投げをうつ。
人間の体術には、人化した竜は不慣れなものが多い。そりゃあそうだろう、もともとがもともとなのだし、人の姿をとっても力ははるかに上。力に任せて攻撃すればそれでどんな人間でも圧倒できる。
だか、バランスの悪い二本の足で歩き、関節も同じ形状をとっている以上、投げ技、関節技が効かないわけがない。
枯れ木の折れる音は、腕の骨が折れた音。
このような傷をおったままだと、変身がしにくくなる。
もちろん、治してから変わればいいのだか。
いいや。そんなスキは与えてやらないね。
ドロシーがぼくのそでをひいた。
「ルト、もういい。」
「え?でも」
「ニフフさまも、お止めください。あなたが神竜の鱗を欲する理由をお聞きする必要があります。」
「確かにそうだね。」
ぼくは賛成した。
「でもドロシー、それはもう少し痛めつけてからにしよう。」
ニフフは、呆然と口を開けた。
歯は全部ふっとんでるし、まだ口のなかが燃えていた。
「る、ルト、ルトさま。あなたさまはいったい?」
「ルトはロウさまとギムリウスのいるバーティのリーダーです。」
ドロシーは冷静に言った。
「あなたがその二つの名に畏れをいだくのなら、ルトとこれ以上戦うのはおすすめしません。」
ぼくは、ドロシーに、上着をかけた。
前を掻き合せながら、ドロシーはこの日はじめて泣いた。
いくら何でも、ランゴバルト博物館がこんなに広いわけはない。
空間に操作が加えられている。
あるいは、別の空間と重ね合わせることで拡張を行っているのか。
ぼくは、目をこらした。術式自体は、それほど、複雑なものではない。ただ、あまりに膨大な魔力が必要なため、人間には構築できないだけだ。
ならば、ここを。
こうして。
こう。
通路は揺らいで消滅し、目の前には、重い鉄の扉が現れた。
場所は、地下なのだろうか。空気が僅かに澱んでいる。
扉は音もなく開いた。
部屋の主は驚いたように振り返る。
ぼくは、黒蜥蜴のマスクを脱ぎ捨てて、真っ直ぐに部屋の主に向かって歩いた。
何か叫ぼうと開きかけた口に、短剣を差し込む。
3歩下がって。
はい、電撃。
鋼糸を伝わって流れた電流は、口内から、ニフフの体を焼いた。
煙を上げてのたうち回るが、なあに、死にはしないだろう。なにせ腐っても古竜だ。
そういえば、このところリアモンド以外に腐ってない古竜にあったことがない。今年は竜運でも悪いんだろうか。
手枷は簡単に外れた。
ギムリウスのスーツは、おへその下まで引き裂かれていた。
あぶない。まさかとは思っていたが、本当に危機一髪もいいところだった。
ニフフが、そんな趣味があるとはわからなかった。
「ルト・・・ニフフは竜よ。竜人じゃなくって本物の竜な、の。」
皮膚がこそげ落とされて、赤黒い肉や骨まで見えている手首に、ぼくは治癒魔法をかける。
肋も何本か折れているようだった。
たぶん、抱きしめる方が先なんだろうけど、ぼくは、それをする資格はないように感じていたし、ドロシーも苦痛を訴えるよりも涙を流すよりも代わりに大事な情報をぼくに伝える方を優先した。
「だから、安心していたんだが。
竜がわざわざ卑小な人間をさらって痛めつけるとか・・・考えられない。」
「ニフフは、『神竜の鱗』を自分のものにするつもりだったの。でも、もう鱗はニセモノとすり替えられていて。
わたしが何か知ってるんじゃないかって問い詰められたんだけど、なにもわからないって、言ったら。」
よしっ!
取り敢えず脇腹にキックだな。
グエっと叫んでニフフが、のたうつ。
「起きろ、蜥蜴。」
竜の鱗なぞ、なにするものか。
魔法にも物理的な打撃にも強いのだが、両方いっぺんには防ぎきれない。
「る、ルト、きさま!」
「もう少しマシな方だと思ってたんですがね。」
人化した古竜だ。回復力だってすごいはずだ。
立ち上がるニフフには、もうダメージのあとはない。
「人間がっ!」
ぼくは、嬉しかった。
とりあえず、ぶち殺す気はなかったから、うっかり、殺してしまわないか気を使わずに、痛ぶれるのはとってもよい。
かあっ
と、開いた口の中にエネルギーが収束する。
ああ、おそい。おそい。おそい。
どのくらいおそいかというと、ぼくが、ニフフの顔に、ギムリウスの糸でつくった黒蜥蜴マスクを被せてやる時間が十分間に合ったくらい。
ぼふっ
音は鈍かった。
ブレスはぼぼ、マスクの中でその威力を発揮したのだ。
おおっ!
神獣ギムリウスの糸で織られたマスクがずたずたになっている。
わざわざ、ぼくの顔に合わせてつくった逸品だったのだが、さすがは竜のプレス。
あとは。彼のもつ、竜鱗とブレス。どっちが強いかの勝負だろう。
髪は全て燃え尽きた。
とっさに、目をつぶるくらいの判断はできたのだろう。
眼球は無事だった。
顔は、皮がめくれ人相がわからなくなっている。
それでも闘志を失わないのは。
たいしたものだ。
抵抗の意思がないものを痛ぶるのは、実はぼくは苦手なんだ。
「わし、は、」
よろよろとニフフは歩いた。耳と口のからケムリふいている。
「リアモンドさ、まの鱗を。」
へえ。
竜化するつもりか?
ここで?
させない。
組み付きながら、投げをうつ。
人間の体術には、人化した竜は不慣れなものが多い。そりゃあそうだろう、もともとがもともとなのだし、人の姿をとっても力ははるかに上。力に任せて攻撃すればそれでどんな人間でも圧倒できる。
だか、バランスの悪い二本の足で歩き、関節も同じ形状をとっている以上、投げ技、関節技が効かないわけがない。
枯れ木の折れる音は、腕の骨が折れた音。
このような傷をおったままだと、変身がしにくくなる。
もちろん、治してから変わればいいのだか。
いいや。そんなスキは与えてやらないね。
ドロシーがぼくのそでをひいた。
「ルト、もういい。」
「え?でも」
「ニフフさまも、お止めください。あなたが神竜の鱗を欲する理由をお聞きする必要があります。」
「確かにそうだね。」
ぼくは賛成した。
「でもドロシー、それはもう少し痛めつけてからにしよう。」
ニフフは、呆然と口を開けた。
歯は全部ふっとんでるし、まだ口のなかが燃えていた。
「る、ルト、ルトさま。あなたさまはいったい?」
「ルトはロウさまとギムリウスのいるバーティのリーダーです。」
ドロシーは冷静に言った。
「あなたがその二つの名に畏れをいだくのなら、ルトとこれ以上戦うのはおすすめしません。」
ぼくは、ドロシーに、上着をかけた。
前を掻き合せながら、ドロシーはこの日はじめて泣いた。
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