48 / 55
魔王になんかなりたくない!
声をきくもの
しおりを挟む
アモンは、泣きじゃくるルルナを引っ張って教室から連れ出した。
そう、竜王は、その名をルルナ=ベルといったが、まあ、それは些細な問題である。
「いいか、このクラスでは時折、わけのわからないことが起きるが、それは無視していい。
特に気をつけなければいけないのが、『踊る道化師』だ。彼らがなにをやってもどんな名前で呼び合っても、深く追求しないこと!
いいな!」
ネイアが後ろでクラスメイトにむかって、講義しているが、それだとまるで、踊る道化師が危険人物の集まりみたいじゃないか。いじめか!
「ふん! 生意気なことをぬかすの! 吸血姫ごときが!」
しゃがれた声は、ヴァルゴールの使徒のひとり、レオノーラだ。けっこうな婆さまなのだが、アキルに自分の邪拳を伝承したくてたまらないらしく、冒険者学校から出ていこうとしない。
ちなみに、ぜひ我が仲間にと三顧の礼をとる、裏社会の組織は十を超える。
「なにかネイア先生に言いましたか? レオノールさん。」
「いえ、なんでもありません、主上。」
うしろのごたごたは、アキルに任せて(ヴァルゴール絡みは本来全部任せていいのだ)、アモンは、ルルナの細い体を、学食までひっぱっていった。
途中、それなりに抵抗したルルナだが、諦めて、学食につくころには、完全に脱力してただの荷物になっていた。
その糸の切れた人形のようなルルナを、隅っこの席にすわらせて、飲み物を持っていってやると、放心状態の顔が、驚愕に震えた。
「リアモンドさまが、自ら飲み物を・・・」
「わたしはアモンだ。出自は竜人。いいな。それ以外の名で呼んだら、元素記号でしか呼べないように分解すると、竜の牙どもに伝えたが、おまえのところまでは達していなかったか。」
ぶんぶんぶん。
と、ルルナは首を振った。おさげがぶるんぶるん揺れて、じゃまだった。
アモンはそれを鷲掴みにすると、顔を近づけて、にいと笑った。
正確には笑いじゃなくて、噛みつこうとする前の動作だ。
「なにをしにきた?」
「あなたに会うためです、リア・・・アモンさま。わたしには助けが必要で、相手はなみの古竜ではあいてにならない。」
「ふん。それはまあ、わかるが、ラントン侯爵家令嬢ルルベルーナは、なんのおふざけだ?」
「ただの、おふざけです。アモンさま。
人間の学校がなにかと行動制限のかかるものだということは、知っていたので、貴族の身分を詐称すれば少しはマシになるかと考えたからです。
自分の主家の名前を名乗るように、提案したのはラントン侯爵家のバーレクです。」
泣きごとを言いながら、徐々に形勢を持ち直していくところは、さすがに竜王だった。
「その、妙なペルソナとはまったく合っていない。」
「侯爵令嬢が、でしょうか、それとも竜王ルルナ=ベルとシテでしょうか?」
「どっちもだ。おまえはまるで、田舎のさして裕福でもない農家の娘で、兄夫婦が結婚することになって居場所がなくなり、都会に出できたばかりのお上りさんにしかみえないな。」
そう言われて、ルルナは、うれしそうに手を叩いた。
「すばらしい!
さすがは、アモン姉さまです。バーレクの考えて設定通りです。わたしの演技力も捨てたものではないってことですわね。」
「人格や記憶まで、偽装する必要があったのか?」
アモンの目は、金色に輝いていた。
この目の色は、アモンの怒りを表している。
「これは、ふざけただけでは通じんぞ。」
「わたしは魔王にならないかと、誘われました。」
ルルナは、あっさりとそう言った。
「それはわたしにとって、あまりにも魅力的な申し出に、感じられたのです。
その考えに支配される前に、わたしはあなたに会いたかった。
でも、その誘惑はあまりに強く・・・」
「そのために、本来の人格を追い込んだのか、ルルナ。」
よい手段だと、思ったのですけどね。
と、言いながら、ルルナは制服の腕をまくった。手の甲から二の腕にかけて無惨なミミズバレが走っていた。
「毎夜。夢にわたしが現れて、わたしを殺そうとするのです。」
「それが、銀灰の悪夢ミルトエッジを倒したベペルーナか。」
「ああ、あの人間はそんな名前でした。」
あっさりとルルナは、言った。
「夢の中ではコロシきれませんでしたけど、いまどうしてます?」
アモンもあっさりと返した。
「命に別状はない。
さて、ここからが本題だ、ルルナ。
おまえを『魔王』に、指名したのは誰だ?」
ルルナは。相変らずの痩せた、あまり裕福では無い農家の娘だった。細い首、そばかすの浮いた顔。日に焼けた肌は、野良仕事によるものだろう。
だが、いまや、どこからどうみてもそうは、見えなかった。
笑った瞬間、唇の端からわずかにのぞいた犬歯は、ま白の牙に見え、瞳は黄金に燃えた。
「それは・・・」
「それは、『世界の声』と名乗っていた。」
さっそうと割り込んできた美影身。
「どうした、残念姫。ルトからふて寝と深酒を繰り返しているときいているが。」
「大きなお世話だ。わたしも『魔王』に指名されたぞ。『世界の声』に。」
そう、竜王は、その名をルルナ=ベルといったが、まあ、それは些細な問題である。
「いいか、このクラスでは時折、わけのわからないことが起きるが、それは無視していい。
特に気をつけなければいけないのが、『踊る道化師』だ。彼らがなにをやってもどんな名前で呼び合っても、深く追求しないこと!
いいな!」
ネイアが後ろでクラスメイトにむかって、講義しているが、それだとまるで、踊る道化師が危険人物の集まりみたいじゃないか。いじめか!
「ふん! 生意気なことをぬかすの! 吸血姫ごときが!」
しゃがれた声は、ヴァルゴールの使徒のひとり、レオノーラだ。けっこうな婆さまなのだが、アキルに自分の邪拳を伝承したくてたまらないらしく、冒険者学校から出ていこうとしない。
ちなみに、ぜひ我が仲間にと三顧の礼をとる、裏社会の組織は十を超える。
「なにかネイア先生に言いましたか? レオノールさん。」
「いえ、なんでもありません、主上。」
うしろのごたごたは、アキルに任せて(ヴァルゴール絡みは本来全部任せていいのだ)、アモンは、ルルナの細い体を、学食までひっぱっていった。
途中、それなりに抵抗したルルナだが、諦めて、学食につくころには、完全に脱力してただの荷物になっていた。
その糸の切れた人形のようなルルナを、隅っこの席にすわらせて、飲み物を持っていってやると、放心状態の顔が、驚愕に震えた。
「リアモンドさまが、自ら飲み物を・・・」
「わたしはアモンだ。出自は竜人。いいな。それ以外の名で呼んだら、元素記号でしか呼べないように分解すると、竜の牙どもに伝えたが、おまえのところまでは達していなかったか。」
ぶんぶんぶん。
と、ルルナは首を振った。おさげがぶるんぶるん揺れて、じゃまだった。
アモンはそれを鷲掴みにすると、顔を近づけて、にいと笑った。
正確には笑いじゃなくて、噛みつこうとする前の動作だ。
「なにをしにきた?」
「あなたに会うためです、リア・・・アモンさま。わたしには助けが必要で、相手はなみの古竜ではあいてにならない。」
「ふん。それはまあ、わかるが、ラントン侯爵家令嬢ルルベルーナは、なんのおふざけだ?」
「ただの、おふざけです。アモンさま。
人間の学校がなにかと行動制限のかかるものだということは、知っていたので、貴族の身分を詐称すれば少しはマシになるかと考えたからです。
自分の主家の名前を名乗るように、提案したのはラントン侯爵家のバーレクです。」
泣きごとを言いながら、徐々に形勢を持ち直していくところは、さすがに竜王だった。
「その、妙なペルソナとはまったく合っていない。」
「侯爵令嬢が、でしょうか、それとも竜王ルルナ=ベルとシテでしょうか?」
「どっちもだ。おまえはまるで、田舎のさして裕福でもない農家の娘で、兄夫婦が結婚することになって居場所がなくなり、都会に出できたばかりのお上りさんにしかみえないな。」
そう言われて、ルルナは、うれしそうに手を叩いた。
「すばらしい!
さすがは、アモン姉さまです。バーレクの考えて設定通りです。わたしの演技力も捨てたものではないってことですわね。」
「人格や記憶まで、偽装する必要があったのか?」
アモンの目は、金色に輝いていた。
この目の色は、アモンの怒りを表している。
「これは、ふざけただけでは通じんぞ。」
「わたしは魔王にならないかと、誘われました。」
ルルナは、あっさりとそう言った。
「それはわたしにとって、あまりにも魅力的な申し出に、感じられたのです。
その考えに支配される前に、わたしはあなたに会いたかった。
でも、その誘惑はあまりに強く・・・」
「そのために、本来の人格を追い込んだのか、ルルナ。」
よい手段だと、思ったのですけどね。
と、言いながら、ルルナは制服の腕をまくった。手の甲から二の腕にかけて無惨なミミズバレが走っていた。
「毎夜。夢にわたしが現れて、わたしを殺そうとするのです。」
「それが、銀灰の悪夢ミルトエッジを倒したベペルーナか。」
「ああ、あの人間はそんな名前でした。」
あっさりとルルナは、言った。
「夢の中ではコロシきれませんでしたけど、いまどうしてます?」
アモンもあっさりと返した。
「命に別状はない。
さて、ここからが本題だ、ルルナ。
おまえを『魔王』に、指名したのは誰だ?」
ルルナは。相変らずの痩せた、あまり裕福では無い農家の娘だった。細い首、そばかすの浮いた顔。日に焼けた肌は、野良仕事によるものだろう。
だが、いまや、どこからどうみてもそうは、見えなかった。
笑った瞬間、唇の端からわずかにのぞいた犬歯は、ま白の牙に見え、瞳は黄金に燃えた。
「それは・・・」
「それは、『世界の声』と名乗っていた。」
さっそうと割り込んできた美影身。
「どうした、残念姫。ルトからふて寝と深酒を繰り返しているときいているが。」
「大きなお世話だ。わたしも『魔王』に指名されたぞ。『世界の声』に。」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる