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魔王になんかなりたくない!
声をきくもの
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アモンは、泣きじゃくるルルナを引っ張って教室から連れ出した。
そう、竜王は、その名をルルナ=ベルといったが、まあ、それは些細な問題である。
「いいか、このクラスでは時折、わけのわからないことが起きるが、それは無視していい。
特に気をつけなければいけないのが、『踊る道化師』だ。彼らがなにをやってもどんな名前で呼び合っても、深く追求しないこと!
いいな!」
ネイアが後ろでクラスメイトにむかって、講義しているが、それだとまるで、踊る道化師が危険人物の集まりみたいじゃないか。いじめか!
「ふん! 生意気なことをぬかすの! 吸血姫ごときが!」
しゃがれた声は、ヴァルゴールの使徒のひとり、レオノーラだ。けっこうな婆さまなのだが、アキルに自分の邪拳を伝承したくてたまらないらしく、冒険者学校から出ていこうとしない。
ちなみに、ぜひ我が仲間にと三顧の礼をとる、裏社会の組織は十を超える。
「なにかネイア先生に言いましたか? レオノールさん。」
「いえ、なんでもありません、主上。」
うしろのごたごたは、アキルに任せて(ヴァルゴール絡みは本来全部任せていいのだ)、アモンは、ルルナの細い体を、学食までひっぱっていった。
途中、それなりに抵抗したルルナだが、諦めて、学食につくころには、完全に脱力してただの荷物になっていた。
その糸の切れた人形のようなルルナを、隅っこの席にすわらせて、飲み物を持っていってやると、放心状態の顔が、驚愕に震えた。
「リアモンドさまが、自ら飲み物を・・・」
「わたしはアモンだ。出自は竜人。いいな。それ以外の名で呼んだら、元素記号でしか呼べないように分解すると、竜の牙どもに伝えたが、おまえのところまでは達していなかったか。」
ぶんぶんぶん。
と、ルルナは首を振った。おさげがぶるんぶるん揺れて、じゃまだった。
アモンはそれを鷲掴みにすると、顔を近づけて、にいと笑った。
正確には笑いじゃなくて、噛みつこうとする前の動作だ。
「なにをしにきた?」
「あなたに会うためです、リア・・・アモンさま。わたしには助けが必要で、相手はなみの古竜ではあいてにならない。」
「ふん。それはまあ、わかるが、ラントン侯爵家令嬢ルルベルーナは、なんのおふざけだ?」
「ただの、おふざけです。アモンさま。
人間の学校がなにかと行動制限のかかるものだということは、知っていたので、貴族の身分を詐称すれば少しはマシになるかと考えたからです。
自分の主家の名前を名乗るように、提案したのはラントン侯爵家のバーレクです。」
泣きごとを言いながら、徐々に形勢を持ち直していくところは、さすがに竜王だった。
「その、妙なペルソナとはまったく合っていない。」
「侯爵令嬢が、でしょうか、それとも竜王ルルナ=ベルとシテでしょうか?」
「どっちもだ。おまえはまるで、田舎のさして裕福でもない農家の娘で、兄夫婦が結婚することになって居場所がなくなり、都会に出できたばかりのお上りさんにしかみえないな。」
そう言われて、ルルナは、うれしそうに手を叩いた。
「すばらしい!
さすがは、アモン姉さまです。バーレクの考えて設定通りです。わたしの演技力も捨てたものではないってことですわね。」
「人格や記憶まで、偽装する必要があったのか?」
アモンの目は、金色に輝いていた。
この目の色は、アモンの怒りを表している。
「これは、ふざけただけでは通じんぞ。」
「わたしは魔王にならないかと、誘われました。」
ルルナは、あっさりとそう言った。
「それはわたしにとって、あまりにも魅力的な申し出に、感じられたのです。
その考えに支配される前に、わたしはあなたに会いたかった。
でも、その誘惑はあまりに強く・・・」
「そのために、本来の人格を追い込んだのか、ルルナ。」
よい手段だと、思ったのですけどね。
と、言いながら、ルルナは制服の腕をまくった。手の甲から二の腕にかけて無惨なミミズバレが走っていた。
「毎夜。夢にわたしが現れて、わたしを殺そうとするのです。」
「それが、銀灰の悪夢ミルトエッジを倒したベペルーナか。」
「ああ、あの人間はそんな名前でした。」
あっさりとルルナは、言った。
「夢の中ではコロシきれませんでしたけど、いまどうしてます?」
アモンもあっさりと返した。
「命に別状はない。
さて、ここからが本題だ、ルルナ。
おまえを『魔王』に、指名したのは誰だ?」
ルルナは。相変らずの痩せた、あまり裕福では無い農家の娘だった。細い首、そばかすの浮いた顔。日に焼けた肌は、野良仕事によるものだろう。
だが、いまや、どこからどうみてもそうは、見えなかった。
笑った瞬間、唇の端からわずかにのぞいた犬歯は、ま白の牙に見え、瞳は黄金に燃えた。
「それは・・・」
「それは、『世界の声』と名乗っていた。」
さっそうと割り込んできた美影身。
「どうした、残念姫。ルトからふて寝と深酒を繰り返しているときいているが。」
「大きなお世話だ。わたしも『魔王』に指名されたぞ。『世界の声』に。」
そう、竜王は、その名をルルナ=ベルといったが、まあ、それは些細な問題である。
「いいか、このクラスでは時折、わけのわからないことが起きるが、それは無視していい。
特に気をつけなければいけないのが、『踊る道化師』だ。彼らがなにをやってもどんな名前で呼び合っても、深く追求しないこと!
いいな!」
ネイアが後ろでクラスメイトにむかって、講義しているが、それだとまるで、踊る道化師が危険人物の集まりみたいじゃないか。いじめか!
「ふん! 生意気なことをぬかすの! 吸血姫ごときが!」
しゃがれた声は、ヴァルゴールの使徒のひとり、レオノーラだ。けっこうな婆さまなのだが、アキルに自分の邪拳を伝承したくてたまらないらしく、冒険者学校から出ていこうとしない。
ちなみに、ぜひ我が仲間にと三顧の礼をとる、裏社会の組織は十を超える。
「なにかネイア先生に言いましたか? レオノールさん。」
「いえ、なんでもありません、主上。」
うしろのごたごたは、アキルに任せて(ヴァルゴール絡みは本来全部任せていいのだ)、アモンは、ルルナの細い体を、学食までひっぱっていった。
途中、それなりに抵抗したルルナだが、諦めて、学食につくころには、完全に脱力してただの荷物になっていた。
その糸の切れた人形のようなルルナを、隅っこの席にすわらせて、飲み物を持っていってやると、放心状態の顔が、驚愕に震えた。
「リアモンドさまが、自ら飲み物を・・・」
「わたしはアモンだ。出自は竜人。いいな。それ以外の名で呼んだら、元素記号でしか呼べないように分解すると、竜の牙どもに伝えたが、おまえのところまでは達していなかったか。」
ぶんぶんぶん。
と、ルルナは首を振った。おさげがぶるんぶるん揺れて、じゃまだった。
アモンはそれを鷲掴みにすると、顔を近づけて、にいと笑った。
正確には笑いじゃなくて、噛みつこうとする前の動作だ。
「なにをしにきた?」
「あなたに会うためです、リア・・・アモンさま。わたしには助けが必要で、相手はなみの古竜ではあいてにならない。」
「ふん。それはまあ、わかるが、ラントン侯爵家令嬢ルルベルーナは、なんのおふざけだ?」
「ただの、おふざけです。アモンさま。
人間の学校がなにかと行動制限のかかるものだということは、知っていたので、貴族の身分を詐称すれば少しはマシになるかと考えたからです。
自分の主家の名前を名乗るように、提案したのはラントン侯爵家のバーレクです。」
泣きごとを言いながら、徐々に形勢を持ち直していくところは、さすがに竜王だった。
「その、妙なペルソナとはまったく合っていない。」
「侯爵令嬢が、でしょうか、それとも竜王ルルナ=ベルとシテでしょうか?」
「どっちもだ。おまえはまるで、田舎のさして裕福でもない農家の娘で、兄夫婦が結婚することになって居場所がなくなり、都会に出できたばかりのお上りさんにしかみえないな。」
そう言われて、ルルナは、うれしそうに手を叩いた。
「すばらしい!
さすがは、アモン姉さまです。バーレクの考えて設定通りです。わたしの演技力も捨てたものではないってことですわね。」
「人格や記憶まで、偽装する必要があったのか?」
アモンの目は、金色に輝いていた。
この目の色は、アモンの怒りを表している。
「これは、ふざけただけでは通じんぞ。」
「わたしは魔王にならないかと、誘われました。」
ルルナは、あっさりとそう言った。
「それはわたしにとって、あまりにも魅力的な申し出に、感じられたのです。
その考えに支配される前に、わたしはあなたに会いたかった。
でも、その誘惑はあまりに強く・・・」
「そのために、本来の人格を追い込んだのか、ルルナ。」
よい手段だと、思ったのですけどね。
と、言いながら、ルルナは制服の腕をまくった。手の甲から二の腕にかけて無惨なミミズバレが走っていた。
「毎夜。夢にわたしが現れて、わたしを殺そうとするのです。」
「それが、銀灰の悪夢ミルトエッジを倒したベペルーナか。」
「ああ、あの人間はそんな名前でした。」
あっさりとルルナは、言った。
「夢の中ではコロシきれませんでしたけど、いまどうしてます?」
アモンもあっさりと返した。
「命に別状はない。
さて、ここからが本題だ、ルルナ。
おまえを『魔王』に、指名したのは誰だ?」
ルルナは。相変らずの痩せた、あまり裕福では無い農家の娘だった。細い首、そばかすの浮いた顔。日に焼けた肌は、野良仕事によるものだろう。
だが、いまや、どこからどうみてもそうは、見えなかった。
笑った瞬間、唇の端からわずかにのぞいた犬歯は、ま白の牙に見え、瞳は黄金に燃えた。
「それは・・・」
「それは、『世界の声』と名乗っていた。」
さっそうと割り込んできた美影身。
「どうした、残念姫。ルトからふて寝と深酒を繰り返しているときいているが。」
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