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魔王になんかなりたくない!
ルルベルーナの正体
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ぼくは、バーレクを見つめた。
嘘は言ってない。困っている立場も同じなようなもののようだ。
バーレクは、真面目な男だった。ただ、付き合う相手が、古竜なだけだ。
「正直、あそこまでの金額をふっかけられるとは思いませんでした。」
バーレクは言った。
ルルベルーナを特待生として、入学させる際に支払った寄付金・・・実際には裏帳簿で、そっくりジャンガ学長の懐に入るのだろうが・・・の話だ。
確かに。
ぼくは、頷いた。
あの金額は、クローディア大公がフィオリナを、冒険者学校に預けるにあたって支払った金額だった。
正直、フィオリナを預けるには安すぎる。
彼女がその気になったら、ランゴバルドが壊滅しかねないのだ。
「有意義な会談だったな、バーレク。」
ルールス先生が、立ち上がろうとした。
バーレクはあわてたようだった。
「お待ちください、ルールス姫!」
ルールス先生はたしかに、王族だったからその呼び方は間違ってはいなかったが、公然と呼んでよい呼び方じゃない。とくにほかの人間がきいているところでは。
「なるほど、わたしとルトは、おまえから一方的に情報をきいただけだ。わたしたちになにか聞きたいことはあるか?」
「わたしは!」
バーレクの額に焦燥のためか、汗が滲んでいた。
「わたしはいったい誰を、ランゴバルドにお連れしたのでしょう?」
「それをわたしたちに聞くのか?」
「・・・ランゴバルドの秘宝『真実の目』の継承者と伺っております。」
ルールス先生は、澄んだ空色の瞳で、にっこりと笑った。
「噂だけだよ、バーレク。」
「こ、この次の学院長選挙では、ラントン侯爵家の全面的な協力を! それと、教員にほんものの『古竜』はいかがでしょう? 表向きは竜人ということにしておけば、波風はたたないと思います。そちらの子飼いの冒険者パーティ『踊る道化師』に協力してもかまいません。」
「古竜は間に合ってます。」
ぼくは、静かに返した。バーレクは青くなったり赤くなったりした。古竜の協力が得られるならば、どんな国家でも喜んで二つ返事で、無理難題をきいてくれるものだ。
「いや、古竜、ですぞ?」
「いやだから、例えば何ヶ月か前に、ギウリークの竜人師団の顧問になったレクスのことはご存知ですか。」
「伝説の神鎧竜ですな。」
バーレクは、少し余裕を取り戻したようだった。
「あのような、まがい物とはわけが違います。我がラントン侯爵家の伝手をもってすれば、本物の古竜を手配してみせましょう。しかも、並の古竜ではありませんぞ。
竜王の直属と呼ばれる『竜王の牙』のひとりです。」
「『竜王の牙』も間に合ってます。」
と、ぼくが答えると、バーレクは天井を仰いだ。
「わ、わかりました。」
バーレクはなんとか息を整えた。
「あまりにも荒唐無稽な話なので、空手形と思われたのでしょうな。わかりました。予定している古竜の名もお教えしましょう。“妖滅竜”クサナギです。いかがです?」
「それは、このまえ、本人に断ったばかりで。」
いったい何を言ってるのだ。というわかりやすい表情のバーレクはもう「ちょっとおかしなやつ」を見る目になっていた。
「それはともかく、バーレクさんの質問ですが、ぼくの推測でよければお答えします。」
「し、失礼だが、きみは?」
「銀級冒険者『踊る道化師』リーダーのルトです。」
ふう、とため息をついて、バーレクは椅子にどすんと腰をおろした。
「お聞きしましょうか?」
どこか、諦めたような暗い口調だった。
バーレクの狙いは、ルールス先生の真実の目だったのだ。多少、ランゴバルドの事情には通じているバーレクさんにとっては「踊る道化師」は、フィオリナ姫の格付けのために、無理やりでっちあげた「銀級」であって、あまり重きをおいてはいないのだろう。
少し離れたカザリームのほうが、ミトラでの活躍が誇張されて伝わっていて、たいへんなことになっていたらしいのだけど。
「昨夜、ルルベルーナさんの夢にはいらせてもらいました。」
「ゆ、夢にはいる!?」
「いや、ぼくじゃありませんよ。夢の中の異世界に強い知り合いがいたので、頼んでみたんです。」
「ゆ、ゆめのなかのいせか・・・」
「あ、銀灰皇国の皇帝直属の『悪夢』って知ってます?」
「し知ってはいる。いるが、なぜ、皇帝直属舞台がランゴバルドにいるのだ?」
「ぼくから、頼んだんではないですよ。
ただうちのパーティのオルガは、銀灰の皇室のメンバーで現皇帝から、次に皇位につくよう明言されています。」
「な、なんだ!?」
パーレクさんは、助けを求めるように、ルールス先生を見やったが、ルールス先生は、手を上げてウエイターを呼ぶと会計を始めていた。
どうもご馳走してくれるみたいだ。
さすがは大国ランゴバルドの王族。
「ルールス学長! 彼らはいったい、なんなのです?」
「あ? ああ、「踊る道化師」だ。ときどき非常識なことはするが、いいヤツらだぞ。それで、そろそろわたしたちは失礼する。なにか話があるなら、しておくのだな。」
「ルルベルーナと、名乗った古竜は、なにものなんですか?」
「だいたい、お分かりでしょうに。」
ぼくは、ため息をついた。
まだ、夕暮れにはだいぶ間がある。
これから、ルールス先生にまだまだ付き合わななければならないのだ。
いや、別に嫌ではない。
だが、どこへ連れていこう。あるいは連れていかれるのだろう。
すっかりそのことに頭がいっぱいだったので、パーレクさんへの返事がちょっと邪険になったかもしれない。
「竜王です。」
嘘は言ってない。困っている立場も同じなようなもののようだ。
バーレクは、真面目な男だった。ただ、付き合う相手が、古竜なだけだ。
「正直、あそこまでの金額をふっかけられるとは思いませんでした。」
バーレクは言った。
ルルベルーナを特待生として、入学させる際に支払った寄付金・・・実際には裏帳簿で、そっくりジャンガ学長の懐に入るのだろうが・・・の話だ。
確かに。
ぼくは、頷いた。
あの金額は、クローディア大公がフィオリナを、冒険者学校に預けるにあたって支払った金額だった。
正直、フィオリナを預けるには安すぎる。
彼女がその気になったら、ランゴバルドが壊滅しかねないのだ。
「有意義な会談だったな、バーレク。」
ルールス先生が、立ち上がろうとした。
バーレクはあわてたようだった。
「お待ちください、ルールス姫!」
ルールス先生はたしかに、王族だったからその呼び方は間違ってはいなかったが、公然と呼んでよい呼び方じゃない。とくにほかの人間がきいているところでは。
「なるほど、わたしとルトは、おまえから一方的に情報をきいただけだ。わたしたちになにか聞きたいことはあるか?」
「わたしは!」
バーレクの額に焦燥のためか、汗が滲んでいた。
「わたしはいったい誰を、ランゴバルドにお連れしたのでしょう?」
「それをわたしたちに聞くのか?」
「・・・ランゴバルドの秘宝『真実の目』の継承者と伺っております。」
ルールス先生は、澄んだ空色の瞳で、にっこりと笑った。
「噂だけだよ、バーレク。」
「こ、この次の学院長選挙では、ラントン侯爵家の全面的な協力を! それと、教員にほんものの『古竜』はいかがでしょう? 表向きは竜人ということにしておけば、波風はたたないと思います。そちらの子飼いの冒険者パーティ『踊る道化師』に協力してもかまいません。」
「古竜は間に合ってます。」
ぼくは、静かに返した。バーレクは青くなったり赤くなったりした。古竜の協力が得られるならば、どんな国家でも喜んで二つ返事で、無理難題をきいてくれるものだ。
「いや、古竜、ですぞ?」
「いやだから、例えば何ヶ月か前に、ギウリークの竜人師団の顧問になったレクスのことはご存知ですか。」
「伝説の神鎧竜ですな。」
バーレクは、少し余裕を取り戻したようだった。
「あのような、まがい物とはわけが違います。我がラントン侯爵家の伝手をもってすれば、本物の古竜を手配してみせましょう。しかも、並の古竜ではありませんぞ。
竜王の直属と呼ばれる『竜王の牙』のひとりです。」
「『竜王の牙』も間に合ってます。」
と、ぼくが答えると、バーレクは天井を仰いだ。
「わ、わかりました。」
バーレクはなんとか息を整えた。
「あまりにも荒唐無稽な話なので、空手形と思われたのでしょうな。わかりました。予定している古竜の名もお教えしましょう。“妖滅竜”クサナギです。いかがです?」
「それは、このまえ、本人に断ったばかりで。」
いったい何を言ってるのだ。というわかりやすい表情のバーレクはもう「ちょっとおかしなやつ」を見る目になっていた。
「それはともかく、バーレクさんの質問ですが、ぼくの推測でよければお答えします。」
「し、失礼だが、きみは?」
「銀級冒険者『踊る道化師』リーダーのルトです。」
ふう、とため息をついて、バーレクは椅子にどすんと腰をおろした。
「お聞きしましょうか?」
どこか、諦めたような暗い口調だった。
バーレクの狙いは、ルールス先生の真実の目だったのだ。多少、ランゴバルドの事情には通じているバーレクさんにとっては「踊る道化師」は、フィオリナ姫の格付けのために、無理やりでっちあげた「銀級」であって、あまり重きをおいてはいないのだろう。
少し離れたカザリームのほうが、ミトラでの活躍が誇張されて伝わっていて、たいへんなことになっていたらしいのだけど。
「昨夜、ルルベルーナさんの夢にはいらせてもらいました。」
「ゆ、夢にはいる!?」
「いや、ぼくじゃありませんよ。夢の中の異世界に強い知り合いがいたので、頼んでみたんです。」
「ゆ、ゆめのなかのいせか・・・」
「あ、銀灰皇国の皇帝直属の『悪夢』って知ってます?」
「し知ってはいる。いるが、なぜ、皇帝直属舞台がランゴバルドにいるのだ?」
「ぼくから、頼んだんではないですよ。
ただうちのパーティのオルガは、銀灰の皇室のメンバーで現皇帝から、次に皇位につくよう明言されています。」
「な、なんだ!?」
パーレクさんは、助けを求めるように、ルールス先生を見やったが、ルールス先生は、手を上げてウエイターを呼ぶと会計を始めていた。
どうもご馳走してくれるみたいだ。
さすがは大国ランゴバルドの王族。
「ルールス学長! 彼らはいったい、なんなのです?」
「あ? ああ、「踊る道化師」だ。ときどき非常識なことはするが、いいヤツらだぞ。それで、そろそろわたしたちは失礼する。なにか話があるなら、しておくのだな。」
「ルルベルーナと、名乗った古竜は、なにものなんですか?」
「だいたい、お分かりでしょうに。」
ぼくは、ため息をついた。
まだ、夕暮れにはだいぶ間がある。
これから、ルールス先生にまだまだ付き合わななければならないのだ。
いや、別に嫌ではない。
だが、どこへ連れていこう。あるいは連れていかれるのだろう。
すっかりそのことに頭がいっぱいだったので、パーレクさんへの返事がちょっと邪険になったかもしれない。
「竜王です。」
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