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魔王になんかなりたくない!
龍皇国の使者
しおりを挟む「なんで、夢の中で起こったことで、そんなにダメージを受けるのかな?」
ルトは、ぼやいたが、ルールスの白い目をみて、ああ、と頷いた。
「命に別状はないです。
ミルトエッジさんの能力は、もともとダメージの通る異世界をつくることですから、そっちに引っ張られたんですね。」
「ときどき、ものすごく非情なことをするが、その判断基準はどこにあるんだ?」
「決まってます。悪党かどうかです。」
ルールスは、この困った坊やを、ため息をついてながめた。その理屈は一見わからやすそうだが、ルトの言う「悪党」はたぶん独善に凝り固まった連中も含むのだ。
それはまずい。
きわめてまずい。
ルールスにしても、どこで「悪党」と判断されるのかわかったものではないからだ。せめて、私利私欲の権化であってくれ、とランゴバルドの王族は思った。
そのほうが分かりやすい。操縦しやすい、とでもいうべきか。
「ルールス先生、真実の目はいかがでした?」
「ルトよ、真実の目というのは、きわめて気まぐれで、象徴的な単語を与えてくれるのにすぎないのだ。」
ルールスは気難しそうに、言った。
「あまり、期待してもらっては困る。」
「はじめて、ぼくらを見た時にどう思いました?」
「リウは『魔王』、アモンは『古竜』、ギムリウスは『神獣』、ロウは『半分の吸血鬼の王』。」
「完璧です。ルルベルーナはどう見えました。」
「・・・半分の古竜の王。」
パチパチパチ。
と、ルトは手を叩いた。
「完璧です。」
「しかし、意味がわからん。」
憤然として、ルールスが言った。
「存在がふたつに分かれているという意味か?
しかし・・・ルルベルーナが嘘を言っているようにも思えん。」
「あのおとぼけぶりは、たぶん、自己暗示によるものだと思いますね。」
ルトは言った。
「とにかく、冒険者学校に潜り込むまでは、目立ちたくなかった。
それで力を封印し、擬似的な記憶でおのれを上書きして、ランゴバルドにやっていたのでしょう。」
「では、その、シャルリリア龍皇国だのラントン侯爵家だの、は。」
「たいした意味は無いのです。
ルルベルーナ、ないしはその背後の竜王の意識のなかでは、貴族の名前でも出しておいたほうが、ハクがついて、入学に有利だと思ったんでしょう。」
「し、しかし!
それならそれで。
シャルリリアのラントン侯爵家といえば、あそこの重鎮じゃぞ?
家族構成だって、知られておる。すぐバレる。なぜもっと、どうでもいい他国にはなも知られたていない貴族を名乗らなかった?」
「さすがは、ランゴバルドのルールス姫!」
ルトは大袈裟に褒めた。
「現在の情報を正しく分析すればその通りです。でも、考えてみてください。
相手は竜です。まあ、知性はありますし、人間と意思疎通も可能ですが、要するに育ちすぎのトカゲです。まして、知性を獲得するのに千年。定まった寿命すらなく、殺されない限りいくらでも生きる。そんなやつらに、名家がどうの言っても理解出来るはずがない。
シャルリリア龍皇国は、そこがある程度慣れ親しんだやつらの庇護下にある国で、たまたま名前を知っていたラントン侯爵の名を出したに過ぎないのです。
そこに偶然、クローディア大公国からの寄付金に味をしめたジャンガが、またも高額の寄付金を要求したので、話が拗れた。」
「なんだか、そう聞くとつまらん、話しよな。」
ルールスは唸った。
広い店内は、二人だけだった。
時間は昼下がり。あの「昼食にも夕食にもティータイムにも当てはまらない」
という飲食店泣かせのあの微妙な時間帯だった。店がまえも立地も悪くないし、料理次第では、今後人気が出るかもしれない。
ここは、かの名店「神竜の息吹」の姉妹店になるのだが、店名も内装も含め、それを隠している。
その、実体は、新しいメニューを試すための実験店であり、「ラウレス抜きでどこまで出来るか。」のテストも兼ねている。
今日は、護衛のネイアは着いてきていない。ネイアはさんざんに悩んだのだが、二人の主が珍しく同意見で命令したために、学内に待機している。
たまには、休暇を、という二人の配慮だったがネイアに通じたかどうか。
ルールスは、「ふ、ふたりきりっ!」と短く叫び、あれもしたいこれもしたいと言い出したのだが、ルトはやんわりそれをとめて、このレストラン『蒼洋燈亭』に腰を落ち着けてしまったのである。
メニューは、長い歳月を生きている世間知らずのルールスには、目新しいものが多く、いくつらの「ハズレ」も含めて、料理を楽しんだのだか。
「お食事中に失礼を」
メインディッシュが終わって、お茶と生地に干した果物を練りこんだ生地のケーキを食べているとき、品の良い紳士が話しかけてきた。
「ランゴバルド冒険者学校長ルールス様と、お見受けしましたが」
「なるほど」
ケーキから、顔を上げもせずに、ルールスはそう言ったが、別に大物ぶりたかったわけではない。ケーキがこのとほか美味しくて、そちらに意識の大半をとられていたのだ。
「残念ながら情報が古いようだ。わたしは一介の教師にすぎない。まあ、落ちこぼれを集めた分校の校長は仰せつかっているが。」
紳士は慌てたふうもなく、にっこりと笑った。
「おお、これは失礼を。どうも情報が未来を先取りしすぎたようです。」
「?」
「つぎの学長選挙では、返り咲き間違いないと聞き及んでおりますので。
すこしお話をする時間をいただけますか?」
ルールスは胡乱げに、ルトをみやった。
「どうしたものか。ほっておければ、むこうから接触をもとめてくると言っていたが、そのとおりになったぞ。」
「『踊る道化師』の有能っぷりを実感いただけると幸いです。
失礼ですが、あなたは?」
「これはたびたび失礼を。」
紳士は優雅に一礼した。
「わたくしは、ラントン侯爵家の執事を努めますバーレクも申します。」
「・・・・と、見せかけて?」
「バーレクと申します。我が家は、代々、古竜の方々が、人間見物で他国へお出かけされるときのコーディネーターを務めておりまして。」
ルトは、手をあげて、椅子をもう一つ用意するよう、店のものに頼んだ。
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