暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
43 / 55
魔王になんかなりたくない!

悪夢の戦い

しおりを挟む
女は。
待っている。
既に、時刻は翌日に変わっている。

学校の、あちこちに設けられた闘技場のひとつ。
彼女はそこのベンチのひとつに腰を下ろして、待っていた。
これでは、まるで、恋人との逢瀬を待つようではないか。と、

女は苦笑した。

今夜もルルベルーナは、革製の鎧を身につけている。
先日と違うのは。

女の指が灼熱し、熱線を放った。
わずかな予備動作だったはずだが、ルルベルーナの盾が間に合った。
白銀に輝く盾は、鏡のように、女の熱線を、反射し、数秒ながらそれに耐えた。
溶解しつつある盾をすてて、ルルベルーナは新しい盾を生み出した。
こんどの盾は、さらに強力で、女の熱戦はその表面を焦がすのみ。

これは分が悪い。
女もそれは認めざるを得なかった。
熱戦の放射は、彼女の指をも溶かす。
すぐに再生できるのだが、それでも自分で自分にダメージを与え続け、相手にはなにもダメージを与えていないこの状態は不愉快だった。

ルルベルーナが走ってくる。
盾は彼女を護るように浮遊している。崩壊するまでに、女の指が五本、失われた。
盾は崩壊しても次の瞬間、新しいものが現れる。

強い。
強くなっている。
間違いない。
走る足取りはたどたどしい。抜いた剣は、重そうで、切っ先は地面に引きずっている。構えも何もあったものではない。
だが。

右手のすべての指が同時に火をふいた。
ルルベルーナの盾がくだけた。
その後ろに。
ルルベルーナはいない。
彼女は、跳躍していた。そんなことができる娘ではなかった。

「いやあああああああっ」

そのまま、着地に失敗し。頭から地面に突っ込んで。


果てた。


女は、止めの熱戦をはなとうとして、左手を差し伸べ。ルルベルーナが完全に気を失っているのを確認して、がっかりしたように手を降ろした。
「また、殺しそこねた。」

女は。
疲れたようだった。
「わたしの力が衰えているのか、それともこいつの、力が増しているのか。」それともこいつが強くなっているのか?」

「強さというのは、常に相対的なものじゃよ。」

聞き慣れぬ声に、女は立ち上がった。
「なにものだ! ここは我が世界。だれにも立ち入ることはできぬはず。」

「わしは、銀灰皇国が『悪夢』ミルトエッジという。」

まだ年端も行かぬ少年は、女の頭上に浮かんでいた。

冒険者学校の生徒の制服を着て入るが、まだ、教室にすわって、読み書きをならっている年齢だ。

「なぜ、ここにいるのかと言うと、すこうし、話が長くなる。そのまえに、おまえが何者か教えてくれるかの。
そこに倒れて気を失っているのが、我が主が気にかけているルルベルーナなる新入生だということはわかったのだが。」

「なまえか。」
女は、その質問を面白いと思ったのか、笑いを浮かべた。
「・・・・そうだな、ベベルーナ、とでも名乗っておくか。」

ミルトエッジは、ふわりと、女、ベベルーナの前に着地した。

「次にわしが、なぜここにいるのかというと、それは、我が主の友人からの依頼よ。
おぬしの結界は、『夢』の回廊を使ったのもの。わしら『悪夢』が使う結界とは相性がよくてな。手助けしてやるからもぐりこんでこいと頼まれた。」

「動乱の中で、辺境に逃れた銀灰族のことはききおよんでいる。そして、その長の直属の護衛を『悪夢』と呼ぶことも、な。」
ベベルーナは、興味深そうに、少年を見つめた。
さらさらの髪に、ほんのりバラ色の頬。聖光教の宗教画に描かれる天使のごとき風貌だ。
だが、その表情は、かぎりなく邪悪で、笑みは獰猛な肉食獣に似ていた。
「ということは、銀灰族の族長が、いま、この学校にいるということか、そして、すでにルルベルーナに目をつけている、と。」

ふたりの目の前で、ルルベルーナの体は、一陣の風に、吹き消されるように、消えた。

「いつの時代の話をしている。西域八大列強の一角をつかまえて、銀灰族と。三百年の昔からでもやってきたのか?」
「まあ、否定はしない。」

ベベルーナは、肩をすくめた。

「ルルベルーナを逃したのは、おまえのせいではないが、わたしは少々、腹をたてている。
悪いが、八つ当たりをさせてもらうぞ。」

面白い。
ミルトエッジは、言って、紐を巻き付けた短剣を何本も取り出した。
それは、互いに絡まることもなく、彼のちいさな体の周りを旋回しはじめる。

「夢のなかで試合うことに、どの程度意味があるのかわからんが、受けたとう。
わが技をもって、たおれるが良い、ベベルーナとやら。」

短剣の作り出す、切断の暴風の中に、べベルーナは足を踏み入れた。

そのまま、ミルトエッジの脇を通り抜けた。
攻撃はみえなかったが。

つぎの瞬間。

ミルトエッジの短剣はことごとく折れ、
左腕から、左肩が消失した。まるで、見えない何かに食いちぎられたように。
ミルトエッジ小さな体が、鮮血をふきあげて倒れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん
ファンタジー
地上の支配権をかけた神々の戦争が終りを告げ、「秩序」という信仰の元『世界』は始まった。 戦に負け、その座を追われた神は黒猫に転生し、唯一の従者と『世界』を巡る旅に出る。 膨大な魔力を持つかつての神「黒猫タロ」と、その神より絶大な力を授かった「従者アリス」。 だが、アリスはタロの魔力なしでは力を行使できず、タロもまた魔力しか持たず力は発揮できない。 そんな一人と一匹の冒険は多くの人との出会いや別れを繰り返し、やがて『世界』と『神』を巻き込んだ物語へと繋がっていく。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...