暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王になんかなりたくない!

世界の声

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さて、このころ、我らの残念姫こと、フィオリナ・クローディアがなにをしていたのかというと、真面目に授業に出ている訳もなく。

リウとルトの部屋。いまは、ルトだけになった寝室で、リウのベッドに横たわって惰眠を満喫していた。
もちろん。

意味があって、そうしていたのだが。

生徒は、全員が授業に、あるいは、街なかにアルバイトにと、出払ったあとで寮のなかはしずまりかえっていた。
フィオリナは、リウの枕に顔をうずめるようにして、眠っていた。
そのはずのフィオリナが、突然を目をパチリと開いた。

「かなり前からわたしを見ているおまえ。」
枕にうもれた口元は野獣の笑いを浮かべていた。
「出てきてもいいぞ。いまはルトもいない。おまえとわたしの逢瀬を邪魔するものはだれもない。
ついでにいうなら、いま、この寮はひとっこひとりいない。
戦うにも語らうにも、実に都合がいい。」

クスクスと、美少女は笑った。

「いや、語らう方を優先するか。ルトならばそうするだろう。
もうひとりの恋人ならまず、一刀両断してそれでもしゃべる口があれば話をきくと言うのだろうが。」

ランゴバルド冒険者学校学生寮。
わかるものにはわかるのだが、ランゴバルド冒険者学校はそれ自体が、ランゴバルドから隔たった迷宮となっている。
そこに転移することがいかに困難なことか。

そう。
たとえば、ギウリウスならばやすやすとやってのけるだろう。
逆にギムリウス以外ならば?
現代における人類最高の転移術の持ち主ボルテック卿ならどうしただろうか。
その彼にしても、おそらくマーカー・・・・転移陣なしの迷宮内への転移には怖気をふるうだろう。
ならば神は?
それは神にも困難な所業ではないのだろうか。

なにもない空間がまたたいた。
フィオリナの澄んだ瞳が、一瞬星の宇宙を移した。

そこに現れた美しい人影は。
中性的な体の線を残した十代半ばの少年の姿をした魔王。

バズス=リウの姿をしていた。

これはリウではない!
フィオリナは唇を噛み締めた。
フィオリナは、かろうじて悲鳴を押し殺した。

いや、わかっている。「こいつ」はわたしのこころを読める。そして、わたしがいちばん会いたいやつの姿を持って、わたしの前に現れた。

「ふざけことをするな。」
ベッドの上に体を起こす。武器は帯剣したままだ。リウにもらった風の魔剣が早く相手を切らせろと、かたかたとふるえた。

「我が愛しきフィオリナ姫。」
リウそっくりの声で、そいつは言った。
「ベッドから離れていいのか? この姿をしたものとおまえが行いたい行為はベッドの上こそが、もっともふさわしいのではないのか?」

こいつにはすべてが見えるんだ。
フィオリナは、こころの中でつぶやいた。実際にこいつが、その姿をとっているのかどうかも定かではない。わたしはいま、もっとも見たいものを、会いたい人物を見せられている。

「おまえはなんだ? なにものでなにをしにきた。」

「時間は無限ではないが、たっぷりある。
まず、なにをしにきた、それから答えよう。」

リウが浮かべそうな笑みをうかべ、リウがいいそうな口調で「そいつ」は答えた。

「わたしはおまえに力を与えるためにきた。
フィオリナ、我慢のときは終わりだ。
おまえの意志のまま、すべてを蹂躙するがいい。
リウも、ルトも。ふたりとも手に入れろ。
いやまだ見ぬおまえものも、おまえが愛するものを跪かせ、思うがままにできる強大無類の力だ。
わたしはその力を授けに来た。」

「すべてを蹂躙?」
フィオリナの笑みは嘲笑の形をとってはいたが、そこに幾ばくの苦さがそなわってはいなかったか。
「なるほど。わたしを魔王にでもしてくれるというのか?」

ほお。
と、感心したようにリウの姿をしたものは言った。
「さすがに我が姫は聡明だ。その通り、わたしはおまえに魔王となることを打診にきた。」

魔王ならば、リウがいる。
そうフィオリナは答えた。

だが、リウの姿をしたものは、自分の体を見下ろすようにしながら笑っている。

「バズス=リウは、上古の魔王だ。新しい時代には新しい魔王が必要だ。」

そこで一呼吸おいて、続けた。

「わたしは『世界の声』だ。」

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