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魔王になんかなりたくない!
深夜の対決
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ルルベルーナ!!
呼ばれる声に目を覚ました。部屋は真っ暗。ランゴバルド冒険者学校の寮は、三人部屋だった。
彼女は、明日から一般授業にも参加することになった「ルールス分校」に配属され、この部屋になった。
同室になったのは、「一般常識」を丁寧に教えてくれたアキルさんと、少し年上、たぶん二十歳くらいだろう黒目黒髪の超絶美人のオルガさんだ。
オルガさんはすこし取っ付きにくそうだったが、アキルさんは笑顔で、迎えてくれた。
・・・時刻は何時だろう。
それぞれの部屋に時計のある生活にルルベルーナは、慣れていない。
寝間着の上に、一枚羽織って、居間にきてみると、時刻は真夜中だ。
アキルさんもオルガさんもよく寝ていると見えて、それぞれの寝室は静まり返っている。
ルルベルーナ!!!
その声にさからうことはできない。
ルルベルーナにはわかっていた。
だが、従うのを遅らせることはできる。
わざとゆっくりとルルベルーナは、着替えをした。
寝巻きを脱いで、動きやすい服装に着換えた。剣の訓練のときに身に着けた心臓を守る胴衣を身につける。
同じくこれは、ルトさんがプレゼントしてくれた靴を履く。
足首まであるしっかりした靴だ。簡単に抜けないように、念入りに紐でしばる。
履き心地は最高だった。
厚い靴底は、なにを踏んでももびくともしないし、逆につま先は、当て物がつまっていて、なにかを蹴っ飛ばすにはちょうどいい硬さだった。
すこし考えてから、マントを羽織る。
剣は、訓練用のものだ。ルルベルーナの大力、腕力にあわせてある。
とりあえず、振り回したときに、自分が振り回されなくなったら、刃のついた本物を用意してやる。そうサオウさんに言われていた。
部屋のドアをあげて、一階に降りた。
冷たい夜風を浴びながら、外にでた。
そのまま、まっすぐ進むと、試合場がある。
ルルベルーナ!!!!!
はいはい、行きます、行きますとも。
わたしはそのために来たんです。
周りに観覧席をもうけた試合場は、もちろん人っ子一人いない。
いや、一人、いるんだけど、あれは「人」ではないから、カウントの対象外だ。
会場の真ん中に、そいつはいた。
長く伸ばした髪。自信たっぷりな笑み、体にぴったりとした鎧は肉感的な曲線を隠すどころか、強調しているような気がする。足は、ひざまであるブーツをはいているが、むき出しだ。見事な脚線をスリットがはいったスカートが申し訳程度に隠していた。
「どうか、お戯れはその程度に。」
その姿を目の当たりにしただけで、畏怖のあまり動けなくなるかと、心配していたが、なんとか声はでた。
「あなたさまから、接触の機会を申せていただきましたこと、恐悦至極。
なれど、どうぞ、お帰りください。あなたさまはここにいるべき方ではありません。」
「わたしはここに用がある。」
「あちらはあなたさまには、なんの用事もございません。ここから一刻もはやく立ち去るべきなのです。」
「“世界の声”が。」
女は、笑みを消して、やや真剣な面持ちで言った。
「“世界の声”がわたしをここに、呼んだのだ。」
「従う必要はありませんでした。」
女の唇は、笑みの形につり上がった。
軽装の鎧は身につけてはいるものの、武器は構えていない。いやそもそも装備すらしていない。
なのに、なぜこんなにも怖いのだろう。
「結局は力づくで、ということになるのか?」
ゆっくりと。 だが真っ直ぐに。
彼女は最短距離を歩いてきた。
その右手がフリかぶられるのと、ルルベルーナの手に盾が出現するのは、同時だった。
コブシが当たった衝撃に、ルルベルーナの細っこい体は、かるがると吹き飛び、壁にめり込む勢いで叩きつけられた。
ぐはっ。
ルルベルーナの口から鮮血がもれた。
だが、女は怪訝そうにその様子を眺めた。
絶命させるつもりで打ったのだ。
盾を破砕し、ルルベルーナの上半身は吹き飛ぶはずだった。
自分の拳を見ながら、顔をしかめる女にルルベルーナは、へし曲がった盾を投げ捨てた。
「わたしが強くなったのか、あなたさまが弱くなられたのか。」
「まだその口がほざくっ!」
女が、ルルベルーナにむけた掌から、業火が発射された。
ドン!
ルルベルーナの前に新たな盾が出現した。出現と同時に地面にスパイクを打ち込み、自立する。
火炎はその前に虚しく、弾かれた。
女は両手をむけた。
さらに激しさと温度を増した高熱の魔力が、盾を溶解させていく。
ドン!
盾が崩壊する前に、次の盾が現れた。
さらに巨大に、ごつごつと猛々しい形状盾は、女を取り囲むように、四方に同時に現れた!
女の差し伸べた指が、真紅に光る。
発された熱線が盾を次々に両断した。
代償は、彼女の指だ。
熱線の放射を終えたその指は、爪先が無惨に焼け爛れていた。
ドン!
頭上から、断頭台のごとくに落ちてくる盾を、女は飛び下がって交わした。
断頭台のように、ではない。
盾の下部は、まさしく、鋭い刃物になっていた。
「児戯! 児戯よのう!
ルルベルーナ。このような攻撃当たりもせん、当たっても痛痒も感じぬ。」
ルルベルーナは、身を起こした。
その周りに、円盤状の盾が旋回していた。
下らぬ。
女が呟くと同時に、落雷が落ちた。
ルルベルーナが展開した盾は、尽く吹き飛び、ルルベルーナもまた地に倒れ付した。
呼ばれる声に目を覚ました。部屋は真っ暗。ランゴバルド冒険者学校の寮は、三人部屋だった。
彼女は、明日から一般授業にも参加することになった「ルールス分校」に配属され、この部屋になった。
同室になったのは、「一般常識」を丁寧に教えてくれたアキルさんと、少し年上、たぶん二十歳くらいだろう黒目黒髪の超絶美人のオルガさんだ。
オルガさんはすこし取っ付きにくそうだったが、アキルさんは笑顔で、迎えてくれた。
・・・時刻は何時だろう。
それぞれの部屋に時計のある生活にルルベルーナは、慣れていない。
寝間着の上に、一枚羽織って、居間にきてみると、時刻は真夜中だ。
アキルさんもオルガさんもよく寝ていると見えて、それぞれの寝室は静まり返っている。
ルルベルーナ!!!
その声にさからうことはできない。
ルルベルーナにはわかっていた。
だが、従うのを遅らせることはできる。
わざとゆっくりとルルベルーナは、着替えをした。
寝巻きを脱いで、動きやすい服装に着換えた。剣の訓練のときに身に着けた心臓を守る胴衣を身につける。
同じくこれは、ルトさんがプレゼントしてくれた靴を履く。
足首まであるしっかりした靴だ。簡単に抜けないように、念入りに紐でしばる。
履き心地は最高だった。
厚い靴底は、なにを踏んでももびくともしないし、逆につま先は、当て物がつまっていて、なにかを蹴っ飛ばすにはちょうどいい硬さだった。
すこし考えてから、マントを羽織る。
剣は、訓練用のものだ。ルルベルーナの大力、腕力にあわせてある。
とりあえず、振り回したときに、自分が振り回されなくなったら、刃のついた本物を用意してやる。そうサオウさんに言われていた。
部屋のドアをあげて、一階に降りた。
冷たい夜風を浴びながら、外にでた。
そのまま、まっすぐ進むと、試合場がある。
ルルベルーナ!!!!!
はいはい、行きます、行きますとも。
わたしはそのために来たんです。
周りに観覧席をもうけた試合場は、もちろん人っ子一人いない。
いや、一人、いるんだけど、あれは「人」ではないから、カウントの対象外だ。
会場の真ん中に、そいつはいた。
長く伸ばした髪。自信たっぷりな笑み、体にぴったりとした鎧は肉感的な曲線を隠すどころか、強調しているような気がする。足は、ひざまであるブーツをはいているが、むき出しだ。見事な脚線をスリットがはいったスカートが申し訳程度に隠していた。
「どうか、お戯れはその程度に。」
その姿を目の当たりにしただけで、畏怖のあまり動けなくなるかと、心配していたが、なんとか声はでた。
「あなたさまから、接触の機会を申せていただきましたこと、恐悦至極。
なれど、どうぞ、お帰りください。あなたさまはここにいるべき方ではありません。」
「わたしはここに用がある。」
「あちらはあなたさまには、なんの用事もございません。ここから一刻もはやく立ち去るべきなのです。」
「“世界の声”が。」
女は、笑みを消して、やや真剣な面持ちで言った。
「“世界の声”がわたしをここに、呼んだのだ。」
「従う必要はありませんでした。」
女の唇は、笑みの形につり上がった。
軽装の鎧は身につけてはいるものの、武器は構えていない。いやそもそも装備すらしていない。
なのに、なぜこんなにも怖いのだろう。
「結局は力づくで、ということになるのか?」
ゆっくりと。 だが真っ直ぐに。
彼女は最短距離を歩いてきた。
その右手がフリかぶられるのと、ルルベルーナの手に盾が出現するのは、同時だった。
コブシが当たった衝撃に、ルルベルーナの細っこい体は、かるがると吹き飛び、壁にめり込む勢いで叩きつけられた。
ぐはっ。
ルルベルーナの口から鮮血がもれた。
だが、女は怪訝そうにその様子を眺めた。
絶命させるつもりで打ったのだ。
盾を破砕し、ルルベルーナの上半身は吹き飛ぶはずだった。
自分の拳を見ながら、顔をしかめる女にルルベルーナは、へし曲がった盾を投げ捨てた。
「わたしが強くなったのか、あなたさまが弱くなられたのか。」
「まだその口がほざくっ!」
女が、ルルベルーナにむけた掌から、業火が発射された。
ドン!
ルルベルーナの前に新たな盾が出現した。出現と同時に地面にスパイクを打ち込み、自立する。
火炎はその前に虚しく、弾かれた。
女は両手をむけた。
さらに激しさと温度を増した高熱の魔力が、盾を溶解させていく。
ドン!
盾が崩壊する前に、次の盾が現れた。
さらに巨大に、ごつごつと猛々しい形状盾は、女を取り囲むように、四方に同時に現れた!
女の差し伸べた指が、真紅に光る。
発された熱線が盾を次々に両断した。
代償は、彼女の指だ。
熱線の放射を終えたその指は、爪先が無惨に焼け爛れていた。
ドン!
頭上から、断頭台のごとくに落ちてくる盾を、女は飛び下がって交わした。
断頭台のように、ではない。
盾の下部は、まさしく、鋭い刃物になっていた。
「児戯! 児戯よのう!
ルルベルーナ。このような攻撃当たりもせん、当たっても痛痒も感じぬ。」
ルルベルーナは、身を起こした。
その周りに、円盤状の盾が旋回していた。
下らぬ。
女が呟くと同時に、落雷が落ちた。
ルルベルーナが展開した盾は、尽く吹き飛び、ルルベルーナもまた地に倒れ付した。
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