38 / 55
魔王になんかなりたくない!
深夜の対決
しおりを挟む
ルルベルーナ!!
呼ばれる声に目を覚ました。部屋は真っ暗。ランゴバルド冒険者学校の寮は、三人部屋だった。
彼女は、明日から一般授業にも参加することになった「ルールス分校」に配属され、この部屋になった。
同室になったのは、「一般常識」を丁寧に教えてくれたアキルさんと、少し年上、たぶん二十歳くらいだろう黒目黒髪の超絶美人のオルガさんだ。
オルガさんはすこし取っ付きにくそうだったが、アキルさんは笑顔で、迎えてくれた。
・・・時刻は何時だろう。
それぞれの部屋に時計のある生活にルルベルーナは、慣れていない。
寝間着の上に、一枚羽織って、居間にきてみると、時刻は真夜中だ。
アキルさんもオルガさんもよく寝ていると見えて、それぞれの寝室は静まり返っている。
ルルベルーナ!!!
その声にさからうことはできない。
ルルベルーナにはわかっていた。
だが、従うのを遅らせることはできる。
わざとゆっくりとルルベルーナは、着替えをした。
寝巻きを脱いで、動きやすい服装に着換えた。剣の訓練のときに身に着けた心臓を守る胴衣を身につける。
同じくこれは、ルトさんがプレゼントしてくれた靴を履く。
足首まであるしっかりした靴だ。簡単に抜けないように、念入りに紐でしばる。
履き心地は最高だった。
厚い靴底は、なにを踏んでももびくともしないし、逆につま先は、当て物がつまっていて、なにかを蹴っ飛ばすにはちょうどいい硬さだった。
すこし考えてから、マントを羽織る。
剣は、訓練用のものだ。ルルベルーナの大力、腕力にあわせてある。
とりあえず、振り回したときに、自分が振り回されなくなったら、刃のついた本物を用意してやる。そうサオウさんに言われていた。
部屋のドアをあげて、一階に降りた。
冷たい夜風を浴びながら、外にでた。
そのまま、まっすぐ進むと、試合場がある。
ルルベルーナ!!!!!
はいはい、行きます、行きますとも。
わたしはそのために来たんです。
周りに観覧席をもうけた試合場は、もちろん人っ子一人いない。
いや、一人、いるんだけど、あれは「人」ではないから、カウントの対象外だ。
会場の真ん中に、そいつはいた。
長く伸ばした髪。自信たっぷりな笑み、体にぴったりとした鎧は肉感的な曲線を隠すどころか、強調しているような気がする。足は、ひざまであるブーツをはいているが、むき出しだ。見事な脚線をスリットがはいったスカートが申し訳程度に隠していた。
「どうか、お戯れはその程度に。」
その姿を目の当たりにしただけで、畏怖のあまり動けなくなるかと、心配していたが、なんとか声はでた。
「あなたさまから、接触の機会を申せていただきましたこと、恐悦至極。
なれど、どうぞ、お帰りください。あなたさまはここにいるべき方ではありません。」
「わたしはここに用がある。」
「あちらはあなたさまには、なんの用事もございません。ここから一刻もはやく立ち去るべきなのです。」
「“世界の声”が。」
女は、笑みを消して、やや真剣な面持ちで言った。
「“世界の声”がわたしをここに、呼んだのだ。」
「従う必要はありませんでした。」
女の唇は、笑みの形につり上がった。
軽装の鎧は身につけてはいるものの、武器は構えていない。いやそもそも装備すらしていない。
なのに、なぜこんなにも怖いのだろう。
「結局は力づくで、ということになるのか?」
ゆっくりと。 だが真っ直ぐに。
彼女は最短距離を歩いてきた。
その右手がフリかぶられるのと、ルルベルーナの手に盾が出現するのは、同時だった。
コブシが当たった衝撃に、ルルベルーナの細っこい体は、かるがると吹き飛び、壁にめり込む勢いで叩きつけられた。
ぐはっ。
ルルベルーナの口から鮮血がもれた。
だが、女は怪訝そうにその様子を眺めた。
絶命させるつもりで打ったのだ。
盾を破砕し、ルルベルーナの上半身は吹き飛ぶはずだった。
自分の拳を見ながら、顔をしかめる女にルルベルーナは、へし曲がった盾を投げ捨てた。
「わたしが強くなったのか、あなたさまが弱くなられたのか。」
「まだその口がほざくっ!」
女が、ルルベルーナにむけた掌から、業火が発射された。
ドン!
ルルベルーナの前に新たな盾が出現した。出現と同時に地面にスパイクを打ち込み、自立する。
火炎はその前に虚しく、弾かれた。
女は両手をむけた。
さらに激しさと温度を増した高熱の魔力が、盾を溶解させていく。
ドン!
盾が崩壊する前に、次の盾が現れた。
さらに巨大に、ごつごつと猛々しい形状盾は、女を取り囲むように、四方に同時に現れた!
女の差し伸べた指が、真紅に光る。
発された熱線が盾を次々に両断した。
代償は、彼女の指だ。
熱線の放射を終えたその指は、爪先が無惨に焼け爛れていた。
ドン!
頭上から、断頭台のごとくに落ちてくる盾を、女は飛び下がって交わした。
断頭台のように、ではない。
盾の下部は、まさしく、鋭い刃物になっていた。
「児戯! 児戯よのう!
ルルベルーナ。このような攻撃当たりもせん、当たっても痛痒も感じぬ。」
ルルベルーナは、身を起こした。
その周りに、円盤状の盾が旋回していた。
下らぬ。
女が呟くと同時に、落雷が落ちた。
ルルベルーナが展開した盾は、尽く吹き飛び、ルルベルーナもまた地に倒れ付した。
呼ばれる声に目を覚ました。部屋は真っ暗。ランゴバルド冒険者学校の寮は、三人部屋だった。
彼女は、明日から一般授業にも参加することになった「ルールス分校」に配属され、この部屋になった。
同室になったのは、「一般常識」を丁寧に教えてくれたアキルさんと、少し年上、たぶん二十歳くらいだろう黒目黒髪の超絶美人のオルガさんだ。
オルガさんはすこし取っ付きにくそうだったが、アキルさんは笑顔で、迎えてくれた。
・・・時刻は何時だろう。
それぞれの部屋に時計のある生活にルルベルーナは、慣れていない。
寝間着の上に、一枚羽織って、居間にきてみると、時刻は真夜中だ。
アキルさんもオルガさんもよく寝ていると見えて、それぞれの寝室は静まり返っている。
ルルベルーナ!!!
その声にさからうことはできない。
ルルベルーナにはわかっていた。
だが、従うのを遅らせることはできる。
わざとゆっくりとルルベルーナは、着替えをした。
寝巻きを脱いで、動きやすい服装に着換えた。剣の訓練のときに身に着けた心臓を守る胴衣を身につける。
同じくこれは、ルトさんがプレゼントしてくれた靴を履く。
足首まであるしっかりした靴だ。簡単に抜けないように、念入りに紐でしばる。
履き心地は最高だった。
厚い靴底は、なにを踏んでももびくともしないし、逆につま先は、当て物がつまっていて、なにかを蹴っ飛ばすにはちょうどいい硬さだった。
すこし考えてから、マントを羽織る。
剣は、訓練用のものだ。ルルベルーナの大力、腕力にあわせてある。
とりあえず、振り回したときに、自分が振り回されなくなったら、刃のついた本物を用意してやる。そうサオウさんに言われていた。
部屋のドアをあげて、一階に降りた。
冷たい夜風を浴びながら、外にでた。
そのまま、まっすぐ進むと、試合場がある。
ルルベルーナ!!!!!
はいはい、行きます、行きますとも。
わたしはそのために来たんです。
周りに観覧席をもうけた試合場は、もちろん人っ子一人いない。
いや、一人、いるんだけど、あれは「人」ではないから、カウントの対象外だ。
会場の真ん中に、そいつはいた。
長く伸ばした髪。自信たっぷりな笑み、体にぴったりとした鎧は肉感的な曲線を隠すどころか、強調しているような気がする。足は、ひざまであるブーツをはいているが、むき出しだ。見事な脚線をスリットがはいったスカートが申し訳程度に隠していた。
「どうか、お戯れはその程度に。」
その姿を目の当たりにしただけで、畏怖のあまり動けなくなるかと、心配していたが、なんとか声はでた。
「あなたさまから、接触の機会を申せていただきましたこと、恐悦至極。
なれど、どうぞ、お帰りください。あなたさまはここにいるべき方ではありません。」
「わたしはここに用がある。」
「あちらはあなたさまには、なんの用事もございません。ここから一刻もはやく立ち去るべきなのです。」
「“世界の声”が。」
女は、笑みを消して、やや真剣な面持ちで言った。
「“世界の声”がわたしをここに、呼んだのだ。」
「従う必要はありませんでした。」
女の唇は、笑みの形につり上がった。
軽装の鎧は身につけてはいるものの、武器は構えていない。いやそもそも装備すらしていない。
なのに、なぜこんなにも怖いのだろう。
「結局は力づくで、ということになるのか?」
ゆっくりと。 だが真っ直ぐに。
彼女は最短距離を歩いてきた。
その右手がフリかぶられるのと、ルルベルーナの手に盾が出現するのは、同時だった。
コブシが当たった衝撃に、ルルベルーナの細っこい体は、かるがると吹き飛び、壁にめり込む勢いで叩きつけられた。
ぐはっ。
ルルベルーナの口から鮮血がもれた。
だが、女は怪訝そうにその様子を眺めた。
絶命させるつもりで打ったのだ。
盾を破砕し、ルルベルーナの上半身は吹き飛ぶはずだった。
自分の拳を見ながら、顔をしかめる女にルルベルーナは、へし曲がった盾を投げ捨てた。
「わたしが強くなったのか、あなたさまが弱くなられたのか。」
「まだその口がほざくっ!」
女が、ルルベルーナにむけた掌から、業火が発射された。
ドン!
ルルベルーナの前に新たな盾が出現した。出現と同時に地面にスパイクを打ち込み、自立する。
火炎はその前に虚しく、弾かれた。
女は両手をむけた。
さらに激しさと温度を増した高熱の魔力が、盾を溶解させていく。
ドン!
盾が崩壊する前に、次の盾が現れた。
さらに巨大に、ごつごつと猛々しい形状盾は、女を取り囲むように、四方に同時に現れた!
女の差し伸べた指が、真紅に光る。
発された熱線が盾を次々に両断した。
代償は、彼女の指だ。
熱線の放射を終えたその指は、爪先が無惨に焼け爛れていた。
ドン!
頭上から、断頭台のごとくに落ちてくる盾を、女は飛び下がって交わした。
断頭台のように、ではない。
盾の下部は、まさしく、鋭い刃物になっていた。
「児戯! 児戯よのう!
ルルベルーナ。このような攻撃当たりもせん、当たっても痛痒も感じぬ。」
ルルベルーナは、身を起こした。
その周りに、円盤状の盾が旋回していた。
下らぬ。
女が呟くと同時に、落雷が落ちた。
ルルベルーナが展開した盾は、尽く吹き飛び、ルルベルーナもまた地に倒れ付した。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる