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魔王になんかなりたくない!
古竜とお茶会
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ルルベルーナの表情は、香り高いお茶と一口飲んで、ふわふわのスポンジに果実を練りこんだお菓子を口に運ぶ間に、だいぶほぐれてきた。
アキルにとっては二度目になるが、その素性のことも聞かれるままに話しだした。
出身はシャルリリア龍皇国のラントン侯爵領。
生まれは、ラントン侯爵領でも西のはずれ。生家は、農家であったが、早くに両親を病で亡くして、同じく農業を営む叔母夫婦に育てられた。
学校は、初等教育だけ。
幼い頃から、農作業の手伝いをしていたというが、これは、一緒にそだったいとこたちもいっしょで、格別、ひどい扱いをうけていたわけではない。
ただ、一番上のいとこが、嫁をもらうだんになって、部屋が足りなくなった。
もちろん、果樹の一部を伐採して、離れをつくるか、作業場を移して、母屋を増築するか、といろいろ案は、あったらしいが、いずれも金銭的な負担がかかるため、ルルベルーナのほうから、家を出ることを提案したそうだ。
こんなときに「嫁に出す」という解決案をとる家も少なくはないが、ルルベルーナは、それには少しトシが足りず、またそういった相手もいなかった。
村はそれなりに、子沢山な家庭が多いため、「余った」こどもを他国へ斡旋する業者も数多く出入りしている。
そのうちのひとりに、「買われて」ルルベルーナは、ランゴバルトにやってきたのだという。
そこで、多額の前借金が発生すれば、文字通り「買われた」ことになるのだろうが、ルルベルーナの叔母夫婦は、別段金銭面で切羽詰まっていたわけではなかったので、業者にルルベルーナの旅装を買い与え、業者に交通費、手間賃などを支払った。
あたらしく部屋を増築したりすることに、比べれば、微々たる額であった。
こういった業者は、送り先の国や街をきめ、そこに当人を連れていき、とりあえずの生活がなりたつようにしてやるまでが仕事である。
前借金がない以上、なにがなんでも日銭の稼げる妖しげな商売を斡旋する必要もない。
こういった場合、叔母夫婦が見つけたこの業者は、よく、ランゴバルドの冒険者学校を使用した。
たとえ、冒険者にならないにしても、最低限の読み書きや四則演算など叩き込んでくれるし、なにより、宿も飯もついてくる。
業者は、冒険者学校にたたきこんだ時点で、親元に手紙を一本書いたらそれで終いである。
楽ちんなことこの上ない。
ルルベルーナは、そこらの事情もよくわかっていた。
なので、いきなり「ラントン侯爵家令嬢」にされて、驚いた。
シャルリリア龍皇国は、閉鎖的ではあるが、鉄道網のなかにあり、それなりに情報は伝わってくる。
ランゴバルトの冒険者学校のことは、きいたことがあった。
あるいは、自分が男の子だったら、そんな道をもっと早くに志したかもしれない。
だから、そこに「金を払って」「侯爵家令嬢として」入学させられたことに、心底驚いている。
純朴そうなとつとつとしたしゃべり方だった。ひとが、嘘をついているときのあの流暢なしゃべりでは、まったくない。
ぼくは、神竜騎士団で彼女に稽古をつけたサオウにきいてみた。
たしかに、剣はまったくの素人だった。と、サオウは言った。
それどころか、「戦う」ことすらしたことばないのでは、と彼は言う。
かくいう彼だって、せいぜいが、喧嘩程度、命の取り合いなどしたことはないのだが、その彼から見ても、あまりにも危なっかしい戦いの素人、それがルルベルーナだった。
「かといって、魔法に才能があるわけでもねえ。行儀作法がきっちりしてるわけでもねえ。
料理を作らせれば、切って煮込むのがせいぜいだ。
ジャンガのやつに不当に、落とされてるのかと思って、神竜騎士団に誘ってみたんだが・・・・
これは、無理に学校生活なんかおくらせるずに、『神竜の息吹』でホール係かなんかでやとってもらったほうがいいかもしれねえ。」
そんなふうに言われて、体を縮こませるルルベルーナに、ぼくは、追加のケーキとお茶のおかわりを頼んだ。
幼い頃から、農家の手伝い。ひろい世界なんかなにもしらない田舎育ちの少女。
体つきは、むかしのドロシーと比べてもがりがりだし、顔立ちも美人には程遠い。
とはいえ、ぼくは別の情報ももっている。
入学試験のときに、彼女が「投擲前の的」を誰も感知できなかった力で粉砕していたこと。
河川の流れを変え、ひとの街など瞬時に消去できるとの発言。
考えられる可能性として、いちばん高そうなこと。
ルルベルーナは古竜だ。
アキルにとっては二度目になるが、その素性のことも聞かれるままに話しだした。
出身はシャルリリア龍皇国のラントン侯爵領。
生まれは、ラントン侯爵領でも西のはずれ。生家は、農家であったが、早くに両親を病で亡くして、同じく農業を営む叔母夫婦に育てられた。
学校は、初等教育だけ。
幼い頃から、農作業の手伝いをしていたというが、これは、一緒にそだったいとこたちもいっしょで、格別、ひどい扱いをうけていたわけではない。
ただ、一番上のいとこが、嫁をもらうだんになって、部屋が足りなくなった。
もちろん、果樹の一部を伐採して、離れをつくるか、作業場を移して、母屋を増築するか、といろいろ案は、あったらしいが、いずれも金銭的な負担がかかるため、ルルベルーナのほうから、家を出ることを提案したそうだ。
こんなときに「嫁に出す」という解決案をとる家も少なくはないが、ルルベルーナは、それには少しトシが足りず、またそういった相手もいなかった。
村はそれなりに、子沢山な家庭が多いため、「余った」こどもを他国へ斡旋する業者も数多く出入りしている。
そのうちのひとりに、「買われて」ルルベルーナは、ランゴバルトにやってきたのだという。
そこで、多額の前借金が発生すれば、文字通り「買われた」ことになるのだろうが、ルルベルーナの叔母夫婦は、別段金銭面で切羽詰まっていたわけではなかったので、業者にルルベルーナの旅装を買い与え、業者に交通費、手間賃などを支払った。
あたらしく部屋を増築したりすることに、比べれば、微々たる額であった。
こういった業者は、送り先の国や街をきめ、そこに当人を連れていき、とりあえずの生活がなりたつようにしてやるまでが仕事である。
前借金がない以上、なにがなんでも日銭の稼げる妖しげな商売を斡旋する必要もない。
こういった場合、叔母夫婦が見つけたこの業者は、よく、ランゴバルドの冒険者学校を使用した。
たとえ、冒険者にならないにしても、最低限の読み書きや四則演算など叩き込んでくれるし、なにより、宿も飯もついてくる。
業者は、冒険者学校にたたきこんだ時点で、親元に手紙を一本書いたらそれで終いである。
楽ちんなことこの上ない。
ルルベルーナは、そこらの事情もよくわかっていた。
なので、いきなり「ラントン侯爵家令嬢」にされて、驚いた。
シャルリリア龍皇国は、閉鎖的ではあるが、鉄道網のなかにあり、それなりに情報は伝わってくる。
ランゴバルトの冒険者学校のことは、きいたことがあった。
あるいは、自分が男の子だったら、そんな道をもっと早くに志したかもしれない。
だから、そこに「金を払って」「侯爵家令嬢として」入学させられたことに、心底驚いている。
純朴そうなとつとつとしたしゃべり方だった。ひとが、嘘をついているときのあの流暢なしゃべりでは、まったくない。
ぼくは、神竜騎士団で彼女に稽古をつけたサオウにきいてみた。
たしかに、剣はまったくの素人だった。と、サオウは言った。
それどころか、「戦う」ことすらしたことばないのでは、と彼は言う。
かくいう彼だって、せいぜいが、喧嘩程度、命の取り合いなどしたことはないのだが、その彼から見ても、あまりにも危なっかしい戦いの素人、それがルルベルーナだった。
「かといって、魔法に才能があるわけでもねえ。行儀作法がきっちりしてるわけでもねえ。
料理を作らせれば、切って煮込むのがせいぜいだ。
ジャンガのやつに不当に、落とされてるのかと思って、神竜騎士団に誘ってみたんだが・・・・
これは、無理に学校生活なんかおくらせるずに、『神竜の息吹』でホール係かなんかでやとってもらったほうがいいかもしれねえ。」
そんなふうに言われて、体を縮こませるルルベルーナに、ぼくは、追加のケーキとお茶のおかわりを頼んだ。
幼い頃から、農家の手伝い。ひろい世界なんかなにもしらない田舎育ちの少女。
体つきは、むかしのドロシーと比べてもがりがりだし、顔立ちも美人には程遠い。
とはいえ、ぼくは別の情報ももっている。
入学試験のときに、彼女が「投擲前の的」を誰も感知できなかった力で粉砕していたこと。
河川の流れを変え、ひとの街など瞬時に消去できるとの発言。
考えられる可能性として、いちばん高そうなこと。
ルルベルーナは古竜だ。
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