暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王になんかなりたくない!

竜の牙は困っている

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神竜皇妃。
それが后妃だの、公姫だの、アモンを呼ぶ名は、国によって、伝承によって、いくつもある。それだけ、人の世に混じって生活してきた、という証でもある。
煩わしくなって、迷宮に閉じこもってもみたが、伝承は伝わるほどに形を変え、変質し、彼女を崇めるものする現れている。
古竜は「神」ではない。
望んでもいない祈りによって、己が変質するのは真っ平だった。

“ですから、我々はもう、リアモンドさまにおすがりするしかないのです。”

宝珠なかの道化服のオトコは、そう力説した。
おすがりするしかない、と言うわりには偉そうである。
「放っておけばいいだろう。飽きれば帰ってくる。」
それから付け加えたリアモンド。と呼ぶな。いまのわたしは竜人アモンだ。
「わかっております、アモンさま。」
道化のメイクのは、緊張のための脂汗で流れ始めている。
そんなところまで、化けなくてもいいのに。
と、アモンは内心舌打ちした。
「普通なら放っておきます。あの『世界の声』とかいう道化がいなければ、ですね。」

“道化はおまえだろうに”
と、またアモンは心の中で突っ込んだ。、
「あらゆる障壁を突破して、話しかけてきたやつです。内容こそ荒唐無稽ですが、実際に主上は悩まれ、どなたにも相談できずに、出奔された。」
「わたしは、ここでやるべきことがあるのだ。」
アモンは冷たく言った。
「リウのやつが、フィオリナをめぐっての不始末でここを不在にして、もう半年になる。二人ではじめたコアの改良も放ったらかしだ。
いいか、よく、聞けよ。
わたしは忙しいんだっ!竜の牙。」

偉大なる竜王の親衛隊たる『竜の牙』は、宝珠ごしの通信であっても激しく動揺した。
理論上、宝珠越しにはどんな魔力も通じないことは、わかっていたが、目の前の神竜なら、理を越えてそんな事を平気でやってのけそうな気がした。

「わかっております。」
竜らしからぬ冷や汗に塗れながらも、道化の仮面は外さずに、竜の牙リイウーは、平服した。

「こちらに現れたら連絡はとってやる。それ以上の期待はするな。」
「いやいや」
「なあにが、いやいや、だ。」
「わたしどもは、事態の解決こそ、あなたさまにお願いしたいのです。
出奔した主を見つけるなどということは、そのなかのひとつ、単なる些事も、些事。」

ずうずうしい申し出に、アモンは、怒らずにちょっと考え込む様はさまを見せた。

「ふむ・・・その依頼を受けてやってもいい。ただし、わたし個人ではなく、『踊る道化師』として、だ。」


「仲良くなったのは、いいんだがな。」
とぼくは、ぼやいた。
「いや、ほんとに仲良くなったのは、よいことなんだけど。」

ぼくと、アキルとルルベルーナ。どうしたものか、新入生のイゲルとガセル長老もご一緒だ。
めでたく、「丸暗記」という究極のテクニックを駆使し、一般常識に合格したルルベルーナの祝賀会というやつである。
ルルベルーナの仲良しということで、着いてきたので、そのことはいいのだが、ぼくがここの支払いをもつことになりそうなので、やめてほしい。
せめて、ガセル長老。あんたのその恨みがましい目つきだけはなんとかならないんだろうか。

アキルのリクエストで、「神竜の息吹」が新しく出店したスイーツの店に、ぼくらは腰を落ち着けている。
場所は、レストラン「神竜の息吹」の隣で、もっぱら夜の商売の「神竜の息吹」の姉妹店で、繊細な工芸品を思わせる飴細工をつかったスイーツの考案者は、ラウレスの元部下らしい。

会にはもうひとり、神竜騎士団のサオウも参加していた。

アモンを誘ったのだが、このところアひどくアモンは、難しい顔をしている。
こちらはこちらで、悩みがあるらしい。数日間、神竜騎士団本文と、冒険者学校の迷宮を管理するコアの設置場所を行ったり来たりする生活で、授業にも顔を出していない。

ここ最近に起きた一連の出来事。
勇者に対になる存在「魔王」の再臨。
ぼくらを夜道で襲った竜魔法の使い手。
そして、実際にカザリームに現れ、リウたちに戦いを挑んだと言われる「魔王」ドゥルノ・アゴン。

すべて関係のないところで発生しているようであり、だが、関係していないはずがない。

そこにやってきた転校生。ラントン侯爵家の令嬢を名乗るルルベルーナだ。
この一連の出来事に、物語としての関連性をもたせるならば、彼女もまた「魔王」であり、しかも竜魔法をつかって、ぼくらを襲撃した張本人であろう。
ほら、ぜんぶ、繋がった。

そう考えて、ぼくは肩をおとす。むりやりこじつけたって、虚しいだけだ。

いや、実は考えをまとめるために、誰かに話を聞いてほしかってのだが、悪即斬のフィオリナは論外として、ドロシー、ロウもカザリームだ。

「わあっ! みてよ、このお菓子。
魔法でもないのに、空中にマカロンがうかんでるみたい!」
「それはですね、透明に近い飴細工を編んだもので。両側のサークルで固定しているのです。」
「やかましいのう? 魔王子殿。菓子が不味くなるから少し黙らんかのう?」

グランダ王都の東の森に生息する亜人『長寿族』の元族長で、ぼくと旧知の間柄のガゼルは、どうも狩猟民出身の新入生イゼルが、お気に入りで、なんとか自分のものにしたいようだが、話す相手ごとに、口調はおろか、声のトーンまで、変えてると、ドンびかれること間違いない。
・・・
ほら、引かれてる。

「ルルベルーナだって、ずいぶんと、苦労してるみたい。」
と、アキルが横の、純朴そうか田舎娘を振り向いた。
「い、いえ」
ルルベルーナは、俯いた。
「苦労なんてそんな。」

「ランゴバルド冒険者学校には、留学もそうだけど、ほんとは人探しにきた、みたいなの。
彼女の国の需要人物でありながら、突然姿をくらましたひとのことを。」

「それだったら、力になれるかもしれないな。」
ぼくは身を乗り出した。
「ぼくたち・・・ぼくやアキルは、冒険者パーティを作ってるんだ。言っとくけど、腕は悪くない。」

「わたしも、そう提案してみたんだけどね。」
アキルは、フォークの先で飴菓子をさくさくと、くずして下のスポンジと一緒に口に運んだ。
「迷惑をかけたくないっていうんだ。」

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