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魔王になんかなりたくない!
邪神様の授業
しおりを挟むえーっと、では三回目の補講ということで。
わたしは、ルルベルーナ嬢の今までの『一般常識』のテストを見直した。
「特に弱いところから、重点に・・・・すいません、最初からはじめます。」
見たところ、ルルベルーナ嬢は、全く普通のお嬢さんである。全体に痩せすぎで、手足も細かったが、それはあまり裕福ではない家庭には、ごく普通に見られる体型だった。
話し方も少しおどおどしたところはあるが、頭が悪そうにも見えない。
でも、一般常識はめちゃくちゃに悪い。どこがどう、とすら言えない。満遍なく、オールマイティに悪い。
まるで、それは「知らない」のではなく、何百年か前の「常識」を間違えて覚えこんでしまったかのように、わたしには思えてしかたなかった。
・・・いきなり一人称で話し始めてしまったが、わたしの名は夏ノ目秋流という。
聞いて驚け、異世界人だ。
しかも神に招かれた異世界人であーる!
平たく言って仕舞えば、「勇者」だ。
もっともわたしを、召喚した神様は、少々抜けていて、勇者ならではの特殊能力を付与しwすれてくれちゃったのだが。
まあ、返り血を浴びると傷が回復するというちょっと、アレな力はあることはあるのだが。
そんなわたしを『一般常識』の講師に引っ張り出したのは、ヤホウとゴウグレ、である。
どちらもギムリウスの眷属で、「知性」をもつ蜘蛛の化け物だ。
冒険者学校における身分は、ヤホウが臨時講師、ゴウグレは、わたしたちと同じ学生だ。
ヤホウは、わたしたちのクラスの副担任であるので、ネイア先生が忙しいならヤホウがやれば、という意見も当然あったのだが、見た目が美少年のゴウグレくんとちがって、ヤホウは、仔牛ほどもあるマダラの蜘蛛である。
よくぞ、これを講師に雇ったものだと思うのだが、さすがに『一般常識』の授業は禁止されていた。
変わって、一般常識の臨時講師を仰せつかったのがわたし、異世界人の勇者アキルなのだ。
リウさんに、ドロシーさん、さらにロウさんとギムリウスまでカザリームに出かけてしまっているので、消去法でわたしになったそうだが、異世界人よりも常識がないと思われたルトくんと残念姫ってどうなのよ。
「で、では、まず地理の問題から・・・・」
「はあ。」
頑張らないといけないのはわかっている。でもどうしても気が乗らない。
ルルベルーナはそんなうかない顔だった。
「まず、西域に現在ある国の数は、41。これは都市国家も含みます。もちろん、全部覚える必要はないのですが、8強国と呼ばれる列強の名前だけは覚えましょう。ここは試験に出るところです。」
「はい」
ルルベルーナは、ためらい、やがて、決心したように言った。たぶん、講師である、わたしが同じ年代の女の子だったので気を許したのだ(ろうとおもう。)
「そんなにしょっちゅう、変わるものを覚えないといけないものでしょうか?」
わたしは、うろたえた。
と、思う。
わたしの意識は、たしかに異世界生まれとはいえ、16歳の女の子のものだった。
ただし、わたしは、この世界ではもうひとつの名前をもっている。
その名前は、ヴァルゴールといって、この世界ではもっとも有力な神の一柱だ。
そして、ヴァルゴールは、また異世界にいたわたしをここに、招いた張本人でもあった。
ちょいと、複雑だが、大邪神ヴァルゴールは人の世に現身をもって降臨したくなり、それに耐えうる人材として、過去の己自身を、召喚したのである。
それがすなわち、わたし。
夏ノ目秋流。
そして、ヴァルゴールのわたしの意識は、ルルベルーナの言ったことに、賛成だった。
そりゃそうだろ。
国家といってもたかだか数百年。覇権なんぞ十年でかわる。そんなものの暗記になんの労力が必要なのか。
一方で、女子高生の現実感ももったわたしは、双方の意見を取り入れて、こう宣言していた。
「理屈はないの!
試験のために覚える。それだけ!」
意外にもこれで、ルルベルーナは納得したようだった。
歴史はとにかく丸暗記を約束させたのだが。
「次は地理ね。これはランゴバルド周りだけでいいから。主な河川とそれに沿った都市、それだけ、覚えよう。」
でも。
ルルベルーナは、これにも首を傾げた。
川筋なんて、変えられるものですし。
街なんて、魔法一発で消滅しますよね?
ああ。
邪神の現身よりも、非常識と言われたルトにフィオリナよ。
ここに、あんたらに、匹敵する存在がいます。
いないはずの公爵令嬢ルルベルーナさん。あんたはいったいなにものだ?
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