暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王になんかなりたくない!

ルルベルーナは常識がわからない

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「面白いことをするのだな、ランゴバルドでは。」
そう言ってフィオリナは、笑った。
おそろしくヤバい笑いである。

どのくらいヤバいかというと、ぼくがわざとよろけたふりをして、フィオリナとジャンが学著の間に割って入ったくらいには、ヤバい。

「首を刎ねるには、ちょっと邪魔だ。でも心臓ならつける。」
ぶっそうなことを言いつつも、フィオリナの体から殺気が抜けた。

もっともジャンガ学長を殺すくらい、フィオリナにとっては殺気など必要ないだろう。あるいは、殺気だけでも充分殺せるだろう。
どちらにしてもジャンガ学長の命は、風前の灯だった。
護衛についていた銀級冒険者は、一歩さがって、剣の柄に飾り紐を巻き付けはじめた。
この場で剣を抜く気は無い。
すなわち、無条件降伏の印だ。

「わかった。」
ジャンガ学長は、手を挙げた。
「新たにラントン公爵家から、入るはずの寄付金の一割を、きみたちに渡そう。」
まったく分かってなかった。

「そうじゃない。」
フィオリナの指が、またそろそろと剣の柄に近づいた。
血相をかえた護衛の冒険者が、大きく1歩退いた。そこで、なんとか、フィオリナの間合いからは、逃れている。案外、できるやつなのかもしれない。
「寄付金を二度、徴収するのはやめろと言っている。」
「な、なに! 全額よこせと言うのか!
そ、それはあんまりではないか。」

ぼくは、ため息をついて、歩み出た。

「お、おまえは『踊る道化師』のリーダーのルト!」
こいつ、今までぼくの存在に気がついていなかったのか。

まあ、フィオリナの傍らでは、大抵の人間は影が薄くなるのだが。例外はリウくらいか。
悔しいが、少なくとも見た目は、ぼくよりお似合いなのは否めない。

「いいですか?
本来、授業料も入学金もかからない冒険者学校に、事情のわからない他国の貴族の子を入学させて、寄付金の名目で、がっぽり稼ぐのが、あなたの狙いた。」
「ど、どうしてそれを!」

と言うより、がっぽり寄付金の第一号が、クローディア大公国姫フィオリナなのだがな。

「ここで、あそこは、寄付金を収めたのに、入学させず、さらに金を要求されたとの評判がたったらどうなります?」

な・・・

と、言って、ジャンガは固まった。
本当にそれを考えていなかったのか。

「し、しかし、特待生用に寮もたててしまったら、けっこうかさんで。」
「まあ、ここは、少し長い目で。」
ぼくは、にこにこしながら、ジャンガに囁いた。
「これで、次々に、特待生が決まれば、あっという間に元はとれます。」

「そ、そうだな。」
血色を取り戻したジャンガ学長は、ぼくの手をしっかり握りしめた。
「さすがは、わたしの見込んだ冒険者学校在学中に銀級にまで昇格した『踊る道化師』だ!
どうだ? ルールスのところなど辞めてわしのところに来ないか?
次の特待生の寄付金の5パーセントのマージンを約束しよう。」

ありがとうございます。でもぼくはほら、ネイア先生に噛まれてるので、あそこを離れられないのですよ。またなにかご相談があればいつでも。

「ときどき、我が君が詐欺師に見える時がある。」
すっかり機嫌を直したジャンガ学長の元を、離れると、フィオリナが耳元でささやいた。
「正直、好きではない。」

「ぼくも、フィオリナがやたらに気に食わないやつをぶった斬ろうとするところは、直して欲しいと思うけど。」
「だれが! ぶった斬るぞ!」

ぼくらはいいコンビだ。
果たして、最終系が、幸せな結婚生活なのかどうか、少し疑問にはなってきたけど。



「一般常識」のテストは、そうそう落ちるものでは無い。信号機の見方は、たしかにランゴバルド生まれのものでないと難しいかもしれない。
切符の買い方、はどうだろう。西域でも駅のある街は、限られるし、どうかすると一生魔道列車をのらずに過ごす者も多そうだ。閉鎖的な銀灰皇国や、海と山系にかこまれて、列車の通っていないカザリームなど、必ずしも田舎でなくたって、それはそれで、用が足りるのだ。
ダル紙幣と補助硬貨の使い方などは、西域出身者だったら、難しくもなんともないだろう。

地理や歴史はどうか?
これは、西域以外の出身者には困難だ。それなりの教育をうけていても、歴史は自国の歴史、地理はその国の周辺程度のものになるからだ。

かくいう、ぼくも一回落ちている。
リウ、アモン、ロウ、ギムリウスは、二回落ちた。

ルルベルーナ。
どこをどうみたら、西域の強国の公爵令嬢にみえるのかわからない純朴そうな少女はうつむいている。
顔立ちは悪くないと思うんだけど、手足は真っ黒に日焼けしていて、ぼうっきれのように骨ばっていた。顔も日に焼けたためか、そばかすだらけで、正直あまり美人ではない。
行儀作法も、言葉使いも、上流階級のそれではない。いわるゆ「社交界」デビューもしていないのだろうか。

目の前には、吸血鬼がいる。目は赤光を放ち、唇にははっきりと牙が飛び出していて、いつもの美貌がすっかり悪鬼のそれになっていた。
「わたし、ちゃんと真面目にやりました。」
ルルベルーナは、泣いている。
これで、三回。三回「一般常識」に落ちている。
ネイア先生いわく、一般常識は一般常識なだけに教えるのも、正直苦痛らしい。

「ご、ごめんない。先生が一生懸命教えてくれているのはわかるんですが、どうしても覚えられなくて・・・」

牙をガチガチならしている吸血鬼をまえに、こころからすまなくって泣き出しているルルベルーナの反応も、けっこうずれていた。心のよわいものなら、吸血鬼の気に当てられて、それだけで、半死半生になってしまう。

「どこをどう間違えたら、落第できるんだ。」
「主さまも一回落ちてますよね?」
「あれは・・・西域の王様のなまえとか河川の名前とか知らないし。」

グランダで王立学院主席のぼくだって、こうなのだ。一回落ちるのはしょうがない。
「まあ、正直、一般常識って点では、ギムリウスがいちばん、ひどかったです。」
そりゃあ、ヒトガタで行動すること事態が、はじめての地域制圧型の生体兵器にそんなこと、求めるほうが悪い。
「リウさんもひどかったし、アモンさんもロウさんも。魔道の知識があれだけあって、なんでお金を払ってお釣りをもらうことがそんなに難しいんですか?」

話がやばいほうにいきはじめた。その理由は簡単で、彼らが「魔王宮」と呼ばれる迷宮にそれぞれ、千年から何百年かとじこもっていたからだ。
しかし、正体不明の新入生、ベルルルーン嬢のまえでそこまで口走らないほうがいい。

「とにかく、ホールルームもでられずに、ずっとベルルルーナにつききりなんです。この10日。」

ネイア生生の目は、よくみれば吸血衝動に耐えかねたときの赤光ではない。充血してるだけだ。
きけば、ルールス分校長の警護をしながら、テキストをまとめるのはそれだけ、苦労がかかるのだ。



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