暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王の蠢動

調査開始!

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イゲル、ガゼル、ルルベルーナ。
ゴウグレは、アモンから聞いたその名を丁寧に、手帳に書き写した。
ギムリウスに知性を与えられたユニークならそれくらいは、一度聞けば覚えられそうな気がするが、これもなにかの様式、なんだろう。

ゴウグレは、なんどもアモンに丁寧に頭をさげながら、立ち去ろうとして、立ち止まった。
「あ、ひとついいですか?」

なんだ?
と、アモンは、不快そうな顔をした。「試し」によって仲間と認めたぼくらや、自分の「手下」である神竜騎士団を除くと、彼女はあまり話しかけられることすら、望まない。
「いや、さっきおっしゃってた入学試験中に受験生を神竜騎士団にスカウトする条件なんですが」
美少年は、眉のあいだに皺を寄せている。
「その、ルルベルーナ嬢は、どれに当てはまるんでしょうね。」
「だから不当に落第させられている者、だな。」
「そうなんですか!?
わたしはてっきり、能力が異常でほかの一般生と一緒にさせられないほうかと、思いました。」

アモンの口が、耳まで裂けたように、ぼくは錯覚した。
「そんなことは言ってない。」
「いいえ、おっしゃいました。」
おどおどしながらも、ゴウグレはなおも言った。
「スカウトの条件は、腕利きか、不当に落第させられそうなもの、能力、性格が異質でクラスにおいていけないもの、だと。違いますか?」

アモンは黙っている。

「どの条件がルルベルーナ嬢に当てはまったのかは、あなたはわざと言わなかった。
あ、うち神サンが言うんですけどね、
あなたは基本的には面倒みのいい親切な古竜だけど、だしたヒントをスルーするような相手には恐ろしく冷酷にもなれると。」

それだけ言って、それじゃどうもとかなんとか口の中でもごもごしながら、今度こそは本当に騎士団本部を後にした。

「いったん、ルールス先生に経過を報告してくる。」
と、ぼくはゴウグレに言った。
「ルールス先生の依頼は、ルルベルーナ嬢の行方を探せ、だ。
ひと
まずは、依頼事項は達成だろう。報奨金を受け取ってくる。」
「ルト。」
ぼくより、少し小柄なゴウグレはぼくを見上げるようにして、言った。
「もう少し調べたいことがあります。いったん別行動にいたしましょう。
報告は、夕食のときに食堂で。」

「ひとりで大丈夫なのか?」
と言いかけて、ぼくは思い出した。
こいつは、神獣の眷属だ。
しかも邪神ヴァルゴールの「12使徒」のひとりだ。

ルールス先生は、ぼくの報告をきくと、難しい顔で、腕を組んだ。
全体にちんまりした美女がそんなポーズをするのは、なんとも似合わなくて、可愛らしい。
ちらちらに横目で、酒の瓶を見ているので、ネイア先生がそっと取り上げた。

「心当たりは?」

「ない。というか、ありすぎてわらかん!」
ルールス先生は、顔を歪めている。
「ギウリークの線はどうだ? いくらなんでもうすいか、ルト。」
「ないと思いますね。」

可能性だけだったら、いくらでも疑える。
新入生という形で刺客を送り込むなど、ギウリークならいかにもやりそうだった。
だが、くだんのルルベルーナ嬢は、あまりにもめだち過ぎている。
刺客なら、ごくふつうに受験すればとりあえず、校内にはもぐりこめるのだ。

「ギウリークの動きなら、アライアス侯爵、ガルフィート伯爵を通じてまるわかりです。
かれらの管轄外の組織はおよそ、小さなものでランゴバルド相手に仕掛けられるとは思えない。」
「ならば、銀灰か? 皇女オルガの命をねらう反壊乱帝の送り込んだ暗殺者か。」

ぼくはわらった。本当にわらっただけなのだが、ルールス先生は気味悪そうに、からだをのけぞらせた。

「それは、むしろ歓迎なのです。オルガのデスサイズは定期的に血をすわせてやらないといけないし、こちらもいい訓練になる。」

「ぬしどのが本気でいっているのがわかるだけに恐ろしい。」
ネイア先生まで、みぶるいをする。心外な!

「だいたい、八強国の名門貴族なら、家族構成の情報くらいは他国にも出回っている。
すぐにばれるような嘘に、あのとんでもない額の寄付金を支払ったのか?
いったい、どこのバカが。」
と、ルールス先生。

「といいつつ、あっさり騙された学校もあるようですが。」
「ジャンガを基準にするな。やつは寄付金の小切手が本物かどうかしか気にしておらん。」

ルールス先生は、椅子にふかく沈み込んだ。

「放置はできんし、かといって、捕まえて拷問にかけてたとしても、なにを答えようにも信用ができん。」
童顔の美女は嘆いた。
「打つ手なしじゃ。まったくどうしたものか。」

ぼくは、このあまりにもな発言に、言葉をなくした。
ルールス先生は、ぼくの表情に気が付き、なんだ、と聞いてきた。
ぼくは、黙ってネイア先生を指さした。
ネイア先生・・・褐色の肌に緑の瞳の吸血鬼は、可哀想な子を見る目でルールス先生を眺めていた。

「なんだなんだ、ふたりそろって!
それともなにか、わたしが会っただけでその正体を見抜ける『真実の目』の持ち主だとでも言うのか・・・・・」

語尾はむにゅむにゅと口の中に消えた。
そう・・・
ルールス先生は、ランゴバルドの王族であり、ランゴバルドの秘宝「ローゼバックの真実の眼」の持ち主なのだ。

「自分のキャラ設定を忘れてどうします?」
「キャラ設定っていうな! こっちも生きてる人間だぞ!」

「とりえず、ルールス先生を連れて、ルルベルーナ嬢に会ってくる。」
ぼくは立ち上がった。
わたしも行きます。とネイア先生も腰を浮かす。時刻は日没にはだいぶ間がある。
この時間ならば、修練場にいるだろう。


ゴウグレは、遠目に神竜騎士団の修練場を、木陰から眺めている。
剣をかまえているのが、問題のルルベルーナ侯爵令嬢だろうか。相手をしているのは、神竜騎士団のサオウのようだった。
人間の目には、やっと人影が判別できる距離も、ゴウグレの視力では、充分だ。
しばらく、ここから観察を続けよう。

ゴウグレは、視界の端に、なにかをとらえた。反射的にゴウグレは体を跳ね上げていた。
たったいままで彼のいた空間を、矢が通り抜けていく、

その頭上から!
槍をかまえた少女が降ってきた。



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