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魔王の蠢動
いないはずの娘
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「ゴウグレは、足跡でひとを特定できるのかい?」
ぼくらは、木々と建物に糸をひっかけて、反動とあとは風魔法による制御をつかって、空をかけていく。
ミトラを舞台にゴウグレとギムリウスが開発した移動ほうだ。魔力の消費は少ないし、意外と小回りがきく。ただし、難点は一歩間違うと壁に叩きつけられる心配があることだ。
たたきつけられてもなんとかなるゴウグレとギムリウスは、気にもとめなかったが、ぼくには今ひとつだ。
かといって、速度を落としたり、風で障壁を作ったりしたら、せっかくの魔力の消費が少ないというメリットが、台無しだしなあ。
魔力の使用が少しでいいということは、単なる魔力の節約では無い。
周りから探知されにくいという利点ついてくるのだ。
少し先を飛ぶゴウグレは、振り向いた。目の前を木の枝がかすめた。
あと、指1本近ければ、頬に指1本分の傷口ができていた。そんな距離である。
「もちろんです!
人間は違うのですか?」
「主に人間は顔で個体を識別している。」
「そんな困難なことをなぜ?」
ゴウグレは、こっちを向いたまま、後ろ向きに飛行している。
背中にも目がついているようだった。
案外ほんとうに、そうかもしれない。怖いので深くは追求しないことにした。
「だって一番、特徴があるだろう?」
「ありませんよ。目や鼻や口の位置もだいたい決まってて、しかも感情によってその位置が動く。」
「ひょっとして人間の顔の見分けがついていないのか?」
「差異はちゃんと認識してます。でも足音や匂い、仕草、声、判別のほうかよほど区別しやすいです。」
冒険者学校の敷地は、広大だ。
なにしろ、ここはランゴバルドであって、ランゴバルドではない。閉鎖された別世界だ。
単純に言ってしまえば、「迷宮」だ。
神竜騎士団の前の空き地に、降り立ったぼくらを、団長のアモン殿が自ら出迎えた。
「妙な移動方法を開発したな。」
アモンは腕組みをしたまま、ぼくらに笑いかけた。
「ギムリウスが、ミトラで使っていた。このゴウグレの発案らしい。」
「おまえが、敬語を使わないと言うことは任務中か?
なんの依頼だ? そろそろ、カザリームを訪問する決意でも固めたか?」
「ではなくて、人探しだ。」
ぼくが、ルールス先生からの依頼を話すと、アモンはあっさりと「ああ、うちのサオウだな。」と、認めた。
「このところ、入学試験の会場でこれは、と思うものは先にスカウトすることにしている。今回はサオウの番だったな。」
「これは、と思うのは?」
「腕のたつ者、性格態度が粗暴すぎたり、能力が異常で問題を起こしそうなやつ、まあ、いろいろだ。なかには、寄付金のオカワリ欲しさに意味もなく、落第にされそうになっている者も含まれる。」
「つまり」
「そういう事だ。」
アモンはうれしそうだった。
「まだわたしは会っていないが、北方の長寿族の族長に、狩猟民族の腕利き、龍皇国の侯爵令嬢だ。
なかなかのとれ高だろう?」
新入生を農作物みたいに言うなっ
ぼくの遠慮のない口舌に、ゴウグレの顔色が悪い。たしかに、神竜皇妃リアモンドといえば、数々の伝説に彩られた古竜・・・半ば神格化された存在だった。
迷宮組の中でも、有名すぎて、彼女だけ、竜人アモン、と偽名を名乗っている。
他の連中だって、そうしたほうが良かったのだが、ギムリウスは、偽名どころかニックネームでさえ許さないし、リウは、名乗ったら、単なる上古の魔王を名乗っただけのイキったにいちゃんだと思われて人気が出た。ロウは、ルールス先生の個人ボディガードを兼ねていたネイア先生が爵位持ちの吸血鬼だったので、真祖であることをあっさり見抜かれたので、今さら、偽名もなかった。
「じゃあ、ルルベルーナ嬢は無事なんだな。」
何はともあれ、ほっとしてぼくは言った。
「ルールス先生には、彼女は神竜騎士団が預かっていると、伝えておく。
楽な任務だったな。ありがとうございます、アモン。」
うんうん。
と、アモンは頷いた。
その笑顔に裏があるような気がして、ぼくは彼女の華やかで獰猛な笑顔を見遣った。
「・・・・まだ、何か?」
「龍皇国は、古竜と縁が深い国でな。」
「それは聞いてます。伝説の“竜の都”に行くには、龍皇国を通る必要があると。」
「ラントン侯爵家は、500年引きこもっていたわたしも知ってるくらいの名家でな。
昔、少々世話をしてやったことがあるので、この前、“竜王の牙”の連中に聞いてみた。
当代のラントン侯爵は、ダンテという男でな。」
「なるほど。」
ぼくは一つ、肩の荷が降りたような気がした。
「ラントン侯爵家令嬢というのが、そもそも偽物かと思ってたんですが、ちゃんとラントン侯爵家は実在するわけですね。」
「そうそう。なかなかのきれものだそうだ。齢70歳を超えてもまだまだ元気でな。
跡取りは、先に自分の寿命のほうがつきそうだと、ヤキモキしているそうだ。」
・・・・
そうきたか!!
「子宝にも恵まれたそうだ。跡取りの長男は、すでに妻帯し、こちらも一男一女がいる。三人の娘は、いずれも嫁いでいて・・・」
アモンの唇から白い歯がこぼれた。それは明らかに人間の歯であるにも関わらず、肉食獣の牙に見えた。
「10代の娘など、ラントン侯爵にはいないのさ。どうもおまえたちは、ルルベルーナと名乗る娘の正体とその目的も明らかにしたほうがよさそうだな。」
ぼくらは、木々と建物に糸をひっかけて、反動とあとは風魔法による制御をつかって、空をかけていく。
ミトラを舞台にゴウグレとギムリウスが開発した移動ほうだ。魔力の消費は少ないし、意外と小回りがきく。ただし、難点は一歩間違うと壁に叩きつけられる心配があることだ。
たたきつけられてもなんとかなるゴウグレとギムリウスは、気にもとめなかったが、ぼくには今ひとつだ。
かといって、速度を落としたり、風で障壁を作ったりしたら、せっかくの魔力の消費が少ないというメリットが、台無しだしなあ。
魔力の使用が少しでいいということは、単なる魔力の節約では無い。
周りから探知されにくいという利点ついてくるのだ。
少し先を飛ぶゴウグレは、振り向いた。目の前を木の枝がかすめた。
あと、指1本近ければ、頬に指1本分の傷口ができていた。そんな距離である。
「もちろんです!
人間は違うのですか?」
「主に人間は顔で個体を識別している。」
「そんな困難なことをなぜ?」
ゴウグレは、こっちを向いたまま、後ろ向きに飛行している。
背中にも目がついているようだった。
案外ほんとうに、そうかもしれない。怖いので深くは追求しないことにした。
「だって一番、特徴があるだろう?」
「ありませんよ。目や鼻や口の位置もだいたい決まってて、しかも感情によってその位置が動く。」
「ひょっとして人間の顔の見分けがついていないのか?」
「差異はちゃんと認識してます。でも足音や匂い、仕草、声、判別のほうかよほど区別しやすいです。」
冒険者学校の敷地は、広大だ。
なにしろ、ここはランゴバルドであって、ランゴバルドではない。閉鎖された別世界だ。
単純に言ってしまえば、「迷宮」だ。
神竜騎士団の前の空き地に、降り立ったぼくらを、団長のアモン殿が自ら出迎えた。
「妙な移動方法を開発したな。」
アモンは腕組みをしたまま、ぼくらに笑いかけた。
「ギムリウスが、ミトラで使っていた。このゴウグレの発案らしい。」
「おまえが、敬語を使わないと言うことは任務中か?
なんの依頼だ? そろそろ、カザリームを訪問する決意でも固めたか?」
「ではなくて、人探しだ。」
ぼくが、ルールス先生からの依頼を話すと、アモンはあっさりと「ああ、うちのサオウだな。」と、認めた。
「このところ、入学試験の会場でこれは、と思うものは先にスカウトすることにしている。今回はサオウの番だったな。」
「これは、と思うのは?」
「腕のたつ者、性格態度が粗暴すぎたり、能力が異常で問題を起こしそうなやつ、まあ、いろいろだ。なかには、寄付金のオカワリ欲しさに意味もなく、落第にされそうになっている者も含まれる。」
「つまり」
「そういう事だ。」
アモンはうれしそうだった。
「まだわたしは会っていないが、北方の長寿族の族長に、狩猟民族の腕利き、龍皇国の侯爵令嬢だ。
なかなかのとれ高だろう?」
新入生を農作物みたいに言うなっ
ぼくの遠慮のない口舌に、ゴウグレの顔色が悪い。たしかに、神竜皇妃リアモンドといえば、数々の伝説に彩られた古竜・・・半ば神格化された存在だった。
迷宮組の中でも、有名すぎて、彼女だけ、竜人アモン、と偽名を名乗っている。
他の連中だって、そうしたほうが良かったのだが、ギムリウスは、偽名どころかニックネームでさえ許さないし、リウは、名乗ったら、単なる上古の魔王を名乗っただけのイキったにいちゃんだと思われて人気が出た。ロウは、ルールス先生の個人ボディガードを兼ねていたネイア先生が爵位持ちの吸血鬼だったので、真祖であることをあっさり見抜かれたので、今さら、偽名もなかった。
「じゃあ、ルルベルーナ嬢は無事なんだな。」
何はともあれ、ほっとしてぼくは言った。
「ルールス先生には、彼女は神竜騎士団が預かっていると、伝えておく。
楽な任務だったな。ありがとうございます、アモン。」
うんうん。
と、アモンは頷いた。
その笑顔に裏があるような気がして、ぼくは彼女の華やかで獰猛な笑顔を見遣った。
「・・・・まだ、何か?」
「龍皇国は、古竜と縁が深い国でな。」
「それは聞いてます。伝説の“竜の都”に行くには、龍皇国を通る必要があると。」
「ラントン侯爵家は、500年引きこもっていたわたしも知ってるくらいの名家でな。
昔、少々世話をしてやったことがあるので、この前、“竜王の牙”の連中に聞いてみた。
当代のラントン侯爵は、ダンテという男でな。」
「なるほど。」
ぼくは一つ、肩の荷が降りたような気がした。
「ラントン侯爵家令嬢というのが、そもそも偽物かと思ってたんですが、ちゃんとラントン侯爵家は実在するわけですね。」
「そうそう。なかなかのきれものだそうだ。齢70歳を超えてもまだまだ元気でな。
跡取りは、先に自分の寿命のほうがつきそうだと、ヤキモキしているそうだ。」
・・・・
そうきたか!!
「子宝にも恵まれたそうだ。跡取りの長男は、すでに妻帯し、こちらも一男一女がいる。三人の娘は、いずれも嫁いでいて・・・」
アモンの唇から白い歯がこぼれた。それは明らかに人間の歯であるにも関わらず、肉食獣の牙に見えた。
「10代の娘など、ラントン侯爵にはいないのさ。どうもおまえたちは、ルルベルーナと名乗る娘の正体とその目的も明らかにしたほうがよさそうだな。」
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