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魔王の蠢動
魔物探偵
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冒険者学校に在籍する生徒は、いろいろいる。
基本的には義務教育を終える10代半ばから20前後の若者が多いが、そもそも食い詰めて流れてきたものには、もっと歳のいかない、ほんとうの子どももいたし、あるいは、どこかで無資格のまま冒険者を続けていたが、正規の資格が必要になって、あわてて入学するものもいて、下は7~8歳、うえは30歳を越える、幅広い年齢層が在籍していた。
さらに、これに亜人が加わるので、構成としてはけっこうデタラメだった。
一応、男性と女性、それに亜人たちに寮は別れてはいたが、出入りは自由である。
ジャンガが、行方不明の少女ルルベルーナを案内したという寮は、先月完成したばかりの新しいもので、床も壁もぴかぴかのだった。
玄関脇には、応接のためのスペースがあり、どうも実際に本格稼働した暁には、常時、出入りするものをチェックできるよう検問も行うつもりだったようだ。
おそらく、寄付金をとって入学させるお金持ちのお子様たち用に、作ってのだろう。だったらうちのフィオリナはクローディア大公国のお姫様だし、「闇姫」オルガは、銀灰皇国の皇女殿下だ。
こっちにいてれくれてもいいのになあ、とぼくは思いながら、手すりにまで、細やかに浮き彫りのほどこされた階段を登って、ルルベルーナの部屋へと向かった。
部屋はリビングと二つの寝室、トイレやバスもついている。一人部屋、なのだがおそらく従者や付き添いのメイドが寝泊まりすることを想定しているのだろう。
寝リビング室のひとつは、もうひとつに比べるとかなり簡易なもので、勉強用の机はひとつだけだった。
はむしろ、豪華すぎるんじゃないかと思わせる応接セットが部屋の真ん中にはばをきかせている。
「ベッドも使った様子がない。」
ルルベルーナがここに滞在したのは、ほんの数時間のようだ。
つまり、遠距離攻撃の試験に失敗し、失意のうちにこの部屋に戻って、わずかな間に彼女はさらわれたのだ。
いや、さらわれた、と言うのはわからない。なぜって。
「攫われた、と判断するのは、いったん置きましょう。部屋には争ったあとはありません。」
ゴウグレが、大きな虫眼鏡をだして、床や壁を調べながら言った。
ぼくは、正直感心した。
まともじゃないか。能力はともかく、やっることは。
「わかるのかい、ゴウグレ。」
「もちろんですとも! 我が創造主と我が神のご友人殿。」
どんな凶悪な魔物でも、それが害をなすかは、相手によるのだろう。と思う。
ゴウグレが、創造主とよんだ神獣ギムリウスと、彼の信仰する神であるヴァルゴールは、もっかぼくの友人には違いないので、ゴウグレは、ぼくにとっては、限りなく無害な存在だ。
問題はむしろ、有能かどうか、というところなのだが、そちらも大丈夫そうだ。
「部屋に複数の人間が立ち入った形跡があります。」
ルーペは忙しく床を往復いている。彼自身も床にべったりとはりついて、ほこりひとつもみのがすまいとしているように、せわしく部屋をいったりきたりしていた。
まるで、蜘蛛みたいに。
というか、ギムリウスがつくった以上、彼は間違いなく蜘蛛の魔物なのだが。
蜘蛛みたいだ。
と、つぶやいた僕の言葉に喜色満面の笑みをうかべて、ゴウグレは顔をあげた。
「そうなんですか! そんなに蜘蛛っぽかったですか?」
そういえば、彼はその姿が脆弱で醜い人間のものであることを恥じていた。
いまの体では、床をひっかいたり、あごをぎちぎちと鳴らす蜘蛛言語も満足に話せない。
「ルルベルーナ嬢の足跡が特定できました。」
蜘蛛はついに作業を終了し、顔をあげてうれしそうに言った。
「歩幅から身長や体重もわりだせます。
侵入者は三名。小柄な足跡・・・これはこどもでしょうね。それに女性。これは狩人特有の独特な歩法であるいています。それに成人の男性が一名。これは剣士でしょう。
状況はこうです。
ルルベルーナ嬢は、その窓際の椅子に腰掛けていました。おそらくは落第をなげいていたのでしょう。机に涙のあとがありました。
そこに剣士が、少し遅れて子どもと狩人が入ってきました。
四人はここですこしの間、はなしをしたあとで、互いに納得づくでいっしょにこの部屋をでました。」
「若い二人はおそらくは、今回の受験生だろう。狩猟民族の出身者も十歳にみたないこどもも数がすくない。用意に相手を特定できる。
すばらしい! すばらしい推理だよ、ゴウグレ!」
少年蜘蛛は咳払いして続けた。
「初歩的な問題だよ、ワトソンくん。」
それからあわててつけくわえた。
「我が神から、こう言われたらこう返せと厳命が」
わかったけど、ワトソンっていったい誰なんだろう。
「さっそく、四人のあしどりを追おう。その前に、受験生をあたってなまえを特定しておくか。」
「その必要はないかと。」
蜘蛛は本当の名探偵っぽく、皮肉にもみえる笑みを浮かべていった。
「なぜ!」
「剣士は、神竜騎士団のサオウさんです。まずは騎士団本部をたずねましょう。」
それ・・・・わかったのならさきに言って。
憮然とするぼくに、ゴウグレは言った。
「この世界には、不思議なことなどひとつもないのだよ、セキグチくん。」
だから、それ誰よ!
基本的には義務教育を終える10代半ばから20前後の若者が多いが、そもそも食い詰めて流れてきたものには、もっと歳のいかない、ほんとうの子どももいたし、あるいは、どこかで無資格のまま冒険者を続けていたが、正規の資格が必要になって、あわてて入学するものもいて、下は7~8歳、うえは30歳を越える、幅広い年齢層が在籍していた。
さらに、これに亜人が加わるので、構成としてはけっこうデタラメだった。
一応、男性と女性、それに亜人たちに寮は別れてはいたが、出入りは自由である。
ジャンガが、行方不明の少女ルルベルーナを案内したという寮は、先月完成したばかりの新しいもので、床も壁もぴかぴかのだった。
玄関脇には、応接のためのスペースがあり、どうも実際に本格稼働した暁には、常時、出入りするものをチェックできるよう検問も行うつもりだったようだ。
おそらく、寄付金をとって入学させるお金持ちのお子様たち用に、作ってのだろう。だったらうちのフィオリナはクローディア大公国のお姫様だし、「闇姫」オルガは、銀灰皇国の皇女殿下だ。
こっちにいてれくれてもいいのになあ、とぼくは思いながら、手すりにまで、細やかに浮き彫りのほどこされた階段を登って、ルルベルーナの部屋へと向かった。
部屋はリビングと二つの寝室、トイレやバスもついている。一人部屋、なのだがおそらく従者や付き添いのメイドが寝泊まりすることを想定しているのだろう。
寝リビング室のひとつは、もうひとつに比べるとかなり簡易なもので、勉強用の机はひとつだけだった。
はむしろ、豪華すぎるんじゃないかと思わせる応接セットが部屋の真ん中にはばをきかせている。
「ベッドも使った様子がない。」
ルルベルーナがここに滞在したのは、ほんの数時間のようだ。
つまり、遠距離攻撃の試験に失敗し、失意のうちにこの部屋に戻って、わずかな間に彼女はさらわれたのだ。
いや、さらわれた、と言うのはわからない。なぜって。
「攫われた、と判断するのは、いったん置きましょう。部屋には争ったあとはありません。」
ゴウグレが、大きな虫眼鏡をだして、床や壁を調べながら言った。
ぼくは、正直感心した。
まともじゃないか。能力はともかく、やっることは。
「わかるのかい、ゴウグレ。」
「もちろんですとも! 我が創造主と我が神のご友人殿。」
どんな凶悪な魔物でも、それが害をなすかは、相手によるのだろう。と思う。
ゴウグレが、創造主とよんだ神獣ギムリウスと、彼の信仰する神であるヴァルゴールは、もっかぼくの友人には違いないので、ゴウグレは、ぼくにとっては、限りなく無害な存在だ。
問題はむしろ、有能かどうか、というところなのだが、そちらも大丈夫そうだ。
「部屋に複数の人間が立ち入った形跡があります。」
ルーペは忙しく床を往復いている。彼自身も床にべったりとはりついて、ほこりひとつもみのがすまいとしているように、せわしく部屋をいったりきたりしていた。
まるで、蜘蛛みたいに。
というか、ギムリウスがつくった以上、彼は間違いなく蜘蛛の魔物なのだが。
蜘蛛みたいだ。
と、つぶやいた僕の言葉に喜色満面の笑みをうかべて、ゴウグレは顔をあげた。
「そうなんですか! そんなに蜘蛛っぽかったですか?」
そういえば、彼はその姿が脆弱で醜い人間のものであることを恥じていた。
いまの体では、床をひっかいたり、あごをぎちぎちと鳴らす蜘蛛言語も満足に話せない。
「ルルベルーナ嬢の足跡が特定できました。」
蜘蛛はついに作業を終了し、顔をあげてうれしそうに言った。
「歩幅から身長や体重もわりだせます。
侵入者は三名。小柄な足跡・・・これはこどもでしょうね。それに女性。これは狩人特有の独特な歩法であるいています。それに成人の男性が一名。これは剣士でしょう。
状況はこうです。
ルルベルーナ嬢は、その窓際の椅子に腰掛けていました。おそらくは落第をなげいていたのでしょう。机に涙のあとがありました。
そこに剣士が、少し遅れて子どもと狩人が入ってきました。
四人はここですこしの間、はなしをしたあとで、互いに納得づくでいっしょにこの部屋をでました。」
「若い二人はおそらくは、今回の受験生だろう。狩猟民族の出身者も十歳にみたないこどもも数がすくない。用意に相手を特定できる。
すばらしい! すばらしい推理だよ、ゴウグレ!」
少年蜘蛛は咳払いして続けた。
「初歩的な問題だよ、ワトソンくん。」
それからあわててつけくわえた。
「我が神から、こう言われたらこう返せと厳命が」
わかったけど、ワトソンっていったい誰なんだろう。
「さっそく、四人のあしどりを追おう。その前に、受験生をあたってなまえを特定しておくか。」
「その必要はないかと。」
蜘蛛は本当の名探偵っぽく、皮肉にもみえる笑みを浮かべていった。
「なぜ!」
「剣士は、神竜騎士団のサオウさんです。まずは騎士団本部をたずねましょう。」
それ・・・・わかったのならさきに言って。
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