暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王の蠢動

失踪したのはだれ?

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「龍皇国の侯爵家令嬢が、行方不明!」

いくらランゴバルド冒険者学校が、広いとはいえ、それなないだろう。ぼくは、隣のルールス先生を見たが彼女も負けず劣らずに、呆れ返った顔をしていた。

「実技試験があまりにも酷かったので、入学後の特別授業の費用の一部を負担いただけないかと侯爵家の代理人に交渉をしている最中にいなくなった。」
ジャンガ校長は、大げさにため息をついた。
「きみたちも、着いたばかりの新入生を失踪されてしまっては、責任重大だろう。
首尾よく連れ戻せればよし、無ければなんらなの罰は免れまいな。」
「ルールス分校になんの責任が?」
「失踪したルルベルーナ嬢はきみたちルールス分校の生徒じゃないか!」
と、ジャンガは大袈裟に手を振りながら言った。
「きいてませんけど?」
「一昨日、校内便で発信してある。読まなかったのは、そちらの責任だな。」

ぼくは、ルールス先生と顔を見合わせた。
大国の侯爵家令嬢が校内で行方不明とは、尋常な事態ではない。それこそ、どの教室の担任か、などというら問題ではない。
学校そのものの管理責任が問われる。

その時に、いやわたくしは担任の先生ではありませんので、という言い訳がはたして龍皇国に通じるのか。
考えればわかりそうなのだが、考えないのが、ジャンガの、強みなのだ。
その浅い考えのまま、ギウリークに丸め込まれて、学長選を勝ち抜き、ルールス先生を蹴落として、いま学校長の地位にある。

王族であり、名誉職であるの冒険者学校の学校長などを、不正選挙で奪い取ったらどうなるか。
先の見えるものなら、絶対にしないことを、この男はやってのけた。
そして、ギウリークは、ランゴバルドへの工作から現在のところ、手を引いている。
つまり資金の援助や人的な援助はもうないのだ。
それに気がついているのか、いないのか。
ジャンガの強気は変わらない。

「彼女の荷物は?」
「トランク一個だけだった。部屋はもぬけのからだ。」
「共周りは?」
「一人でやってきた。一人きりで、こう。」
ジャンガは、何かを引きずるような仕草をした。
「トランクをずるずると引っ張って。」

「本当にそれが、シャルリリア龍皇国ラントン侯爵家のご令嬢なのか?」
ルールスが最もな疑問を口にした。

「それは間違いない。」
ジャンガは胸を張った。
「ラントン侯爵家の執事バークレ殿が、おっしゃっていただいた通りの時刻に、お聞きしていた通りご様子で現れた。」
「・・・それで、そのバークレどの、とやらが、本物のラントン侯爵家の執事だという証は?」
「緑の小切手を持っていた。ちゃんと銀行で現金にできたぞ。」

つまりは・・・お金をもってきたから本物だと?

「要するに金をもってくれれば、本物だと。」
「バカをいうな。」
ジャンガは天井が見えるほどに、反り返った。
「金をもって来れば、本物であるかどうかなど問題ではない。」

これが、ジャンガ・グローブか。
ぼくは、なんとなくこの男を気に入りはじめていた。

———————————


しかしながら、ジャンガとの対談は、成果もあった。

「行方不明のルルベルーナ嬢が、本当のラントン侯爵家の娘でないのならば、少なくとも外交上の問題は起きないな。」
ルールス先生は、非情に言った。
「だが、時期、冒険者学校の次期校長としては、放っておくわけにもいかん。
『踊る道化師』に頼めるか?」

ぼくは、ため息をついた。

「そうなりますか?」
「わたしは、おまえらの雇い主だ。もちろん、わたしの護衛料とは別に料金を払う。」

真面目に考えると、リウはともかくドロシーのいないいま、頭脳労働は避けたかった。
しかも常識には欠けている情報収集に長けたギムリウスも、ミトラのアライアス侯爵の元に呼ばれている。
誰か任せられるものはいないだろうか。

心当たりはなくもなかったので、ぼくは頷いた。


人探しならば、探偵を頼むのがよいのだろう。
ギムリウスはいなかったが、幸いなことに神様がいた。

「お呼びでございますか?」
インバネスコートのゴウグレ。可愛らしい少年の姿をしたギムリウスの創造物。
そして、邪神ヴァルゴールの12使徒。

アキルは、受験生の失踪事件の概略を話した。
主神からの要望に、ゴウグレは頷いた。
「まずは、彼女の部屋に行ってみましょう。手がかりは現場にこそあるんだ。」

そして、ぼくを振り向いて言った。

「さあ、行こうか。ワトソンくん。」
「なんだ、それ。」
ぼくは無駄だと思いながらも、一応聞いてみた。

「それは・・・」
ゴウグレは、困ったように、彼の神を見た。

「名探偵というものは、行動がわかりにくいもので。」
と、アキルは律儀に答えた。
「わかりやすくするために、ツッコミ役が必要なんだ。それがワトソンくん。嫌だったらイシオカカズミでも、セキグチタツミでもいい。まあ、色々と特徴はあるのだけれど、探偵の活動には必須なんだよ。」

そういうものだろうか。
どうもアキルは、邪神ヴァルゴールではなく、単なる異世界人夏ノ目秋流としての知識で語っているように思えた。
そもそも、ぼくがゴウグレに付き添わなければならないのなら、ぼくがゴウグレに依頼する意味がないのではないだろうか。

ゴウグレは、もちろん己の神いうことに忠実だった。

これは、それこそ、下手に突っ込んでもダメだろう。

仕方なく、ぼくはゴウグレとともに、ルルベルーナ嬢に割り当てられた寮に向かうことにした。
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