暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王の蠢動

賄賂のおかわり

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ラントン侯爵家の執事バーレクは、ランゴバルド内のホテルに滞在していた。
そのくせ、肝心のご令嬢の初登校には付き添いもしなかった。

ジャンガ冒険者学校校長が、使者を送るのと、バーレクは、それから一時間もしないうちに、冒険者学校を訪れた。

ジャンガは、龍皇国の名門貴族の執事を、鎮痛な面持ちで迎えた。

「非常に残念なお知らせです、バーレク殿。」
「概略は、使いからお聞きしましたが、どういうことでしょうか、ジャンガ校長。
ランゴバルド冒険者学校はもともと、優秀な冒険者を世に送り出すための機関のハズです。
そして、その門戸は、西域はもちろん、中原、北方、南方、東域まで広く。人間はもちろん亜人にまで開かれている。当然、能力ひとつとっても千差万別。入学試験は単にその後の指導指針をたてるための資料集め。そんなものでは、入学を拒否することはない。ありえない、と伺っております。」
バーレクの表情が硬いのは、入学することを前提でとんでもない金額の寄付金を収めているからだ。
それは通常の私塾や、あるいは各国にある王侯貴族のための教育機関におさめる授業料の比ではない。
ジャンガが「ちなみに、辺境のクローディアではこのくらいのご寄附をいただいております。」
と、述べた金額が規準にされている。

クローディア大公にしてみれば、あのフィオリナを預ける以上しかたないと判断したら額なのだが、そこまではジャンガにはわからない。
「まことに残念ながら。」
ジャイロは、深々と頭を下げた。
「姫さまは、かなり問題があります。実技試験の的あてにおいて、ひとつも的をとらえられなかったのは、ルルベルーナ様おひとりです。
おそらくは特別授業が必要でしょう。クラスメイトになるべき同時期入学のものたちともとても、馴染めるとは思えません、とすると特別クラスの編成も考えねば・・・」

「金か?」
さすがに不快そうに、バーレクは顔をしかめた。

もう一度、悪びれるもなくジャイロは頭をさげた。
その後頭部を睨みつけたバーレクだったが、

「金は、西域中央銀行の小切手で届ける。」

立ち上がりながら、バーレクは、吐き捨てた。
頭をさげたまま、ジャイロはほくそ笑んだ。
使える。この手は使える。

その時だった。
転げるような勢いで入って来た腹心のひとりが、ジャイロに耳打ちした。

「な、なんだと? ルルべルーナ嬢が行方不明!?」

───────────

ルルべルーナは、途方に暮れていた。
学業や演習についていけない、クラスメイト馴染めななど、心配ごとは色々あったのだが、まさかの不合格は考えもしていなかったのである。

「おまえはいったん寮に待機しろ。」
ルルべルーナの不合格を告げた若い試験官が、そう言った。
「残りのものは、近接戦闘試験を続行する。場所を移動するぞ。」

ルルべルーナは、ショックのあまり、つまづいたり、転んだりしながら、先ほどの部屋にたどり着いた。とはいえ、ここも追い出されるのだろう。
気がつくとルルべルーナは泣いていた。

遠い遠い異国の地まで、追い求めた存在はあっさりと、出会う前から門前払いを食わせてくる。
なにか。

なにか、冒険者学校に残れる手はないのだろうか。
例えば下働きのような職ででも。

考えるといっそう絶望的な気持ちになって、ルルべルーナはベッドに突っ伏して涙を流した。

ドアがノックされ、名前を呼ばれたのは何分たっていただろう。

いよいよ、部屋を出て行けと言われるのだろうか。
下働き話しを頼み込んで見るか。
それともいっそ。
襟のボタンに手をかけながら、それは思いとどまった。いまの自分は異性にとってあまり魅力的にはうつらないはずだ。


「ルルべルーナ! いないのか。」
「い、いえ、います。」

ドアノブが回されて、入ってきたのは先程の若い試験官だった。
荷解きもしていない部屋の様子や、泣きはらしたルルべルーナの顔を見て、舌打ちをした。

「失格者のわたしにどういうご用なのですか。もちろん、ここはすぐ引き払いますから。」
「ルルべルーナ、お前は、厳密には不合格ではない。」

「なにを言ってるのかわからないのです。」
おそるおそるルルべルーナは、言った。
「あなたはどなたです? わたしをどうするというのです。」

「俺は、サオウという。」
それだけ言われてもなんのことやら、さっぱりわからない。意外にこのサオウと名乗った男は口下手なのかもしれない。

「わたしになんのご用でしょうか。」
ルルべルーナは意を決して聞いてみた。どうせこれ以上悪いこともおきっこない。
だが、その答えもまたルルべルーナには、意味不明のものだった。

「おまえ神竜騎士団にはいれ。」

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