23 / 55
魔王の蠢動
賄賂のおかわり
しおりを挟む
ラントン侯爵家の執事バーレクは、ランゴバルド内のホテルに滞在していた。
そのくせ、肝心のご令嬢の初登校には付き添いもしなかった。
ジャンガ冒険者学校校長が、使者を送るのと、バーレクは、それから一時間もしないうちに、冒険者学校を訪れた。
ジャンガは、龍皇国の名門貴族の執事を、鎮痛な面持ちで迎えた。
「非常に残念なお知らせです、バーレク殿。」
「概略は、使いからお聞きしましたが、どういうことでしょうか、ジャンガ校長。
ランゴバルド冒険者学校はもともと、優秀な冒険者を世に送り出すための機関のハズです。
そして、その門戸は、西域はもちろん、中原、北方、南方、東域まで広く。人間はもちろん亜人にまで開かれている。当然、能力ひとつとっても千差万別。入学試験は単にその後の指導指針をたてるための資料集め。そんなものでは、入学を拒否することはない。ありえない、と伺っております。」
バーレクの表情が硬いのは、入学することを前提でとんでもない金額の寄付金を収めているからだ。
それは通常の私塾や、あるいは各国にある王侯貴族のための教育機関におさめる授業料の比ではない。
ジャンガが「ちなみに、辺境のクローディアではこのくらいのご寄附をいただいております。」
と、述べた金額が規準にされている。
クローディア大公にしてみれば、あのフィオリナを預ける以上しかたないと判断したら額なのだが、そこまではジャンガにはわからない。
「まことに残念ながら。」
ジャイロは、深々と頭を下げた。
「姫さまは、かなり問題があります。実技試験の的あてにおいて、ひとつも的をとらえられなかったのは、ルルベルーナ様おひとりです。
おそらくは特別授業が必要でしょう。クラスメイトになるべき同時期入学のものたちともとても、馴染めるとは思えません、とすると特別クラスの編成も考えねば・・・」
「金か?」
さすがに不快そうに、バーレクは顔をしかめた。
もう一度、悪びれるもなくジャイロは頭をさげた。
その後頭部を睨みつけたバーレクだったが、
「金は、西域中央銀行の小切手で届ける。」
立ち上がりながら、バーレクは、吐き捨てた。
頭をさげたまま、ジャイロはほくそ笑んだ。
使える。この手は使える。
その時だった。
転げるような勢いで入って来た腹心のひとりが、ジャイロに耳打ちした。
「な、なんだと? ルルべルーナ嬢が行方不明!?」
───────────
ルルべルーナは、途方に暮れていた。
学業や演習についていけない、クラスメイト馴染めななど、心配ごとは色々あったのだが、まさかの不合格は考えもしていなかったのである。
「おまえはいったん寮に待機しろ。」
ルルべルーナの不合格を告げた若い試験官が、そう言った。
「残りのものは、近接戦闘試験を続行する。場所を移動するぞ。」
ルルべルーナは、ショックのあまり、つまづいたり、転んだりしながら、先ほどの部屋にたどり着いた。とはいえ、ここも追い出されるのだろう。
気がつくとルルべルーナは泣いていた。
遠い遠い異国の地まで、追い求めた存在はあっさりと、出会う前から門前払いを食わせてくる。
なにか。
なにか、冒険者学校に残れる手はないのだろうか。
例えば下働きのような職ででも。
考えるといっそう絶望的な気持ちになって、ルルべルーナはベッドに突っ伏して涙を流した。
ドアがノックされ、名前を呼ばれたのは何分たっていただろう。
いよいよ、部屋を出て行けと言われるのだろうか。
下働き話しを頼み込んで見るか。
それともいっそ。
襟のボタンに手をかけながら、それは思いとどまった。いまの自分は異性にとってあまり魅力的にはうつらないはずだ。
「ルルべルーナ! いないのか。」
「い、いえ、います。」
ドアノブが回されて、入ってきたのは先程の若い試験官だった。
荷解きもしていない部屋の様子や、泣きはらしたルルべルーナの顔を見て、舌打ちをした。
「失格者のわたしにどういうご用なのですか。もちろん、ここはすぐ引き払いますから。」
「ルルべルーナ、お前は、厳密には不合格ではない。」
「なにを言ってるのかわからないのです。」
おそるおそるルルべルーナは、言った。
「あなたはどなたです? わたしをどうするというのです。」
「俺は、サオウという。」
それだけ言われてもなんのことやら、さっぱりわからない。意外にこのサオウと名乗った男は口下手なのかもしれない。
「わたしになんのご用でしょうか。」
ルルべルーナは意を決して聞いてみた。どうせこれ以上悪いこともおきっこない。
だが、その答えもまたルルべルーナには、意味不明のものだった。
「おまえ神竜騎士団にはいれ。」
そのくせ、肝心のご令嬢の初登校には付き添いもしなかった。
ジャンガ冒険者学校校長が、使者を送るのと、バーレクは、それから一時間もしないうちに、冒険者学校を訪れた。
ジャンガは、龍皇国の名門貴族の執事を、鎮痛な面持ちで迎えた。
「非常に残念なお知らせです、バーレク殿。」
「概略は、使いからお聞きしましたが、どういうことでしょうか、ジャンガ校長。
ランゴバルド冒険者学校はもともと、優秀な冒険者を世に送り出すための機関のハズです。
そして、その門戸は、西域はもちろん、中原、北方、南方、東域まで広く。人間はもちろん亜人にまで開かれている。当然、能力ひとつとっても千差万別。入学試験は単にその後の指導指針をたてるための資料集め。そんなものでは、入学を拒否することはない。ありえない、と伺っております。」
バーレクの表情が硬いのは、入学することを前提でとんでもない金額の寄付金を収めているからだ。
それは通常の私塾や、あるいは各国にある王侯貴族のための教育機関におさめる授業料の比ではない。
ジャンガが「ちなみに、辺境のクローディアではこのくらいのご寄附をいただいております。」
と、述べた金額が規準にされている。
クローディア大公にしてみれば、あのフィオリナを預ける以上しかたないと判断したら額なのだが、そこまではジャンガにはわからない。
「まことに残念ながら。」
ジャイロは、深々と頭を下げた。
「姫さまは、かなり問題があります。実技試験の的あてにおいて、ひとつも的をとらえられなかったのは、ルルベルーナ様おひとりです。
おそらくは特別授業が必要でしょう。クラスメイトになるべき同時期入学のものたちともとても、馴染めるとは思えません、とすると特別クラスの編成も考えねば・・・」
「金か?」
さすがに不快そうに、バーレクは顔をしかめた。
もう一度、悪びれるもなくジャイロは頭をさげた。
その後頭部を睨みつけたバーレクだったが、
「金は、西域中央銀行の小切手で届ける。」
立ち上がりながら、バーレクは、吐き捨てた。
頭をさげたまま、ジャイロはほくそ笑んだ。
使える。この手は使える。
その時だった。
転げるような勢いで入って来た腹心のひとりが、ジャイロに耳打ちした。
「な、なんだと? ルルべルーナ嬢が行方不明!?」
───────────
ルルべルーナは、途方に暮れていた。
学業や演習についていけない、クラスメイト馴染めななど、心配ごとは色々あったのだが、まさかの不合格は考えもしていなかったのである。
「おまえはいったん寮に待機しろ。」
ルルべルーナの不合格を告げた若い試験官が、そう言った。
「残りのものは、近接戦闘試験を続行する。場所を移動するぞ。」
ルルべルーナは、ショックのあまり、つまづいたり、転んだりしながら、先ほどの部屋にたどり着いた。とはいえ、ここも追い出されるのだろう。
気がつくとルルべルーナは泣いていた。
遠い遠い異国の地まで、追い求めた存在はあっさりと、出会う前から門前払いを食わせてくる。
なにか。
なにか、冒険者学校に残れる手はないのだろうか。
例えば下働きのような職ででも。
考えるといっそう絶望的な気持ちになって、ルルべルーナはベッドに突っ伏して涙を流した。
ドアがノックされ、名前を呼ばれたのは何分たっていただろう。
いよいよ、部屋を出て行けと言われるのだろうか。
下働き話しを頼み込んで見るか。
それともいっそ。
襟のボタンに手をかけながら、それは思いとどまった。いまの自分は異性にとってあまり魅力的にはうつらないはずだ。
「ルルべルーナ! いないのか。」
「い、いえ、います。」
ドアノブが回されて、入ってきたのは先程の若い試験官だった。
荷解きもしていない部屋の様子や、泣きはらしたルルべルーナの顔を見て、舌打ちをした。
「失格者のわたしにどういうご用なのですか。もちろん、ここはすぐ引き払いますから。」
「ルルべルーナ、お前は、厳密には不合格ではない。」
「なにを言ってるのかわからないのです。」
おそるおそるルルべルーナは、言った。
「あなたはどなたです? わたしをどうするというのです。」
「俺は、サオウという。」
それだけ言われてもなんのことやら、さっぱりわからない。意外にこのサオウと名乗った男は口下手なのかもしれない。
「わたしになんのご用でしょうか。」
ルルべルーナは意を決して聞いてみた。どうせこれ以上悪いこともおきっこない。
だが、その答えもまたルルべルーナには、意味不明のものだった。
「おまえ神竜騎士団にはいれ。」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】
あもんよん
ファンタジー
地上の支配権をかけた神々の戦争が終りを告げ、「秩序」という信仰の元『世界』は始まった。
戦に負け、その座を追われた神は黒猫に転生し、唯一の従者と『世界』を巡る旅に出る。
膨大な魔力を持つかつての神「黒猫タロ」と、その神より絶大な力を授かった「従者アリス」。
だが、アリスはタロの魔力なしでは力を行使できず、タロもまた魔力しか持たず力は発揮できない。
そんな一人と一匹の冒険は多くの人との出会いや別れを繰り返し、やがて『世界』と『神』を巻き込んだ物語へと繋がっていく。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる