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魔王の蠢動
ルルベルーナと入学試験
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ルルべルーナは、テスト用紙を睨んでいた。
額には、汗が滲んでいた。
読み書きは西域では、ほぼ共通だ。足し算引き算掛け算割り算もわかる。
ダル紙幣の数えかたは、苦手だったが、なんとかなった。
歴史と地理の問題は、わからない。とくに近現代史はまったくだめだ。
山脈や川、湖の名前は、故郷の独自の呼び名しかわからない。
彼女の顔色があまりにもわるかったためか、となりに座っていた10歳くらいにしかみえない男の子が、ひとりごとのようにつぶやいた。ˋ
「いくらクラス分けのためだからって、この問題はないよ。これじゃあ、ランゴバルド出身者が有利に決まってるじゃないか。」
「静粛に!」
彼の発言を聞きとがめたのか、試験管の初老の男性が、注意した。
だが、彼もどうようのことを感じたのか、付け加えた。
「この試験は、おまえたちを落とすためのものではない。」
50名ははいっている教室のそこここから、ホッとため息がもれた。
「基本的にはこの試験は、自分のなまえがかければいい。もし答えられないところは、このあと補習授業が行われる。ただし、ダル紙幣と補助硬貨の使い方、公共の交通機関や一般的な商店での買い物の仕方などの一般常識については!失格者は特別受講後に、再試験が行われる。合格までは外出は禁止だ。」
そうしてちらりと時計に目をやった。
「あと10分だぞ。名前の書き忘れがないか確認しておきたまえ。
それと今回は、実技の試験あるそうだ。筆記のあとは、そろって武闘場に移動してもらう。」
今回は!
今回は、か。
ルルベルーナは、無表情のまま、首をかしげた。
なにかが、普通ではないのか。例えばどうしても落としたいものがいるとか!?
受験生たちは、ぞろぞろと、闘技場へ移動していく。
一番、後ろからついていく、ルルベリーナは、その時になってやっと、自分の格好がいかに浮いているか、気がついた。
ほかのものは、なんとなく、鎧、まではいかなくても防具らしいものを身につけている。
女性だっておおいのだが、みな少なくとも動きやすい格好はしている。
ひらひらしたワンピースは、彼女だけだった。
ワンピースといっても華やかなものではない。
布は生成り、飾りはなにもない。腰を紐で縛っていて、それは野良着であり、通学着であり・・・庶民はそんなに多くの服など持っていないのだ。
それよりも、腹をみたすことのほうが優先であり、それが日々十分ならば、それでよしとするのは、ごく普通の考えだ。
それでもなんとか。
冒険者学校を目指すならば、動きやすい格好を少なくとも用意するだろう。するんだろうな。
ルルベルーナは、無表情のままため息をついた。
なにをやってもうまくいかない。
「答案についてはほんとうに気にする必要はないらしい。」
すぐ前を歩いて少年が呟いた。
さっき隣の席に座っていた坊やだった。
「姉さんが、気をつけなければならないのはむしろこれからだ。」
そう言ってふりかえった。
北方の育ちらしい。雪のように白い肌に色素の薄い髪が、さらさらと肩まで伸びている。
その歳の少年には珍しいむっつりと唇を曲げた表情で、ルルベルーナの顔を見上げた。
「挨拶が遅れた。ぼくは、グランダの大森林から来た長寿族で、ガセル・ドーリット。ここには、正規の冒険者資格を取りに来た。
これから一緒に冒険者学校で学ぶことになるんだ。よろしく。」
「あ、ああ。ありがとう。わたしは、ルルベルーナ・ラントン。龍皇国から来た。」
ガゼル少年は、目を細めた。
なにも言わなかったが、ルルベルーナは全身をはだかに剥かれたような気がした。
少年は、魔力に長け、不老長寿の長寿族なのだ。見かけの年齢では、たぶん、ないのだ。
そして、彼はルルベルーナを「姉さん」と呼んだ。
それが血族上の姉を意味するものではなく、単に年長者の女性に対した敬称であることは、ルルベルーナにも理解できた。
「よし! 全員揃っているな。実技はまずは遠隔攻撃力だ。
これから試験管が投じる的を攻撃してみろ。魔法でも弓でも飛礫でもなんでもかまわんっ!」
額には、汗が滲んでいた。
読み書きは西域では、ほぼ共通だ。足し算引き算掛け算割り算もわかる。
ダル紙幣の数えかたは、苦手だったが、なんとかなった。
歴史と地理の問題は、わからない。とくに近現代史はまったくだめだ。
山脈や川、湖の名前は、故郷の独自の呼び名しかわからない。
彼女の顔色があまりにもわるかったためか、となりに座っていた10歳くらいにしかみえない男の子が、ひとりごとのようにつぶやいた。ˋ
「いくらクラス分けのためだからって、この問題はないよ。これじゃあ、ランゴバルド出身者が有利に決まってるじゃないか。」
「静粛に!」
彼の発言を聞きとがめたのか、試験管の初老の男性が、注意した。
だが、彼もどうようのことを感じたのか、付け加えた。
「この試験は、おまえたちを落とすためのものではない。」
50名ははいっている教室のそこここから、ホッとため息がもれた。
「基本的にはこの試験は、自分のなまえがかければいい。もし答えられないところは、このあと補習授業が行われる。ただし、ダル紙幣と補助硬貨の使い方、公共の交通機関や一般的な商店での買い物の仕方などの一般常識については!失格者は特別受講後に、再試験が行われる。合格までは外出は禁止だ。」
そうしてちらりと時計に目をやった。
「あと10分だぞ。名前の書き忘れがないか確認しておきたまえ。
それと今回は、実技の試験あるそうだ。筆記のあとは、そろって武闘場に移動してもらう。」
今回は!
今回は、か。
ルルベルーナは、無表情のまま、首をかしげた。
なにかが、普通ではないのか。例えばどうしても落としたいものがいるとか!?
受験生たちは、ぞろぞろと、闘技場へ移動していく。
一番、後ろからついていく、ルルベリーナは、その時になってやっと、自分の格好がいかに浮いているか、気がついた。
ほかのものは、なんとなく、鎧、まではいかなくても防具らしいものを身につけている。
女性だっておおいのだが、みな少なくとも動きやすい格好はしている。
ひらひらしたワンピースは、彼女だけだった。
ワンピースといっても華やかなものではない。
布は生成り、飾りはなにもない。腰を紐で縛っていて、それは野良着であり、通学着であり・・・庶民はそんなに多くの服など持っていないのだ。
それよりも、腹をみたすことのほうが優先であり、それが日々十分ならば、それでよしとするのは、ごく普通の考えだ。
それでもなんとか。
冒険者学校を目指すならば、動きやすい格好を少なくとも用意するだろう。するんだろうな。
ルルベルーナは、無表情のままため息をついた。
なにをやってもうまくいかない。
「答案についてはほんとうに気にする必要はないらしい。」
すぐ前を歩いて少年が呟いた。
さっき隣の席に座っていた坊やだった。
「姉さんが、気をつけなければならないのはむしろこれからだ。」
そう言ってふりかえった。
北方の育ちらしい。雪のように白い肌に色素の薄い髪が、さらさらと肩まで伸びている。
その歳の少年には珍しいむっつりと唇を曲げた表情で、ルルベルーナの顔を見上げた。
「挨拶が遅れた。ぼくは、グランダの大森林から来た長寿族で、ガセル・ドーリット。ここには、正規の冒険者資格を取りに来た。
これから一緒に冒険者学校で学ぶことになるんだ。よろしく。」
「あ、ああ。ありがとう。わたしは、ルルベルーナ・ラントン。龍皇国から来た。」
ガゼル少年は、目を細めた。
なにも言わなかったが、ルルベルーナは全身をはだかに剥かれたような気がした。
少年は、魔力に長け、不老長寿の長寿族なのだ。見かけの年齢では、たぶん、ないのだ。
そして、彼はルルベルーナを「姉さん」と呼んだ。
それが血族上の姉を意味するものではなく、単に年長者の女性に対した敬称であることは、ルルベルーナにも理解できた。
「よし! 全員揃っているな。実技はまずは遠隔攻撃力だ。
これから試験管が投じる的を攻撃してみろ。魔法でも弓でも飛礫でもなんでもかまわんっ!」
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