21 / 55
魔王の蠢動
ルルベルーナと入学試験
しおりを挟む
ルルべルーナは、テスト用紙を睨んでいた。
額には、汗が滲んでいた。
読み書きは西域では、ほぼ共通だ。足し算引き算掛け算割り算もわかる。
ダル紙幣の数えかたは、苦手だったが、なんとかなった。
歴史と地理の問題は、わからない。とくに近現代史はまったくだめだ。
山脈や川、湖の名前は、故郷の独自の呼び名しかわからない。
彼女の顔色があまりにもわるかったためか、となりに座っていた10歳くらいにしかみえない男の子が、ひとりごとのようにつぶやいた。ˋ
「いくらクラス分けのためだからって、この問題はないよ。これじゃあ、ランゴバルド出身者が有利に決まってるじゃないか。」
「静粛に!」
彼の発言を聞きとがめたのか、試験管の初老の男性が、注意した。
だが、彼もどうようのことを感じたのか、付け加えた。
「この試験は、おまえたちを落とすためのものではない。」
50名ははいっている教室のそこここから、ホッとため息がもれた。
「基本的にはこの試験は、自分のなまえがかければいい。もし答えられないところは、このあと補習授業が行われる。ただし、ダル紙幣と補助硬貨の使い方、公共の交通機関や一般的な商店での買い物の仕方などの一般常識については!失格者は特別受講後に、再試験が行われる。合格までは外出は禁止だ。」
そうしてちらりと時計に目をやった。
「あと10分だぞ。名前の書き忘れがないか確認しておきたまえ。
それと今回は、実技の試験あるそうだ。筆記のあとは、そろって武闘場に移動してもらう。」
今回は!
今回は、か。
ルルベルーナは、無表情のまま、首をかしげた。
なにかが、普通ではないのか。例えばどうしても落としたいものがいるとか!?
受験生たちは、ぞろぞろと、闘技場へ移動していく。
一番、後ろからついていく、ルルベリーナは、その時になってやっと、自分の格好がいかに浮いているか、気がついた。
ほかのものは、なんとなく、鎧、まではいかなくても防具らしいものを身につけている。
女性だっておおいのだが、みな少なくとも動きやすい格好はしている。
ひらひらしたワンピースは、彼女だけだった。
ワンピースといっても華やかなものではない。
布は生成り、飾りはなにもない。腰を紐で縛っていて、それは野良着であり、通学着であり・・・庶民はそんなに多くの服など持っていないのだ。
それよりも、腹をみたすことのほうが優先であり、それが日々十分ならば、それでよしとするのは、ごく普通の考えだ。
それでもなんとか。
冒険者学校を目指すならば、動きやすい格好を少なくとも用意するだろう。するんだろうな。
ルルベルーナは、無表情のままため息をついた。
なにをやってもうまくいかない。
「答案についてはほんとうに気にする必要はないらしい。」
すぐ前を歩いて少年が呟いた。
さっき隣の席に座っていた坊やだった。
「姉さんが、気をつけなければならないのはむしろこれからだ。」
そう言ってふりかえった。
北方の育ちらしい。雪のように白い肌に色素の薄い髪が、さらさらと肩まで伸びている。
その歳の少年には珍しいむっつりと唇を曲げた表情で、ルルベルーナの顔を見上げた。
「挨拶が遅れた。ぼくは、グランダの大森林から来た長寿族で、ガセル・ドーリット。ここには、正規の冒険者資格を取りに来た。
これから一緒に冒険者学校で学ぶことになるんだ。よろしく。」
「あ、ああ。ありがとう。わたしは、ルルベルーナ・ラントン。龍皇国から来た。」
ガゼル少年は、目を細めた。
なにも言わなかったが、ルルベルーナは全身をはだかに剥かれたような気がした。
少年は、魔力に長け、不老長寿の長寿族なのだ。見かけの年齢では、たぶん、ないのだ。
そして、彼はルルベルーナを「姉さん」と呼んだ。
それが血族上の姉を意味するものではなく、単に年長者の女性に対した敬称であることは、ルルベルーナにも理解できた。
「よし! 全員揃っているな。実技はまずは遠隔攻撃力だ。
これから試験管が投じる的を攻撃してみろ。魔法でも弓でも飛礫でもなんでもかまわんっ!」
額には、汗が滲んでいた。
読み書きは西域では、ほぼ共通だ。足し算引き算掛け算割り算もわかる。
ダル紙幣の数えかたは、苦手だったが、なんとかなった。
歴史と地理の問題は、わからない。とくに近現代史はまったくだめだ。
山脈や川、湖の名前は、故郷の独自の呼び名しかわからない。
彼女の顔色があまりにもわるかったためか、となりに座っていた10歳くらいにしかみえない男の子が、ひとりごとのようにつぶやいた。ˋ
「いくらクラス分けのためだからって、この問題はないよ。これじゃあ、ランゴバルド出身者が有利に決まってるじゃないか。」
「静粛に!」
彼の発言を聞きとがめたのか、試験管の初老の男性が、注意した。
だが、彼もどうようのことを感じたのか、付け加えた。
「この試験は、おまえたちを落とすためのものではない。」
50名ははいっている教室のそこここから、ホッとため息がもれた。
「基本的にはこの試験は、自分のなまえがかければいい。もし答えられないところは、このあと補習授業が行われる。ただし、ダル紙幣と補助硬貨の使い方、公共の交通機関や一般的な商店での買い物の仕方などの一般常識については!失格者は特別受講後に、再試験が行われる。合格までは外出は禁止だ。」
そうしてちらりと時計に目をやった。
「あと10分だぞ。名前の書き忘れがないか確認しておきたまえ。
それと今回は、実技の試験あるそうだ。筆記のあとは、そろって武闘場に移動してもらう。」
今回は!
今回は、か。
ルルベルーナは、無表情のまま、首をかしげた。
なにかが、普通ではないのか。例えばどうしても落としたいものがいるとか!?
受験生たちは、ぞろぞろと、闘技場へ移動していく。
一番、後ろからついていく、ルルベリーナは、その時になってやっと、自分の格好がいかに浮いているか、気がついた。
ほかのものは、なんとなく、鎧、まではいかなくても防具らしいものを身につけている。
女性だっておおいのだが、みな少なくとも動きやすい格好はしている。
ひらひらしたワンピースは、彼女だけだった。
ワンピースといっても華やかなものではない。
布は生成り、飾りはなにもない。腰を紐で縛っていて、それは野良着であり、通学着であり・・・庶民はそんなに多くの服など持っていないのだ。
それよりも、腹をみたすことのほうが優先であり、それが日々十分ならば、それでよしとするのは、ごく普通の考えだ。
それでもなんとか。
冒険者学校を目指すならば、動きやすい格好を少なくとも用意するだろう。するんだろうな。
ルルベルーナは、無表情のままため息をついた。
なにをやってもうまくいかない。
「答案についてはほんとうに気にする必要はないらしい。」
すぐ前を歩いて少年が呟いた。
さっき隣の席に座っていた坊やだった。
「姉さんが、気をつけなければならないのはむしろこれからだ。」
そう言ってふりかえった。
北方の育ちらしい。雪のように白い肌に色素の薄い髪が、さらさらと肩まで伸びている。
その歳の少年には珍しいむっつりと唇を曲げた表情で、ルルベルーナの顔を見上げた。
「挨拶が遅れた。ぼくは、グランダの大森林から来た長寿族で、ガセル・ドーリット。ここには、正規の冒険者資格を取りに来た。
これから一緒に冒険者学校で学ぶことになるんだ。よろしく。」
「あ、ああ。ありがとう。わたしは、ルルベルーナ・ラントン。龍皇国から来た。」
ガゼル少年は、目を細めた。
なにも言わなかったが、ルルベルーナは全身をはだかに剥かれたような気がした。
少年は、魔力に長け、不老長寿の長寿族なのだ。見かけの年齢では、たぶん、ないのだ。
そして、彼はルルベルーナを「姉さん」と呼んだ。
それが血族上の姉を意味するものではなく、単に年長者の女性に対した敬称であることは、ルルベルーナにも理解できた。
「よし! 全員揃っているな。実技はまずは遠隔攻撃力だ。
これから試験管が投じる的を攻撃してみろ。魔法でも弓でも飛礫でもなんでもかまわんっ!」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる