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魔王の蠢動
純朴で気が弱く得体の知れない新入生
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「ラントン侯爵家ご令嬢。」
どうにも品性に欠けたその満面の笑みが、自分に向けられたこと気がつくのに、一瞬、間があったように思う。
「ルルベリーナと申します。」
ルルベリーナは、悩んだ。こういう場合はカーテシーは行うのかな?
「お目にかかれて光栄に存じます、ええと・・・」
「わたくしが、冒険者学校責任者の、ジャンガ・グローブ。
いや、遠路はるばるよくお越しいただきました。まさか、おひとりで来られるとは思っても見ませんでしたぞ。」
「ええ、まあ」
と、ルルベリーナは、笑顔をかえしたが、ひきつって見えたかもしれない。
「まずは、お部屋に案内いたしましょう。」
ジャンガも、少々狼狽えている。
まさか。
西域八強の一角。シャルリリア龍皇国の高位貴族の姫君が、単身で留学先に乗り込んでくるとだれが思うだろう。
三女だときいているから、あまり、重要視はされていないかもしれないが、それでも、供回りの二人に、侍女のひとりも連れているのではないか。
そもそも荷物は?
それほど大きくもないトランクがひとつだけ。それを両手でしっかりと持ってひきずっている。
歳は、14,5。ランゴバルド冒険者学校に入学する年齢としては、いちばん、一般的な世代ではあるが、その風体、背格好、はじめて大都会ランゴバルドに出てきた田舎娘のような。
口減らしに、都会にだすときに、ランゴバルド冒険者学校に入学させるのは、賢い親のよくやる手だ。
冒険者としての技術は、冒険者を志さなくても護身術になる。
読み書きや四則演算、礼儀作法くらいは教えてくれる。魔法も素養のあるものなら、かなりのレベルまで学べる。
そもそも、ろくに学校にも通えなかった者は、自分の才能がどこにあるかも不明だろう。
そういう意味で、何らかの事情で学校教育を受けられなかった庶民の正しい選択肢として、冒険者学校はあるのだが。
あるのだが。
本当に、この田舎娘が、侯爵令嬢なのか?
確かに使者として、訪れた者は格式高い名家の執事らしい服装で、ジャンガがいやらしく仄めかした寄付金については、その場で小切手を切った。
その者が告げた人相に、この少女は合致している。
だが、その身なり、その物腰に貴族の令嬢らしいところは、皆無だった。
顔立ちは悪くない。
だが、いつも野良仕事でもしているように、肌は日に焼け、しみやそばかすが目立った。
まったく化粧をしていなかったし、案外生まれてこの方、一度も化粧などしたことがないのかもしれない。
腕まくりをして、滑車のついたトランクを、うんしょうんしょとかけ声をかけながらひっぱる。その腕も健康そうに日焼けしていた。爪の手入れもしたことがないのだろう。
人さし指の爪は、割れかてささくれだち、ヒビが入っていた。
全体に痩せすぎなのは、栄養が充分ではないからだろう。
これは必ずしも、最貧層に属していたことを意味しない。
庶民の食事などは、朝夕は薄い粥。昼にはそれに保存の効く根菜の煮物がつく程度なのだ。
足りないところは、濁酒と呼ばれる雑穀を発酵させた苦い酒で補う。濾していないだけに栄養価は高く、アルコール度数は低く「飲むおやつ」としては、充分だったのだ。
ルルベルーナは、内心ひやひやしている。
そもそもこの重さのトランクを、客人に自ら運ばせるとは、どういうことだろう。
滑車は、スベリが悪くガタついているし、途中には階段もあったが、この校長先生は手をかそうともしない。
案内された部屋は、居間に寝室が二つ。
「どなたかとご一緒なのですか?」
と、ルルベルーナが尋ねると、いえ、従者のかた用のものになります、というそっけない返事が帰ってきた。
「半時間ほどしましたら、迎えのものが参ります。
着替えをされたしばし!おくつろぎください。当校についての説明やこれからのスケジュールをご案内いたします。」
着替えをして、くつろいだら、三十分ではたりないんだけどなあ、と思いながら、とくに着替えも持っていないルルベルーナは、部屋にあった椅子に腰掛けて、ぼんやりと外をながめながら、これからのことを考えた。
学校なのだから、拘束される時間は当然ありそうだ。級友たちにもそれなりに接しないわけにはいかない。正直、それは楽しみでもあり、怖くもある。
自分がそれに馴染めるのかどうか。
馴染めなかったらどうなるのか。
ルルベルーナは、細い体を震わせた。
逃げ出してすむ問題ではない。
彼女の感覚では一時間と少したったころ、ドアが開かれた。
確か故国では、まずノックをする習慣があったはずだが、ランゴバルドは違うのだろうか。
ここらは慣れていくかない。
入ってきたのは、先程とは違う人物だ。
「これから入学試験となる。筆記と実技だ。」
ルルベルーナは、面食らってその男を見上げた。
いわゆる悪人、ではないのだろう。
ただ、、自分義務であること黙々と遂行しているだけだ。
だが、自分が優位な立場にあれば、それをひけらかせずにはいられない。無能ではないが嫌がられるタイプだ。
年の頃は、30台半ばだろうか。
体つきは以前鍛えていた痕跡はあったから、冒険者上がりなのかもしれない。
「ぐずぐずするな。もう受験者は集合しておまえが来るのを待っている。」
え、わたしがみんなをまたせてる?
ぞれってあとでいじめられるパターンじゃあ。
「試験も実技も最低限のことができれば、落第はない。最低限度のことができれば、な。」
ち、ちょっとマテよ!
ルルベルーナは、叫びを押し殺した。
落第があるの!?
聞いてないんだけど。だいたい寄付金とっといて入学させないなんてありうるの!?
どうにも品性に欠けたその満面の笑みが、自分に向けられたこと気がつくのに、一瞬、間があったように思う。
「ルルベリーナと申します。」
ルルベリーナは、悩んだ。こういう場合はカーテシーは行うのかな?
「お目にかかれて光栄に存じます、ええと・・・」
「わたくしが、冒険者学校責任者の、ジャンガ・グローブ。
いや、遠路はるばるよくお越しいただきました。まさか、おひとりで来られるとは思っても見ませんでしたぞ。」
「ええ、まあ」
と、ルルベリーナは、笑顔をかえしたが、ひきつって見えたかもしれない。
「まずは、お部屋に案内いたしましょう。」
ジャンガも、少々狼狽えている。
まさか。
西域八強の一角。シャルリリア龍皇国の高位貴族の姫君が、単身で留学先に乗り込んでくるとだれが思うだろう。
三女だときいているから、あまり、重要視はされていないかもしれないが、それでも、供回りの二人に、侍女のひとりも連れているのではないか。
そもそも荷物は?
それほど大きくもないトランクがひとつだけ。それを両手でしっかりと持ってひきずっている。
歳は、14,5。ランゴバルド冒険者学校に入学する年齢としては、いちばん、一般的な世代ではあるが、その風体、背格好、はじめて大都会ランゴバルドに出てきた田舎娘のような。
口減らしに、都会にだすときに、ランゴバルド冒険者学校に入学させるのは、賢い親のよくやる手だ。
冒険者としての技術は、冒険者を志さなくても護身術になる。
読み書きや四則演算、礼儀作法くらいは教えてくれる。魔法も素養のあるものなら、かなりのレベルまで学べる。
そもそも、ろくに学校にも通えなかった者は、自分の才能がどこにあるかも不明だろう。
そういう意味で、何らかの事情で学校教育を受けられなかった庶民の正しい選択肢として、冒険者学校はあるのだが。
あるのだが。
本当に、この田舎娘が、侯爵令嬢なのか?
確かに使者として、訪れた者は格式高い名家の執事らしい服装で、ジャンガがいやらしく仄めかした寄付金については、その場で小切手を切った。
その者が告げた人相に、この少女は合致している。
だが、その身なり、その物腰に貴族の令嬢らしいところは、皆無だった。
顔立ちは悪くない。
だが、いつも野良仕事でもしているように、肌は日に焼け、しみやそばかすが目立った。
まったく化粧をしていなかったし、案外生まれてこの方、一度も化粧などしたことがないのかもしれない。
腕まくりをして、滑車のついたトランクを、うんしょうんしょとかけ声をかけながらひっぱる。その腕も健康そうに日焼けしていた。爪の手入れもしたことがないのだろう。
人さし指の爪は、割れかてささくれだち、ヒビが入っていた。
全体に痩せすぎなのは、栄養が充分ではないからだろう。
これは必ずしも、最貧層に属していたことを意味しない。
庶民の食事などは、朝夕は薄い粥。昼にはそれに保存の効く根菜の煮物がつく程度なのだ。
足りないところは、濁酒と呼ばれる雑穀を発酵させた苦い酒で補う。濾していないだけに栄養価は高く、アルコール度数は低く「飲むおやつ」としては、充分だったのだ。
ルルベルーナは、内心ひやひやしている。
そもそもこの重さのトランクを、客人に自ら運ばせるとは、どういうことだろう。
滑車は、スベリが悪くガタついているし、途中には階段もあったが、この校長先生は手をかそうともしない。
案内された部屋は、居間に寝室が二つ。
「どなたかとご一緒なのですか?」
と、ルルベルーナが尋ねると、いえ、従者のかた用のものになります、というそっけない返事が帰ってきた。
「半時間ほどしましたら、迎えのものが参ります。
着替えをされたしばし!おくつろぎください。当校についての説明やこれからのスケジュールをご案内いたします。」
着替えをして、くつろいだら、三十分ではたりないんだけどなあ、と思いながら、とくに着替えも持っていないルルベルーナは、部屋にあった椅子に腰掛けて、ぼんやりと外をながめながら、これからのことを考えた。
学校なのだから、拘束される時間は当然ありそうだ。級友たちにもそれなりに接しないわけにはいかない。正直、それは楽しみでもあり、怖くもある。
自分がそれに馴染めるのかどうか。
馴染めなかったらどうなるのか。
ルルベルーナは、細い体を震わせた。
逃げ出してすむ問題ではない。
彼女の感覚では一時間と少したったころ、ドアが開かれた。
確か故国では、まずノックをする習慣があったはずだが、ランゴバルドは違うのだろうか。
ここらは慣れていくかない。
入ってきたのは、先程とは違う人物だ。
「これから入学試験となる。筆記と実技だ。」
ルルベルーナは、面食らってその男を見上げた。
いわゆる悪人、ではないのだろう。
ただ、、自分義務であること黙々と遂行しているだけだ。
だが、自分が優位な立場にあれば、それをひけらかせずにはいられない。無能ではないが嫌がられるタイプだ。
年の頃は、30台半ばだろうか。
体つきは以前鍛えていた痕跡はあったから、冒険者上がりなのかもしれない。
「ぐずぐずするな。もう受験者は集合しておまえが来るのを待っている。」
え、わたしがみんなをまたせてる?
ぞれってあとでいじめられるパターンじゃあ。
「試験も実技も最低限のことができれば、落第はない。最低限度のことができれば、な。」
ち、ちょっとマテよ!
ルルベルーナは、叫びを押し殺した。
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