暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
16 / 55
魔王の蠢動

小悪党どもの蠢動

しおりを挟む
ジャンガ=グローブ現ランゴバルド冒険者学校校長は、小物しかも小悪党だった。
自分でも小物なのはよくわかっていた彼は、少しでも威厳をつけようと、髭を生やしてみたり、流行りのアクセサリーを身につけてみたりしたのだが、ずっとすべり倒していた。
おしゃれに対してすべる、という言い方は、適切ではないかもしれないが、とにかく彼が、新しいファッションや髪型を試した日の、校長室は、それはもう、緊張感に包まれて、窓の外の蝶の羽ばたく音まで聞こえそうだった。

そして、そんな日は十日に一度はあったのだ。

もともと彼は、ランゴバルドのそこそこ程度の名門と呼ばれる貴族の出身だった。
ただ、家督は取っていない。
その彼が、教育者への道を選んだのは、よくあることだった。
日々の不満からか、酒や女、賭けごとにのめり込んで、借金を作ったものよくある話だった。

ランゴバルド冒険者学校は、名門ではない。
その生徒が、冒険者「でも」やるしかない、という貧民への救済機関として、設けられているように、冒険者学校の教師「でも」やるしかない、という家督を継げなかった貴族の子弟にも救済機関となっていたのである。

その中でも出来の悪い教師であったジャンガ・グローブは、借金の肩代わりにと、ギウリークの暗部が接触してこなければ、そのまま、どこかの時点で諭旨退職されられて終わっただろう。
だが、冒険者ギルド連盟への足がかりとして、冒険者学校への影響力を強めることを模索していたギウリークが接触してきたことが、すべてを変えた。

ランゴバルド冒険者学校は、珍しいことに校長の交替に選挙制とっていた。
一部の行政官に、さまざまな利益団体の利害を調整させるために、「選挙」という制度を取り入れることは、多くの国が行っていたし、ランゴバルドもすぐに、その欠陥に、気がついた。
あまりにも、コストがかかり過ぎる。
およそ、官費で経営される冒険者学校には向かない制度だ。

そこで、ランゴバルドは、冒険者の校長として王室の一員であり、「真実の目」の後継者であったルールスを送り込んだのだ。
両眼の「真実の目」のため、人前に出せず、また魔力過多のため、非常識な長寿となるであろう、王室の厄介者には、ちょうどいい役職だった。
そして、それはうまくいった。

数十年後、ギウリークの後ろ盾を得たジャンガが、現れるまで、いでほんとうに形式的な対立候補だけで、、選挙にかかる熱意も時間も金も、節約できた状態で、冒険者学校の経営はうまくいっていたのである。

「このところ、また、一段と我が校こ評判があがっておりますな。」
腹心ともいうべき、ワル仲間を集めての会合のひとときは、ジャンガにとっては楽しい時間だった。

一応は、「教師」の仮面は被っている。場所は学校内の「校長室」で、ジャンガの趣味に合わせて、豪華な調度品で飾り立てられていた。

「そうかな。」
冒険者学校の評判がよくなれば、それは、ジャンガ自身の名声があがることと、イコールだった。
少なくともジャンガは、そう思っていた。

「惜しくも破れたしたものの、グランダ魔道院との対抗戦。」
魔道院は、たしかに僻地ではあったが、人類文明圏最古の学校である。
長く学院長として君臨した半ば伝説的魔導師ボルテック卿への評価も相まって、その名声は揺るぎない。

「惜しくも敗れたとはいえ、教師陣まで対抗戦にかりだした魔道院に比べれば、我が校は入学したばかりの一年生を主体にしたチーム。あここまで食いさがれただけで大いに評判はあがっております。」

別のひとりが続けた。
「それに、『ヴァルゴールの使徒集結』に際しては、現役の冒険者や『聖櫃の守護者』とともに、これと戦い、さらに使徒に囚われていた人々のなかで、帰る家もないものを百名以上、校内にて保護。」
「そうです。しかも!
我が校始まって以来の、在学中の銀級冒険者の誕生!」

それはすべて、彼の実績ではなく、彼が不正選挙で追い落としたルールス教官の率いる「ルールス分校 」の実績であったが、ジャンガは気にしなかった。
冒険者学校は、彼のものであり、その配下のものが、あげた実績は彼のものになる。

ジャンガは、このところ、機嫌がよかった。
ギウリーク暗部のランゴバルでの元締めであるはずの「神竜の息吹」から、ルールスを、暗殺しろとの催促が、びたりとなくなったことも影響している。
腕利きの爵位持ちの吸血鬼ネイアに、24時間守られているルールスを暗殺など、至難の業だったし、そもそも「小悪党」であるジャンガは、、殺しまでは望まなかったのだ。

「これだけの実績をあげておけば、学長選挙も安泰ですな。」
「いや、もうひとつ手を打とうも思う。」
ジャンガは、自信たっぷりに、仲間に資料を差し出した。

「これは、学校の収支・・・ですな?」

そうだ。
と、ジャンガは答えて、いくつかの数字を示した。
もともと、100パーセント公費で賄われている学校である。とんでもない金額を垂れ流したり、しなければ実績は、入学された生徒と卒業し、冒険者やあるいは少なくとも正業についた者の数で評価される。

その数値が狂っていた。
かなりの予算が「繰越金」として溜まっている。まあ、これは政府に報告をあげる際には、調整するとして、だ。この余分な金はどこから湧いてでたのだ?

「クローディア大公国のフィオリナ姫が留学されている。」
ジャンガは、自慢げに一同を見回した。
「もちろん、正規には入学金も授業料もないのだが、そうはいってもさすがにクローディア大公、たっぷり寄付金を弾んでくれた、というわけだ。」

厳密にはこのとき、すでにフィオリナは、嫡子としてクローディア大公家の跡取りとなる話は、無くなっていたのだが、貰うものはもらったジャンガたちには関係のない話だった。

「そ、それは!」
全員が身を乗り出していた。
顔つき、性別、出自はまちまちだ。道徳心の欠如具合も含めてバラバラだ。
だが、全員、金が大好きと言うところは共通している。
「その手は使えますね!」

それもこれも、校長が、さまざまに手を打って学校の評価を高めてくれたおかげです。

追従が飛び交うなか、ジャンガは鷹揚に笑って見せた。

「実は、今、まさにクローディア大公国嫡子に勝るとも劣らない身分の方から、留学のお申し出を受けている。入学についての一時金や授業料、寮費などの相談があったので、一切必要ないとお伝えた。」
ジャンガは、ずるそうにニヤリと笑った。
「もちろん、はるか北方のクローディア大公国が留学に際し、いくら寄付金をいただいたかはさりげなくお伝えしておいた。
シャルリリア龍皇国のラントン侯爵家としては、それを下回る金額を持たせることは考えられない。」

「シャルリリア龍皇国!」
「西域八強の一角ではないですか。」
「そこの侯爵家・・・・ならば、家格としては、クローディア大公国の姫を凌ぐ。」

ジャンガは、仲間の反応に満足しながら、さりげない襟元の新柄のスカーフを巻き直した。
全員に白けた空気が漂い、互いに目配せし合うのを睨む。

こいつらは、全く、流行というものを知らんのか。
「ラントン侯爵家の三女、ルルべルーナ
様だ。すでにシャルリリアを御出立。一両日中には、ランゴバルドへ到着される。
これで軌道に乗れば、各国の重鎮たちの御子息、御息女が多額の寄付金付きで、当校に留学を希望されることは間違いなしだ。」

酒のグラスこそ、持っていなかったが、全員でカップを上げて乾杯を叫んだ。
ジャンガたちにとっては、これからも、この先も。順風満帆に見えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...