暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王の蠢動

小悪党どもの蠢動

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ジャンガ=グローブ現ランゴバルド冒険者学校校長は、小物しかも小悪党だった。
自分でも小物なのはよくわかっていた彼は、少しでも威厳をつけようと、髭を生やしてみたり、流行りのアクセサリーを身につけてみたりしたのだが、ずっとすべり倒していた。
おしゃれに対してすべる、という言い方は、適切ではないかもしれないが、とにかく彼が、新しいファッションや髪型を試した日の、校長室は、それはもう、緊張感に包まれて、窓の外の蝶の羽ばたく音まで聞こえそうだった。

そして、そんな日は十日に一度はあったのだ。

もともと彼は、ランゴバルドのそこそこ程度の名門と呼ばれる貴族の出身だった。
ただ、家督は取っていない。
その彼が、教育者への道を選んだのは、よくあることだった。
日々の不満からか、酒や女、賭けごとにのめり込んで、借金を作ったものよくある話だった。

ランゴバルド冒険者学校は、名門ではない。
その生徒が、冒険者「でも」やるしかない、という貧民への救済機関として、設けられているように、冒険者学校の教師「でも」やるしかない、という家督を継げなかった貴族の子弟にも救済機関となっていたのである。

その中でも出来の悪い教師であったジャンガ・グローブは、借金の肩代わりにと、ギウリークの暗部が接触してこなければ、そのまま、どこかの時点で諭旨退職されられて終わっただろう。
だが、冒険者ギルド連盟への足がかりとして、冒険者学校への影響力を強めることを模索していたギウリークが接触してきたことが、すべてを変えた。

ランゴバルド冒険者学校は、珍しいことに校長の交替に選挙制とっていた。
一部の行政官に、さまざまな利益団体の利害を調整させるために、「選挙」という制度を取り入れることは、多くの国が行っていたし、ランゴバルドもすぐに、その欠陥に、気がついた。
あまりにも、コストがかかり過ぎる。
およそ、官費で経営される冒険者学校には向かない制度だ。

そこで、ランゴバルドは、冒険者の校長として王室の一員であり、「真実の目」の後継者であったルールスを送り込んだのだ。
両眼の「真実の目」のため、人前に出せず、また魔力過多のため、非常識な長寿となるであろう、王室の厄介者には、ちょうどいい役職だった。
そして、それはうまくいった。

数十年後、ギウリークの後ろ盾を得たジャンガが、現れるまで、いでほんとうに形式的な対立候補だけで、、選挙にかかる熱意も時間も金も、節約できた状態で、冒険者学校の経営はうまくいっていたのである。

「このところ、また、一段と我が校こ評判があがっておりますな。」
腹心ともいうべき、ワル仲間を集めての会合のひとときは、ジャンガにとっては楽しい時間だった。

一応は、「教師」の仮面は被っている。場所は学校内の「校長室」で、ジャンガの趣味に合わせて、豪華な調度品で飾り立てられていた。

「そうかな。」
冒険者学校の評判がよくなれば、それは、ジャンガ自身の名声があがることと、イコールだった。
少なくともジャンガは、そう思っていた。

「惜しくも破れたしたものの、グランダ魔道院との対抗戦。」
魔道院は、たしかに僻地ではあったが、人類文明圏最古の学校である。
長く学院長として君臨した半ば伝説的魔導師ボルテック卿への評価も相まって、その名声は揺るぎない。

「惜しくも敗れたとはいえ、教師陣まで対抗戦にかりだした魔道院に比べれば、我が校は入学したばかりの一年生を主体にしたチーム。あここまで食いさがれただけで大いに評判はあがっております。」

別のひとりが続けた。
「それに、『ヴァルゴールの使徒集結』に際しては、現役の冒険者や『聖櫃の守護者』とともに、これと戦い、さらに使徒に囚われていた人々のなかで、帰る家もないものを百名以上、校内にて保護。」
「そうです。しかも!
我が校始まって以来の、在学中の銀級冒険者の誕生!」

それはすべて、彼の実績ではなく、彼が不正選挙で追い落としたルールス教官の率いる「ルールス分校 」の実績であったが、ジャンガは気にしなかった。
冒険者学校は、彼のものであり、その配下のものが、あげた実績は彼のものになる。

ジャンガは、このところ、機嫌がよかった。
ギウリーク暗部のランゴバルでの元締めであるはずの「神竜の息吹」から、ルールスを、暗殺しろとの催促が、びたりとなくなったことも影響している。
腕利きの爵位持ちの吸血鬼ネイアに、24時間守られているルールスを暗殺など、至難の業だったし、そもそも「小悪党」であるジャンガは、、殺しまでは望まなかったのだ。

「これだけの実績をあげておけば、学長選挙も安泰ですな。」
「いや、もうひとつ手を打とうも思う。」
ジャンガは、自信たっぷりに、仲間に資料を差し出した。

「これは、学校の収支・・・ですな?」

そうだ。
と、ジャンガは答えて、いくつかの数字を示した。
もともと、100パーセント公費で賄われている学校である。とんでもない金額を垂れ流したり、しなければ実績は、入学された生徒と卒業し、冒険者やあるいは少なくとも正業についた者の数で評価される。

その数値が狂っていた。
かなりの予算が「繰越金」として溜まっている。まあ、これは政府に報告をあげる際には、調整するとして、だ。この余分な金はどこから湧いてでたのだ?

「クローディア大公国のフィオリナ姫が留学されている。」
ジャンガは、自慢げに一同を見回した。
「もちろん、正規には入学金も授業料もないのだが、そうはいってもさすがにクローディア大公、たっぷり寄付金を弾んでくれた、というわけだ。」

厳密にはこのとき、すでにフィオリナは、嫡子としてクローディア大公家の跡取りとなる話は、無くなっていたのだが、貰うものはもらったジャンガたちには関係のない話だった。

「そ、それは!」
全員が身を乗り出していた。
顔つき、性別、出自はまちまちだ。道徳心の欠如具合も含めてバラバラだ。
だが、全員、金が大好きと言うところは共通している。
「その手は使えますね!」

それもこれも、校長が、さまざまに手を打って学校の評価を高めてくれたおかげです。

追従が飛び交うなか、ジャンガは鷹揚に笑って見せた。

「実は、今、まさにクローディア大公国嫡子に勝るとも劣らない身分の方から、留学のお申し出を受けている。入学についての一時金や授業料、寮費などの相談があったので、一切必要ないとお伝えた。」
ジャンガは、ずるそうにニヤリと笑った。
「もちろん、はるか北方のクローディア大公国が留学に際し、いくら寄付金をいただいたかはさりげなくお伝えしておいた。
シャルリリア龍皇国のラントン侯爵家としては、それを下回る金額を持たせることは考えられない。」

「シャルリリア龍皇国!」
「西域八強の一角ではないですか。」
「そこの侯爵家・・・・ならば、家格としては、クローディア大公国の姫を凌ぐ。」

ジャンガは、仲間の反応に満足しながら、さりげない襟元の新柄のスカーフを巻き直した。
全員に白けた空気が漂い、互いに目配せし合うのを睨む。

こいつらは、全く、流行というものを知らんのか。
「ラントン侯爵家の三女、ルルべルーナ
様だ。すでにシャルリリアを御出立。一両日中には、ランゴバルドへ到着される。
これで軌道に乗れば、各国の重鎮たちの御子息、御息女が多額の寄付金付きで、当校に留学を希望されることは間違いなしだ。」

酒のグラスこそ、持っていなかったが、全員でカップを上げて乾杯を叫んだ。
ジャンガたちにとっては、これからも、この先も。順風満帆に見えたのだった。
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