暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
15 / 55
魔王の蠢動

否定と幻惑の魔法

しおりを挟む
フィオリナとオルガ。
二人の強烈な斬撃と魔法によって、傷つき、無数の破片を撒き散らしながら、巨大な、あまりにも巨大な竜の爪は、接近する。

身に竜巻を纏って、フィオリナが突進する。
これは、とってもまずい魔法だ。街そのものが瓦礫になりかねない。

巻き込まれた爪は、削られ、ひび割れ、それでもなお前進を止めない。

その真正面に、立ちはだかったフィオリナが叫ぶ。剣を突きつけて、叫ぶ。

「おまえは、存在しない! おまえは消えろっ!!」

オルガが横っ飛びにその体をさらわなければ、爪に真っ二つに裂かれていただろう。
フィオリナの固有魔法ともいうべき、存在の「否定」。
フィオリナに否定された事象は、その意味を失い、形あるものは砕け散る。

だがその力は、彼女の以前の愛剣、今はリウの手に戻った破壊属性の魔剣から、補助を受けてのものだった。今の彼女の剣は、風の属性。風に滅びの概念を乗せるならばともかく、破壊と否定をダイレクトにぶつけるには向いていない。
爪の何箇所かで、爆発が起こり、大きく破片が飛び散った。

だがそれだけだった。
爪の尖った切先は、ぼくの腰から上を粉砕し、後ろに庇ったアキルの頭と胸の半分を削ぎ取って止まった。

「おまえは目的を果たした。」

爪に優しく囁いた声は、我ながら、悪魔に似ている。

「すべきことは全て果たした。おまえはもう帰ってもいい。」

巨大なツメは・・・・相変わらず巨大ではあった。古竜というのはそういうものなのだ。
だが、爪の端だけで屋敷のサイズというような馬鹿げたものではなく。
当たり前の古竜のサイズに戻ったそれが、じゅぶじゅぶと空間に吸い込まれるように、消えていく。

やがて、空間の脈動もおさまり、当たり前の夜がかえってきた。フィオリナの竜巻で、石畳がちょっぴり捲れ上がり、ガラスが何枚か割れたのだが、それは許してもらおう。

「驚くべき魔法だな。」
オルガが、バケモンも見る目で、ぼくを睨んでいる。
ぼくもそれには同意だった。
「全く、驚いた。指先だけを転移させる攻撃なんて、聞いたことがない。いや、ギムリウスは別として、だ。そもそも、メリットがわからない。」

はあ。
三人がなぜかため息をついた。

「なんでため息?」
「どちらかというと、おまえの魔法にあきれておったのじゃ。」

オルガがひどいことを言った。
「あれは、どういう理屈なのだ?」

「あの竜爪は、わたしたちを攻撃するために、魔法によって増幅、強化されたものだ。」
付き合いの長いフィオリナが、なぜかいやそうに説明してくれた。
「魔法の目的は、わたしたちを、主にルトを攻撃するものために組まれたものだ。その目的を達成すれば、魔法は消える。」
「しかし、わたしの目にもおまえは死んだように見えたぞ。」

オルガの頬が、皮肉を言うときのように歪んでいた。

「前もって『巻き戻し』を設定したうえ、死ぬ前に傷を受ける前に戻ったんだけど。」

「死んだらどうする?」
「一応、体を失っても魂が崩れるまでには、タイムラグがある。普通に人間ならば、20秒。ただ、肉体の破損のショックで魂が壊れる可能性があって。」

「ち、ちょっと」
今度はアキルがむくれた。
「わたしもヤバかったってこと?」

「アキルのほうは、100%幻覚だ。ぼくの上半身をふっとばした時点で、やつはぼくの魔術に捕らわれた。
大丈夫かどうかという点でも大丈夫。アキルは体を失ったくらいでは、どうかなったりしないでしょ。」
「それはそうなんだけどっ!」
「それより」
「それよりって言われてる!」

オルガは、アキルの頭をぽんぽんと叩いた。
「確かに、相手も並の術者ではないのじゃ。しかも。」

フィオリナは、匂いをかぐように、白い喉をみせて目をとじている。
「竜だ。わかりきったことだけど。」

「『踊る道化師』には、アモンとレクスがおる。『竜王の牙』の連中を通じて、その情報はもう竜どもにも知られているじゃろ。
あえて、いま、挑む古竜がおるのじゃろうか?」

いるとすれば。
と、フィオリナが言った。
「まさにアモンとレクスが『踊る道化師』にいることがきにいらない連中だろうな。」

そうだ。フィオリナは美人なだけではない。頭だっていいのだ。

でもなんで、おまえはうれしそうなんだ?
                                
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...