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魔王の蠢動
夜道に現れたもの
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このメンバーで集まったのは、久しぶりだったので、それからもぼくらはいろいろな話をした。
学長選挙と買収の話は、意外にも異世界人のアキルから大ブーイングを受けた。
票を金で買うのは、大問題らしい。
それでは、どうやって投票する相手を決めるのか。
結局、貴族の派閥や名前の知れた者ばかりが、当選を続け、新しい者は選出されなくなってしまうのではないだろうか。
そういうものではない。
と、アキルは力説するのであるが、どうもわからない。
つまり、色々と政策によって利害が対立する団体が、あればそれを論点にして争い、各自が自分の利益を代表するものを代理人として政治の場に送り出すのだ、ということらしいのだが。
「それじゃあ、明らかに間違っていても数が多ければそれがまかり通るのか?」
とぼくが聞くと、アキルは天井を見上げたまま、まあそんなこともあるけど。
と、つぶやいた。
夜風に、吹かれてぼくらは、冒険者学校へと帰路についた。
アゲート老師は、西南街区に向かう四つ辻で、丁寧に礼を言ってわかれた。
「正直なところ、具体的な兆候を察知したわけではないのです。」
言い訳をするように、アゲートさんは、なんども頭をさげて、夜の街に消えていった。
「なんというか・・・良識的なひとだ。」
フィオリナが、その後姿をみてつぶやいた。
「なんで、ヴァルゴールの祭祀長なんてやったんだろう。」
「とにかく、別の次元にいる神様からの『神託』を受けられるのは、一種の才能だからな。」
ぼくは答えた。
「そういうことだ。場合によっては、神託を受けられてもそれを神託として理解できず、自分自身を壊してしまうこともある。」
オルガはしみじみと言った。
「逆に言うと、こうしてアキルが人の体を得て、地上を歩いている以上、神託の役目はなくなったわけなのだ。彼は彼で複雑なものがあるのだろう。」
「12使徒はどうしているんだ。まだ全員把握してるわけではないんだろう?」
ぼくは、ふと気になって、アキルに尋ねた。ヴァルゴールの12使徒といえば、西域でも強国のランゴバルドの精鋭「聖櫃の守護者」と一流どころの冒険者に五角以上の戦いができる性格破綻者の集まりだ。
過半数は、アゲートの呼びかけに応えて、ランゴバルドの地にあつまったが、捻くれものは無視した。そして、ヴァルゴールの使徒なんかしてるものは、そんなに性格良き人格者はいなかったのだ。
典型的なのが、ミトラであった使徒ミュラである。
見かけは可愛らしい少女なのだが、布を巻きつけたボロをまとい、人間らしさが大嫌い。
ぼくとフィオリナ、それに神獣ギムリウスあたりは、人間らしくない、とい理由でおメガネにかなったようで、そのまま、ランゴバルドにくっついて来て、いまは冒険者学校にいる。
最初の課題である「一般常識」でなんでも落第し、半年外出できなかったらしい。
もっともギムリウスとゴウグレは、しょっちゅう連れ出してはいたようだった。
「時間をくれてありがとう。」
ぼくとフィオリナの間に、体をねじ込むようにして、アキルが寄り添った。
「いつでも時間はつくるよ。」
「なら、こんどは二人で!」
フィオリナがアキルの首根っこを掴んで、引っこ抜こうとした。その素っ首に、オルガのデスサイズの刃がピタリと当てられた。
「わたしとやりあってみるか、闇姫。」
「確かに、わらわはアキルの保護者を持って任じているが。」
銀灰皇国の闇姫オルガが、薄く笑った。
「仲間割れもまた、『踊る道化師』にとっては、贅沢品じゃ。勝手に敵は現れてくれるし、厄介事は降ってくる。」
道の前方。
もはや、人気もなくなった深夜の大路の空中が、ぐずぐずと歪みだした。それは『転移』の前兆にほかならない。
荘厳な「門」をエフェクトする賢者ウィルニア、空間が凍りついたあと、割れるようなエフェクトをもつジウル・ボルテック、そもそもエフェクトなど必要としないギムリウス。
いずれでもない。
強いていうならば、それは魔王宮の魔物が転移してくる前兆に、似ていた。
フィオリナが、剣を抜いた。
なんの装飾もない片手剣ではあるが、風の魔法と相性がいいようだ。リウにもらった剣なので、さぞかし名のある魔剣なのだろうが、真名は教えてもらっていない。
ぼくは、ヨウィスの糸を四方に張り巡らせた。
転移は、奇襲にならないことが多い。出現の前兆である空間の変化が起こることが多いからだ。
それなら、転移そのものをオトリにした別の攻撃である場合も考えられた。その場合は、まずこのメンツならば、アキルを守らなければならない。
ヴァルゴールの現身であるアキルは、あれやこれやと手をだし、そこそこの腕前になりつつあった。だが出現に転移を伴うような超上の存在には、まったく力不足だった。
空間が軋む。上手な転移ではない。
転移という事象に、『世界』が抵抗するのを騙す、のてばなく、力付くでねじ伏せている。
そうして、現れたのは、岩だった。
大きさは家一軒ほどもあるだろうか。先端は爪のようにとがり、大理石のように磨かれていた。
それが。
接近する大岩に、ぼくは、「炎雷」を放った。大質量のものを粉砕するのに適した魔法だ。
少々の魔法防護も突破して、それが岩ならば微塵に打ち砕いたはずだ。
砕けぬそれは、岩ではなかったのだろう。
魔法は、その表面で火花を散らしたが、そのまま逸らされた。
オルガのデスサイズが、フィオリナの剣が。
岩に切り込み、破片をはね上げる。
だが、相手の質量は凄まじい。
少々の傷などものともせす、真っ直ぐにぼくにむかって殺到する。
「ルト、あれは」
寄り添ったアキルが真剣な顔で言った。
「爪だよ。竜の爪。」
分かっている。
だが、爪の先端だけでこの大きさ。
ならば、この竜は全長何100メトルあるのだろうか。
学長選挙と買収の話は、意外にも異世界人のアキルから大ブーイングを受けた。
票を金で買うのは、大問題らしい。
それでは、どうやって投票する相手を決めるのか。
結局、貴族の派閥や名前の知れた者ばかりが、当選を続け、新しい者は選出されなくなってしまうのではないだろうか。
そういうものではない。
と、アキルは力説するのであるが、どうもわからない。
つまり、色々と政策によって利害が対立する団体が、あればそれを論点にして争い、各自が自分の利益を代表するものを代理人として政治の場に送り出すのだ、ということらしいのだが。
「それじゃあ、明らかに間違っていても数が多ければそれがまかり通るのか?」
とぼくが聞くと、アキルは天井を見上げたまま、まあそんなこともあるけど。
と、つぶやいた。
夜風に、吹かれてぼくらは、冒険者学校へと帰路についた。
アゲート老師は、西南街区に向かう四つ辻で、丁寧に礼を言ってわかれた。
「正直なところ、具体的な兆候を察知したわけではないのです。」
言い訳をするように、アゲートさんは、なんども頭をさげて、夜の街に消えていった。
「なんというか・・・良識的なひとだ。」
フィオリナが、その後姿をみてつぶやいた。
「なんで、ヴァルゴールの祭祀長なんてやったんだろう。」
「とにかく、別の次元にいる神様からの『神託』を受けられるのは、一種の才能だからな。」
ぼくは答えた。
「そういうことだ。場合によっては、神託を受けられてもそれを神託として理解できず、自分自身を壊してしまうこともある。」
オルガはしみじみと言った。
「逆に言うと、こうしてアキルが人の体を得て、地上を歩いている以上、神託の役目はなくなったわけなのだ。彼は彼で複雑なものがあるのだろう。」
「12使徒はどうしているんだ。まだ全員把握してるわけではないんだろう?」
ぼくは、ふと気になって、アキルに尋ねた。ヴァルゴールの12使徒といえば、西域でも強国のランゴバルドの精鋭「聖櫃の守護者」と一流どころの冒険者に五角以上の戦いができる性格破綻者の集まりだ。
過半数は、アゲートの呼びかけに応えて、ランゴバルドの地にあつまったが、捻くれものは無視した。そして、ヴァルゴールの使徒なんかしてるものは、そんなに性格良き人格者はいなかったのだ。
典型的なのが、ミトラであった使徒ミュラである。
見かけは可愛らしい少女なのだが、布を巻きつけたボロをまとい、人間らしさが大嫌い。
ぼくとフィオリナ、それに神獣ギムリウスあたりは、人間らしくない、とい理由でおメガネにかなったようで、そのまま、ランゴバルドにくっついて来て、いまは冒険者学校にいる。
最初の課題である「一般常識」でなんでも落第し、半年外出できなかったらしい。
もっともギムリウスとゴウグレは、しょっちゅう連れ出してはいたようだった。
「時間をくれてありがとう。」
ぼくとフィオリナの間に、体をねじ込むようにして、アキルが寄り添った。
「いつでも時間はつくるよ。」
「なら、こんどは二人で!」
フィオリナがアキルの首根っこを掴んで、引っこ抜こうとした。その素っ首に、オルガのデスサイズの刃がピタリと当てられた。
「わたしとやりあってみるか、闇姫。」
「確かに、わらわはアキルの保護者を持って任じているが。」
銀灰皇国の闇姫オルガが、薄く笑った。
「仲間割れもまた、『踊る道化師』にとっては、贅沢品じゃ。勝手に敵は現れてくれるし、厄介事は降ってくる。」
道の前方。
もはや、人気もなくなった深夜の大路の空中が、ぐずぐずと歪みだした。それは『転移』の前兆にほかならない。
荘厳な「門」をエフェクトする賢者ウィルニア、空間が凍りついたあと、割れるようなエフェクトをもつジウル・ボルテック、そもそもエフェクトなど必要としないギムリウス。
いずれでもない。
強いていうならば、それは魔王宮の魔物が転移してくる前兆に、似ていた。
フィオリナが、剣を抜いた。
なんの装飾もない片手剣ではあるが、風の魔法と相性がいいようだ。リウにもらった剣なので、さぞかし名のある魔剣なのだろうが、真名は教えてもらっていない。
ぼくは、ヨウィスの糸を四方に張り巡らせた。
転移は、奇襲にならないことが多い。出現の前兆である空間の変化が起こることが多いからだ。
それなら、転移そのものをオトリにした別の攻撃である場合も考えられた。その場合は、まずこのメンツならば、アキルを守らなければならない。
ヴァルゴールの現身であるアキルは、あれやこれやと手をだし、そこそこの腕前になりつつあった。だが出現に転移を伴うような超上の存在には、まったく力不足だった。
空間が軋む。上手な転移ではない。
転移という事象に、『世界』が抵抗するのを騙す、のてばなく、力付くでねじ伏せている。
そうして、現れたのは、岩だった。
大きさは家一軒ほどもあるだろうか。先端は爪のようにとがり、大理石のように磨かれていた。
それが。
接近する大岩に、ぼくは、「炎雷」を放った。大質量のものを粉砕するのに適した魔法だ。
少々の魔法防護も突破して、それが岩ならば微塵に打ち砕いたはずだ。
砕けぬそれは、岩ではなかったのだろう。
魔法は、その表面で火花を散らしたが、そのまま逸らされた。
オルガのデスサイズが、フィオリナの剣が。
岩に切り込み、破片をはね上げる。
だが、相手の質量は凄まじい。
少々の傷などものともせす、真っ直ぐにぼくにむかって殺到する。
「ルト、あれは」
寄り添ったアキルが真剣な顔で言った。
「爪だよ。竜の爪。」
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だが、爪の先端だけでこの大きさ。
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