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魔王の蠢動

邪神ヴァルゴールの後悔

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レストラン「神竜の息吹」は、ランゴバルドでも人気の店である。
気軽な飲み食いができるとこれも行列の絶えない居酒屋「神竜の息吹」の隣にオープンした。

レストランのほうは予約制で、席は基本的に半個室。一室は5、6名も入ればいっぱいで、目の前で調理をしてくれるライブ感溢れる演出が大好評だ。

ぼくは、前に吐き気がひどくて、なにも食べられなかったときに、ここのシェフのつくる雑炊でなんとか、命長らえたことがある。
そういった意味では、目の前で絶妙の焼き加減で、メインのステーキを焼いてくれたシェフは、命の恩人でもあるのだ。

それが、さあ、終わった終わった、あとはごゆっくり、と背中で語りながら出ていこうとするので、ぼくは止めた。

「ラウレス!」
「なにかな。今日は満室で忙しくって。」
「さっき、各部屋の担当料理人を見たけど、おまえは入ってないよね?」
「一応、総料理長なので。」
ラウレスは、困った顔をしている。
外見的な年齢は、ぼくらといくらも違わない。巻き毛の、かわいい系男子である。古竜だけど。

「各部屋をサプライズで回って、シェフの気まぐれプレゼントで、一品作って回るんだ。」
「わかった。」
「わかってくれたの?」
「時間は十分あるな。まあ、座って。」

なんで邪神やその祭司長と同席しなきゃいかんのか、とブツブツ言いながら、ラウレスは、黙々と果実酒に浸した米を鉄板にぶちまけて、デザートを、作り始める。
あとでなにか言われたら、料理に集中してて良く、聞いてませんでしたーーっ!って逃げる算段か。

「すばらしい料理でした、ラウレス殿。」
アゲートさん自身の風貌は、別段、異常なものはなにもない。
現在は、ランゴバルドで治療院を開き、そちらは結構、繁盛しているそうだ。手に職もなく、冒険者学校でうだうだしたいるほかの「使徒」どもに見せてやりたい。

「いえいえ」
褒められてうれしくなくはないのだろうが、ラウレスは警戒をとかなかった。
「アゲート根本治療院のお噂はかねがね。」
そんな社交辞令もはさみつつ、出来上がったものは、どう見てもチャーハンに見えるのだが、そこにラウレスは、さまざまなフルーツを、飾りつけ、さらにアイスクリームをトッピングした。

炒めた飯の熱で、アイスクリームがとろりととけている。
はじめて食べるが美味いのか、これ。

「おかわりっ!」
フィオリナが、叫んだ。
いや、けっこうな量があったぞ。いつ食べたんだ。いきなり胃の腑に、食べ物を転移させる魔術でも開発したのか?
ラウレスは、また米を炒め始めた。

「ところで、ルト殿。」
そんな老成した言い方で、アゲートさんは、ぼくに話しかけてきた。
「世の中は全て陰陽、ついになって構成されたいる、という説をごぞんじでしょうか。」
「与太話、だと思いますよ、アゲートさん。」
ぼくは
、ちょっと、そっけなくかえしてしまった。
「そうですな。、確かに無理やり、こじつけることが多い話ではあります。
ですがたとえば、男性と女性。」
「番いは同性でも、成立しますよ、アゲートさん。」
ぼくは言った。
「なるほど。たしかにその通りだ。だか、これはどうでしょう。
魔王と勇者。」
「それは、」
生まれるべくして、生まれる訳ではなくて、必要だから誕生するんではないか、という意味のことをぼくは懸命に話した。

「その通りです。魔王が入れば勇者が。逆にです。もし、勇者がいなければ、魔王は魔王ではなく、ただの北の蛮族の王、だったかもしれないのです。」

「つまりは、バズズ=リウがいたから、初代勇者が誕生したのだ、と?」
「その通りです。」
「ぼくは、魔王勇者界隈に知己がずいぶんとおりまして」

熱々のライスのうえに、アイスクリームをかけたデザートは悪くなかった。
ただ熱々と冷たいのを同時に食べるので、あまりぐずぐずしてはいられない。時間をおくと、やな感じでぬるい、焼き飯ととけてクリームになってしまう。

「話を聞きますと、アイディアを提供したのは賢者、実行したのは魔王で、」
やっと食べ終えた、と思った矢先、またもライスとフルーツ、アイスクリームのかかった大皿が目の前に置かれた。
「勇者は別に居てもいなくてもいい存在でした・・・・ラウレス、これ頼んでないよ。」

「フィオリナはもう三皿目だぞ。」
ラウレスが指差した先では、フィオリナが三皿目の最後のひとすくいを、口に運んでいるところだった。

「なぜ、ここで大食い対決を・・・しかもデザートメニューで突然。」

「たぶん、話が暗くなり過ぎないように、ラウレスが気を使ってくれてるんだと思う。」
アキルは、大人しく、ステーキを切り分けていた。
ここは、まだメインディッシュをお食事中だった。
アゲートは申し訳なさそうに、自らの神に、首を垂れた。

「つまり、アゲートは昔話ではなくて、『今』現在のことを心配しているわけ。」
と、アキルは、ぼくとフィオリナを当分に見た。 
「わたしが単なる異世界人じゃなくて、『勇者』ということになってしまったからね。
対立する存在として、新たなる『魔王』が出現するんじゃないかって。」
「勝手に勇者を名乗ったのは、アキル自身だろ?」
「そうなのよ。」

アキルは、ぐさぐさと、肉片をフォークで突き刺した。肉は半生で。肉汁と共に血が滴っていた。
単なるレアステーキだ。
と、ぼくは自分に言い聞かせた。ただそれだけのものだ。単に絶妙な火加減で焼き上げた特上のステーキ。ただそれだけだ。

だが、それでもアキルの、その行為はひどく残忍なもののように感じられたのは、なぜだろう。

「わたしが勝手に、自分が勇者だって言ったのよ。そしてわたしはヴァルゴールなわけ。
神が異世界から、招いた者でそれが勇者を名乗るかどうかは、神様が決めるわけ。
そして、わたしがヴァルゴールなわけ。」
「それって、あれじゃない?」
「そう自業自得ってわけ。」
                                                       
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