12 / 55
魔王の蠢動
緑の小切手と駆け出し冒険者
しおりを挟む
いったいなにがどうなっているんだ。
あまりにも情報が少ない。
「ルト!」
カザリームでなにが起こっている?
「もし」依頼が順調にすすめば。
「もし」経済的に余裕ができれば。
「もし」可能だったらだからね、くれぐれも無理な送金などしなくいいから。
目の前には、小切手がある。西域共通銀行振り出しの小切手だ。なんでいちいち発行にけっこうな手数料のかかるそんなものを送りつけてくるのは、ダル紙幣で送ると荷車が必要になるからだ。
幻覚魔法。
おそるおそる手にとった薄い緑の紙が、向こう側が透けるくらいだ。ただ、とんでもなく丈夫で、火に炙ろうが濡らそうが、びくともするものではない。
そして、絶対に複製ができない。いや、邪神が、寮の窓のしたを手を振って歩いて行く。そうだな、世の中、「絶対」はないか。
小切手に記された金額は、ランゴバルドの一等地の大通りに面した場所に、店を出せるくらいの金額だ。一生遊んで暮らせる金額だ。
そして、これは、最初の一枚ではない。
「ルト!!」
「フィオリナ!」
ぼくは、フィオリナの肩をつかんで揺さぶった。
「いったい、カザリームでなにが起こってるんだ!」
「よし! 確かめにいこう!」
「それはだめ!」
なんでぇ?
と、フィオリナは、むくれた。
だって、リウに会いたいだけだろうし、会ったら会っただけでは済まないだろう。
「なんだこの金額は!
まともな依頼料で稼げる金額じゃないぞ。」
「あのね、ルト。」
フィオリナは、ほんとこいつ、あたまがいいくせに物わかりのわるい婚約者よね、といいながら、ぼくの髪をくしゃくしゃとかき回した。
「レストラン『神竜の息吹』の売上げはわかってる?」
何をいってるんだ。
ぼくは、顔だけはいい婚約者を見返した。
「わかってるよ。わかってるから、ホテル業に進出することも了承したし、人だって雇ってる。それとこれとどういう関係があるのさ。」
「その金額たるや、きみの言う『まともな依頼料で稼げる金額』じゃないのはわかる?」
ああ。
ぼくは、なんとか合点がいった。
ようはカザリームのリウたちも、そういう依頼料以外の儲けを見つけた、ということなのか。
「なにしろ、リウだからね。」
と、フィオリナが胸を張っていった。
婚約者に、恋人の自慢をするな、デリカシーが枯渇してるタイプの美少女か。
「確かに、迷宮主がかつての自分の部下だったとか、平気でありそうだしなあ。」
「迷宮の中に、ホテルを開業してても驚かないけどね。」
そのアイデアは、ぼくも考えてはいた。
「なんにせよ、春になったら、学長選挙だからね。お金はいくらあったって無駄にはならない。」
「選挙だもんなあ。」
「選挙だからねえ。」
ぼくとフィオリナは、ギシギシ軋む椅子に腰を下ろした。
もともと、リウとふたりで使っていた部屋だ。リウが選抜メンバーを指揮して、カザリームに去ったあと、妙に部屋はひろくて、どこか寒々としている。
フィオリナは、毎日遊びにくるのだが、リウの使ってたベッドに、倒れ込んでひとしきり深呼吸をして、シーツに頬ずりをしていた。ちなみに洗濯は禁止と言われている。
「ルト!」
ドアがノックもなく開いて、邪神が顔を覗かせた。西域には珍しい黒いストレートの髪は艶やかだ。澄んだ黒い瞳がぼくらを見つけた。
異世界勇者。と言う触れ込みの少女アキルだが。実際は、彼女をこの世界に招いたヴァルゴールという名の邪神の依代である。
「晩御飯一緒に食べよう。」
屈託なく笑うその笑顔に屈託はない。普通、どんな人間でも神が現世に降り立つための、媒介物に使われたら、魂も肉体も砕け散るだけなのだが。、アキルはもともと、邪神化するまえのヴァルゴールそのものである。
なので、砕けない、壊れない、腐らない。
アキル自身だってそうだ。たとえアキルの感情がたかぶっても、黒い瘴気も出さないし、花もからさない。
「アキル! ルトは、わたしの婚約者!」
「ついて来たければいいですよ。」
アキルは平然と答えた。
どことなく、その態度は冷たいものがある。
半年前に、リウとフィオリナは恋に落ち、邪魔者になったぼくを本気で殺めようとした。
アキルはそのことがどうしても許せないようなのだ。
確かにぼくはは当時、ひどい状態でまったくモノが食べられなくなった。
とにかく、女性を見ただけで、戻してしまうのだ。
それどころか、その手の行為を想像しただけで。
そのころに比べればずいぶんとよくはなったのだけれど。
「いいわ。わかった。どうせ、アキルの行くところ、オルガ姫もついてくるわけだから、四人ね!」
「五人なんだ。アゲートさんが一緒に参加したがってる。なんだけ相談したいことがあるらしい。」
「うーん。いいんだけどアゲートさんって誰?」
アキルは、困ったように、わたしの関係者で・・・と言いかけた。
それでやっとぼくは、思い出した。
「ヴァルゴールの祭祀長か。」
確か曲者揃いの「12使徒」をまとめ上げている人物だ。
唯一、ヴァルゴールの「神託」を受け取れる人物だったのが、今はヴァルゴール自身が、ようがあればこうやって部屋を訪ねてくるようになったせいで、自分の立場について、このままでいいのか悩んでいる。と、そのくらいのことは、前にアキルから聞いていた。
あまりにも情報が少ない。
「ルト!」
カザリームでなにが起こっている?
「もし」依頼が順調にすすめば。
「もし」経済的に余裕ができれば。
「もし」可能だったらだからね、くれぐれも無理な送金などしなくいいから。
目の前には、小切手がある。西域共通銀行振り出しの小切手だ。なんでいちいち発行にけっこうな手数料のかかるそんなものを送りつけてくるのは、ダル紙幣で送ると荷車が必要になるからだ。
幻覚魔法。
おそるおそる手にとった薄い緑の紙が、向こう側が透けるくらいだ。ただ、とんでもなく丈夫で、火に炙ろうが濡らそうが、びくともするものではない。
そして、絶対に複製ができない。いや、邪神が、寮の窓のしたを手を振って歩いて行く。そうだな、世の中、「絶対」はないか。
小切手に記された金額は、ランゴバルドの一等地の大通りに面した場所に、店を出せるくらいの金額だ。一生遊んで暮らせる金額だ。
そして、これは、最初の一枚ではない。
「ルト!!」
「フィオリナ!」
ぼくは、フィオリナの肩をつかんで揺さぶった。
「いったい、カザリームでなにが起こってるんだ!」
「よし! 確かめにいこう!」
「それはだめ!」
なんでぇ?
と、フィオリナは、むくれた。
だって、リウに会いたいだけだろうし、会ったら会っただけでは済まないだろう。
「なんだこの金額は!
まともな依頼料で稼げる金額じゃないぞ。」
「あのね、ルト。」
フィオリナは、ほんとこいつ、あたまがいいくせに物わかりのわるい婚約者よね、といいながら、ぼくの髪をくしゃくしゃとかき回した。
「レストラン『神竜の息吹』の売上げはわかってる?」
何をいってるんだ。
ぼくは、顔だけはいい婚約者を見返した。
「わかってるよ。わかってるから、ホテル業に進出することも了承したし、人だって雇ってる。それとこれとどういう関係があるのさ。」
「その金額たるや、きみの言う『まともな依頼料で稼げる金額』じゃないのはわかる?」
ああ。
ぼくは、なんとか合点がいった。
ようはカザリームのリウたちも、そういう依頼料以外の儲けを見つけた、ということなのか。
「なにしろ、リウだからね。」
と、フィオリナが胸を張っていった。
婚約者に、恋人の自慢をするな、デリカシーが枯渇してるタイプの美少女か。
「確かに、迷宮主がかつての自分の部下だったとか、平気でありそうだしなあ。」
「迷宮の中に、ホテルを開業してても驚かないけどね。」
そのアイデアは、ぼくも考えてはいた。
「なんにせよ、春になったら、学長選挙だからね。お金はいくらあったって無駄にはならない。」
「選挙だもんなあ。」
「選挙だからねえ。」
ぼくとフィオリナは、ギシギシ軋む椅子に腰を下ろした。
もともと、リウとふたりで使っていた部屋だ。リウが選抜メンバーを指揮して、カザリームに去ったあと、妙に部屋はひろくて、どこか寒々としている。
フィオリナは、毎日遊びにくるのだが、リウの使ってたベッドに、倒れ込んでひとしきり深呼吸をして、シーツに頬ずりをしていた。ちなみに洗濯は禁止と言われている。
「ルト!」
ドアがノックもなく開いて、邪神が顔を覗かせた。西域には珍しい黒いストレートの髪は艶やかだ。澄んだ黒い瞳がぼくらを見つけた。
異世界勇者。と言う触れ込みの少女アキルだが。実際は、彼女をこの世界に招いたヴァルゴールという名の邪神の依代である。
「晩御飯一緒に食べよう。」
屈託なく笑うその笑顔に屈託はない。普通、どんな人間でも神が現世に降り立つための、媒介物に使われたら、魂も肉体も砕け散るだけなのだが。、アキルはもともと、邪神化するまえのヴァルゴールそのものである。
なので、砕けない、壊れない、腐らない。
アキル自身だってそうだ。たとえアキルの感情がたかぶっても、黒い瘴気も出さないし、花もからさない。
「アキル! ルトは、わたしの婚約者!」
「ついて来たければいいですよ。」
アキルは平然と答えた。
どことなく、その態度は冷たいものがある。
半年前に、リウとフィオリナは恋に落ち、邪魔者になったぼくを本気で殺めようとした。
アキルはそのことがどうしても許せないようなのだ。
確かにぼくはは当時、ひどい状態でまったくモノが食べられなくなった。
とにかく、女性を見ただけで、戻してしまうのだ。
それどころか、その手の行為を想像しただけで。
そのころに比べればずいぶんとよくはなったのだけれど。
「いいわ。わかった。どうせ、アキルの行くところ、オルガ姫もついてくるわけだから、四人ね!」
「五人なんだ。アゲートさんが一緒に参加したがってる。なんだけ相談したいことがあるらしい。」
「うーん。いいんだけどアゲートさんって誰?」
アキルは、困ったように、わたしの関係者で・・・と言いかけた。
それでやっとぼくは、思い出した。
「ヴァルゴールの祭祀長か。」
確か曲者揃いの「12使徒」をまとめ上げている人物だ。
唯一、ヴァルゴールの「神託」を受け取れる人物だったのが、今はヴァルゴール自身が、ようがあればこうやって部屋を訪ねてくるようになったせいで、自分の立場について、このままでいいのか悩んでいる。と、そのくらいのことは、前にアキルから聞いていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。


元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる