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魔王の蠢動
緑の小切手と駆け出し冒険者
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いったいなにがどうなっているんだ。
あまりにも情報が少ない。
「ルト!」
カザリームでなにが起こっている?
「もし」依頼が順調にすすめば。
「もし」経済的に余裕ができれば。
「もし」可能だったらだからね、くれぐれも無理な送金などしなくいいから。
目の前には、小切手がある。西域共通銀行振り出しの小切手だ。なんでいちいち発行にけっこうな手数料のかかるそんなものを送りつけてくるのは、ダル紙幣で送ると荷車が必要になるからだ。
幻覚魔法。
おそるおそる手にとった薄い緑の紙が、向こう側が透けるくらいだ。ただ、とんでもなく丈夫で、火に炙ろうが濡らそうが、びくともするものではない。
そして、絶対に複製ができない。いや、邪神が、寮の窓のしたを手を振って歩いて行く。そうだな、世の中、「絶対」はないか。
小切手に記された金額は、ランゴバルドの一等地の大通りに面した場所に、店を出せるくらいの金額だ。一生遊んで暮らせる金額だ。
そして、これは、最初の一枚ではない。
「ルト!!」
「フィオリナ!」
ぼくは、フィオリナの肩をつかんで揺さぶった。
「いったい、カザリームでなにが起こってるんだ!」
「よし! 確かめにいこう!」
「それはだめ!」
なんでぇ?
と、フィオリナは、むくれた。
だって、リウに会いたいだけだろうし、会ったら会っただけでは済まないだろう。
「なんだこの金額は!
まともな依頼料で稼げる金額じゃないぞ。」
「あのね、ルト。」
フィオリナは、ほんとこいつ、あたまがいいくせに物わかりのわるい婚約者よね、といいながら、ぼくの髪をくしゃくしゃとかき回した。
「レストラン『神竜の息吹』の売上げはわかってる?」
何をいってるんだ。
ぼくは、顔だけはいい婚約者を見返した。
「わかってるよ。わかってるから、ホテル業に進出することも了承したし、人だって雇ってる。それとこれとどういう関係があるのさ。」
「その金額たるや、きみの言う『まともな依頼料で稼げる金額』じゃないのはわかる?」
ああ。
ぼくは、なんとか合点がいった。
ようはカザリームのリウたちも、そういう依頼料以外の儲けを見つけた、ということなのか。
「なにしろ、リウだからね。」
と、フィオリナが胸を張っていった。
婚約者に、恋人の自慢をするな、デリカシーが枯渇してるタイプの美少女か。
「確かに、迷宮主がかつての自分の部下だったとか、平気でありそうだしなあ。」
「迷宮の中に、ホテルを開業してても驚かないけどね。」
そのアイデアは、ぼくも考えてはいた。
「なんにせよ、春になったら、学長選挙だからね。お金はいくらあったって無駄にはならない。」
「選挙だもんなあ。」
「選挙だからねえ。」
ぼくとフィオリナは、ギシギシ軋む椅子に腰を下ろした。
もともと、リウとふたりで使っていた部屋だ。リウが選抜メンバーを指揮して、カザリームに去ったあと、妙に部屋はひろくて、どこか寒々としている。
フィオリナは、毎日遊びにくるのだが、リウの使ってたベッドに、倒れ込んでひとしきり深呼吸をして、シーツに頬ずりをしていた。ちなみに洗濯は禁止と言われている。
「ルト!」
ドアがノックもなく開いて、邪神が顔を覗かせた。西域には珍しい黒いストレートの髪は艶やかだ。澄んだ黒い瞳がぼくらを見つけた。
異世界勇者。と言う触れ込みの少女アキルだが。実際は、彼女をこの世界に招いたヴァルゴールという名の邪神の依代である。
「晩御飯一緒に食べよう。」
屈託なく笑うその笑顔に屈託はない。普通、どんな人間でも神が現世に降り立つための、媒介物に使われたら、魂も肉体も砕け散るだけなのだが。、アキルはもともと、邪神化するまえのヴァルゴールそのものである。
なので、砕けない、壊れない、腐らない。
アキル自身だってそうだ。たとえアキルの感情がたかぶっても、黒い瘴気も出さないし、花もからさない。
「アキル! ルトは、わたしの婚約者!」
「ついて来たければいいですよ。」
アキルは平然と答えた。
どことなく、その態度は冷たいものがある。
半年前に、リウとフィオリナは恋に落ち、邪魔者になったぼくを本気で殺めようとした。
アキルはそのことがどうしても許せないようなのだ。
確かにぼくはは当時、ひどい状態でまったくモノが食べられなくなった。
とにかく、女性を見ただけで、戻してしまうのだ。
それどころか、その手の行為を想像しただけで。
そのころに比べればずいぶんとよくはなったのだけれど。
「いいわ。わかった。どうせ、アキルの行くところ、オルガ姫もついてくるわけだから、四人ね!」
「五人なんだ。アゲートさんが一緒に参加したがってる。なんだけ相談したいことがあるらしい。」
「うーん。いいんだけどアゲートさんって誰?」
アキルは、困ったように、わたしの関係者で・・・と言いかけた。
それでやっとぼくは、思い出した。
「ヴァルゴールの祭祀長か。」
確か曲者揃いの「12使徒」をまとめ上げている人物だ。
唯一、ヴァルゴールの「神託」を受け取れる人物だったのが、今はヴァルゴール自身が、ようがあればこうやって部屋を訪ねてくるようになったせいで、自分の立場について、このままでいいのか悩んでいる。と、そのくらいのことは、前にアキルから聞いていた。
あまりにも情報が少ない。
「ルト!」
カザリームでなにが起こっている?
「もし」依頼が順調にすすめば。
「もし」経済的に余裕ができれば。
「もし」可能だったらだからね、くれぐれも無理な送金などしなくいいから。
目の前には、小切手がある。西域共通銀行振り出しの小切手だ。なんでいちいち発行にけっこうな手数料のかかるそんなものを送りつけてくるのは、ダル紙幣で送ると荷車が必要になるからだ。
幻覚魔法。
おそるおそる手にとった薄い緑の紙が、向こう側が透けるくらいだ。ただ、とんでもなく丈夫で、火に炙ろうが濡らそうが、びくともするものではない。
そして、絶対に複製ができない。いや、邪神が、寮の窓のしたを手を振って歩いて行く。そうだな、世の中、「絶対」はないか。
小切手に記された金額は、ランゴバルドの一等地の大通りに面した場所に、店を出せるくらいの金額だ。一生遊んで暮らせる金額だ。
そして、これは、最初の一枚ではない。
「ルト!!」
「フィオリナ!」
ぼくは、フィオリナの肩をつかんで揺さぶった。
「いったい、カザリームでなにが起こってるんだ!」
「よし! 確かめにいこう!」
「それはだめ!」
なんでぇ?
と、フィオリナは、むくれた。
だって、リウに会いたいだけだろうし、会ったら会っただけでは済まないだろう。
「なんだこの金額は!
まともな依頼料で稼げる金額じゃないぞ。」
「あのね、ルト。」
フィオリナは、ほんとこいつ、あたまがいいくせに物わかりのわるい婚約者よね、といいながら、ぼくの髪をくしゃくしゃとかき回した。
「レストラン『神竜の息吹』の売上げはわかってる?」
何をいってるんだ。
ぼくは、顔だけはいい婚約者を見返した。
「わかってるよ。わかってるから、ホテル業に進出することも了承したし、人だって雇ってる。それとこれとどういう関係があるのさ。」
「その金額たるや、きみの言う『まともな依頼料で稼げる金額』じゃないのはわかる?」
ああ。
ぼくは、なんとか合点がいった。
ようはカザリームのリウたちも、そういう依頼料以外の儲けを見つけた、ということなのか。
「なにしろ、リウだからね。」
と、フィオリナが胸を張っていった。
婚約者に、恋人の自慢をするな、デリカシーが枯渇してるタイプの美少女か。
「確かに、迷宮主がかつての自分の部下だったとか、平気でありそうだしなあ。」
「迷宮の中に、ホテルを開業してても驚かないけどね。」
そのアイデアは、ぼくも考えてはいた。
「なんにせよ、春になったら、学長選挙だからね。お金はいくらあったって無駄にはならない。」
「選挙だもんなあ。」
「選挙だからねえ。」
ぼくとフィオリナは、ギシギシ軋む椅子に腰を下ろした。
もともと、リウとふたりで使っていた部屋だ。リウが選抜メンバーを指揮して、カザリームに去ったあと、妙に部屋はひろくて、どこか寒々としている。
フィオリナは、毎日遊びにくるのだが、リウの使ってたベッドに、倒れ込んでひとしきり深呼吸をして、シーツに頬ずりをしていた。ちなみに洗濯は禁止と言われている。
「ルト!」
ドアがノックもなく開いて、邪神が顔を覗かせた。西域には珍しい黒いストレートの髪は艶やかだ。澄んだ黒い瞳がぼくらを見つけた。
異世界勇者。と言う触れ込みの少女アキルだが。実際は、彼女をこの世界に招いたヴァルゴールという名の邪神の依代である。
「晩御飯一緒に食べよう。」
屈託なく笑うその笑顔に屈託はない。普通、どんな人間でも神が現世に降り立つための、媒介物に使われたら、魂も肉体も砕け散るだけなのだが。、アキルはもともと、邪神化するまえのヴァルゴールそのものである。
なので、砕けない、壊れない、腐らない。
アキル自身だってそうだ。たとえアキルの感情がたかぶっても、黒い瘴気も出さないし、花もからさない。
「アキル! ルトは、わたしの婚約者!」
「ついて来たければいいですよ。」
アキルは平然と答えた。
どことなく、その態度は冷たいものがある。
半年前に、リウとフィオリナは恋に落ち、邪魔者になったぼくを本気で殺めようとした。
アキルはそのことがどうしても許せないようなのだ。
確かにぼくはは当時、ひどい状態でまったくモノが食べられなくなった。
とにかく、女性を見ただけで、戻してしまうのだ。
それどころか、その手の行為を想像しただけで。
そのころに比べればずいぶんとよくはなったのだけれど。
「いいわ。わかった。どうせ、アキルの行くところ、オルガ姫もついてくるわけだから、四人ね!」
「五人なんだ。アゲートさんが一緒に参加したがってる。なんだけ相談したいことがあるらしい。」
「うーん。いいんだけどアゲートさんって誰?」
アキルは、困ったように、わたしの関係者で・・・と言いかけた。
それでやっとぼくは、思い出した。
「ヴァルゴールの祭祀長か。」
確か曲者揃いの「12使徒」をまとめ上げている人物だ。
唯一、ヴァルゴールの「神託」を受け取れる人物だったのが、今はヴァルゴール自身が、ようがあればこうやって部屋を訪ねてくるようになったせいで、自分の立場について、このままでいいのか悩んでいる。と、そのくらいのことは、前にアキルから聞いていた。
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