暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
10 / 55
人形始末

エピリーグ1

しおりを挟む
「報酬は何をもらった?」
と尋ねたボルテックの顔は、下品だ。
以前だったら、「年甲斐もなく、人の懐事情に首を突っ込むな。」と言ってやれたのだが、今のボルテックは、20代。
「悪い」顔をしてもなんとなく、魅力的に移る得な容貌だ。

ぼくは、“収納”から革の大袋を取り出した。

「金貨か?」
ぼくは首を横にふる。
「まさか! 白金貨か。」

冗談ではないないわ。
ぼくは、袋から硬貨を一掴みして、じじいに突きつけた。
「銀貨・・・・だな。」

「そういうこと。
銀級冒険者を二日拘束して、隊商の護衛。相場でしょ?」
「それにしてもその量は・・・・・」

ボルテックは呆れたように銀貨の大袋を見ている。
“収納”なしでは、ちょっと持って帰るのに躊躇する量だった。

「今回は、冒険者ギルド『黒鴉』で受けた。あそこは、どういうわけか、ぼくが異常に小銭が好きだと信じ込んでいる。」
「『小銭殿下』だもんね、二つ名が。」
「そんな、二つ名は、ない。」

ぼくは、フィオリナに揶揄されるのがこの所、なんだカンに触るようになっている。
以前は、そんなことはなかった・・・というより、フィオリナがぼくを揶揄することなどまずなかったのだが。
やはりあれこれと「比較」の対象になる男がいて、それが魔王サマだというのは、重要なポイントなのだろう。

「一方で、これを金貨に変えるよりも、このまま銀貨で持ち帰って、ミトラでダル紙幣に変えた方が、換金率はいいので、そうするつもり。」
「で?」
ボルテックは、ぐいと身を乗り出した。
「ウィルニアからは、何をもらった。」

「何も。逆に人形の残骸を所望されたので、丁寧に消滅させたことをお伝えすると甚だ気分を害されていた。」

ぼくとボルテックは、互いに悪い笑みを交わした。
ご老人とぼくは、全く気が会わない訳では、決してないのだ。

「このことを最初から、分かっていたのですね、ボルテック老師。」

場所は、午後の日が差し込む、魔道院寮の応接だ。
部屋、ではない。広い廊下にソファとテーブルを並べただけのものだが、流石に寮の部屋は、人を接待するには狭すぎた。

「メンテナンスをしなければ、魔道人形は、数ヶ月で機能を停止する。」
ボルテックは、肩をすくめた。
「おまえも分かっていただろうに。」

「その常識を覆して、メンテナンスフリーで、何十年も活動を続ける魔道人形って、“人形作り”にとっては憧れでしょう?」
「それでは、もはや、生き物と変わらない。」
「そこです!」
「どこだ?」

ぼくは、身を乗り出した。
その分、気圧されたように、ボルテックが身をひく。

「魔道人形と、人間を分けるものはなんです? 成長の問題は一つ、起きましょう。
例えば、今、老師がおっしゃったメンテナンスのないことによる劣化は、単純に人間の老化に置き換えることができる。」
「基本的に、人工生命と自然発生の命を区別するものは、ない。」

そう断言した若い拳士の顔に、遥かに年配の魔導師の顔が重なった。

「差があるとすれば、それは生き続けた年月だろう。
例を挙げるながら、冒険者“緋”のドルバーザがつれている魔道人形のテムだ。
軽口を叩くし、主を平然と馬かにする。
ことあるごとに、自分の魔道人形の優秀さを公言するが、やつは明らかに知性を備えた生き物だ。もしあの体が活動を停止すれば、その魂は普通の人間と変わらず、輪廻に導かれるだろう。」
「活動した時間を持って、魔道人形は人間に近づく・・・というわけですか。」

身もふたもないようだが、深いことを言う。

「ならば、ヤツカ峠の魔道人形フィオリナは、明らかに人間になり損なったようですね。」
「そういうことだな。」
ボルテックは頷いた。
「あれの剣は、それを感じることのできるものにしか、斬撃とは左右できない。
“切られた”と感じたから、切られるのであって、最初から、霊を見ることのできぬものには、かえって何の痛痒も与えられなかっただろう。」
「地元の住民が、野菜を担いで、峠越えしても何も起こらずに、十分に武装した商人や冒険者パーティだけが、襲われたのはそういうことですね。」

ぼくは、チラチラと隣のフィオリナを見た。
普通なら、ぼくらの会話にわって入るのだが、明らかにわざと関心のないフリをしていた。

「・・・なら、もう一体のフィオリナ人形はいかがでしょう。」
「ああ?」

ボルテックの眉がピクリと動いた。

「アシッド・クロムウェルが、かっぱらった方か?」
「まあ・・・」
ぼくは言葉を濁した。
「カザリームの市長のご子息を最初から、犯人扱いもどうかとは思いますが。」

「言葉を飾っても仕方あるまい。犯人は、アシッド・クロムウェルだ!」
ボルテックは断言した。
「さっきカザリームに連絡をとった所だ。間違いない。」

「・・・老師が、リウと個人的な連絡が取れる回路をお持ちとは知りませんでした。」
ちょっと意外に思ったぼくは、そう言ったが、即座に否定された。

「そんなわけがあるか!
ドロシーに決まってるだろう?」
「別れた、と聞いておりますけど?」
「まあ、それでも互いに情は残っている! 互いに嫌で別れたわけでもなく、俺は拳士として技量を磨きたかったし、やつはやつで、リウのカザリーム行きに付き合わされたりで、一緒にいられなくなっただけのことだ!」

若い女に未練たらたらの大魔導師を、ぼくは、無表情で眺めた。

「で? リウたちは、カザリームでどうしてるんです? もうアシット・クロムウェルに接触して、要望もしていないフィオリナ人形の安否を確認できたのですか?」
「ドロシーにもたせた通信球は、短時間しか話せんし、たいした情報も送れん。」

「でもまだ、動いているのね?
ならば、潰しておかないと、このさきどんな、災いのタネになるかっ!
よし、ルト。わたしこれからカザリームに行くわ!
わたし、ひとりでもわたしの偽物が活動してる以上なんとかしないと!」

「このあまりにも露骨な浮気願望をどうしたものかと思ってるんですが。」
ぼくは、瞳のなかに「リウ愛してる」と文字の浮かんだフィオリナを、あやしながら言った。
「少なくとも、ぼくを殺す気はないようだし、呆れたことに仲間はずれにもする気はないようです。」

「そ、そんな!
久しぶりだから会って話をするだけっ!
その間、ルトもドロシーを好きにしていいから。」
「おまえらしばらく、揃って入院しとけ。」
ボルテックが拳を握りしめて立ち上がった。
「え!?
だってわかれたんでしょ? ドロシーとは!」
「だから、互いに嫌で別れたわけでもなく、俺は拳士として技量を磨きたかったし、やつはやつで、リウのカザリーム行きに付き合わされたりで、一時袂をわかっただけだっ!」
「それは、さっき聞いた!」
「なら、2度言わすなっ!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん
ファンタジー
地上の支配権をかけた神々の戦争が終りを告げ、「秩序」という信仰の元『世界』は始まった。 戦に負け、その座を追われた神は黒猫に転生し、唯一の従者と『世界』を巡る旅に出る。 膨大な魔力を持つかつての神「黒猫タロ」と、その神より絶大な力を授かった「従者アリス」。 だが、アリスはタロの魔力なしでは力を行使できず、タロもまた魔力しか持たず力は発揮できない。 そんな一人と一匹の冒険は多くの人との出会いや別れを繰り返し、やがて『世界』と『神』を巻き込んだ物語へと繋がっていく。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...