暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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人形始末

エピリーグ1

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「報酬は何をもらった?」
と尋ねたボルテックの顔は、下品だ。
以前だったら、「年甲斐もなく、人の懐事情に首を突っ込むな。」と言ってやれたのだが、今のボルテックは、20代。
「悪い」顔をしてもなんとなく、魅力的に移る得な容貌だ。

ぼくは、“収納”から革の大袋を取り出した。

「金貨か?」
ぼくは首を横にふる。
「まさか! 白金貨か。」

冗談ではないないわ。
ぼくは、袋から硬貨を一掴みして、じじいに突きつけた。
「銀貨・・・・だな。」

「そういうこと。
銀級冒険者を二日拘束して、隊商の護衛。相場でしょ?」
「それにしてもその量は・・・・・」

ボルテックは呆れたように銀貨の大袋を見ている。
“収納”なしでは、ちょっと持って帰るのに躊躇する量だった。

「今回は、冒険者ギルド『黒鴉』で受けた。あそこは、どういうわけか、ぼくが異常に小銭が好きだと信じ込んでいる。」
「『小銭殿下』だもんね、二つ名が。」
「そんな、二つ名は、ない。」

ぼくは、フィオリナに揶揄されるのがこの所、なんだカンに触るようになっている。
以前は、そんなことはなかった・・・というより、フィオリナがぼくを揶揄することなどまずなかったのだが。
やはりあれこれと「比較」の対象になる男がいて、それが魔王サマだというのは、重要なポイントなのだろう。

「一方で、これを金貨に変えるよりも、このまま銀貨で持ち帰って、ミトラでダル紙幣に変えた方が、換金率はいいので、そうするつもり。」
「で?」
ボルテックは、ぐいと身を乗り出した。
「ウィルニアからは、何をもらった。」

「何も。逆に人形の残骸を所望されたので、丁寧に消滅させたことをお伝えすると甚だ気分を害されていた。」

ぼくとボルテックは、互いに悪い笑みを交わした。
ご老人とぼくは、全く気が会わない訳では、決してないのだ。

「このことを最初から、分かっていたのですね、ボルテック老師。」

場所は、午後の日が差し込む、魔道院寮の応接だ。
部屋、ではない。広い廊下にソファとテーブルを並べただけのものだが、流石に寮の部屋は、人を接待するには狭すぎた。

「メンテナンスをしなければ、魔道人形は、数ヶ月で機能を停止する。」
ボルテックは、肩をすくめた。
「おまえも分かっていただろうに。」

「その常識を覆して、メンテナンスフリーで、何十年も活動を続ける魔道人形って、“人形作り”にとっては憧れでしょう?」
「それでは、もはや、生き物と変わらない。」
「そこです!」
「どこだ?」

ぼくは、身を乗り出した。
その分、気圧されたように、ボルテックが身をひく。

「魔道人形と、人間を分けるものはなんです? 成長の問題は一つ、起きましょう。
例えば、今、老師がおっしゃったメンテナンスのないことによる劣化は、単純に人間の老化に置き換えることができる。」
「基本的に、人工生命と自然発生の命を区別するものは、ない。」

そう断言した若い拳士の顔に、遥かに年配の魔導師の顔が重なった。

「差があるとすれば、それは生き続けた年月だろう。
例を挙げるながら、冒険者“緋”のドルバーザがつれている魔道人形のテムだ。
軽口を叩くし、主を平然と馬かにする。
ことあるごとに、自分の魔道人形の優秀さを公言するが、やつは明らかに知性を備えた生き物だ。もしあの体が活動を停止すれば、その魂は普通の人間と変わらず、輪廻に導かれるだろう。」
「活動した時間を持って、魔道人形は人間に近づく・・・というわけですか。」

身もふたもないようだが、深いことを言う。

「ならば、ヤツカ峠の魔道人形フィオリナは、明らかに人間になり損なったようですね。」
「そういうことだな。」
ボルテックは頷いた。
「あれの剣は、それを感じることのできるものにしか、斬撃とは左右できない。
“切られた”と感じたから、切られるのであって、最初から、霊を見ることのできぬものには、かえって何の痛痒も与えられなかっただろう。」
「地元の住民が、野菜を担いで、峠越えしても何も起こらずに、十分に武装した商人や冒険者パーティだけが、襲われたのはそういうことですね。」

ぼくは、チラチラと隣のフィオリナを見た。
普通なら、ぼくらの会話にわって入るのだが、明らかにわざと関心のないフリをしていた。

「・・・なら、もう一体のフィオリナ人形はいかがでしょう。」
「ああ?」

ボルテックの眉がピクリと動いた。

「アシッド・クロムウェルが、かっぱらった方か?」
「まあ・・・」
ぼくは言葉を濁した。
「カザリームの市長のご子息を最初から、犯人扱いもどうかとは思いますが。」

「言葉を飾っても仕方あるまい。犯人は、アシッド・クロムウェルだ!」
ボルテックは断言した。
「さっきカザリームに連絡をとった所だ。間違いない。」

「・・・老師が、リウと個人的な連絡が取れる回路をお持ちとは知りませんでした。」
ちょっと意外に思ったぼくは、そう言ったが、即座に否定された。

「そんなわけがあるか!
ドロシーに決まってるだろう?」
「別れた、と聞いておりますけど?」
「まあ、それでも互いに情は残っている! 互いに嫌で別れたわけでもなく、俺は拳士として技量を磨きたかったし、やつはやつで、リウのカザリーム行きに付き合わされたりで、一緒にいられなくなっただけのことだ!」

若い女に未練たらたらの大魔導師を、ぼくは、無表情で眺めた。

「で? リウたちは、カザリームでどうしてるんです? もうアシット・クロムウェルに接触して、要望もしていないフィオリナ人形の安否を確認できたのですか?」
「ドロシーにもたせた通信球は、短時間しか話せんし、たいした情報も送れん。」

「でもまだ、動いているのね?
ならば、潰しておかないと、このさきどんな、災いのタネになるかっ!
よし、ルト。わたしこれからカザリームに行くわ!
わたし、ひとりでもわたしの偽物が活動してる以上なんとかしないと!」

「このあまりにも露骨な浮気願望をどうしたものかと思ってるんですが。」
ぼくは、瞳のなかに「リウ愛してる」と文字の浮かんだフィオリナを、あやしながら言った。
「少なくとも、ぼくを殺す気はないようだし、呆れたことに仲間はずれにもする気はないようです。」

「そ、そんな!
久しぶりだから会って話をするだけっ!
その間、ルトもドロシーを好きにしていいから。」
「おまえらしばらく、揃って入院しとけ。」
ボルテックが拳を握りしめて立ち上がった。
「え!?
だってわかれたんでしょ? ドロシーとは!」
「だから、互いに嫌で別れたわけでもなく、俺は拳士として技量を磨きたかったし、やつはやつで、リウのカザリーム行きに付き合わされたりで、一時袂をわかっただけだっ!」
「それは、さっき聞いた!」
「なら、2度言わすなっ!」

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