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人形始末
亡霊始末
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「なんで、実体のないこいつの剣が、触れるものを両断できる。」
忌々しそうに、フィオリナが叫んだ。木々の間を猿の如く、移動しながら、剣を振り回しているが、好きなところに現れて、攻撃してくる亡霊には、相手が悪そうだ。
「斬ってるんだじゃないんだ。『自分は斬られた』という事象を押し付けているだけだ。」
ぼくが言い返した。ぼくのニーサガーダ・・・蛇の神獣の魔剣も、フィオリナと同様だ。
相手の斬撃を弾きこそすれ、相手に対する攻撃は、全く手応えがない。
「そんなワガママな攻撃があるかっ!」
「きみだって、よくやってただろう?」
そう言うと、フィオリナは黙ってしまった。
心あたりがあるのだろう。よろしい。そういうことだ。
ぼくたちの動きに、マヌカさんはやっぱりちょっと遅れる感じだ。
実際に戦うところを見るのは、初めてだったが、どうも使役獣を前面に立てて、自分はその後ろから援護・支援を行うスタイルのようだ。
そして、強力な使役獣は、ほとんどを失い、大幅に弱体化している。
とはいえ、真っ暗闇の中を足元もぐらつかずに、「浄化の矢」を槍状に伸ばして、保持したまま、片手に携えているのは並大抵の魔力ではない。
フィオリナと、何度目かの視線を合わせる。
まだ、なの?
と、その目が訴えかけていた。
まだ、だ。
ぼくは、頷き返した。
霊などいくら斬ってもしかたない。ダメージを与えてもとから断つには。
霊の出現する角度。その強度。切り込む剣。それらを総合しながら、ぼくらは山中に分けいる。
周りの木々は、葉っぱが針のように尖っている。ぼくらの視力でも、葉も木の枝も、宵闇にさらに色濃く浮かぶシルエットにしか見えない。
マヌカさんが、ときどき光の玉を照明替りに打ち上げるんだけど、あれやめてくれなきかな。
「いた!」
ぼくは、叫んだ。
指さしたぼくを、7歳くらいのフィオリナが襲った。フィオリナが、その剣とぼくのあいだに、体をねじ込み、かわりに切られた。
傷は浅くは無い。
なにしろ、フィオリナが放った斬撃なのだ。
バランスを失って、落下する彼女をぼくは、抱きとめて一緒に落下した。
丁度、木の根が張り出した上だった。
腰を売って呻くぼくに、フィオリナの回復魔法が。肩口から胸元にかけて、血潮を吹き出すフィオリナの傷口に、ぼくの魔法が明滅する。
「ヴァルゴールの名において、滅せよ、悪しきもの!」
マヌカさんが叫んで、槍を投じた。
よりにもよって、ヴァルゴールかよっ!
フィオリナ(亡霊) が姿を消したが、槍は向きをかえ、ふたたび姿を現した十代初めのフィオリナの胸に、深深と突き刺さった。
悲鳴は聞こえない。
それが、霊だったからなのか、フィオリナだったせいなのか。
分からなかった。
霊は、光の槍とともに消滅した。
あとに、夜の風が残った。
「さあ!」
意気揚々とマヌカさんは、叫んだ。
「人形を回収しましょう。」
大きな木が、枝を八方に張り出している。
その下に、朽ちかけた小さな家があった。
もとは、峠を通る人々に、軽食のひとつも出していたのだろうか。
もう、読めなくなった看板は傾いて、ぎしぎしと、なっていた。
「ここって、来たことがなかったかな。」
辛うじて出血が止まった傷を抑えて、フィオリナは言った。
「そうだよ、ここ。ハルトと初め冒険に出たときに、腹ごしらえって寄った店だよ!」
懐かしい。
そうなのだろうな。
だから、フィオリナを模した魔道人形は、なにかの拍子に(おそらくはアシット・クロムウェルがフィオリナ人形を落ちだした際に)起動し。
ここにたどり着いた。
そう。ぼくとフィオリナにとっては始めてくるところではなかった。
「練乳をかけた団子をよく食べていた。」
「久しぶりに食べたくなった。」
マヌカさんが、光を灯した。
狭い店内は荒れていた。だが、調理器具や、調度品の一部は、きちんと取り外されてあった。
店を畳むにしても、夜逃げなどでは無い。納得ずくでの閉店だっつのだろう。
ぼくは、どこかほっとした。
目当てのものは、すぐに見つかった。
「こう」なってから、もう何年もたつのだろうか。
座った姿勢から、ずり落ちるように横倒しになった人形。
活動を停止しているのは、明らかだった。
人間らしい肉付けの部分。皮膚や肉はなくなり、骨格がほぼ、むき出しになっている。
「直せそうかな?」
マヌカが覗き込んだ。
ぼくはゆっくり。首を振った。
「『亡霊』だって、言っただろう?
これはもう死んでいる。」
ボルテックのじじいの腰が重いわけだ。
元凶はとっくに死んでいたわけだからな。
忌々しそうに、フィオリナが叫んだ。木々の間を猿の如く、移動しながら、剣を振り回しているが、好きなところに現れて、攻撃してくる亡霊には、相手が悪そうだ。
「斬ってるんだじゃないんだ。『自分は斬られた』という事象を押し付けているだけだ。」
ぼくが言い返した。ぼくのニーサガーダ・・・蛇の神獣の魔剣も、フィオリナと同様だ。
相手の斬撃を弾きこそすれ、相手に対する攻撃は、全く手応えがない。
「そんなワガママな攻撃があるかっ!」
「きみだって、よくやってただろう?」
そう言うと、フィオリナは黙ってしまった。
心あたりがあるのだろう。よろしい。そういうことだ。
ぼくたちの動きに、マヌカさんはやっぱりちょっと遅れる感じだ。
実際に戦うところを見るのは、初めてだったが、どうも使役獣を前面に立てて、自分はその後ろから援護・支援を行うスタイルのようだ。
そして、強力な使役獣は、ほとんどを失い、大幅に弱体化している。
とはいえ、真っ暗闇の中を足元もぐらつかずに、「浄化の矢」を槍状に伸ばして、保持したまま、片手に携えているのは並大抵の魔力ではない。
フィオリナと、何度目かの視線を合わせる。
まだ、なの?
と、その目が訴えかけていた。
まだ、だ。
ぼくは、頷き返した。
霊などいくら斬ってもしかたない。ダメージを与えてもとから断つには。
霊の出現する角度。その強度。切り込む剣。それらを総合しながら、ぼくらは山中に分けいる。
周りの木々は、葉っぱが針のように尖っている。ぼくらの視力でも、葉も木の枝も、宵闇にさらに色濃く浮かぶシルエットにしか見えない。
マヌカさんが、ときどき光の玉を照明替りに打ち上げるんだけど、あれやめてくれなきかな。
「いた!」
ぼくは、叫んだ。
指さしたぼくを、7歳くらいのフィオリナが襲った。フィオリナが、その剣とぼくのあいだに、体をねじ込み、かわりに切られた。
傷は浅くは無い。
なにしろ、フィオリナが放った斬撃なのだ。
バランスを失って、落下する彼女をぼくは、抱きとめて一緒に落下した。
丁度、木の根が張り出した上だった。
腰を売って呻くぼくに、フィオリナの回復魔法が。肩口から胸元にかけて、血潮を吹き出すフィオリナの傷口に、ぼくの魔法が明滅する。
「ヴァルゴールの名において、滅せよ、悪しきもの!」
マヌカさんが叫んで、槍を投じた。
よりにもよって、ヴァルゴールかよっ!
フィオリナ(亡霊) が姿を消したが、槍は向きをかえ、ふたたび姿を現した十代初めのフィオリナの胸に、深深と突き刺さった。
悲鳴は聞こえない。
それが、霊だったからなのか、フィオリナだったせいなのか。
分からなかった。
霊は、光の槍とともに消滅した。
あとに、夜の風が残った。
「さあ!」
意気揚々とマヌカさんは、叫んだ。
「人形を回収しましょう。」
大きな木が、枝を八方に張り出している。
その下に、朽ちかけた小さな家があった。
もとは、峠を通る人々に、軽食のひとつも出していたのだろうか。
もう、読めなくなった看板は傾いて、ぎしぎしと、なっていた。
「ここって、来たことがなかったかな。」
辛うじて出血が止まった傷を抑えて、フィオリナは言った。
「そうだよ、ここ。ハルトと初め冒険に出たときに、腹ごしらえって寄った店だよ!」
懐かしい。
そうなのだろうな。
だから、フィオリナを模した魔道人形は、なにかの拍子に(おそらくはアシット・クロムウェルがフィオリナ人形を落ちだした際に)起動し。
ここにたどり着いた。
そう。ぼくとフィオリナにとっては始めてくるところではなかった。
「練乳をかけた団子をよく食べていた。」
「久しぶりに食べたくなった。」
マヌカさんが、光を灯した。
狭い店内は荒れていた。だが、調理器具や、調度品の一部は、きちんと取り外されてあった。
店を畳むにしても、夜逃げなどでは無い。納得ずくでの閉店だっつのだろう。
ぼくは、どこかほっとした。
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活動を停止しているのは、明らかだった。
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「直せそうかな?」
マヌカが覗き込んだ。
ぼくはゆっくり。首を振った。
「『亡霊』だって、言っただろう?
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