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人形始末
夜襲
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焚き火が燃えている。
商会の用心棒が三人。それに、「ヤツカ峠の賊」に備えた追加の冒険者が、ぼくと、フィオリナ、そしてこの前まで不倶戴天の怨敵であった「燭乱天使」の“聖者”マヌカさん。
荷運びの驢馬が五頭に、荷物を活いだ商会のものが、8名いる。
合計14名の大所帯だった。
本当ならば、到着が遅れる旨は、誰か脚に自信のあるものを先に、走らせるべきだったのだろうが、何しろ超常現象のような戦闘を見たばかりなので、用心棒に至るまで、すっかりびびってしまって、単独行動を嫌がったのだ。
焚き火は、五つ炊かれている。
今日中に目的地まで着く予定だったとはいえ、まったく食料を持参しなかった脳天気は、誰もおらず、てんでにパンや干し肉を炙ったりして、夕食を済ませた。
マヌカさんは、印を組むと、障壁を展開した。隊商の全員を包む大きなものだった。
「なるほど。相手の正体が分かったと言っていたのは、強がりじゃなかったわけだ。」
そう、ぼくが言うと、マヌカさんはふんっと鼻で笑った。
ぼくら、半ば、人外の助っ人三人組は、三人で焚き火を囲んでいる。
流石に“収納”に不自由するものはなく、ルトとフィオリナは、乾燥肉やキノコ、豆類を砕き、練って、伸ばして棒串に巻きつけたものを、炙って食べている。
マヌカさんが物欲しそうにしていたので、一本くれてやると、お返しに、ナッツを塗したクッキーのようなものをくれた。
「相手が、なんだって?」
と、ぶった斬りさえすれば、満足のぼくの婚約者は、無邪気に尋ねてきた。
「いや、亡霊になったフィオリナは、面倒くさいってことさ。」
「ルトとマヌカは、あれをそういうものだと思ってるわけ?」
フィオリナは、考え込んだ。フィオリナは頭もいいのだ。反射神経と闘争本能とそのたの欲望が知性を上まわることがしばしばあるだけで。
「だとすれば、夜道になってでも、無理矢理ヤツカ峠を越えた方がよかったわよね?
日が暮れれば、死霊の類はその力を増すわ。」
と言ってから、自分の言葉の矛盾に気がついたらしい。
「いや、わたしの亡霊ってなに?」
「正確には・・・・」
ぼくが言いかけたとき、マヌカさんが口を挟んだ。
「話は後だ。来たぞ。」
なぜ、殺戮と略奪、裏切りの限りを尽くす「燭乱天使」のマヌカさんが“聖者”の二つ名で呼ばれるのかはわからない。
ただ、障壁に使った神聖魔法は、素晴らしいものだった。そういえば、クリュークも複数の神と契約して、その力の一端を行使していた。
どんな行いをしていたって、契約を結べる神様は、必ずいる。
これをことわざで「捨てる神あれば拾う神あり」という。
異世界人のアキルに、聞いたら彼女の世界でも同じような言い回しの、ちょっと意味の違う言葉はあるそうだ。
その・・・“聖者”マヌカの結界が、一瞬で切り裂かれた。
フィオリナが、半ば反射的に剣を振るった。
その動作の生み出した衝撃が、マヌカさんの結界を切り裂いた「亡霊」の剣筋を、弾き飛ばしていた。
「実態のない亡霊の類が、なぜこれほどの一撃を放てる?」
フィオリナは、半ば腰を浮かしていた。振り抜いた剣は、今のところ「真名」は明かされていない。「魔王」であり彼女の想い人であるバズス=リウから、プレゼントされた魔剣だった。
風の属性によく合うその件は、フィオリナの戦闘スタイルにも馴染みが良い。
「しれたこと!」
不公平だと思うのだが、次の一撃はぼくを狙ったものだった。
白い顔、。白い髪、年のころは十歳くらいのフィオリナが、怒りに顔を歪めたまま、剣を振り抜いていくる。
避けるつもりだったが、勝手に鞘から魔剣が勝手に飛び出して、これを受け止めた。
太古の蛇の神獣が、剣化したものである。
こいつもリウの持ち物だったのだが、リウとフィオリナがあまりにもおバカなことをしてので、見限って、ぼくについてくれたのだ。
「捨てる神あらば、拾う神あり。」という言葉は、アキルのいた世界ではこういうときに使うらしい。
ありがとうニーサガーダ、と剣に声をかけると、剣身がにやりと笑った。
「敵だ! 攻撃はこっちに引きつける。おまえたちはそこを動くな!」
と、マヌカさんが叫んだ。
この指示は正しい。
この亡霊は・・・・動くもの。
力を持つものに反応する。ならば、「動かない」というのは、その標的にならないための、最高の選択肢の一つだ。
むろん、愛するフィオリナには、存在しない選択肢であったが。
相手は一体。
それは間違いない。
だが、姿を消しては現れ、それを繰り返す。
ときには、それは幼児の姿であり、十代の少女の姿であり、不敵な笑みをたたえたアウデリアさんを思わせる、もっと年上の女性のこともあった。
攻撃対象は、フィオリナと、ぼく。
持つ力はともかく、ぼくは攻撃していないのに!
マヌカさんは、「浄化の矢」と呼ばれる悪霊、アンデッドどもに特化した光の矢を連射するが、あまりにもランダムに、消失、出現を繰り返す亡霊には、当てることができない。
フィオリナの剣は、魔王由来の魔剣だけあって、霊の持つ剣をうけとまはするのだが、本体への攻撃は、刃が素通りする。
商会の用心棒が三人。それに、「ヤツカ峠の賊」に備えた追加の冒険者が、ぼくと、フィオリナ、そしてこの前まで不倶戴天の怨敵であった「燭乱天使」の“聖者”マヌカさん。
荷運びの驢馬が五頭に、荷物を活いだ商会のものが、8名いる。
合計14名の大所帯だった。
本当ならば、到着が遅れる旨は、誰か脚に自信のあるものを先に、走らせるべきだったのだろうが、何しろ超常現象のような戦闘を見たばかりなので、用心棒に至るまで、すっかりびびってしまって、単独行動を嫌がったのだ。
焚き火は、五つ炊かれている。
今日中に目的地まで着く予定だったとはいえ、まったく食料を持参しなかった脳天気は、誰もおらず、てんでにパンや干し肉を炙ったりして、夕食を済ませた。
マヌカさんは、印を組むと、障壁を展開した。隊商の全員を包む大きなものだった。
「なるほど。相手の正体が分かったと言っていたのは、強がりじゃなかったわけだ。」
そう、ぼくが言うと、マヌカさんはふんっと鼻で笑った。
ぼくら、半ば、人外の助っ人三人組は、三人で焚き火を囲んでいる。
流石に“収納”に不自由するものはなく、ルトとフィオリナは、乾燥肉やキノコ、豆類を砕き、練って、伸ばして棒串に巻きつけたものを、炙って食べている。
マヌカさんが物欲しそうにしていたので、一本くれてやると、お返しに、ナッツを塗したクッキーのようなものをくれた。
「相手が、なんだって?」
と、ぶった斬りさえすれば、満足のぼくの婚約者は、無邪気に尋ねてきた。
「いや、亡霊になったフィオリナは、面倒くさいってことさ。」
「ルトとマヌカは、あれをそういうものだと思ってるわけ?」
フィオリナは、考え込んだ。フィオリナは頭もいいのだ。反射神経と闘争本能とそのたの欲望が知性を上まわることがしばしばあるだけで。
「だとすれば、夜道になってでも、無理矢理ヤツカ峠を越えた方がよかったわよね?
日が暮れれば、死霊の類はその力を増すわ。」
と言ってから、自分の言葉の矛盾に気がついたらしい。
「いや、わたしの亡霊ってなに?」
「正確には・・・・」
ぼくが言いかけたとき、マヌカさんが口を挟んだ。
「話は後だ。来たぞ。」
なぜ、殺戮と略奪、裏切りの限りを尽くす「燭乱天使」のマヌカさんが“聖者”の二つ名で呼ばれるのかはわからない。
ただ、障壁に使った神聖魔法は、素晴らしいものだった。そういえば、クリュークも複数の神と契約して、その力の一端を行使していた。
どんな行いをしていたって、契約を結べる神様は、必ずいる。
これをことわざで「捨てる神あれば拾う神あり」という。
異世界人のアキルに、聞いたら彼女の世界でも同じような言い回しの、ちょっと意味の違う言葉はあるそうだ。
その・・・“聖者”マヌカの結界が、一瞬で切り裂かれた。
フィオリナが、半ば反射的に剣を振るった。
その動作の生み出した衝撃が、マヌカさんの結界を切り裂いた「亡霊」の剣筋を、弾き飛ばしていた。
「実態のない亡霊の類が、なぜこれほどの一撃を放てる?」
フィオリナは、半ば腰を浮かしていた。振り抜いた剣は、今のところ「真名」は明かされていない。「魔王」であり彼女の想い人であるバズス=リウから、プレゼントされた魔剣だった。
風の属性によく合うその件は、フィオリナの戦闘スタイルにも馴染みが良い。
「しれたこと!」
不公平だと思うのだが、次の一撃はぼくを狙ったものだった。
白い顔、。白い髪、年のころは十歳くらいのフィオリナが、怒りに顔を歪めたまま、剣を振り抜いていくる。
避けるつもりだったが、勝手に鞘から魔剣が勝手に飛び出して、これを受け止めた。
太古の蛇の神獣が、剣化したものである。
こいつもリウの持ち物だったのだが、リウとフィオリナがあまりにもおバカなことをしてので、見限って、ぼくについてくれたのだ。
「捨てる神あらば、拾う神あり。」という言葉は、アキルのいた世界ではこういうときに使うらしい。
ありがとうニーサガーダ、と剣に声をかけると、剣身がにやりと笑った。
「敵だ! 攻撃はこっちに引きつける。おまえたちはそこを動くな!」
と、マヌカさんが叫んだ。
この指示は正しい。
この亡霊は・・・・動くもの。
力を持つものに反応する。ならば、「動かない」というのは、その標的にならないための、最高の選択肢の一つだ。
むろん、愛するフィオリナには、存在しない選択肢であったが。
相手は一体。
それは間違いない。
だが、姿を消しては現れ、それを繰り返す。
ときには、それは幼児の姿であり、十代の少女の姿であり、不敵な笑みをたたえたアウデリアさんを思わせる、もっと年上の女性のこともあった。
攻撃対象は、フィオリナと、ぼく。
持つ力はともかく、ぼくは攻撃していないのに!
マヌカさんは、「浄化の矢」と呼ばれる悪霊、アンデッドどもに特化した光の矢を連射するが、あまりにもランダムに、消失、出現を繰り返す亡霊には、当てることができない。
フィオリナの剣は、魔王由来の魔剣だけあって、霊の持つ剣をうけとまはするのだが、本体への攻撃は、刃が素通りする。
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