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人形始末
駆け出し冒険者(自称)ルトの冒険
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「絶魔法士」グルジエンは、疲れていた。
ここは、彼女の異界。彼女がもといた世界を模した閉鎖空間である。
ここを、彼女の主とその連れ合いは、毎日のように借りに来る。その理由と言うのが。
目の前に、2体。人型の残骸が転がっていた。同じような背格好だが、片方は乳房からなんとか女性だとわかる。
その程度に損壊している。
皮膚も頬肉も失った下顎が、動いた。
「さ、さいこー」
もうひとつのバラバラになりかけ半死体が、治癒術式を紡いだ。
ボワボワと点滅する光が、ふたりを包んでいく。
半裸の少女が、体を起こした。
着ているものは、もはや「着ている」という言葉も適切でないほどの、ボロぬのの集合体に化けている。
体が動くかどうか、確かめるために手を回したり、体をひねったりしているうちに、ボロぬのはどんどん剥がれ落ちて、立ち上がった時に、ついに、下半身のボロきれも落ちて、彼女は全裸になっていた。
まだ、白い治癒魔法の明滅は、細い体のあちらこちらで作業をしているものの、ほぼ、無傷の状態で、フィオリナは、グルジエンに笑いかけた。
「いつもすまないねえ。」
「わたしが、イメージした擬似世界だから構わないのだが。」
グルジエンは、仏頂面で言った。もちろん、その表情ほど不快に思っているわけではない。
ないが、呆れ果てていた。
もともと、グルジエンのいた世界には、「性」と呼ばれるものは、27種類あり、生殖活動は、そのうちの8種類が集まって行う行動とされていた。
それ自体、かなりユニークなものらしい。
そのグルジエンが
「あなたたちの行動がよくわからない。」
そんなふうにぼやくのも何度めか。
「あなたたちは愛し合っているのだろう? 愛し合うものの行動はこんな地形を変えるような戦闘行為ではないはずだ。」
「こういう愛の行為だったある!」
フィオリナは力説した。
同じ頃、カザリームというはるかに離れた都市の高校の工作室で、自分を模した魔道人形が、同じようなことを言って、リウとドロシーを呆れさせていたことまでは、彼女は知らない。
「もう少し平和な愛し方というのはあるはずだ。」
少年は、ぼやきながら体を起こした。こちらはまだ衣服は衣服っぽい残骸として体に残っている。
華奢な体躯を、フィオリナが抱きしめた。
「他人は他人。わたしとルトはわたしとルト。」
「フィオリナが、リウと、よく分かり易い愛の行為をしていなければ、なんとか納得できるんだけど。なんだか誤魔化されてるような気がする。」
「そうかな。わたしは、これでルトを愛してるって心から実感できるのだけれど。」
もし、仮に本気で、フィオリナが愛の行為として、この少年とのバトルを行なっているのであれば。
と、グルジエンは考えた。
とんでもないスキモノだぞ、これは。
大体、今日だけでもう2回目だからな。
「ルト。」
少年とも少女ともつかぬ可愛らしい生き物が、ひょいと顔を出した。
これもグルジエンとしては、気に入らない。彼女が作った擬似世界にどんな転移の達人か知らないが、勝手に首を突っ込むな。
ギムリウスは、二人に手を振った。
「ウィルニアが来ていけど、会いますか?」
「あいつが? どうせろくな用じゃないだろう。」
基本、相手には丁寧なルトだが、数少ない例外が、古の大賢者 ウィルニアである。
彼らの目の前に、氷でできた荘厳な門が現れた。
グルジエンはまたいじける。勝手に彼女の世界に転移してくるやつが、一人ならず二人も。
門が開いて、トーガの若者が顔を出した。
門自体は、永久に溶けないだろう氷に複雑な彫刻を刻んだ壮麗なものだが、本人の言動は至って軽い。
「やあ、ルト。残念姫。」
「なんのよう? 賢者くん?」
「残念姫っていうな。」
「あのな。」
彼は誰かの陰口でも叩くように、声を顰めた。
「ここだけの話なんだが、ボルテックをどう思う?」
「どう、とは?」
「無責任でいい加減なやつだと、思わないか?」
「とんでもなく歳の離れた女の子に手を出すしね。」
「それは、誘いにのる方も問題があるのでは。」
ルトは、ウィルニアに、対して一応頷いた。
「おまえが言うのは、筋違いだが、確かにその通りだ。常識も通じないし。」
グルジエンは、心の中で嘆息した。
結局、相手を非常識だと思っているのはお互い様なのだ。ルトとフィオリナにしても、その点は一緒なのに。
「ボルテック老師が、なにかやらかしたのか?」
「ここ何年か、あいつが人間を丸ごとコピーした魔道人形作りに打ち込んでいたのを知っているか?」
「それは知ってる。」
フィオリナが言った。
「『魔道騎士団』とかいうパーティを、魔王宮攻略のときに連れていた。
アモンが全滅させてしまったが。わたしやルトをモデルにした人形もいた。」
「知っているなら話が早い。やつの人形は自己学習が出来てな。ほっておけば、学習して勝手に強くなる。」
「ろくなもんを作らないな、妖怪じじいは!」
「さすがに、危ないので、きちんと番号をつけて、管理していた、と本人は言っていた。」
「それはそうしてもらわないと、困る。」
「フィオリナ人形が二体、行方不明だ。」
「なんだと?」
ルトは、立ち上がった。
「へえ?」
フィオリナは、自分の収納から、マントを取り出して体を隠した。
「会ってみたいわね、そのお人形さんたち。」
「で、妖怪じじいは、なんと。」
西域に武者修行にでたジウル・ボルテックだが、結局はグランダに舞い戻った。
いまは、サークルの顧問などやりながら、 「絶拳士」シホウから拳法を習っているらしい。
「一体はようやく思い出してくれた。盗まれたらしい。もう5~6年は前のことになるようだ。犯人はおそらく、当時カザリームから留学にきていた市長の息子だ。」
「ああ、いたね、そんなやつ。わたしを口説こうとして失敗して逃げ帰ったやつ。」
フィオリナは、冷たく笑った。
「10歳の小娘を口説くなんてね。」
「もう一体は、皆目検討が付かないらしい。とはいっても、無くなった時期は同じ頃だ。あるいは、その留学生が二体ともに連れ出したか、だ。」
「その、可能性が高そうね。」
フィオリナが嬉々として言った。
「これは、カザリームに行かないとっ!
ああ、めんどくさいなぁ、行きたくないなあ、でもルトをひとりで行かせる訳にはいかないから、ついていくかっ!」
ここは、彼女の異界。彼女がもといた世界を模した閉鎖空間である。
ここを、彼女の主とその連れ合いは、毎日のように借りに来る。その理由と言うのが。
目の前に、2体。人型の残骸が転がっていた。同じような背格好だが、片方は乳房からなんとか女性だとわかる。
その程度に損壊している。
皮膚も頬肉も失った下顎が、動いた。
「さ、さいこー」
もうひとつのバラバラになりかけ半死体が、治癒術式を紡いだ。
ボワボワと点滅する光が、ふたりを包んでいく。
半裸の少女が、体を起こした。
着ているものは、もはや「着ている」という言葉も適切でないほどの、ボロぬのの集合体に化けている。
体が動くかどうか、確かめるために手を回したり、体をひねったりしているうちに、ボロぬのはどんどん剥がれ落ちて、立ち上がった時に、ついに、下半身のボロきれも落ちて、彼女は全裸になっていた。
まだ、白い治癒魔法の明滅は、細い体のあちらこちらで作業をしているものの、ほぼ、無傷の状態で、フィオリナは、グルジエンに笑いかけた。
「いつもすまないねえ。」
「わたしが、イメージした擬似世界だから構わないのだが。」
グルジエンは、仏頂面で言った。もちろん、その表情ほど不快に思っているわけではない。
ないが、呆れ果てていた。
もともと、グルジエンのいた世界には、「性」と呼ばれるものは、27種類あり、生殖活動は、そのうちの8種類が集まって行う行動とされていた。
それ自体、かなりユニークなものらしい。
そのグルジエンが
「あなたたちの行動がよくわからない。」
そんなふうにぼやくのも何度めか。
「あなたたちは愛し合っているのだろう? 愛し合うものの行動はこんな地形を変えるような戦闘行為ではないはずだ。」
「こういう愛の行為だったある!」
フィオリナは力説した。
同じ頃、カザリームというはるかに離れた都市の高校の工作室で、自分を模した魔道人形が、同じようなことを言って、リウとドロシーを呆れさせていたことまでは、彼女は知らない。
「もう少し平和な愛し方というのはあるはずだ。」
少年は、ぼやきながら体を起こした。こちらはまだ衣服は衣服っぽい残骸として体に残っている。
華奢な体躯を、フィオリナが抱きしめた。
「他人は他人。わたしとルトはわたしとルト。」
「フィオリナが、リウと、よく分かり易い愛の行為をしていなければ、なんとか納得できるんだけど。なんだか誤魔化されてるような気がする。」
「そうかな。わたしは、これでルトを愛してるって心から実感できるのだけれど。」
もし、仮に本気で、フィオリナが愛の行為として、この少年とのバトルを行なっているのであれば。
と、グルジエンは考えた。
とんでもないスキモノだぞ、これは。
大体、今日だけでもう2回目だからな。
「ルト。」
少年とも少女ともつかぬ可愛らしい生き物が、ひょいと顔を出した。
これもグルジエンとしては、気に入らない。彼女が作った擬似世界にどんな転移の達人か知らないが、勝手に首を突っ込むな。
ギムリウスは、二人に手を振った。
「ウィルニアが来ていけど、会いますか?」
「あいつが? どうせろくな用じゃないだろう。」
基本、相手には丁寧なルトだが、数少ない例外が、古の大賢者 ウィルニアである。
彼らの目の前に、氷でできた荘厳な門が現れた。
グルジエンはまたいじける。勝手に彼女の世界に転移してくるやつが、一人ならず二人も。
門が開いて、トーガの若者が顔を出した。
門自体は、永久に溶けないだろう氷に複雑な彫刻を刻んだ壮麗なものだが、本人の言動は至って軽い。
「やあ、ルト。残念姫。」
「なんのよう? 賢者くん?」
「残念姫っていうな。」
「あのな。」
彼は誰かの陰口でも叩くように、声を顰めた。
「ここだけの話なんだが、ボルテックをどう思う?」
「どう、とは?」
「無責任でいい加減なやつだと、思わないか?」
「とんでもなく歳の離れた女の子に手を出すしね。」
「それは、誘いにのる方も問題があるのでは。」
ルトは、ウィルニアに、対して一応頷いた。
「おまえが言うのは、筋違いだが、確かにその通りだ。常識も通じないし。」
グルジエンは、心の中で嘆息した。
結局、相手を非常識だと思っているのはお互い様なのだ。ルトとフィオリナにしても、その点は一緒なのに。
「ボルテック老師が、なにかやらかしたのか?」
「ここ何年か、あいつが人間を丸ごとコピーした魔道人形作りに打ち込んでいたのを知っているか?」
「それは知ってる。」
フィオリナが言った。
「『魔道騎士団』とかいうパーティを、魔王宮攻略のときに連れていた。
アモンが全滅させてしまったが。わたしやルトをモデルにした人形もいた。」
「知っているなら話が早い。やつの人形は自己学習が出来てな。ほっておけば、学習して勝手に強くなる。」
「ろくなもんを作らないな、妖怪じじいは!」
「さすがに、危ないので、きちんと番号をつけて、管理していた、と本人は言っていた。」
「それはそうしてもらわないと、困る。」
「フィオリナ人形が二体、行方不明だ。」
「なんだと?」
ルトは、立ち上がった。
「へえ?」
フィオリナは、自分の収納から、マントを取り出して体を隠した。
「会ってみたいわね、そのお人形さんたち。」
「で、妖怪じじいは、なんと。」
西域に武者修行にでたジウル・ボルテックだが、結局はグランダに舞い戻った。
いまは、サークルの顧問などやりながら、 「絶拳士」シホウから拳法を習っているらしい。
「一体はようやく思い出してくれた。盗まれたらしい。もう5~6年は前のことになるようだ。犯人はおそらく、当時カザリームから留学にきていた市長の息子だ。」
「ああ、いたね、そんなやつ。わたしを口説こうとして失敗して逃げ帰ったやつ。」
フィオリナは、冷たく笑った。
「10歳の小娘を口説くなんてね。」
「もう一体は、皆目検討が付かないらしい。とはいっても、無くなった時期は同じ頃だ。あるいは、その留学生が二体ともに連れ出したか、だ。」
「その、可能性が高そうね。」
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