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第五章 銀雷の夢
第66話 一夜が明けて
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「どうだった?」
朝食の席に、顔をそろえたときに、ロウは、そう言ってぼくをからかった。
さすがに、吸血鬼のご真祖さまだ。
デリカシーの欠けらも無い。
ぼくの表情をみて、ロウはさらに笑った。
「失敗したんだな! 少年。」
「いま、ぼくはルーデウス閣下に血を吸われてるんだ。なんかしたらルーデウス閣下に筒抜けだ。」
「拒んだのか!!
どうやって、拒否したんだ?」
ロウは、意地悪く、ぼくの脇腹をつつく。
アデルがそれを凶悪な視線で、睨んだいた。
うーん。せっかくの朝ごはんなのに、食欲が失せていく。
「くすぐられたんだ。」
憮然として、アデルが言った。
「一時間くらいやられたかな。さすがにその気も失せた。」
「罪作りだぞ、ルウエン。それともお相手は、きれいなお姉さんがいいか?」
「きれいな、おねえさん?
どこに?」
ほれほれ、とロウは自分を指さした。
「朝食はお粥と干物か。」
「む、むしっ!!」
「おかわり!!」
ラウレスの元気のいい声が響く。
目の前には、空のどんぶりが積み重なっていた。
「あと、ステーキが食べたい。」
「朝からか。何グラム焼く?」
「一頭!」
「そんなステーキはない。」
ルーデウス閣下と、ロウランは、ワインを飲みながら、カナッペをつまんでいた。
もともと、食事の必要ない二人だったが、久しぶり食べ物を「味わえる」ようになったルーデウス閣下に、ロウランがつきあっているようだった。
近くのテーブルで、食事をすませたヘンリエッタもこちらに合流した。
「リウが」
と、ぼくが話し出すと、みんな一瞬、ギョッとなる。
いい加減になれろ。
あいつは、「黒の御方」とかいう妙な悪役でも、はっきり言えば、魔王でもない。リウだ。
「リウが、その危ない魔道人形を持ち出した以上、やつらよりも早く、ドロシーと接触したいのです。
最後の手がかりは、ミルラクという村だ。場所はわかっているが、ロウ。」
ここで呼ばれるとは、思って居なかったのか、ロウは、お粥と干物をを口いっぱいにほうばったまま、ノドを詰まらせかけた。
おまえこそ、食事の必要は無いはずなのに!
この真祖さまは、ちゃんと三食召し上がり、ときには、お酒もたしなむのだ。
そもそも呼吸だってしなくていいのだから、喉がつまっても慌てなくていいだろうに。
「ミルラクまで、転移は可能か?」
「一人ずつなら飛べる。」
ロウはなんとか、エールで食べ物を流し込みながら言った。
「でも、昔と違っていまは、転移を使う者は著しく少ないんだ。
転移そのものは、もともと探知されやすい魔法だし、もし、転移を使えば、西域全体に、『ロウ=リンドここにあり!』と宣言することになるな。」
「しまった!」
ぼくは、思わず頭を抱えた。
「ギムリウスを連れてくるんだった!!」
ロウは、傷ついたように、くちびるを尖らせた。
「そりゃあ、ギムリウスなら、無音で全員を連れて転移できるさ。
でも、転移だけさせて、はいここでさよなら、と言ってあいつが帰ると思うか?
いずれにしても、『城』の防御の要が不在になる事になる。」
「わかった。では、魔道列車を乗り継いで、まずはロザリアを目指そう。
そこから、徒歩でミルラクに向かう。」
ぼくは、みんなの顔を見回した。
ああ、アデルがそっぽを向いている。
ヘンリエッタが手を挙げた。
「ひとつ、提案があるんですが?」
「わかった。旅の間は、一緒の部屋に泊まろう。」
アデルが言った。
「そ、それは構いませんが。
なんのためです、姫様。」
フィオリナの「百驍将」のひとりであるヘンリエッタにとっては、たしかにアデルは主筋だ。
完全に話の腰をブチおられたのに、丁寧にしゃぺるヘンリエッタを、ちょっと可哀想に、ぼくは思った。
「こいつは、ロウといちゃいちゃしたいらしいから、同室はロウに譲る!
おまえは、友だちだから一緒に寝ろ!」
「ち、ちょっと!」
ルーデウスが飛び上がった。
「ルウエンはわたしの獲物です。なんでここで、真祖さまが横取りを。」
アルセンドリック侯爵ロウランは、氷点下の視線でロウを睨んだ。
「まあ。三百年待たされた挙句に、まだあなたのお遊びに付き合わなければならないのでしょうか?」
ぼくは、このときになるまで、パーティがとんでもない美人揃いで、ぼくひとりが男性。いわゆるハーレムパーティなのに気が付かなかった。
「しばらくは、野宿になると思うから、その話はおいといて。」
単純にもてていあなあ、ではない。
吸血鬼どもは、完全に血を吸いたがっているし、そのせいでほかの吸血鬼の嫉妬までうけている。
「ヘンリエッタさんの、提案ってなんですか?」
ヘンリエッタは、背中の雑嚢から羅針盤のようなものを取り出した。
「女神様は、銀雷の魔女が自分の傍を離れる際に、いつでも連絡がつくように、竜珠を手渡している。」
「その魔道具で、竜珠の位置を探知できるわけか!」
「さすがです、姫さま。
ただしあまり遠くまでは、作動いたしません。なので、まずは、予定どおりに、ミルラクの村を目指しましょう。
同じ山系内にいれば、羅針盤が反応いたします。」
朝食の席に、顔をそろえたときに、ロウは、そう言ってぼくをからかった。
さすがに、吸血鬼のご真祖さまだ。
デリカシーの欠けらも無い。
ぼくの表情をみて、ロウはさらに笑った。
「失敗したんだな! 少年。」
「いま、ぼくはルーデウス閣下に血を吸われてるんだ。なんかしたらルーデウス閣下に筒抜けだ。」
「拒んだのか!!
どうやって、拒否したんだ?」
ロウは、意地悪く、ぼくの脇腹をつつく。
アデルがそれを凶悪な視線で、睨んだいた。
うーん。せっかくの朝ごはんなのに、食欲が失せていく。
「くすぐられたんだ。」
憮然として、アデルが言った。
「一時間くらいやられたかな。さすがにその気も失せた。」
「罪作りだぞ、ルウエン。それともお相手は、きれいなお姉さんがいいか?」
「きれいな、おねえさん?
どこに?」
ほれほれ、とロウは自分を指さした。
「朝食はお粥と干物か。」
「む、むしっ!!」
「おかわり!!」
ラウレスの元気のいい声が響く。
目の前には、空のどんぶりが積み重なっていた。
「あと、ステーキが食べたい。」
「朝からか。何グラム焼く?」
「一頭!」
「そんなステーキはない。」
ルーデウス閣下と、ロウランは、ワインを飲みながら、カナッペをつまんでいた。
もともと、食事の必要ない二人だったが、久しぶり食べ物を「味わえる」ようになったルーデウス閣下に、ロウランがつきあっているようだった。
近くのテーブルで、食事をすませたヘンリエッタもこちらに合流した。
「リウが」
と、ぼくが話し出すと、みんな一瞬、ギョッとなる。
いい加減になれろ。
あいつは、「黒の御方」とかいう妙な悪役でも、はっきり言えば、魔王でもない。リウだ。
「リウが、その危ない魔道人形を持ち出した以上、やつらよりも早く、ドロシーと接触したいのです。
最後の手がかりは、ミルラクという村だ。場所はわかっているが、ロウ。」
ここで呼ばれるとは、思って居なかったのか、ロウは、お粥と干物をを口いっぱいにほうばったまま、ノドを詰まらせかけた。
おまえこそ、食事の必要は無いはずなのに!
この真祖さまは、ちゃんと三食召し上がり、ときには、お酒もたしなむのだ。
そもそも呼吸だってしなくていいのだから、喉がつまっても慌てなくていいだろうに。
「ミルラクまで、転移は可能か?」
「一人ずつなら飛べる。」
ロウはなんとか、エールで食べ物を流し込みながら言った。
「でも、昔と違っていまは、転移を使う者は著しく少ないんだ。
転移そのものは、もともと探知されやすい魔法だし、もし、転移を使えば、西域全体に、『ロウ=リンドここにあり!』と宣言することになるな。」
「しまった!」
ぼくは、思わず頭を抱えた。
「ギムリウスを連れてくるんだった!!」
ロウは、傷ついたように、くちびるを尖らせた。
「そりゃあ、ギムリウスなら、無音で全員を連れて転移できるさ。
でも、転移だけさせて、はいここでさよなら、と言ってあいつが帰ると思うか?
いずれにしても、『城』の防御の要が不在になる事になる。」
「わかった。では、魔道列車を乗り継いで、まずはロザリアを目指そう。
そこから、徒歩でミルラクに向かう。」
ぼくは、みんなの顔を見回した。
ああ、アデルがそっぽを向いている。
ヘンリエッタが手を挙げた。
「ひとつ、提案があるんですが?」
「わかった。旅の間は、一緒の部屋に泊まろう。」
アデルが言った。
「そ、それは構いませんが。
なんのためです、姫様。」
フィオリナの「百驍将」のひとりであるヘンリエッタにとっては、たしかにアデルは主筋だ。
完全に話の腰をブチおられたのに、丁寧にしゃぺるヘンリエッタを、ちょっと可哀想に、ぼくは思った。
「こいつは、ロウといちゃいちゃしたいらしいから、同室はロウに譲る!
おまえは、友だちだから一緒に寝ろ!」
「ち、ちょっと!」
ルーデウスが飛び上がった。
「ルウエンはわたしの獲物です。なんでここで、真祖さまが横取りを。」
アルセンドリック侯爵ロウランは、氷点下の視線でロウを睨んだ。
「まあ。三百年待たされた挙句に、まだあなたのお遊びに付き合わなければならないのでしょうか?」
ぼくは、このときになるまで、パーティがとんでもない美人揃いで、ぼくひとりが男性。いわゆるハーレムパーティなのに気が付かなかった。
「しばらくは、野宿になると思うから、その話はおいといて。」
単純にもてていあなあ、ではない。
吸血鬼どもは、完全に血を吸いたがっているし、そのせいでほかの吸血鬼の嫉妬までうけている。
「ヘンリエッタさんの、提案ってなんですか?」
ヘンリエッタは、背中の雑嚢から羅針盤のようなものを取り出した。
「女神様は、銀雷の魔女が自分の傍を離れる際に、いつでも連絡がつくように、竜珠を手渡している。」
「その魔道具で、竜珠の位置を探知できるわけか!」
「さすがです、姫さま。
ただしあまり遠くまでは、作動いたしません。なので、まずは、予定どおりに、ミルラクの村を目指しましょう。
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