上 下
70 / 83
第五章 銀雷の夢

第64話 睦言1

しおりを挟む
明日は夜明けと同時に、ここを立とうと。
そんな話をして、寝室に入ったのだが、まったく眠れなかった。

フィオリナをモデルにした魔道人形?

間違いなく、魔道院の妖怪じじいの作品だ。
それが、作られたとき、たしかフィオリナは9歳か10歳。
その当時のフィオリナの記憶と魔力と武力を兼ね備えたとてつもなく厄介な代物のはずだった。

だが、起動させなければ、それはただのよくできたお人形さんだし、起動かせれば、専門家のメンテナンスなしには、そう長時間動き続けることはできない。
それは、例えば、魔道人形の造り手自身が、そばにいて、1戦闘ごと、また
十日に一度程度は、微細な調整を行えることが稼働の前庭となる。

リウは、はたして魔道人形についての、そこまで詳細な知識をもっていただろうか。

寝返りをうったら、アデルの顔が目の前にあって、ぼくは、思わず仰け反って、後ろの壁に頭をぶつけた。
けっこう痛い。

「起きてた?」
「まあ。」

アデルは。
布団のなかに潜ってはいるが、少なくとも上はなにも身につけていなかった。
肩から腕のなめらかな筋肉は、女の子を庇護の対象にしか見ることができないタイプの男性には、逞し過ぎるように感じられるかもしれない。

「少し、話そうか。二人きりで喋るのは久しぶりだし。」
「そうだね。たぶん。」
アデルの声が小さくなった。
「喋りたいことは別々と思うので、まずルウエンのほうから。」

うん。

「“災厄”のジェインは、たぶん、魔道院のボルテック卿が作った魔道人形だ。」

「ボルテック? ボルテックってあの。」

アデルが10歳くらいのころ、ジウル・ボルテックという拳士が、クローディア大公領を尋ねてきたのだという。

祖父母は、彼を歓迎したが、アデルはそうでも無かった。
当時アデルの無手での戦いの師匠は60代の老人であり、さすがに全盛期の強さはないものの、巧みな重心移動により、重い打撃や、相手の攻撃を受け流す技術に長けており、アデルは彼をものすごく尊敬していた。

で、尊敬されてない師匠たちが、どうなったのかというと、例えば剣の師匠は、無手での不意打ちや魔法攻撃に対処出来なければ、そのままお役御免になり、魔法の師匠は、至近距離からの格闘戦への対処を求められ、泣く泣くクローディア大公領を去ることになった。

アデルは、祖父母のすすめで、短期間ながら、ジウルに教えを乞うたが、あまり感心しなかったのだ、と言う。
細やかな体さばきや、技のつなぎ、ながれ、どれをとっても、いつも教えて貰っている老師匠にはとても及ばなかったのだ。
それは、年齢的な衰えを加味すれば、ジウルのほうが、強いことは強いのだろうが、武の道はそんなものでは無い……

「ちょっと待て。10歳の女の子がそんなことを考えたいたのか?」
「ああ。それはそうだよ。」

アデルは、なにを当たり前のことを。
と、言わんばかりに、ルウエンに顔を近づけた。

「じっちゃんとばっちゃんからは、おまえは強くなれって、教わったんだ。誰よりも。」

なので、アデルは、練習中にいきなり、魔法攻撃をかましてみたのだ。
結果は、ラクラク防御され、とんでもないカウンターの攻撃魔法をくらって、アデルは昏倒した。

目が覚めて、最初に言った一言は
「てめえ、魔法の方が得意じゃないか。」
で、あったそうな。

言われたジウルは、少し傷ついたようだった。

眉間に皺を寄せながら、
「まあ、俺くらいの天才でも研鑽にかけた時間の差は、でるものだからな。」
と、つぶやいた。

それからは、アデルは、ジウルに熱心に従った。彼の拳法は、打ち出す打撃に魔力をのせることにあったが、そのまでの境地には、アデルはなかなか到達できなかった。

「師匠よ。」
ある日、彼女は、火焔球を打ち出してから、それと一緒に移動して、火焔球の炸裂と同時に拳を打ち込むという自爆技(みたいなもの)の練習をしながら、アデルは聞いてみた。
「師匠は、拳士なのか魔法使いなのか、どっちなんだ?」

「若い頃は拳士、だったんだがな。」
と、ジウルは、今度は氷の矢を作り出して、それを手で投げるというわけのな分からない技を披露して、アデルにやってみるように告げた。
アデルは真似をしてみた。
なるほど。
「飛ばす」工程を省略することで、「次」の準備が格段にしやすくなる。
投げることは、コツがいるがこれは慣れが解決する。
「ある魔法使いに敗れてな。そこから、魔術の修練をするように命令された。」

「拳士から魔道士に?」

「うむ。俺は天才だったのでな。結局、魔道の才が花開いて、グランダでは魔道の総元締めとでもいうべき地位にながく君臨したのだ。」

「した? したって言ったわよね?
ジウル・ボルテック……ボルテック。
師匠がまさか、グランダ魔道院の妖怪じじいだって言うの!
いったい、師匠、あんた幾つよ!?」

「年寄りに歳を聞くものではない。」

ジウルは案外本気で嫌がっているように見えたという。


「災厄のジェイン」を作ったのが、そのボルテックだっていうの!

噛みつきそうなほどに、アデルの顔は目の前にある。
部屋は、ぼくとアデルで一部屋。
“貴族”とラウレスで、一部屋。

なんで男女で部屋を分けなかったかといえば、吸血鬼と一晩同じ部屋で過ごすのをアデルが嫌がったからだ。

それにしてもベットはちゃんとふたつあるのに、いつ潜り込んできたのだろう。

「一時期、ボルテックの妖怪じじいは、魔道人形の開発にねっしんだったんだ。」
ぼくは、知っていることを説明してやった。
「特にフィオリナがお気に入りだったらしく、あいつをモデルにした人形は複数体作ったらしい。技も再現するために、記憶まで服制してね。
結局、起動はさせなかったみたいだけど、事故で起動して、そのまま、廃棄されたのが一体。盗まれて、起動させられたのが一体。
“災厄”のジエインは、そのほかの個体だろうと思う。」

「強いのかな?」

「カザリームに盗み出された一体は、妖怪じじいの弟子の調整を受けて、稼働し続けた。強いし、はっきり言うと、フィオリナとは別物になっていた。」
「会ったことあるの?」
「まあ。」

その人形。ベータはフィオリナとリウを含んで三角関係にあったのだが、そのことを、娘であるアデルには、あまりどう説明したものか。

「じゃあ、ルウエン。 」
アデルは、顔を押し付けるようにして言った。
「ジェインは、わたしに任せてね!」

「自分の親を模した人形だよ?」

「どっちみち、あいつとも戦うんだから。予行演習になるわ。話を聞いた限りじゃあ、絶対にひかない相手みたいだし!」

ぼくは、アデルを見つめた。

「わかった。」
しぶしぶ、ぼくは答えた。
「そのときになって、ほかに方法が無ければそうするよ。
じゃあ、こんどはアデルの話をきこうか?」

アデルは、びっくりしたように、ぼくを見つめた。

「ここから、なんか話が必要?」
「そりゃあ、吸血鬼のお姉さん方に聞かれずに、話ができるのは、あんまりチャンスがないしね。明日は早いけど、話くらいはきけるよ。」

アデルは、ため息をついた。
こいつは、ダメだとか、アホとかぶつくさ言う声がきこえた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...