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第五章 銀雷の夢

少年の旅路

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再生魔法というものは、万能ではない。
戦いの最中に、もし、腕がにょきにょき生えてきたりするのは、もうそいつが、人間をやめてしまっていることの証だ。

十分な施設の中で、時間をかけて行う必要があり、また、欠損した器官をもとのように動かすまでには、長い調整期間が必要だった。

視力も同様だ。
見たものをきちんと認識して、日常生活に支障がないレペルに回復するのは、半年はかかる。

「それは、気の毒にな。」
と、酒場の主は言った。

それでも、すこし前まで。この動乱がはじまる前までは少なくとも、四肢の再生や視力の復活といった治癒魔法は、ぎりぎり、庶民のレベルまでおりてきていたはずだった。

もちろん、一家の大黒柱の腕を治すのに、娘が身売りしたなどという話もあったから、楽な金額ではなかったはずではある。

だか、奇跡の業は失われた。
交通が不便になり、教育が行き届いかない地域からは、高度な魔法、高度な治療は、ゆっくりとだが、着実に喪われていった。

いまは、アジャール伯爵領には、四肢や視力の再生のできる治療師は、年に1度回ってくるだけだった。
高度な治癒魔法を使えるものは、みな軍属になってしまっている。

領主やその縁続きのものならば、軍属の治療師の力を借りることも出来るだろう。だが、平民たちは。

「ヤツの家は裕福ではなかった。次回、治癒士が訪れた時、治療を受けさせるかどうかは半々といったところだろう。」

「人間はたしかに、個々を見れば弱いな。」
酒場のマスターは、重々しく頷いた。 「集団となり、装備が整えばたいていの魔物は凌駕できるが、それでも怪我人はでる。そして、その治り具合は、誠によくない。
そうか、それで人並み外れた“運”を求めるか。」

「そもそも、伝説の魔女に出会えるかどうかが、“運”なんだがな。」

バルディは、笑った。

ここから、山間を踏破してエルミーまで行くつもりだと話すと、マスターは、地図や防寒マント、杖などを差し出した。

「本当は、ガイドに冒険者のひとりも雇うことをおすすめするんだが。」

彼が言った価格が妥当なものか、どうかはわからない。だが、法外と言えるような金額ではなかった。
ほかに店を探す手間も考えて、言い値で装備一式を受け取った、バルディに、マスターはそんなことを言い出した。

「冒険者ギルドの場所がわからない。」
「いや!おまえさんのいるここが、ロザリアの冒険者ギルドなんだが。」

知らないではいって、色々と話し込んでいたのか?
と、ギルドマスターは笑った。

さすがに、ガイドを雇うほど金もなく、バルディは、礼を言って店を出た。



山道は、一応、迷うことはないように、所々に標識があったり、石が置かれていた。
狭く、険しい道のりであったが、体力には自信がある。それよりも、全く人とすれ違うことがまったくないのが、バルディを消耗させた。

本当に道はあっているのか。

もし、日が落ちるまでに、エルミーの村にたどり着かなければ、野宿しなければならない。
当然、夜行性の獣に襲われる心配もせねばならないし、食べ物はふかした米を乾燥させた行軍用の携帯食を一回分、持っているだけだった。
もちろん、道に迷ったら、生死に関わる。

そのまで、運は悪くないだろう、と、バルディは、自分を鼓舞した。
自分は、伯爵家の一員として、勇敢に戦うのだ。そのために、銀雷の魔女の祝福をもとめにきたのに、あっさりと遭難で命を落とすなんてありえない。 


吹く風の冷たさが、マントを突き抜けるようになってきたころ、バルディは、やっと、家の10件ほどもあるちいさな集落にたどり着いた。

ここが、エルミーの村だった。

最新の情報では、銀雷の魔女の庵は、この近くにあるはずだった。
重くなった足取りを、早めて、バルディは、村にはいった。

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