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第四章 演出家たち

【幕間】演出するもの

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ルウエンが通路を曲がると、そこはもう別の世界だった。

光、はある。だが、なにがあるのか分からない。
床はある。天井は? 壁は?

たしかに存在している。

なら、なぜ、彼はそこが『異界』だと思ったのだろう。

「哀れな王子よ。」

声は同情するように、柔らかに響いた。

「本当ならば、おまえの傍らには愛する伴侶がいて、頼りになる仲間がいて、友がいた。
すべてを失った感想はどうだ。」

ルウエンは、答えなかった。

「すべてに忘れ去られた感想はどうだ。」
おまえの友人たちは、面と向かってもおまえを思い出すことはなかった。
このまま、この荒廃した世界で、孤独にひとりさまようか。」

ルウエンは、少し考えてから言った。

「それは困る、と言ったら?」
「ほかの世界に転生させてやろう。
ここと似たような世界だが、はるかに豊かだ。そこの有力な王国に王子として生まれされてやろう。
両親の愛情に育まれ、美しく忠実な伴侶にも恵まれ、偉大な王として即位し、皆の尊敬をうけて、幸せに満ちた生涯。」

「どうかな。」

少年は首を傾げた。無邪気にも見える可愛らしい仕草だった。

「考えるまでもあるまい。このまま、旧友たちに血を流させながら、この世界をさまようか。
安楽で実りある人生をやりなおすか。」

「いや、そうじゃない。」
ルウエンは声の主に向かって言った。
「あんたがたの、契約はリウに、神域にまで手を出させないためのものだ。だが、それはそちら側から、人間界に干渉も出来なくなっている。もし、ぼくに手を出してしまえば、契約を自分から廃棄したことになるよ?」

「それは、“この世界”を巡っての契約だ。おまえはもうこの世界には属してはいないのだ。」

親切めかした声色は、一変し、少年を嘲るものに変わっていた。

「もう一度、きいてやろう。どんな気分だ。
おまえの記憶が、すべてのものたちから消え去ったのは、おまえ自身の“認識阻害”の魔法から派生した現象だ。いわばおまえは自分で自分の首をしめた。」

「……」

「たった一人でこの世界を修正して回るつもりか?
出来るはずがない。この虚しい足掻きをいつまで続けるつもりなのだ?」

「…たしかに無惨なほどに、この世界を引っ掻き回してくれたね。」
ルウエンは、静かに笑った。

声は中断した。
いや、ありえない。
そんなことは、ありえない。

自分がこの少年に恐怖を感じるなど!!

「まあ、こいつを立て直すには、たしかにぼくがぼくだと、わからない方がいい。
リウやフィオリナにとっても。アデルや、ロウ、ギムリウスにとっても。
まさに、“認識阻害”の出番!なんだけど。」

くすくすと耐えられないように、少年は笑い声を出した。

「うまい具合に、認識阻害をかけてくれたやつがいるじゃあ、ないか。
あんたがたは、ひよっとしてあれか?
ぼくの隠れたファンかなにか、か?」

今度こそ、声の主は絶句した。

ルウエンの言う通りの一面があることに、気がついたのである。

ルウエンの存在にいまのいままで、彼らが気づけなかったのも、まさに認識阻害のせいなのだ。

「これからどうなるか。楽しみだねえ。」

少年は手を振った。

「さあ、ぼくはぼくのするべきことをする。
あんたがたは、指を咥えてそれを眺めてるんだ。
この空間を解除するかい?
ぼくが壊してもいいけど、そうするとあんたたちが痛い思いをするかもしれないよ?」
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