残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

文字の大きさ
上 下
59 / 83
第四章 演出家たち

第59話 <第四章最終話>それぞれの旅立ち

しおりを挟む
ゲオルグは、目の前の女をたっぷり10秒ばかり見つめた。
まだ、十代にしか見えない女性をそんなふうに見つめるは、非礼のような気はしたが、今回は仕方がない。

「おまえが同行する、というのだな。」

諾、
と、少女は答えた。

「相手はドロシーだ。わしもなんども顔を合わせたことがある。たしかにかなりの僻地ではあるが、旗本衆に同行してももらうほどの危険は」
と、言いかけて、ゲオルグは、しわ深い顔をいっそう歪めた。
「そうか、リウは、わしを信用しておらん、ということか。」

当然。
当たり前のことを当たり前に言うように、少女はつぶやいた。

「しかし、よりにもよっておぬしとはな!
“災厄”のジェイン。」

これには、返答はなかった。
少女は、さっさと歩き出していた。向かう方向は、北。

何歩か進んだところで振り返った。

「ついてこい。」

「…」

「来なければ来ないでもいい。わたしの稼働時間は短い。自動修復で体をベストな状態に保てるのはせいぜい一月だ。
先を急ぐ。」

“災厄”のジェインは、魔道人形だ。
そして、5年間以上継続して稼働し続けた魔道人形は、人として遇することを認められている。
それは、その間に「生きる」ものとして、必要な知識、経験をつんで一個の人格を形成できるという証であり、また、それだけの期間、稼働し続けられるのは、それだけ優秀な魔道人形であることの証である。

製作者は、伝説の魔導師。元グランダ魔道院の“妖怪”ボルテック卿。
そして、そのモデルになったのは、「災厄の女神」自身だという。
何度かの改造を得て、いまのジエインは、十代半ばの少女の外見を持っている。

得意はものは、「殺し」。

そして。
リウの命令には、絶対服従。
それも言われたことをそのまま。あまりにも愚直に遂行する。
現場での判断や、リウの命令にこんな裏の意味がある、などは一切考慮しない。

ゆえに恐れられ、一部のものからは、忌み嫌われている。

“よりにも、よって、殺戮人形”とはな。

ゲオルグは、人形ならではの疲れを知らぬ歩調についていくために、風の魔法で自分の歩幅を補助しながら思った。

“ドロシーが素直に、召喚に応じなければ殺せ、ということか!”


■■■■■


「ほ、報奨金、ゼロ。」 
誇り高きルーデウス伯爵は、へたりこんだ。

うん。
と、目の前の少年は爽やかに答えた。

「尖塔をひとつ、吹き飛ばしてしまったからね。その補修に当ててもらう。」

「あ、あ、あ、」
ルーデウスの手を掴んで、ルウエン少年は言った。
「ひとを指さすんじゃありません。」
「そ、そ、そっちの分の報酬は!!」
「そっち? ああ、ロウランを停滞フィールドから解放したこと?」
「そ、そう。そっち。」

少年はため息をついた。

「それは、とくに依頼された仕事じゃないからなあ。
ぼくが、『踊る道化師』のメンバーにロウが欲しいってお願いして、ロウは、ロウランをあの状態においたまま、パーティ活動は出来ないって言われたので、勝手に、ぼくがやった事だから。」

「ち」

「え? なんだって?」

ささやくような声に、ルウエンはルーデウスの耳元に顔を近づけた。

「血イイイィ!!」

ルーデウスの目はひと睨みで人間を傀儡にする。
牙は、ルウエンの首筋にあらたな跡を穿つた。

「あーあ。」
ルウエンの顔色が、青ざめていく。
「また、アデルにおこられるぞ。」


濃密な数分間が過ぎた。
口元から、滴る血を、舐め取りながら、ルーデウスは、ルウエンのあしもとにしゃがみ込んだ。

その瞳が恨みをこめて、ルウエンを、見上げた。

「なぜた!!」
ルーデウスは、悔しそうに叫んだ。
「なぜ、これだけ吸血してもおまえは、」

「いや、ちゃんと従属関係はなりたってるでしよ? 記憶だって一部共有できてますよ、ね?」
「だって、従属してるのは、どう見たってわたしのほうじゃないかああ!」

その後頭部を、ガツンとアデルは拳で殴りつけた。

「細かいことはいいんだよ!」
「こ、こまか…」

ほら。
と、言いながら、アデルは、錠剤をルーデウスの口に放り込んだ。
ルーデウスは、それを飲み込んだ。
内容はわかっている。
真祖の血から作られた薬。

闇の貴族であるルーデウスにとって、致命傷となる陽光への耐性を与える。

「じゃあ。行きましょ」
言いかけたルウエンの体を、アデルがひょいと担いだ。

「な、なんだ、アデル。ひとりで歩けるって」

どうも、この少年は、アデルの母が使うという「血を吸った相手を従属させる」というトンデモ魔法を本当に実際に使えるらしい。
それはそれで、安心したアデルだったが、やっぱり、年上のお姉さんにルウエンがスキンシップされるのは、いやだった。
それに、実際に血を吸われたあとは、当たり前だが貧血になったりするのだ。

「みんな、駅前で待っているよ。」

うしろから、転げるように追いかけてくるルーデウスを無視して、アデルは言った。

「最終、ドロシーが足取りは、ヤーマンで消えている。わたしたちはまず、そこを目指すからね!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜

朝比奈未涼
ファンタジー
リタ・ルードヴィング伯爵令嬢(18)の代役を務めるステラ(19)は契約満了の条件である、皇太子ロイ(20)との婚約式の夜、契約相手であるルードヴィング伯爵に裏切られ、命を狙われてしまう。助かる為に最終手段として用意していた〝時間を戻す魔法薬〟の試作品を飲んだステラ。しかし時間は戻らず、ステラは何故か12歳の姿になってしまう。 そんなステラを保護したのはリタと同じ学院に通い、リタと犬猿の仲でもある次期公爵ユリウス(18)だった。 命を狙われているステラは今すぐ帝国から逃げたいのだが、周りの人々に気に入られてしまい、逃げられない。 一方、ロイは婚約して以来どこか様子のおかしいリタを見て、自分が婚約したのは今目の前にいるリタではないと勘づく。 ユリウスもまたロイと同じように今のリタは自分の知っているリタではないと勘づき、2人は本物のリタ(ステラ)を探し始める。 逃げ出したいステラと、見つけ出したい、逃したくないユリウスとロイ。 悪女の代役ステラは無事に逃げ切り、生き延びることはできるのか? ***** 趣味全開好き勝手に書いております! ヤンデレ、執着、溺愛要素ありです! よろしくお願いします!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...